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第一部
懸念
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side:英人
最近、校内の雰囲気があまり良くない。
原因はある程度わかっている。
「あの弟ひでぇよなー」
「未練たらったらじゃん」
有名だった3人が決別したこと。
あのアキの方と付き合っていたはずの健斗はいつのまにか兄の元のほうに鞍替えしたらしい。それ自体なんとも言い難いが個人の自由の範囲だろう。しかし、最近構内を流れる噂は聞き流すにはあまりにも酷かった。
隣を歩く校長がため息をつく。
「まったく…寝取っただのそんな噂…なぜ同年代に言えるのかなあ」
そう、アキが健斗を寝取ったと言う噂。
それは教師たちにももちろん届いており、最近行われた職員会議の場でも当然話題に上がった。好き合うもの同士、痴話喧嘩などはしかたない。それに付き合った別れたなんて振り返れば青春の一部だろうけど、今回のような噂はいじめにも繋がりかねない。
「あの生徒、お兄さんと同室でしたよね」
「ええ、最近は他の部屋に行ってると噂されてますよ。最もそれも校則違反とは言えこの状況だとなかなか…行き場がなくなるのもかわいそうで」
苦笑する生活指導の山田も、今の状況は気がかりなようだった。
「あいつ、最近部活にも来なくって…」
山田は水泳部の顧問も務めている。その分アキと近しいし性格も知っているのだろう。水泳の大会では良い成績を収め、噂がなくとも注目度のあがっていた生徒だ。惚れた腫れたに興味がなかった生徒の中にも、噂に流されてしまっている生徒がいるのは事実だった。同じ水泳部であった者もそれに加担しているというから手に負えない。
「しかし、彼は大丈夫かなあ」
「まあ今の状況では行きづらいでしょうしね」
適当に相槌を打ちながら歩いていると、ふと視線の先に噂のアキが見えた。気のせいか、以前よりもやつれているような気もする。それでなくとも、篠原兄弟は2人とも痩せ型でいっそ幸薄そうに見えるタイプだから心配になってしまう。
その後ろをちょこちょことついている生徒も目に入った。ああ、あれがアキが家出してると言われてる生徒かとじっとその生徒を認める。
流石に名前までは知らないその生徒は、こちらの視線に気がついたようで一度アキの方を見てからこちらに駆け寄ってきた。
「保健室のせんせー」
高校生男子にしては高い声で呼びかけられる。まだ声変わりが来ていないのかもしれない。
「なんだ」
そう返すと、彼はへにゃりと眉を下げた。
「先生、僕の友達なんですけど、体調悪そうなんです。ちょうど保健室いかせようと思ってるんですけど……」
「……ああ、今から俺も保健室に戻るから、そのまま友達と保健室に来れるか?それとも動け無さそうか?」
「んー、保健室に行くのすすめても「良いよ大丈夫だよ」って言われてて…でも、最近休めてないみたいだし……おに、えっと同室の人ともきまずいらしくて……。うちの部屋にでも来ないかって行ってるんですけど…」
そこに山田が口を挟む。
「白樺、それって篠原のことか?」
「え…はい」
「篠原は今白樺のところに泊まってるんじゃないのか?」
そういうと、白樺と呼ばれた彼はきょとんと目を丸くした。
「え?泊まってませんよ、誘っても校則違反だからって断られて……」
先生同士で目を合わせる。
生徒たちの噂はバカにできない。とはいえ、多分アキが自室で寝ていないのは事実だと思う。
なら、彼はどこで寝泊まりしてるんだ?
