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第一部
お風呂⑴
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side:アキ
「はあ……」
温かいシャワーを浴びながら、先ほどのことを思い出す。いきなりあんな風になって、先生は呆れたことだろう。
健斗のことを思い出して、胸が苦しくなる。
「迷惑、だよね」
明日、またあそこへもどろう。
親切にしてくれた先生に失礼な態度をとって、呆れられただろうと思うと涙が溢れてくる。
こんなに泣き虫だったっけ、僕。
顔を上げると鏡ごしに情けない顔をした自分が映る。あの日以来、鏡を見るのは避けてきた。弱虫で、情けない自分を直視するのは耐えられない。
「大丈夫、大丈夫」
みんな、僕は大丈夫だって言ってた。
はやく、大丈夫に戻らないと。
先生にも、有紀にも迷惑だ。
嫌な気持ちを洗い流すように頭からシャワーを浴びる。
『帰ってこないでね』
あの次の日、荷物を取りに行った僕に兄さんは目も合わせずにそう言った。
結局、あの日以来目は合わせてくれてない。
兄さんから拒絶を受けたのは初めてのことで、自ら動く勇気もなかった。
部員のいなくなった部活棟でシャワーを浴び、電気なんてものもない倉庫でただ横になるだけ。兄さんや健斗と繋がることのないスマホはただの箱で充電もほとんど減らないしなくなった時も言われるまでしようと思わなかった。
さっき、スマホが鳴った時少しだけ期待したのに。
『こんなにひどい雨なのにどうしたの!?』
『おれ、勘違いしてた。
はやく帰っておいで』
そう優しく伝えてくれるんじゃないかなって。
それなのに。
気持ちを切り替えようとした端から悲しい気持ちが込み上げてくる。
今にも泣きそうなのを自分からも誤魔化したくて、シャワーの温度を捻る。流れ出した水はさっきの雨よりも冷たいかもしれない。
ついでにシャワーの勢いもつよめると、まるで自分が水中にいるかのように錯覚した。
頭から被り、ひとりで泳ぐプールを思い浮かべる。息継ぎの時にわずかに見える空の青さが好きだ。
でも実際ここは先生の部屋の浴室で、空なんてどこにもない。
空を見るために息継ぎをする必要もなくて、ただじっと妄想に浸る。
そうすれば心はだんだんと鈍くなっていく。かなしいこととか、嫌なこと、大丈夫になってく。
段々いい気持ちになってきて、更に勢いを強めようと手を伸ばす。でも目を閉じていたせいで右手は空を掴み、シャンプーのボトルを弾いて床に落としてしまった。
一瞬大きな音に固まって、それから気を取り直してシャンプーのボトルを拾って戻す。
先生がお徳用のシャンプーを使っているのはなんだか変に面白い気持ちになって笑みがこぼれる。なんか気持ちが不安定だ。
もう一度今度は薄く目を開いてシャワーの勢いを強めた瞬間、その手を誰かが掴んだ。
「はあ……」
温かいシャワーを浴びながら、先ほどのことを思い出す。いきなりあんな風になって、先生は呆れたことだろう。
健斗のことを思い出して、胸が苦しくなる。
「迷惑、だよね」
明日、またあそこへもどろう。
親切にしてくれた先生に失礼な態度をとって、呆れられただろうと思うと涙が溢れてくる。
こんなに泣き虫だったっけ、僕。
顔を上げると鏡ごしに情けない顔をした自分が映る。あの日以来、鏡を見るのは避けてきた。弱虫で、情けない自分を直視するのは耐えられない。
「大丈夫、大丈夫」
みんな、僕は大丈夫だって言ってた。
はやく、大丈夫に戻らないと。
先生にも、有紀にも迷惑だ。
嫌な気持ちを洗い流すように頭からシャワーを浴びる。
『帰ってこないでね』
あの次の日、荷物を取りに行った僕に兄さんは目も合わせずにそう言った。
結局、あの日以来目は合わせてくれてない。
兄さんから拒絶を受けたのは初めてのことで、自ら動く勇気もなかった。
部員のいなくなった部活棟でシャワーを浴び、電気なんてものもない倉庫でただ横になるだけ。兄さんや健斗と繋がることのないスマホはただの箱で充電もほとんど減らないしなくなった時も言われるまでしようと思わなかった。
さっき、スマホが鳴った時少しだけ期待したのに。
『こんなにひどい雨なのにどうしたの!?』
『おれ、勘違いしてた。
はやく帰っておいで』
そう優しく伝えてくれるんじゃないかなって。
それなのに。
気持ちを切り替えようとした端から悲しい気持ちが込み上げてくる。
今にも泣きそうなのを自分からも誤魔化したくて、シャワーの温度を捻る。流れ出した水はさっきの雨よりも冷たいかもしれない。
ついでにシャワーの勢いもつよめると、まるで自分が水中にいるかのように錯覚した。
頭から被り、ひとりで泳ぐプールを思い浮かべる。息継ぎの時にわずかに見える空の青さが好きだ。
でも実際ここは先生の部屋の浴室で、空なんてどこにもない。
空を見るために息継ぎをする必要もなくて、ただじっと妄想に浸る。
そうすれば心はだんだんと鈍くなっていく。かなしいこととか、嫌なこと、大丈夫になってく。
段々いい気持ちになってきて、更に勢いを強めようと手を伸ばす。でも目を閉じていたせいで右手は空を掴み、シャンプーのボトルを弾いて床に落としてしまった。
一瞬大きな音に固まって、それから気を取り直してシャンプーのボトルを拾って戻す。
先生がお徳用のシャンプーを使っているのはなんだか変に面白い気持ちになって笑みがこぼれる。なんか気持ちが不安定だ。
もう一度今度は薄く目を開いてシャワーの勢いを強めた瞬間、その手を誰かが掴んだ。
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