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継続編
第ニ十八話 同じ
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授業が終わり、チャイムが鳴り響く。帰りのホームルームはいつもと変わらず、田中先生からの連絡事項だけを聞いてあっさり終わり、生徒たちは各々部活に向かったり、部活をしてない生徒は早々と帰り支度を済ませて教室をあとにした。僕もさっさと帰ろうと思ったが、ここでいつもと違うことに気づく。ついこの間まで一緒に下校していた彰悟の姿が見当たらないのだ。ここ数日の間、明らかに彰悟は僕のことを避けている。そう感じていた。
「(なにか嫌われるようなことしたかな?末永の言ったことは本当だったのか…?)」
そんなネガティブなことを考えていたとき、はるかに声をかけられた。
「あ、一くんまだ帰ってなかったんだ!」
携帯電話を片手に、廊下から教室に入ってきて僕を見つけたはるかがそう言った。どうやらホームルームが終わってすぐに、教室から出て誰かと電話をしていたらしい。仕事の関係だろうか。
「よかったら一緒に帰らない?」
はるかが思いもよらないことを聞いてきた。
「いいの?」
突然のことに、僕の頭はうまく働かず、思わず聞き返した。
「もちろん!」
はるかは即答した。
「…じゃあ、帰ろうか。」
「うん!」
そんなやり取りをして、僕たちは教室をあとにした。
………
「最近五代の調子はどうだ?」
煙草をふかし、銀色のライターの蓋を閉じたり開けたりして煙を見つめながら末永が話し始めた。
「…あまりわからない。最近は話してないな…。」
「そーかそーか!それはいい傾向だ。」
末永は少し上機嫌な様子だ。
「なぁ。お前、どうしてそこまで一にこだわるんだ?」
彰悟が末永に尋ねた。
「だってあいつ、あぁ見えてひどいやつなんだぜ。この前もお前の悪口ぼろくそに言ってたぜ。」
また末永がありもしないことを呟いた。
「…なんだって?」
彰吾は少し動揺した。
「俺が、あいつに矢本とは関わるなって助言してやったら、「僕も本当はそうしたい。あいつ貧乏人のくせして学校ではイキってるし、ついこの前まで僕のこといじめてたくせして突然仲良くしようとしだしてうざったくてムカついてた。」だってさ。他にもお前の文句言いまくってたよ。お前の前ではへらへらしてたが、あいつ相当腹が黒…」
「嘘だ!あいつがそんなこと言うわけない!」
末永が言い終わらずに彰吾が反論した。
「…チッ」
少し間をおいて末永が舌打ちをした。
「ったくあいつもお前もわからねぇ野郎だな!ぶっ殺すぞこの野郎!」
突然末永が怒りをあらわにして叫びだした。
「あと数日してあいつと絶交してなかったらマジで殺すからな。」
そう捨て台詞を残して、末永は彰吾に背を向けた。
「(矢本のやつ、五代と一言一句違わず、全く同じことを言いやがった。仲間のつもりか。とことんムカつく奴らだ。仲間なんて…下らねぇ。)」
………
「ふーん、そうなんだぁ。」
一ははるかと共に帰路についていた。どうやらはるかの家と一の家は近所にあるらしく、電車も同じ電車に乗った。そして、最近の彰悟の様子がおかしいということを話してみた。
「でも、一くんは悪くないんじゃないかなぁ?」
「なんでそう思うの?」
「なんとなく?だって今の話聞いたら、一くん何も悪いことしてなさそうだなと思ったから。」
確かに僕自身彰悟に悪いことをした全く記憶はない。ある日突然彰悟から避け始められたのだ。
「むしろ、彰悟くんの方が一くんに悪いことをした、って何か感じてるんじゃないかな?それでちょっと気まずくて避けてるんじゃない?」
「そうなのかなぁ?でも、僕、なにもされてないと思うんだけどなぁ…。」
「一くんは何も感じてなくても、彰悟くんにとっては何か重大なことをしちゃった、と思ってるんじゃないかな?思いきって今度聞いてみたら?」
はるかは意外と大胆なことを言う。
「うーん。ちょっと緊張するけど、やっぱりそれしかないかなぁ…。」
「そうだよ!それに友達なんだから、緊張することないよ!」
はるかは満面の笑みを浮かべてそう言った。はるかは人を勇気づける才能がある、一はそう感じた。
『次はぁ鳴神二丁目ぇ、鳴神二丁目ぇ。』
独特のイントネーションで、車掌が次に停車する駅を告げる。
「あっ、じゃあ僕はここで降りるよ。」
「え?一くんも鳴神二丁目なの?私も!」
驚いたことにはるかも同じ駅で降りるらしい。
「はるかも?はるかどこに住んでるの?」
「うーんとね、なんて名前だったかな?なんかカタカナいっぱいの名前のマンション!」
なんとざっくりした説明だろうか。
「一くんは?」
「僕はちっこいアパートだよ。」
そんなことを話してるうちに、電車が停車して、扉が開いた。一が先に降りて、次にはるかが降りた。
「僕は東口だけど、はるかは東口?西口?」
「え、私も東口!」
「ほんとに?!」
僕は驚いた。そして、はるかはもっと驚くべきことを聞いてきた。
「ほんとに近所みたいだね!今度、一くんの家遊びにいきたいなぁ~。」
