つよくてもろい君たちへ

そうな

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第一部

友人の独白

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「アキ…大丈夫?」
 おどおどと僕に近寄って声をかけてくれたのはクラスメイトで、唯一今までと変わらない態度でいてくれる友人、白樺有紀だった。彼は小動物のような体躯で、性格も怖がりだから真っ先に近寄らなくなると思ってた。それなのに、先生も遠巻きになった今でも一番そばにいてくれるのは有紀だった。
 先輩たちは怖いらしくて、先輩がそばにいるときには近寄ってこないけれど、彼らがいないときは有紀がいつも近くにいてくれる。
「うん、大丈夫」
 それでも有紀にもあの日に本当は健斗たちと何があったのかは言っていない。みじめな自分がいやになるから。
 あの日以来帰っていないけれど、有紀がいつもそばにいることはおそらく二人とも知っている。どうせ、兄さんたちは有紀の部屋に泊まりに行っていると思っているのだろうし、ここで有紀と気まずくなりたくなかった。
「でも、アキ最近体調悪そうだよ…絶対前より痩せてるし…」
「そう?最近ダイエットしてるからかなー」
「……もう!」
 笑いかけても、有紀はむしろ心配そうにくしゃっと顔をゆがめた。何か言いたそうな顔をしてこちらを見てくることが増えたけれど、あえて気づかないふりをする。下手な演技でも気持ちを汲み取ってくれる有紀は、僕になにも聞かないでくれるから、ずるずると有紀のやさしさに甘えていた。


 ***


side:白樺 有紀

 その子は、入学当初から有名だった。少ないとはいえそれなりにいる外部からの進学者の一人、篠原秋くん。出席番号の前後になった彼と仲良くなったのは入学してから本当にすぐのことだった。彼のお兄さんも外部進学してきていたらしく、高校の方ではそちらも有名だった。お兄さんは体が弱いけれど人気者で、クラスの中では中心にいるタイプらしい。その世話を甲斐甲斐しく焼くようになった弟の登場に、みんなも注目していた。

 なにより、アキはもう一人、他人の目を惹く人と一緒にいたから余計に有名人だった。
 聖川健斗。彼の恋人。3人が一緒に帰る姿が目撃されるうちに、みんなその仲の良さに羨ましげな視線を送った。僕も、その中の一人だった。


 それが壊れたのは、アキが水泳の大会に出た直後のこと。良い成績を収めたと知った僕は、アキにおめでとうと言う気満々でいたのにその思いは叶わなかった。

「え…アキ、健斗くんと別れたの?」
 アキの口から漏れたその言葉に耳を疑った。だって、あんなに仲睦まじいカップルだったのに、なんで?
 疑問が口に出ていたのかはわからないけれど、アキは困った顔で笑って僕を見た。
「…兄さんと付き合うんだって」
「えっ!?」
 思っても見なかったことを言われてびっくりする。なにそれ…自分が兄弟に恋人を取られたりしたら絶対に許せないというか想像もつかない。どうしてそれを僕に教えてくれたのか知りたくて、じっとその目を見る。振られたばかりのアキは、悲しんでいるというよりも諦めた人の目をしていた。

「アキは平気なの?」
 裏切られたのに、アキはなんで笑ってるんだろう、悲しければそう言っていいのに。そう思っても、アキは笑みを崩さない。
「うん、大丈夫。兄さんは優しいし人気で当然だと思う。健斗も兄さんのこと大事にしてくれればいいよ」
 僕は別にそんな綺麗な答えが欲しいわけじゃないのに。僕はアキの友達なんだから。
 そう言おうとした瞬間、先生が入ってきて会話は中断された。

 しぶしぶ着席した自分の席から見えるアキは、少しだけ遠い人に見えた。


 アキ、大丈夫かな…でも、アキは良い奴なんだからきっと幸せになれるよね?自分に言い聞かせるようにアキから目をそらして教科書を開いた。




 それから暫くもしないうちにおかしな噂が流れ、アキが苦しむことになるなんて。僕はまだ想像だにしていなかった。
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