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天女編
第五十七話 外れた正義
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「嘘だろ…」
神谷に頼まれて廃ビルの傷痕と血痕について調べていた根本が驚きの声をあげた。
「神谷さんに伝えないと!」
根本は慌てて部屋を出た。
………
時刻は十時を過ぎており、定時などあってないようなものの刑事たちも、さすがにこの時間になると警察署に残っているものはほとんどいなかった。おそらくもういないだろうと思いながらも走って特務課に向かう途中で神谷を見かける。神谷は自販機の前で煙草を吸っていた。
「おう!根本くん!結果まだ?」
あれから一週間ほど経っていた。日頃の業務が終わったあと、自分以外の鑑識課の職員が去った職場でコソコソと検査を行うのは想像以上に時間がかかる。
「それが、やっと終わったんですけど、あれやっぱおかしいですよ」
慌てた様子で根本が言う。
「おかしかったって何が?」
「あの傷痕、どう見てもこの世の物じゃないんですよ」
「は?」
神谷は、根本が言っていることの意味がわからなかった。
「あれ、絶対おかしいんですよ!あんなもんなんで見つけちゃったんですか神谷さん!」
「落ち着け落ち着け!何がおかしいんだ?!」
少し苛立ちながら神谷が尋ねる。
「す、すいません。あれ、実は、あんな傷痕見たこともないし、あり得ないんですよ」
「あり得ない?」
「はい。現場で見たときから思ってたんですけど、あんな真っ直ぐで大きい傷つけるなんて、とてつもない力がかかってるはずなんですけど、傷痕を精密に調べたら、想像以上にすごい力がかかってるであろうことがわかったんですよ!とてもじゃないですけど、人間が発揮できる力じゃないし、そんな力で壁に向かって刀で切りかかったら、間違いなく刀は途中で折れて、あんな大きい傷つくわけないんですよ…しかも…」
「しかも?」
「傷痕から微量ながら採取された、おそらく壁を切る際に刀の表面が剥がれて付着したのであろう金属のようなものを元素分析したんですけど、どんな元素とも一致しなかったんですよ!未知の物質なんですよ!」
「そんな…バカな…」
「これ、どうにかして上に掛け合うことできないですか?こんな得体の知れない脅威、放っといたらとんでもないことになりますよ!神谷さん!」
「わかってるさ!だが上に掛け合ってどうする?俺たちに加えて桜ちゃんも、三人まとめて住居不法侵入罪、公務員職権乱用罪その他もろもろで懲戒免職になるぞ!別に俺らがクビになるだけならまだマシだ、だけどそしたらこの鳴神市はどうなる?俺に桜ちゃん、それに課長がいなくなったら鳴神署は何もリスクをとらず、問題を起こさず、老人たちの顔色を伺って出世だけを考える保守的で使えない奴等しか残らないだろうが!そんなやつらにこんなワケわからない事件対処できるわけねぇだろ!この手の事件にリスクを度外視して真っ先に首突っ込んで成果あげられんのは俺らみたいなはぐれものだけだろうが!」
「僕が言うのもなんですけどね、それは神谷さん、自分を正当化したいだけでしょ!どんな大義名分があっても、警察官が違法行為してる時点でダメでしょ!」
「…法の外でしか貫けない正義もあるんだよ」
「では、あなたはなぜ警察官という枠組みのなかで、足枷を自らかけてまでそんな難儀な正義を貫こうとしてるんですか?」
「その足枷をぶち壊したいからだよ」
そう言うと神谷は根本に背を向けた。
「これからどうやってこんなことに立ち向かうって言うんですか?!それに神谷さん、そんなんじゃ上から睨まれますよ!」
「俺は俺の仕事やるだけだ。それに上からはもうとっくに睨まれてるよ。なぁに、あんな能無しどもに睨まれたところでどうってことねぇよ。俺は俺のやり方でやりたいことをやる。俺が変わらなければ、何かが変わるさ。」
