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第2章 再会と始まり
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重い瞼をゆっくりと開けると欅が敷かれた天井が目に飛び込んできた。
まさか、元の時代に戻って来たのかと勢いよく飛び起きようとしたが、
全身痛みが走って起き上がることさえできない。
いてて、と呻き声を上げながら気休めに両腕で体を摩った。
どうやら、私は布団の上に寝転がっているらしい。
辺りを見渡せば時代劇に出て来そうな骨董品ばかりに囲まれていて、
私はまだ江戸時代にいたままなのだと実感させられて落胆した。
外につながる廊下から賑やかな話し声が聞こえてくる。
「どこ行くんですか、土方さん。」
「どこに行こうと俺の勝手だろう。」
「当てて見せましょうか?」
「さっさと仕事に戻れ。」
「あの女の所でしょう、土方さんが拾った女の。」
「うるせえ。」
やがて2人の声は私のいる部屋の前で止まった。
誰だろう。知らない声。
どうやらここは私が以前お世話になっていた喜六さんの家ではないようだ。
「入らないんですか。」
「入ら…」
男が言葉を言い切らぬうちに障子が勢いよく開いた。
その音に思わず、掛布団で顔を隠す。
「目覚ましたの!?」
必死に布団で顔を隠そうとしたが、男の力に敵うはずもなく引っぺがされてしまった。
「だ、誰!?」
「それはこちらの台詞です。
家の中庭で倒れているのを土方さんが助けて下すったんですよ。
まったく、土方さんが見つけなかったら今頃彼の世行きです。」
「総司。」
部屋前に立つ男がやんちゃそうな若者の名を呼ぶと、彼はふふふと爛漫な笑顔で私から少し離れた。
「あまり貴女とおしゃべりしちゃうと誰かさんが妬いちゃうからこれくらいにしておきましょう。」
男は文字通りずかずかと部屋に入ってくると若者の頭に一つゲンコツを食らわし、そして私の前に腰を下ろした。
「あ、あの・・・失礼ですがあなた達は?」
「土方さん、すっかり忘れられてるみたいですね。」
「土方さん・・・?」
「俺を忘れたか、薫。」
姿も顔も全然変わってしまっているけれど、
私を呼ぶその声は人懐っこい“歳三”を思い出させるのには十分だった。
「お坊ちゃん!?」
またまた飛び起きたくなったが、全身を激痛が駆け巡り叶わなかった。
隣にいる若者は私の発言がツボにはまったのか声をあげて笑っている。
彼も耳が真っ赤である。
咳払いをして彼は居住まいを正した。
「無理をするな。あれから3日も眠りこけてたんだからな。」
「でも、待って。私が川で溺れたときはまだまだ小さかったのに、いつの間にこんなに大きくなってしまったの?」
理解できないと言わんばかりに頭を抱え、2人を見た。
「薫が俺の前から姿を消してから二十年だ。あれから二十年経っている。」
「に、にじゅうねん!?」
「あんたは俺に言ってたよな。かぐや姫みたいなもんだって。
だから、あの日川に流されて見つからないあんたは月に帰っちまったんだって思うようにしたんだ。
あんたがずっと帰りたがっていた故郷に帰ったんだと。」
若者も私も彼の言葉を黙って聞いた。
「だが、二十年の時を超えてあんたはまた俺の前に姿を表したんだ。
二十年前のあのときのままの姿で。」
そう言うと私の髪を掬いそして撫でた。
「私を見つけてくれたんですね。」
「もう、勝手にいなくなったりするな。」
私に注がれた強い眼差しは、真剣そのものだった。
「そうは言ってもどうするんですか、これから。」
「近藤さんと話し合った。薫にはここに居てもらう。」
「えぇ、薫さんって腕が立つんですか?」
「違えよ。賄い方として雇うんだ。」
賄い方?奉公人ということ?
頭の中は混乱したままだったが、2人の間で話は勝手に進んでいく。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください。話が見えないんですが。」
「簡単に言うと、土方さんが薫さんに側にいてほしくてしょうがないということですね。」
「誰もそんなこと言ってねえだろ!」
「お二人は仲が良いんですね。」
当たり前だけど二十年後の彼は私の知らない男性になっている。
「じゃなくて、ここはどこで歳三さんは何をされてるんですか?あと、失礼ですがあなたのお名前は・・・?」
歳三の隣にいる若者を見て言った。
若者は笑いながら答えた。
「私は会津藩御預壬生浪・・・いえ、新選組副長助勤沖田総司といいます。」
思わず声をあげそうになったのを手で口を隠すことでなんとか抑えた。
歴史に疎い私でも知っている。
新選組といえば、幕末に活躍した人斬り集団。
沖田総司といえば、当時労咳と呼ばれた病気で死んでしまう悲劇の剣士。
今私の目の前にいる沖田さんはとても元気そうだから、明治維新まではまだ時間があるということか。
「もしかして、ここは新選組の中ということですか?」
「そういうことだ。」
「私は新選組の奉公人ということですか?」
東雲薫、と土方は改まった口調で名を呼ぶものだから、薫も痛みを押して体を起こした。
「新選組副長小姓兼ねて賄い方を命ずる。」
あんなに小さかったあの子が実は泣く子も黙る鬼の副長だったなんて、思いもしなかった。
大きく成長した、と彼に見下ろされて感じた。
1人でニヤニヤしていたのか怪訝そうな顔で2人がこちらを見ている。
