ONE

四百珊瑚

文字の大きさ
上 下
44 / 60
救出編

第四十四話 怒髪天

しおりを挟む
 時速50kmほどの速度が出ている車のフロントガラスに跳び蹴りをした神谷。

 「うわぁっ?!」

 思わず男が叫ぶ。神谷は、天性の運動神経を駆使して、見事にフロントガラスだけを蹴りでぶち破りつつ、ボンネットに手を突いて、その反動で空中に跳び、ルーフの上に飛び乗った。車は停止した。

 「な、なんだ?!」

 男は慌てふためき、シートベルトを外して逃走しようとする。神谷は男がドアを開けた直後に、ルーフから飛び降りて男の前に立った。

 「き、貴様刑事か?!金ならやるから見逃せ!」

 神谷は表情ひとつ変えず、男を思い切り殴り飛ばした。

 「ぐはっ?!」

 男は数メートル吹き飛んだところで地べたにへばりついた。
 その直後、神谷は後部座席のドアを開け、はるかに問いかける。

 「大丈夫か?しっかりしろ!」

 「…ん。私なら、大丈夫です…。ちょっとスタンガンで襲われたんですけど、それ意外は特に…。」

 はるかの命に別状は無さそうだと判断した神谷は、再び男のもとに近づいていく。

 「な、なんだ?!やめてくれ!これ以上殴られたら死んでしまう!」

 男はしりもちをつきながら後ずさる。

 「じゃあ死ねよクソ野郎!てめぇの娘、泣かせてんじゃねぇよ!」

 そう言いながら拳を振り上げた神谷。思わず目を瞑る男。

 「(こ、殺される!)」

 男がそう覚悟したそのとき、

 「神谷さん何やってるんですか?!やめてください!」

 桜の声が聞こえた。はっと我に帰る神谷。そして桜は神谷に近づいた。

 パンッ!

 と桜が神谷の顔を叩いた。

 「何やってるんですか神谷さん!こんなことしたら、神谷さんまでこんな男と同類になっちゃうんですよ?!」

 そう言って桜は号泣しながら神谷に抱きついた。
 
 「…ごめんよ。桜ちゃん…。でも、どうしてここに…?」

 「だって案の定神谷さんこんな状況で暴走してるじゃないですか!だからこうして止めに来てあげたんですよ!神谷さんの世話をするのは相棒である私の役目ですよ!」

 鼻水をすすりながら桜が怒鳴る。

 「ありがとう。」

 そう言って神谷もそっと桜のことを抱き締めた。そして、その直後、いいところにサイレンを鳴らしたパトカーがやって来た。

 「ん、んんー。」

 パトカーから降りてきた加藤がわざとらしく咳払いをする。

 「お取り込みのところすまんね。」

 さっと桜が神谷から距離をとる。

 「23時15分、公務執行妨害の容疑で芳野俊也、あなたを逮捕します。」

 加藤によって、ついに男の手に手錠がかけられた。

 「あ、神谷さん!」

 遅れて一と彰悟、そして末永が到着する。

 「あぁ、君たちもご協力ありがとう!感謝するよ!えーと、そっちの子は?ていうか彰悟くんとそっちの子、ケガしてないか?」

 神谷が末永のことと彰悟たちのケガのことを尋ねる。

 「あ、こいつは末永って言ってさっきまで俺と喧嘩してたんすけど、仲直りしてはるかの捜索に協力してくれたやつです!はるかがここにいるって情報も、こいつが教えてくれたんです!」

 彰悟が末永を紹介する。末永は、神谷に軽く礼をした。神谷も

 「なんかめちゃくちゃ話が盛り込まれてるねぇ…。まぁ、それはよかった。ありがとう。」

 と返事をした。

 「そういえばはるかは?はるかは無事なんですか?事件に巻き込まれたって一体…?」

 明らかに慌てている様子の一が神谷に問いかける。

 「大丈夫。落ち着いてくれ。彼女はそこの車の後部座席で横になってるよ。事件の詳しいことは…そうだな、また後日、彼女が話す気になったら話すとしよう。」

 そう言うと神谷は一から目をそらした。それを聞いて、一たちは車に近づく。後部座席を覗くと、そこには疲弊しきってはるかが横たわっていた。

 「はるか!」

 一は叫んだ。

 「あ、一くん…。」

 一を見て、安心したせいか涙がこぼれるはるか。

 「おい!大丈夫?はるか?!」

 「あれ?私、なんで泣いてるの?刑事さんが助けてくれたんだよね?なのになんで…。えへへ。」

 はるかは涙を流しながら笑ってみせた。そして、一にあることを聞く。

 「一くん。」

 「ん、なに?」

 「抱きしめてもいい?」

 「…え?」

 一が許可を出す前に、はるかは一の背中に手を回した。思わず一もはるかの背中に手を回す。二人は互いの熱を感じた。温かかった。そして、はるかと同じく、一も泣きながら微笑んだ。後ろでは

 「ひゅーひゅー!」

 と囃し立てる彰悟と末永、そして今後この事件をどう処理していくかを緊迫した空気のなかで相談する神谷や加藤たちがいた…。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

処理中です...