ONE

四百珊瑚

文字の大きさ
上 下
40 / 60
救出編

第四十話 暴力

しおりを挟む
 桜の驚く声を聞いて神谷がやってきた部屋はどうやらこの家の娘の部屋のようだった。そしてそこには血のついたシーツが散乱していた。

 「うっ…。」

 桜は口に手を当てて膝をついた。

 「大丈夫か?立てるか?」

 とっさに桜の肩に手をやり、桜を立たせるよう誘導する神谷。なんとか立ち上がり、よろよろと歩く桜。トイレへ向かい、桜は便器に顔を寄せて嘔吐した。神谷はそっと桜の背中を擦った。

 「なんで…。なんでこんな…。」

 桜は泣きながら嘔吐し続けた。
 
 しばらくして桜の嘔吐は落ち着いたが、呆然と座り込んでおり、とても動けそうな状態ではなかった。

 「悪いがここからは俺一人で捜査を続ける。桜ちゃんはここで休んでて。」

 そう言って神谷は桜に背を向けた。

 「神谷さん…。」

 しかし桜は神谷を呼び止めた。

 「暴走はしないでくださいね…。」

 こんな状態になっても桜は神谷の心配をしていた。

 「…できる限りな。」

 そう言って神谷は歩み出した。

 「トメさん。すいません。桜ちゃんを頼みます。」

 「…わかったわ。気を付けてね。」

 トメさんは物わかりがよかった。神谷はマンションから走り去り、近くに駐車しておいたパトカーに乗り込んだ。

 「(まずは少女の保護が最優先だな。とは言ってもどうやって探し出すか…。とりあえず署に連絡するべきか…。)」

 とりあえず神谷は特務課課長の加藤に連絡をした。

 「どうした神谷?またなんかやらかしたか?」

 「はぁ実は…。」

 神谷は今までの経緯を一通り説明した。

 「なるほどな。つまりお前は許可も出ていないのにマンションのドアをぶち破って不法侵入したと。だから警電(警察電話のこと)を使わずにケータイから連絡してきたんだな。」

 「まぁそういうことになります。」

 「まったくお前にはつくづく呆れるよ。まぁわけだ。」

 「いやぁいつもありがとうございます!」

 「署の方にはうまいこと言っといてやるから、お前は単独でその娘を探してろ。まぁ言われんでもお前ならそうするか。」

 「まぁそうですね。」

 一通り話して神谷は電話を切った。

 「さて、とは言ってもどうやって探し出すか…。」

 考えはじめたその時、ケータイが鳴った。一からだった。

 「あ、神谷さんですか?着信が入ってたんですけど、どうかしましたか?」

 「あぁ、実は君の学校の生徒が事件に巻き込まれているかもしれなくてな…。」

 「え?!誰ですか?!」

 「芳野はるかだ。」

 「え?!」

 「彼女について何か知らないか?今どこにいるかとか、最近の様子とか。」

 「そういえば…。さっき鳴神駅のホームで見ました!さっきとは言っても一時間以上前ですが…。」

 「本当か?!わかった!ありがとう!できることなら君やあと矢本くんにも協力して欲しい!彼女を見つけたら俺に連絡をくれ!」

 「わかりました!」

 そして電話が切れた。

 「はるかが…事件に?なんだか嫌な予感がする。」

 一は、目覚めて間もないなか、全力で走り出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...