私は一つ咳払いをして、はいと凛々しく答えた。
「よろしくお願いします。」
私は頭を下げながら言った。
まさか、元の時代に戻って来たのかと勢いよく飛び起きようとしたが、
全身痛みが走って起き上がることさえできない。
いてて、と呻き声を上げながら気休めに両腕で体を摩った。
どうやら、私は布団の上に寝転がっているらしい。
辺りを見渡せば時代劇に出て来そうな骨董品ばかりに囲まれていて、
私はまだ江戸時代にいたままなのだと実感させられて落胆した。
外につながる廊下から賑やかな話し声が聞こえてくる。
「どこ行くんですか、土方さん。」
「どこに行こうと俺の勝手だろう。」
「当てて見せましょうか?」
「さっさと仕事に戻れ。」
「あの女の所でしょう、土方さんが拾った女の。」
「うるせえ。」
やがて2人の声は私のいる部屋の前で止まった。
誰だろう。知らない声。
どうやらここは私が以前お世話になっていた喜六さんの家ではないようだ。
「入らないんですか。」
「入ら…」
男が言葉を言い切らぬうちに障子が勢いよく開いた。
その音に思わず、掛布団で顔を隠す。
「目覚ましたの!?」
必死に布団で顔を隠そうとしたが、男の力に敵うはずもなく引っぺがされてしまった。
「だ、誰!?」
「それはこちらの台詞です。
家の中庭で倒れているのを土方さんが助けて下すったんですよ。
まったく、土方さんが見つけなかったら今頃彼の世行きです。」
「総司。」
部屋前に立つ男がやんちゃそうな若者の名を呼ぶと、彼はふふふと爛漫な笑顔で私から少し離れた。
「あまり貴女とおしゃべりしちゃうと誰かさんが妬いちゃうからこれくらいにしておきましょう。」
男は文字通りずかずかと部屋に入ってくると若者の頭に一つゲンコツを食らわし、そして私の前に腰を下ろした。
「あ、あの・・・失礼ですがあなた達は?」
「土方さん、すっかり忘れられてるみたいですね。」
「土方さん・・・?」
「俺を忘れたか、薫。」
姿も顔も全然変わってしまっているけれど、
私を呼ぶその声は人懐っこい“歳三”を思い出させるのには十分だった。
「お坊ちゃん!?」
またまた飛び起きたくなったが、全身を激痛が駆け巡り叶わなかった。
隣にいる若者は私の発言がツボにはまったのか声をあげて笑っている。
彼も耳が真っ赤である。
咳払いをして彼は居住まいを正した。
「無理をするな。あれから3日も眠りこけてたんだからな。」
「でも、待って。私が川で溺れたときはまだまだ小さかったのに、いつの間にこんなに大きくなってしまったの?」
理解できないと言わんばかりに頭を抱え、2人を見た。
「薫が俺の前から姿を消してから二十年だ。あれから二十年経っている。」
「に、にじゅうねん!?」
「あんたは俺に言ってたよな。かぐや姫みたいなもんだって。
だから、あの日川に流されて見つからないあんたは月に帰っちまったんだって思うようにしたんだ。
あんたがずっと帰りたがっていた故郷に帰ったんだと。」
若者も私も彼の言葉を黙って聞いた。
「だが、二十年の時を超えてあんたはまた俺の前に姿を表したんだ。
二十年前のあのときのままの姿で。」
そう言うと私の髪を掬いそして撫でた。
「私を見つけてくれたんですね。」
「もう、勝手にいなくなったりするな。」
私に注がれた強い眼差しは、真剣そのものだった。
「そうは言ってもどうするんですか、これから。」
「近藤さんと話し合った。薫にはここに居てもらう。」
「えぇ、薫さんって腕が立つんですか?」
「違えよ。賄い方として雇うんだ。」
賄い方?奉公人ということ?
頭の中は混乱したままだったが、2人の間で話は勝手に進んでいく。
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください。話が見えないんですが。」
「簡単に言うと、土方さんが薫さんに側にいてほしくてしょうがないということですね。」
「誰もそんなこと言ってねえだろ!」
「お二人は仲が良いんですね。」
当たり前だけど二十年後の彼は私の知らない男性になっている。
「じゃなくて、ここはどこで歳三さんは何をされてるんですか?あと、失礼ですがあなたのお名前は・・・?」
歳三の隣にいる若者を見て言った。
若者は笑いながら答えた。
「私は会津藩御預壬生浪・・・いえ、新選組副長助勤沖田総司といいます。」
思わず声をあげそうになったのを手で口を隠すことでなんとか抑えた。
歴史に疎い私でも知っている。
新選組といえば、幕末に活躍した人斬り集団。
沖田総司といえば、当時労咳と呼ばれた病気で死んでしまう悲劇の剣士。
今私の目の前にいる沖田さんはとても元気そうだから、明治維新まではまだ時間があるということか。
「もしかして、ここは新選組の中ということですか?」
「そういうことだ。」
「私は新選組の奉公人ということですか?」
東雲薫、と土方は改まった口調で名を呼ぶものだから、薫も痛みを押して体を起こした。
「新選組副長小姓兼ねて賄い方を命ずる。」
あんなに小さかったあの子が実は泣く子も黙る鬼の副長だったなんて、思いもしなかった。
大きく成長した、と彼に見下ろされて感じた。
1人でニヤニヤしていたのか怪訝そうな顔で2人がこちらを見ている。
私は一つ咳払いをして、はいと凛々しく答えた。
「よろしくお願いします。」
私は頭を下げながら言った。
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