「先生……?」
困りきった顔をする白樺に、できるだけ優しい声を出す。
「同室とうまくいかないことも、学生ならあるだろう。今日学校終わったら俺が様子を見に行くから大丈夫だ」
ついでに寝泊まりしてる場所を確認します、と言外に含めば先生たちも軽く頷く。
白樺はホッとしたような笑みをこぼした。
「よかった!よくわかんない噂もあってアキ落ち込んでるみたいだから…」
さらに話そうとしたところでチャイムがなる。慌てたように白樺は一礼して教室に戻って行った。
「……ちょっと、要注意かもしれませんね」
ただの兄弟喧嘩なら良いが、とこぼす校長。それはフラグだろう、と思っても何も言えない。
このあいだの真奈美の言葉といい、自分の中にも嫌な予感が渦巻いていた。
「……あいつ、大丈夫か…?」
最近、校内の雰囲気があまり良くない。
原因はある程度わかっている。
「あの弟ひでぇよなー」
「未練たらったらじゃん」
有名だった3人が決別したこと。
あのアキの方と付き合っていたはずの健斗はいつのまにか兄の元のほうに鞍替えしたらしい。それ自体なんとも言い難いが個人の自由の範囲だろう。しかし、最近構内を流れる噂は聞き流すにはあまりにも酷かった。
隣を歩く校長がため息をつく。
「まったく…寝取っただのそんな噂…なぜ同年代に言えるのかなあ」
そう、アキが健斗を寝取ったと言う噂。
それは教師たちにももちろん届いており、最近行われた職員会議の場でも当然話題に上がった。好き合うもの同士、痴話喧嘩などはしかたない。それに付き合った別れたなんて振り返れば青春の一部だろうけど、今回のような噂はいじめにも繋がりかねない。
「あの生徒、お兄さんと同室でしたよね」
「ええ、最近は他の部屋に行ってると噂されてますよ。最もそれも校則違反とは言えこの状況だとなかなか…行き場がなくなるのもかわいそうで」
苦笑する生活指導の山田も、今の状況は気がかりなようだった。
「あいつ、最近部活にも来なくって…」
山田は水泳部の顧問も務めている。その分アキと近しいし性格も知っているのだろう。水泳の大会では良い成績を収め、噂がなくとも注目度のあがっていた生徒だ。惚れた腫れたに興味がなかった生徒の中にも、噂に流されてしまっている生徒がいるのは事実だった。同じ水泳部であった者もそれに加担しているというから手に負えない。
「しかし、彼は大丈夫かなあ」
「まあ今の状況では行きづらいでしょうしね」
適当に相槌を打ちながら歩いていると、ふと視線の先に噂のアキが見えた。気のせいか、以前よりもやつれているような気もする。それでなくとも、篠原兄弟は2人とも痩せ型でいっそ幸薄そうに見えるタイプだから心配になってしまう。
その後ろをちょこちょことついている生徒も目に入った。ああ、あれがアキが家出してると言われてる生徒かとじっとその生徒を認める。
流石に名前までは知らないその生徒は、こちらの視線に気がついたようで一度アキの方を見てからこちらに駆け寄ってきた。
「保健室のせんせー」
高校生男子にしては高い声で呼びかけられる。まだ声変わりが来ていないのかもしれない。
「なんだ」
そう返すと、彼はへにゃりと眉を下げた。
「先生、僕の友達なんですけど、体調悪そうなんです。ちょうど保健室いかせようと思ってるんですけど……」
「……ああ、今から俺も保健室に戻るから、そのまま友達と保健室に来れるか?それとも動け無さそうか?」
「んー、保健室に行くのすすめても「良いよ大丈夫だよ」って言われてて…でも、最近休めてないみたいだし……おに、えっと同室の人ともきまずいらしくて……。うちの部屋にでも来ないかって行ってるんですけど…」
そこに山田が口を挟む。
「白樺、それって篠原のことか?」
「え…はい」
「篠原は今白樺のところに泊まってるんじゃないのか?」
そういうと、白樺と呼ばれた彼はきょとんと目を丸くした。
「え?泊まってませんよ、誘っても校則違反だからって断られて……」
先生同士で目を合わせる。
生徒たちの噂はバカにできない。とはいえ、多分アキが自室で寝ていないのは事実だと思う。
なら、彼はどこで寝泊まりしてるんだ?
「先生……?」
困りきった顔をする白樺に、できるだけ優しい声を出す。
「同室とうまくいかないことも、学生ならあるだろう。今日学校終わったら俺が様子を見に行くから大丈夫だ」
ついでに寝泊まりしてる場所を確認します、と言外に含めば先生たちも軽く頷く。
白樺はホッとしたような笑みをこぼした。
「よかった!よくわかんない噂もあってアキ落ち込んでるみたいだから…」
さらに話そうとしたところでチャイムがなる。慌てたように白樺は一礼して教室に戻って行った。
「……ちょっと、要注意かもしれませんね」
ただの兄弟喧嘩なら良いが、とこぼす校長。それはフラグだろう、と思っても何も言えない。
このあいだの真奈美の言葉といい、自分の中にも嫌な予感が渦巻いていた。
「……あいつ、大丈夫か…?」
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