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救出編
第四十六話 父の夢、はるかの夢
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「え?!いいんですか?!」
おぞましい事件から数週間後、はるかは改めて芸能事務所で今後のことについて話し合うことになった。そこで、驚くべきことを聞く。
「えぇ。もちろんはるかさんさえよければ、ですが。」
「本当ですか?!ありがとうございます!今後ともよろしくお願いします!」
事件もあり、はるかの義父、桜井文人が正式に懲戒解雇された後に就任した女性社長が直々に、今後の契約についてはるかと話し合いをすることになった。そこで、はるかさえよければ半永久的に事務所は可能な限りはるかに仕事を与えること、賠償金としてかなりの額を支払うこと、事件のことは社長とその他ごく一部の社員にのみ知るところとし、絶対に事務所の方から口外することはないことなどを提示された。
しかし、はるかは事件のことを口外しないという守秘義務のみ守ってもらうこととし、仕事は事務所に半ば強引に与えられるのではなく実力で仕事を取りに行き、賠償金はメンタルクリニックにかかる医療費などのみ受け取ることとした。はるからしいと言えばはるからしい選択だ。
「でも、本当にいいの?あんなことがあったのだから、遠慮なんてしなくていいのよ?」
「はい!大丈夫です!誰かの力に甘えずに、自分自身の力で音楽の仕事がしたいんです!」
「…そう。わかったわ。でも、困ったことがいつでも、なんでも言ってちょうだい。私でよければ力になるわ!」
一見冷たく見える社長だが、どうやら社長は社長としてではなく、一人の女性としてはるかを支えようとしているようだ。
「それでは、今日のところはこれで失礼します!お忙しいなかありがとうございました!」
「いえ。気を付けてね。」
お互いに深い礼を交互にして、はるかは笑顔で事務所を後にした。
しかしまだはるかの心は癒えきってはいなかった。やはり、まだあのマンションに戻るのは厳しい状態であった。今はメンタルクリニックに入院しており、リハビリがてらたまにこうして外出もするが、成人男性を見るとどうしても震えが止まらない。極力人混みを避け、基本的に移動は車で送ってもらう生活をしている。
学校にも通学できておらず、メンタルクリニックに入院していることは校長の田村と担任の金子先生しかしらない。クラスメート達には仕事の都合で休んでいると伝えてあり、はるかの捜索に協力した彰悟と末永には仕事が詰まっていてパニックになって仕事場から飛び出してしまったと神谷たちが伝えていた。
だが、一だけははるかがメンタルクリニックに入院していることを知っている。一ははるかのことが好きであるのはもちろん、はるかも一のことが好きだった。お互いそのことはもうなんとなく察していた。そのため、はるかは一には特に心を許していた。
「あ、また来てくれたんだ!」
「うん!またノート持ってきたよ!」
そして、今日もまた一がはるかの見舞いにやって来た。数日に一回、はるかにノートを貸してざっくり授業で習ったことを説明して、世間話をして大体1~2時間くらい滞在する。
「みんな元気?」
「元気だね。彰悟と末永がめちゃくちゃ仲良くなってる。あいつらはちょっと奇妙なくらい元気すぎるね。それで僕と末永もわりと話すようになってみんなびっくりしてる。」
笑いながら一が話す。
「はるかは?まだ時間かかりそう?」
「そうだね。お仕事は自分に合ったものを選ばせてもらって色々工夫すれば入れるけど、学校は私の場合ちょっと大変かな…。」
少し寂しそうな表情を浮かべて、はるかが話す。
「そういえばまだ私がなんで入院してるのかとか話してなかったよね。」
「え?あ、あぁ。そうだね。」
「やっぱり知りたい?」
「んー。知りたくないと言ったら嘘になるし、心配だけど、はるかが話してもいいなら聞きたいし、話したくないなら聞かなくていいかな。」
「そっか。うーん。まだ話せないかな…。」
しばらく沈黙が続いた。
「すぐじゃなくてもいいよ。元気になるの、ずっと待ってる。」
「ごめんね。」
「ううん。ゆっくりでいいよ。少しずつ、前に進もう。」
「…うん。ありがとう。」
はるかの目は潤んでいるように見えた。それでもはるかの涙は表面張力によって溢れ出るまでは至らなかった。だが、なぜか一の方が号泣してしまった。
