ONE

四百珊瑚

文字の大きさ
上 下
30 / 60
継続編

第三十話 はるかの違和感

しおりを挟む
 一夜あけて、学校に登校すると、すでにはるかが登校していた。

 「あ、一くんおはよー!」

 はるかは朝から元気な声で挨拶をしてくれた。昨夜、テレビの画面に映ったいつもとは違う、妖艶な雰囲気のはるかの姿がふと頭に浮かび、僕はなぜか恥ずかしくなった。それを打ち消すように、僕も「おはよう!」と、なるべく大きな声で返事をした。

 僕は入学したての時の早起きの癖が抜けず、朝のホームルーム開始の30分ほど前には教室についてしまう。もう一年生もこの時期になると、他のほとんどの生徒はホームルーム開始直前に教室に入り込んでくる。そんなわけで、ここ最近は自分以外誰もいない教室で、家から持ち込んだヒーローものの漫画を読むのが毎日の日課となっていたのだが、今日はなぜかはるかが僕よりも早く教室にいた。

 「今日はなんでこんなに早いの?」

 僕は少し気になったので聞いてみた。

 「ん。私、家にいるの、あんまり好きじゃないから…。」

 珍しくはるかの表情が暗くなった。そういえば昨日の別れ際もそのようなことを言っていた。僕はそれを察し、話題をそらそうとも思った。だが、無性に気になったので、思いきってつっこんだ話を聞いてみた。

 「なんで?家族のこと嫌いなの?」

 「え?ううん!ママも大好きだよ!」

 はるかは、明らかにぎこちない作り笑いをしてそう答えた。

 「…そうなんだ。」

 そういいながらも、僕ははるかの表情以上に、はるかの言葉に違和感を覚えた。たしか、はるかはと言っていた。

 「うん!お母さんはとっても優しいし、お父さんも…。」

 明らかにはるかの様子がおかしい。

 「…はるか。」

 「ん?なに?」

 「何か、困ったことがあったら僕に言ってよ。僕でよければ、何でも、どんなことでも…聞くよ。」

 はるかは少し驚いた表情をして、しばらく下を向いてうつむいた。しばらく沈黙が続いた。

 「ありがとね!一くん!でも、私は大丈夫!」

 はるかはまた作り笑いをしていた。目が少し潤んでいた…。


………

 『ピンポーン』

 インターホンの音が響き、しばらく静寂が続いた。

 「いないんですかねぇ…。」

 と、桜が呟く。

 「うーん…。かもなぁ…。」

 と、神谷が言ったところでインターホンの向こうから声がした。

 「はい。どちら様でしょうか?」

 女の声だった。

 「こんにちは。私ども、鳴神警察署 特務課の近藤と、神谷と申します。」

 そういいながら、桜は警察手帳をインターホンに向けた。

 「刑事さんですか?!少々お待ちください!」

 しばらくして扉が開き、女が姿を表した。女は40歳前後のはずだが、かなり若く見えた。肌は色白く、黒いロングヘアーをなびかせ、黒を貴重としたドレス風の洋服を来ていた。

 「あのう、刑事さんがなんのご用でしょうか…。」

 女は不安そうにこちらの様子を伺ってきた。

 「あ、すみませんね奥さん!実は、周辺住民の方から、こちらのお宅から夜な夜な変な物音がするって聞きまして。何か心当たりございませんか?」

 神谷が単刀直入に聞いた。

 「…さぁ。知らないですね…。それに私、ここ最近は海外で仕事をしていて家を空けていて…。私が日本にいない間に引っ越しの準備も全部主人と娘が済まして、この家に入ったのも今日が初めてで…。」

 「そうなんですね。それはお疲れのところ失礼しました!」

 「いえいえ!とんでもないです!」

 「誠に申し訳ないのですが、一応今度ご主人と娘さんにもお話を伺いたいので、お二人がいらっしゃる時を教えていただけないでしょうか?」

 「そうですねぇ…。主人は芸能事務所の社長をしていて、娘も主人が勤めている事務所でアイドル活動をしていて、職業柄いつ家に戻ってくるのか私もわからなくて…。わかり次第またこちらからご連絡いたしましょうか?」

 「ご協力ありがとうございます。他にも何かお困りのことがあったらいつでもこちらに!」

 そう言って神谷は名刺を手渡した。

 「それでは、本日は失礼しました!」

 そう言って二人は女の家を後にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】ある公爵の後悔

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
王女に嵌められて冤罪をかけられた婚約者に会うため、公爵令息のチェーザレは北の修道院に向かう。 そこで知った真実とは・・・ 主人公はクズです。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

処理中です...