つよくてもろい君たちへ

そうな

文字の大きさ
上 下
14 / 31
第一部

雨宿り③

しおりを挟む

 保健室に向かう途中すれ違った生徒はギョッとしたようにこちらを見た。
  アキはそれを見る気力もないようで、大人しく俺に腕を引かれている。室内で改めて見るとアキの顔色はかなり悪い。

 
 保健室に着くととりあえずタオルと着替えを渡してカーテンを閉める。アキがごそごそと着替える音を背景にして温かい飲み物を用意する。気休め程度にしかならないかもしれないけれど。

  5分ほどするとアキがカーテンを開けてこちらに近づいてくるのがわかった。怒られると思っているのか、こちらを窺う視線はずっと怯えを孕んでいる。

「あの、これありがとうございます」
「気にするな、どうせ生徒に貸し出す用だ」
  椅子に座らせてお茶を渡すと、ゆっくりとそのあたたかさを手のひらに染み込ませている。
「夏も近いとはいえ此処は山もあるし標高もちょっと高いから夜や雨だと寒いだろ」
「…そうですね」
 へにゃりと眉を下げたアキに、思い立ってエアコンの温度を上げてブランケットを放り投げる。一瞬戸惑ったようだが膝にかけるあたり、やはり少し寒かったのだろう。
「お前あそこに泊まる気だったの?」
 ズバリと聞くと、アキは表情を強張らせた。
「そんなに真っ青になってさ、さすがに見過ごせないぞ?なぜ部屋に帰らない」
 あえて強めに聞いても、アキは口を開こうとはしない。それだけ言いたくないのだろう。それをわざわざ聞き出そうとするなんて、俺はアキからすれば酷いやつかもしれない。
「…最近お前たちの噂が広まってる。先生方も気にかけてる」

 少し抑えた声でそう言うと、驚いたようにこちらを見つめて来ている。先生にまで広まっているのは予想外だったのだろうか。いや、ほとんど初対面の教師にまで、わざわざ言葉にされるとは思っていなかったのだろう。
 目を泳がせたアキは、迷ったように口をパクパクさせてからか細い声を絞り出した。
「……大丈夫です」
 
 大丈夫。
 さっきも言っていなかったか?この言葉。

「何が大丈夫なんだ?そんなに真っ青になって。兄弟喧嘩拗らせるのは仕方ないだろうがだからって雨の日にも帰れないほどか?」
「…かえりません」
 泣きそうな声なのに、まだ強がるのか。
 次は何を言おう、と口を開こうとした時、アキは突然立ち上がった。
「あのっ、服ありがとうございます!僕もう大丈夫なんで行きます…」
 そして扉に駆け出そうとする。
 でも、体力を消耗していたのだろうか。

「あっ」
「おいっ!」

 本日2回目の、アキが転ぶ瞬間だった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...