ONE

四百珊瑚

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継続編

第三十八話 ヒーロー

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 泣き叫びながら再び白い棺の中に転送された一。パニックになり、ひたすら叫んでいた。よく見ると身体もボロボロだが、それ以上に精神的なダメージの方が大きいようだった。

 どれくらい時間がたっただろうか。泣き叫び疲れたところで一は眠りについていた。

 「(…あれ?ここは?)」

 一は、両親と一緒に百貨店に行った時の夢を見ていた。母と、父と三人。百貨店の中のレストランから夢は始まった。

 「私はこのセットにするわ!一くんは何にする?」

 夢の中で、今はいない母さんが話しかけてくる。そんな、懐かしく、どこか切ない夢。

 「んー、じゃあハンバーグセット!」

 思わず子供らしく振る舞う一。

 「××さんは何にする?」

 母さんが父に尋ねる。だけど、やはり父親の顔はもやがかかったように思い出せなかった。名前すら思い出せない。

 「んー、俺はブラックコーヒーとなんかテキトーに。」

 「んもう!それじゃわからないわよ!」

 「んー、とりあえず煙草吸ってきていい?」

 「もー!ほんとになに考えてんのこの人は?!」

 珍しく母さんが少し怒る。そして、逃げるようにそそくさと煙草を吸いにいく父。母と二人きりになった。

 「ご飯食べたら屋上のヒーローショー見に行こうね!」

 母さんに言われて気づいたが、僕はなぜか幼い頃からヒーローが大好きだった。この年になっても、ずっとだ。

 「ねぇ、母さん。」

 「なーに、一くん?」

 「どうして僕はヒーローが好きなの?」

 思わず夢の中の母に聞いてみる。

 「…。」

 母さんは黙りこんだ。それでも僕は質問を続けた。

 「僕はさ、多分ヒーローに憧れてるんだよね。強くて、優しくて、かっこいい、そんなヒーローに…。」

 「…。」

 母さんは黙って僕の話を聞いている。

 「だけど、僕はヒーローにはなれないよ。僕は、弱いから…。大切な友達一人守れなかったよ…。優しいだけじゃ、誰かを守りたい、って気持ちだけじゃ、ヒーローにはなれないよ…。気持ちだけでヒーローになれるなら、みんなヒーローだよ…。」

 涙を流しながら母にそう語る。

 「…行こうか。」

 母さんはそう言うと、立ち上がって僕の手を掴んだ。そして、屋上へ向かった。

 「母さん?」

 「見て。」

 僕は母さんに言われた方を見た。そこではヒーローが戦っていた。

 「出たな怪人!弱い人たちに悪さするのはやめろ!」

 「やめねぇよ!かかってきな!」

 「いくぞ!」

 よくありがちな、今思えば安っぽいヒーローショーだ。

 「ぐはぁ!」

 「どうした?お前の力はその程度か?」

 「くそ!」

 倒れこむヒーロー。煽る怪人。

 「良い子のみんなー!応援してー!」

 怪人にとらえられたお姉さんが叫び、小さい子供たちが応援する。そしてヒーローが立ち上がり、怪人を懲らしめる。

 「みんなの応援が、俺を強くする!」

 「ぐはぁ!なぜだ、なぜ貴様こんなに強くなったんだ?!」

 最後にはヒーローが怪人を倒してVサインをする。本当によくあるヒーローショーだ。

 「母さん、これがどうしたの?」

 思わず問いかける。

 「一くん、ヒーローだってね、最初から強かった訳じゃないのよ。」

 「え?」

 「最初は弱くてもね、大切なもの、守りたい人ができて強くなるのよ。傷ついた分だけね。」

 「…。」

 「一くんは、人の痛みがわかる子だから、優しい子だからもっと強くなれるんじゃないかな?優しい人ってね、それだけで強いのよ。強くなれるのよ。それだけ傷ついてきたってことだから。優しさを貫くのにも強さが必要なのよ。」

 「でも、僕は…。守れなかったよ…。」

 「そりゃあヒーローでも時には失敗して、大切なものを守れないときもあるわ。だからね、失くした大切なものの分まで強くなればいいのよ。」

 「…。」

 「あなたがヒーローに憧れる理由、なんとなくだけど母さんにはわかるよ。これからも、みんなを守ってくれる、優しいヒーローでいてね。」

 母がそう言って、夢が覚めていく感じがした。

 「それにね、大切なものはまだ…」

 母が何かを言いかけて目が覚めた。涙が出ていた。

 「(失くした分まで…強くなる…。)」

 涙は止まった。白い棺から出てみる。なんとなく、少しだけ前に進めそうな気がした。すると、一のいた白い棺の隣に、もう一つ白い棺が出現した…。
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