「ちょっとぉなんで一くんが泣くの!」
はるかに笑顔が戻った。
「ごめん。」
一も泣きながら笑っていた。
おぞましい事件から数週間後、はるかは改めて芸能事務所で今後のことについて話し合うことになった。そこで、驚くべきことを聞く。
「えぇ。もちろんはるかさんさえよければ、ですが。」
「本当ですか?!ありがとうございます!今後ともよろしくお願いします!」
事件もあり、はるかの義父、桜井文人が正式に懲戒解雇された後に就任した女性社長が直々に、今後の契約についてはるかと話し合いをすることになった。そこで、はるかさえよければ半永久的に事務所は可能な限りはるかに仕事を与えること、賠償金としてかなりの額を支払うこと、事件のことは社長とその他ごく一部の社員にのみ知るところとし、絶対に事務所の方から口外することはないことなどを提示された。
しかし、はるかは事件のことを口外しないという守秘義務のみ守ってもらうこととし、仕事は事務所に半ば強引に与えられるのではなく実力で仕事を取りに行き、賠償金はメンタルクリニックにかかる医療費などのみ受け取ることとした。はるからしいと言えばはるからしい選択だ。
「でも、本当にいいの?あんなことがあったのだから、遠慮なんてしなくていいのよ?」
「はい!大丈夫です!誰かの力に甘えずに、自分自身の力で音楽の仕事がしたいんです!」
「…そう。わかったわ。でも、困ったことがいつでも、なんでも言ってちょうだい。私でよければ力になるわ!」
一見冷たく見える社長だが、どうやら社長は社長としてではなく、一人の女性としてはるかを支えようとしているようだ。
「それでは、今日のところはこれで失礼します!お忙しいなかありがとうございました!」
「いえ。気を付けてね。」
お互いに深い礼を交互にして、はるかは笑顔で事務所を後にした。
しかしまだはるかの心は癒えきってはいなかった。やはり、まだあのマンションに戻るのは厳しい状態であった。今はメンタルクリニックに入院しており、リハビリがてらたまにこうして外出もするが、成人男性を見るとどうしても震えが止まらない。極力人混みを避け、基本的に移動は車で送ってもらう生活をしている。
学校にも通学できておらず、メンタルクリニックに入院していることは校長の田村と担任の金子先生しかしらない。クラスメート達には仕事の都合で休んでいると伝えてあり、はるかの捜索に協力した彰悟と末永には仕事が詰まっていてパニックになって仕事場から飛び出してしまったと神谷たちが伝えていた。
だが、一だけははるかがメンタルクリニックに入院していることを知っている。一ははるかのことが好きであるのはもちろん、はるかも一のことが好きだった。お互いそのことはもうなんとなく察していた。そのため、はるかは一には特に心を許していた。
「あ、また来てくれたんだ!」
「うん!またノート持ってきたよ!」
そして、今日もまた一がはるかの見舞いにやって来た。数日に一回、はるかにノートを貸してざっくり授業で習ったことを説明して、世間話をして大体1~2時間くらい滞在する。
「みんな元気?」
「元気だね。彰悟と末永がめちゃくちゃ仲良くなってる。あいつらはちょっと奇妙なくらい元気すぎるね。それで僕と末永もわりと話すようになってみんなびっくりしてる。」
笑いながら一が話す。
「はるかは?まだ時間かかりそう?」
「そうだね。お仕事は自分に合ったものを選ばせてもらって色々工夫すれば入れるけど、学校は私の場合ちょっと大変かな…。」
少し寂しそうな表情を浮かべて、はるかが話す。
「そういえばまだ私がなんで入院してるのかとか話してなかったよね。」
「え?あ、あぁ。そうだね。」
「やっぱり知りたい?」
「んー。知りたくないと言ったら嘘になるし、心配だけど、はるかが話してもいいなら聞きたいし、話したくないなら聞かなくていいかな。」
「そっか。うーん。まだ話せないかな…。」
しばらく沈黙が続いた。
「すぐじゃなくてもいいよ。元気になるの、ずっと待ってる。」
「ごめんね。」
「ううん。ゆっくりでいいよ。少しずつ、前に進もう。」
「…うん。ありがとう。」
はるかの目は潤んでいるように見えた。それでもはるかの涙は表面張力によって溢れ出るまでは至らなかった。だが、なぜか一の方が号泣してしまった。
「ちょっとぉなんで一くんが泣くの!」
はるかに笑顔が戻った。
「ごめん。」
一も泣きながら笑っていた。
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