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四百珊瑚

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天女編

第五十四話 廃ビル

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 「よっ!元気してた?」

 車から颯爽と降りた神谷が、声をかけてきた。続けて、桜も車から出てきた。なぜ神谷たちがはるかの入院している診療所に現れたのか、一は疑問に思った。

 「お久しぶりです。神谷さんたちがなんでここに?」

 一より先に尋ねたのは彰悟だった。

 「例の事件のことで心配で…ね。様子を知りたくて。」

 「…そうですか。」

 少し気まずい空気が流れ、沈黙がしばらく続いた。

 「えっと、この人たちはたしか…」

 沈黙を破って声を出したのは末永だった。末永に事件に関しての事情聴取をしたのは神谷だった。

 「はじめまして…じゃないね。ええと、末永くんだったよね?俺は神谷光蔵。で、こっちが俺の後輩の近藤桜ちゃん」

 「近藤です」

 神谷の挨拶に続けて、桜も軽く会釈した。

 「あぁ、はるかちゃんと世間話しててね。最近彰悟君たちと突然仲良くなった友達がいると聞いて興味深いと思ってね…ところで?末永くん」

 まずい!一と彰悟は思わず顔を見合わせた。あの廃ビルでのことを知られたら、自分達や怪物のことがバレてしまうと思った。しかし末永はあっさり答えてしまう。

 「あぁ、実は少し前に大喧嘩したんですけど、それをきっかけに仲直りして、今に至ります。」

 「ふーん。大喧嘩って、もしかして事件の日?妙に顔に傷があったり、制服が汚れてたりして気になってたんだよね~。まー事情聴取の時ははるかちゃんに関してのことしか聞けなかったけど。その喧嘩のこと、詳しく聞いてもいい?」

 やばい!神谷のことだここで末永が答えてしまっては間違いなくあの廃ビルに行くはずだ。

 「えと、それは…」

 末永が困惑してる間に、一と彰悟が半ば強引に入り込む。

 「神谷さん、その辺にしといてくださいよ!ちょっと恥ずかしいことなんで!」

 「そうですよ!もう終わったことなんですから!」

 無理に作った笑みを浮かべて一と彰悟が末永に答えさせないようにした。

 「じゃ、じゃあ俺たちはこれで…」

 彰悟が末永の手を引いて、勇み足で診療所に入っていく。

 「神谷さん、なんであんなこと聞くんです?」

 「ん、ちょっとな…」

………

 「いやー、神谷さんあんなこと聞くなんてまいったなー」

 診療所の廊下で冗談めかしく彰悟が言う。

 「喧嘩のこと聞かれたけど、結局答えなかったけど大丈夫だったかな?」

 「だ、大丈夫だと思うよ…」

 末永の問いに答える一。そんなことを話して歩いているうちにはるかの病室についた。

 「あ、一くんに彰悟くん!それに末永くんも来てくれたんだ!」

 元気な笑顔ではるかが一たちを迎える。大分回復してきたようだ。

 「連れてきてよかったか?」

 彰悟が問う。

 「全然大丈夫だよ!来てくれて嬉しい!」

 「よ、よかった…」

 はるかの反応にほっとする末永。どうやら少し緊張していたようだ。無理もない、はるかはアイドルで、しかも今は心の治療のために入院している身なのだ。

 「あ、そういえばさっき刑事さんが来たんだけど、会った?」

 「あぁ、神谷さんと近藤さんでしょ?」

 「え?近藤さんて人だけで、神谷さんて人はいなかったよ?」

 どうやらはるかに会ったのは桜だけで、神谷はここには来なかったらしい。神谷なりの気遣いだろうか。

 「なんか聞かれたか?」

 「えっと、昨日公園で起こった、大量の瓦礫が広場にあった変な事件の話と末永くんについて少し聞かれたよ」

 やっぱりな。一と彰悟はまた顔を見合わせた。どうやら連続する怪物事件のことと、末永の関係性を探っているらしい。

 「え?事件のことと俺のこと?俺そんか事件のこと今知ったんだけど…疑われてんのかな?」

 「…いや、神谷さんたちちょっと変わってるから、気にしなくていいと思うよ」

 「そう?」

 末永には気にしなくていいといったものの、内心自分達のことがバレないか気にかかってしょうがない一と彰悟であった…。

………

 「ここがその廃ビルか…」

 一と彰悟の心配は的中し、診療所を出たわずか数時間後に、神谷は見事に彰悟がディフェンダーとして覚醒するに至った、あの廃ビルを突き止めた。
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