根本は何も言わず、ただ去っていく神谷の背中を眺めていた。
神谷に頼まれて廃ビルの傷痕と血痕について調べていた根本が驚きの声をあげた。
「神谷さんに伝えないと!」
根本は慌てて部屋を出た。
………
時刻は十時を過ぎており、定時などあってないようなものの刑事たちも、さすがにこの時間になると警察署に残っているものはほとんどいなかった。おそらくもういないだろうと思いながらも走って特務課に向かう途中で神谷を見かける。神谷は自販機の前で煙草を吸っていた。
「おう!根本くん!結果まだ?」
あれから一週間ほど経っていた。日頃の業務が終わったあと、自分以外の鑑識課の職員が去った職場でコソコソと検査を行うのは想像以上に時間がかかる。
「それが、やっと終わったんですけど、あれやっぱおかしいですよ」
慌てた様子で根本が言う。
「おかしかったって何が?」
「あの傷痕、どう見てもこの世の物じゃないんですよ」
「は?」
神谷は、根本が言っていることの意味がわからなかった。
「あれ、絶対おかしいんですよ!あんなもんなんで見つけちゃったんですか神谷さん!」
「落ち着け落ち着け!何がおかしいんだ?!」
少し苛立ちながら神谷が尋ねる。
「す、すいません。あれ、実は、あんな傷痕見たこともないし、あり得ないんですよ」
「あり得ない?」
「はい。現場で見たときから思ってたんですけど、あんな真っ直ぐで大きい傷つけるなんて、とてつもない力がかかってるはずなんですけど、傷痕を精密に調べたら、想像以上にすごい力がかかってるであろうことがわかったんですよ!とてもじゃないですけど、人間が発揮できる力じゃないし、そんな力で壁に向かって刀で切りかかったら、間違いなく刀は途中で折れて、あんな大きい傷つくわけないんですよ…しかも…」
「しかも?」
「傷痕から微量ながら採取された、おそらく壁を切る際に刀の表面が剥がれて付着したのであろう金属のようなものを元素分析したんですけど、どんな元素とも一致しなかったんですよ!未知の物質なんですよ!」
「そんな…バカな…」
「これ、どうにかして上に掛け合うことできないですか?こんな得体の知れない脅威、放っといたらとんでもないことになりますよ!神谷さん!」
「わかってるさ!だが上に掛け合ってどうする?俺たちに加えて桜ちゃんも、三人まとめて住居不法侵入罪、公務員職権乱用罪その他もろもろで懲戒免職になるぞ!別に俺らがクビになるだけならまだマシだ、だけどそしたらこの鳴神市はどうなる?俺に桜ちゃん、それに課長がいなくなったら鳴神署は何もリスクをとらず、問題を起こさず、老人たちの顔色を伺って出世だけを考える保守的で使えない奴等しか残らないだろうが!そんなやつらにこんなワケわからない事件対処できるわけねぇだろ!この手の事件にリスクを度外視して真っ先に首突っ込んで成果あげられんのは俺らみたいなはぐれものだけだろうが!」
「僕が言うのもなんですけどね、それは神谷さん、自分を正当化したいだけでしょ!どんな大義名分があっても、警察官が違法行為してる時点でダメでしょ!」
「…法の外でしか貫けない正義もあるんだよ」
「では、あなたはなぜ警察官という枠組みのなかで、足枷を自らかけてまでそんな難儀な正義を貫こうとしてるんですか?」
「その足枷をぶち壊したいからだよ」
そう言うと神谷は根本に背を向けた。
「これからどうやってこんなことに立ち向かうって言うんですか?!それに神谷さん、そんなんじゃ上から睨まれますよ!」
「俺は俺の仕事やるだけだ。それに上からはもうとっくに睨まれてるよ。なぁに、あんな能無しどもに睨まれたところでどうってことねぇよ。俺は俺のやり方でやりたいことをやる。俺が変わらなければ、何かが変わるさ。」
根本は何も言わず、ただ去っていく神谷の背中を眺めていた。
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