維新竹取物語〜土方歳三とかぐや姫の物語〜

柳井梁

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第2章 再会と始まり

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ようやく洗濯物と洗い物の山を片付け終わった頃には日も落ち、夜になっていた。
部屋は土方の部屋にある小さな物置に用意されている。
細かいことを言えば、土方と同じ部屋ということになるが付き人である小姓が近くで寝るのはさして珍しいことではないらしいので、深く考えないことにした。

でも、ちょっと気になる。
ふと目が覚めた時、布が擦れる音とか寝息とか聞こえてくる度にちょっと落ち着かない。

部屋の前で足を止めた。蝋燭の明かりが障子越しに漏れている。
まだ、何か仕事をしているみたいだ。

「ふ、副長、薫です。」
あのやんちゃでかわいらしかった歳三くんと鋭い眼差しで部下を指揮する副長は到底同一人物とは思えない。
部屋の奥からおう、と低い声が聞こえ、薫は障子を開けた。
土方は予想通り文机に向かって何か書き物をしている。

「ご苦労。」
「あ、あ、ありがとうございます。」

二人の間に重い沈黙が流れる。
何を話せば良いのか、よくわからない。

今日はどんな1日でしたか?
泳ぎが上手になりましたね。
昔の彼だったら色んなことを聞けるのに。
大きな背中が昔の彼がここにはもういないんだということを実感させる。

名ばかり小姓とは言え、副長よりも先に休むわけにはいかない。
誰かの袴がビリビリに裂けていたから縫ってあげようか。
八木家の人から借りた裁縫道具を取り出して繕い物を始めた。

「初仕事で疲れただろう。先に休め。」
土方は文机に向かったままこちらに向き直ることもなく言った。
「この繕い物が終わったら休みます。」
「急ぎじゃないだろう。まだ慣れないのだから、無理をするな。」

土方は首だけこちらに軽く振り向いて言った。
薫には暗くて土方の表情は見えない。
けれど、それ以上抗う意味も感じられなかったので素直に横になることにした。

「お先に失礼します。」
薫は畳に手をついて頭を下げると物置に敷かれた布団に入った。

当たり前だが、江戸時代には目覚まし時計も携帯のアラームも存在しない。
それでも土方家でお世話になっていた頃はお藤さんとお菊さんが起こしてくれていたから、寝坊することはなかったのだけれど。
賄い方として働くのは薫だけとなった今、一人で起きなくてはならない。
そう思うと、頻繁に目を覚ましてしまってよく休むことができなかった。
しかし、仕事も時間も薫は待ってくれない。


朝焼けに染まる空を尻目に、薫は竈門に火をつけ始めた。

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