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四百珊瑚

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継続編

第三十五話 彰悟の戦い

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 放課後を告げるチャイムが鳴り響き、校舎が夕焼けに包まれた。身支度を済ませ、部活に急ぐものや、そそくさと帰宅する者、教室で談笑する女子軍団など、それぞれがバラバラに動き出す。
 彰悟は久しぶりに一と共に帰路につこうとした。彰悟が一を意図的に避けていたのが嘘であるかのように二人の間の距離はまた近まりつつあった。教室を出て、下駄箱から取り出した革靴を荒い手つきで地面に放り、開け放された玄関の扉を通り抜ける。そんな一連の動作をした直後に異変は起きた。
 
 「おい、矢本。」と、低い声が後ろから聞こえた。

 一と彰悟が振り向くとそこには末永とその取り巻きたちがいた。

 「なんだ?」と彰悟。

 「少し用があるんだ。悪いが五代は先に帰ってくれないか?」と末永。

 当然一も不穏な空気を感じていた。

 「どうする?」と一。

 「どうする、ってお前には用無いみたいだぜ。悪いけど先帰っててくれ。だし。」

 「…。わかった。」

 少し心配しながらも一は彰悟たちを背に、一人帰路についた。

 「ふーん。案外ものわかりのいいやつだな。」

 「だろ。あれが今の俺の相棒だよ。」

 「ふんっ。いちいちムカつく奴だ。用件はわかってるな?ここだと色々とやりづらい。場所を変えようか。」

 「いいぜ。どこでも望むところだ。」

………

 「ちょっと待ってくださいよ!これって不法侵入ですよ!」

 マンションの非常階段に桜の声が響く。トメさんからの電話を切ったのち突然パトカーを走らせ、トメさんのマンションに到着後、マンションの壁をよじ登り、非常階段に侵入した神谷を、桜は必死に追っていた。

 「そんなこと言ってる場合じゃない!」

 「じゃあどういう状況なんですか?!全然意味わからないんですけど!」

 「説明はあとだ!」

 そうこう言っているうちにトメさんの家の前に着いた。そこにはトメさんがいた。

 「トメさん!大丈夫?!」

 「ええ、私は大丈夫よ。ただねぇ…。どうもお隣の家のご主人不気味でねぇ…。目があった瞬間家の中に逃げるように入っていってねぇ…。私も怖かったわ…。」

 すかさず神谷はその例の男の住む家のインターホンを押した。

 ピンポーン、と間の抜けた音がしたがしばらくしても返事は無い。

 「くそっ!こうなったら仕方ない!」

 そういって神谷は回し蹴りを扉に食らわした。

 バコオォォン!

 と、強烈な音と共に扉がぶっ飛んだ。その光景を見たトメさんと桜が呆気にとられているのをよそに、神谷は家の中に入り込んだ。しかしそこはすでにもぬけの殻だった…。

………

 「(彰悟、大丈夫かな…。)」

 物憂げな表情をしながら、一人帰路に着いた一。ところどころに汚れの目立つ、夕焼けに照られた電車の窓からぼうっとしながら外を見る。何分かして自宅の最寄り駅に着いた。駅のホームに降り立ったところで見知った背中を見つけた。

 「(あれ?桜?)」

 と、思ったのも束の間。一は再び眠気に苛まれ、意識を失った。

………

 「ここだ。入れ。」

 末永たちに連れられて、彰悟がやって来たのは古びた廃ビルの二階だった。

 「ここは今は使われてないが一応父さんの所有してるビルでな。」

 「つまりここで何か起こってもってわけだ。お前の父親、確か結構有名な企業の社長かなんかだろ?」

 「察しがいいな。まぁそういうことだ。」

 「そんで、これから俺をどうしようってわけ?」

 「まぁ、お前が五代と今後も仲良くしたいってのはわかったよ。だけど俺としてはどうもそれが気にくわない。だから俺に土下座しろ。そしたら考えてやるよ。」

 「もし嫌だと言ったら?」

 「ぶっ殺す。」

 「…。」

 しばらく彰悟の動きが固まった。そして…

 「っぷ!あはははは!こいつ、ほんとに土下座しやがったー!」

 末永の取り巻きたちが彰悟を嘲笑しだした。彰悟は本当に末永に土下座をした。彰悟は嘲笑されただけではない。末永に頭を踏みつけられ、取り巻きたちからはパパラッチのごとくケータイで写真を撮られた。だが彰悟はしばらくの間微動だにせず土下座を続けた。
 カメラのパシャリという音がやみ、末永の足がどけられたところで彰悟は立ち上がった。

 「これで満足か?二度と俺たちに関わるな。」

 「嫌だね。」

 「なんだと?!」

 「まだ五代にはなーんもしてないもん。あいつにも痛い目…」

 言いかけた瞬間、末永は口から血をぶちまけながら、宙に浮いていた。
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