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第一部
好奇
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学校に着けば、また好奇の視線に晒される。
それでも白い目や何か言いたげな視線には気づかないふりをして笑顔で教室の方へ歩く。先生は一定の距離を保って後ろから歩いている。
多分、これ以上変な視線に晒されないための配慮なのだろう。
靴箱を開けば、名前のない便箋が目に入る。時折、こうやってわざわざ手紙で僕を非難する人もいた。
その労力に皮肉を込めた尊敬の印として、僕は1つひとつを大事に取っておいてある。きっとこの非難は兄さんがどれだけ愛される人であるかの証としていつか僕にも直視できるようになる。そのとき、兄さんが僕のそばにいるかはわからないけれど。
「アキ、おはよう!」
廊下を歩いているとニコニコとしながら話しかけてきたのは有紀だった。おはよう、と返すと有紀は僕の鞄を見て目を丸くする。
「あれ?どうして今日そんなに大荷物なの?」
「いや…たまたま」
「ふふっ、なにそれー」
優しい子だと思う。もしかしたら、僕が部屋に帰ってないのを知っているかもしれない。
『ねえ、アキ。帰れないならうちにおいでね』
『大丈夫だよ、有紀』
『それでも、約束』
真っ直ぐな瞳が大好きだ。
その瞳でうつされてる僕はどこまでも歪んでるけど。
「それより昨日帰り土砂降りだったね」
「そうそう!全力疾走したけどプリントちょっと濡れたー」
数学の宿題のプリントをひらひらとかざしながら有紀が言う。僕はしかめそうになる眉を必死に抑えた。
「2時間目真田先生か…」
先生は知らないことを教えてくれるから尊敬する相手だ。勝手に嫌うのは失礼だと思う。
だけど、真田先生は好きになれない。神経質で潔癖だと自ら称する彼は噂を知ってから攻撃してくる人の1人だった。
「アキ成績良いし保健室とかでサボっちゃえば良いのに」
「だめだよ、サボるのは…」
保健室、と言われて一瞬ドキッとしたがうまくかわせたと思う。優しく背中を叩いてくれた手の体温がジワリと背中に宿った気がした。
「うーん、まあ文句言われそう」
有紀も苦笑いする。有紀は数学が苦手だから元々ちょっと真田先生からのあたりは強かった。
グダグダと話しつつ、教室に入る。こちらの姿を捉えて教室が一度静まり返るのももう慣れっこだ。
黙って席に向かえば、嫌な視線が突き刺さる。
できるだけ意識しないようにしながら鞄を机の横にかけて1時間目の用意をする。
頭の中では学校が終わったらどこに泊まるかを考えていた。嫌なものは見ないふりをして楽な方へと思考を巡らせるのは僕の悪い癖だと自覚はしてるけど。
あの体育倉庫よりも相応しい家出場所は見つからないまま、いつのまにかチャイムは鳴り1日の授業が始まっていた。
それでも白い目や何か言いたげな視線には気づかないふりをして笑顔で教室の方へ歩く。先生は一定の距離を保って後ろから歩いている。
多分、これ以上変な視線に晒されないための配慮なのだろう。
靴箱を開けば、名前のない便箋が目に入る。時折、こうやってわざわざ手紙で僕を非難する人もいた。
その労力に皮肉を込めた尊敬の印として、僕は1つひとつを大事に取っておいてある。きっとこの非難は兄さんがどれだけ愛される人であるかの証としていつか僕にも直視できるようになる。そのとき、兄さんが僕のそばにいるかはわからないけれど。
「アキ、おはよう!」
廊下を歩いているとニコニコとしながら話しかけてきたのは有紀だった。おはよう、と返すと有紀は僕の鞄を見て目を丸くする。
「あれ?どうして今日そんなに大荷物なの?」
「いや…たまたま」
「ふふっ、なにそれー」
優しい子だと思う。もしかしたら、僕が部屋に帰ってないのを知っているかもしれない。
『ねえ、アキ。帰れないならうちにおいでね』
『大丈夫だよ、有紀』
『それでも、約束』
真っ直ぐな瞳が大好きだ。
その瞳でうつされてる僕はどこまでも歪んでるけど。
「それより昨日帰り土砂降りだったね」
「そうそう!全力疾走したけどプリントちょっと濡れたー」
数学の宿題のプリントをひらひらとかざしながら有紀が言う。僕はしかめそうになる眉を必死に抑えた。
「2時間目真田先生か…」
先生は知らないことを教えてくれるから尊敬する相手だ。勝手に嫌うのは失礼だと思う。
だけど、真田先生は好きになれない。神経質で潔癖だと自ら称する彼は噂を知ってから攻撃してくる人の1人だった。
「アキ成績良いし保健室とかでサボっちゃえば良いのに」
「だめだよ、サボるのは…」
保健室、と言われて一瞬ドキッとしたがうまくかわせたと思う。優しく背中を叩いてくれた手の体温がジワリと背中に宿った気がした。
「うーん、まあ文句言われそう」
有紀も苦笑いする。有紀は数学が苦手だから元々ちょっと真田先生からのあたりは強かった。
グダグダと話しつつ、教室に入る。こちらの姿を捉えて教室が一度静まり返るのももう慣れっこだ。
黙って席に向かえば、嫌な視線が突き刺さる。
できるだけ意識しないようにしながら鞄を机の横にかけて1時間目の用意をする。
頭の中では学校が終わったらどこに泊まるかを考えていた。嫌なものは見ないふりをして楽な方へと思考を巡らせるのは僕の悪い癖だと自覚はしてるけど。
あの体育倉庫よりも相応しい家出場所は見つからないまま、いつのまにかチャイムは鳴り1日の授業が始まっていた。
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