思わず僕はビクッとした。女子からこんなことを言われたのは初めてだった。しかも相手は国民的アイドルの少女なのだ。これは夢だろうか。
「いいの?はるかアイドルだよね?」
「うーん、いいんじゃない?」
はるかは意外とこういうところはあっさりしている。
その後も二人で喋りながら、東口を出てしばらく歩いた。
「あ、私の家あそこなの!」
はるかはこのあたりで一番高いマンションを指差した。高いというのは、家賃もそうであるし、物理的にも高い。やはりはるか別世界の人間なのだなと改めて感じ、少し寂しくも感じた。
「はるかってやっぱりご両親もすごい人なの?」
そんなことを聞くと、さっきまでずっと満面の笑みを浮かべていたはるかの表情が曇った。
「え?ご両親も、って私もママもパパも普通の人だよ。ママは今はピアノの先生をやってるんだ。でもね、パパはいないんだ。」
聞いてはいけないことを聞いてしまった、と感じた。
「なんかごめん。」
「ううん。気にしないで!」
はるかはすぐに笑顔を取り繕った。
「一くんのおうちは?」
「僕は母親は大分昔に亡くなって、父親は行方不明ってことになってる。多分死んでると思う。」
「そうなんだ…。なんかごめんね。」
またはるかは笑顔を失った。
少し気まずくなり、しばらく二人の会話が止まった。
「なんかごめんね。少し気まずくなっちゃって。気にしないで、これからも仲良くしてね!じゃ!」
と言ってはるかはマンションの方に足を向けた。
「あ、じゃあまた明日!」
僕も別れの挨拶をした。
「バイバイ!」
その頃にははるかの笑顔は回復していた。だが、僕に背を向けて、家に向かうはるかの背中はどこかとても寂しそうだった。
「(なにか嫌われるようなことしたかな?末永の言ったことは本当だったのか…?)」
そんなネガティブなことを考えていたとき、はるかに声をかけられた。
「あ、一くんまだ帰ってなかったんだ!」
携帯電話を片手に、廊下から教室に入ってきて僕を見つけたはるかがそう言った。どうやらホームルームが終わってすぐに、教室から出て誰かと電話をしていたらしい。仕事の関係だろうか。
「よかったら一緒に帰らない?」
はるかが思いもよらないことを聞いてきた。
「いいの?」
突然のことに、僕の頭はうまく働かず、思わず聞き返した。
「もちろん!」
はるかは即答した。
「…じゃあ、帰ろうか。」
「うん!」
そんなやり取りをして、僕たちは教室をあとにした。
………
「最近五代の調子はどうだ?」
煙草をふかし、銀色のライターの蓋を閉じたり開けたりして煙を見つめながら末永が話し始めた。
「…あまりわからない。最近は話してないな…。」
「そーかそーか!それはいい傾向だ。」
末永は少し上機嫌な様子だ。
「なぁ。お前、どうしてそこまで一にこだわるんだ?」
彰悟が末永に尋ねた。
「だってあいつ、あぁ見えてひどいやつなんだぜ。この前もお前の悪口ぼろくそに言ってたぜ。」
また末永がありもしないことを呟いた。
「…なんだって?」
彰吾は少し動揺した。
「俺が、あいつに矢本とは関わるなって助言してやったら、「僕も本当はそうしたい。あいつ貧乏人のくせして学校ではイキってるし、ついこの前まで僕のこといじめてたくせして突然仲良くしようとしだしてうざったくてムカついてた。」だってさ。他にもお前の文句言いまくってたよ。お前の前ではへらへらしてたが、あいつ相当腹が黒…」
「嘘だ!あいつがそんなこと言うわけない!」
末永が言い終わらずに彰吾が反論した。
「…チッ」
少し間をおいて末永が舌打ちをした。
「ったくあいつもお前もわからねぇ野郎だな!ぶっ殺すぞこの野郎!」
突然末永が怒りをあらわにして叫びだした。
「あと数日してあいつと絶交してなかったらマジで殺すからな。」
そう捨て台詞を残して、末永は彰吾に背を向けた。
「(矢本のやつ、五代と一言一句違わず、全く同じことを言いやがった。仲間のつもりか。とことんムカつく奴らだ。仲間なんて…下らねぇ。)」
………
「ふーん、そうなんだぁ。」
一ははるかと共に帰路についていた。どうやらはるかの家と一の家は近所にあるらしく、電車も同じ電車に乗った。そして、最近の彰悟の様子がおかしいということを話してみた。
「でも、一くんは悪くないんじゃないかなぁ?」
「なんでそう思うの?」
「なんとなく?だって今の話聞いたら、一くん何も悪いことしてなさそうだなと思ったから。」
確かに僕自身彰悟に悪いことをした全く記憶はない。ある日突然彰悟から避け始められたのだ。
「むしろ、彰悟くんの方が一くんに悪いことをした、って何か感じてるんじゃないかな?それでちょっと気まずくて避けてるんじゃない?」
「そうなのかなぁ?でも、僕、なにもされてないと思うんだけどなぁ…。」
「一くんは何も感じてなくても、彰悟くんにとっては何か重大なことをしちゃった、と思ってるんじゃないかな?思いきって今度聞いてみたら?」
はるかは意外と大胆なことを言う。
「うーん。ちょっと緊張するけど、やっぱりそれしかないかなぁ…。」
「そうだよ!それに友達なんだから、緊張することないよ!」
はるかは満面の笑みを浮かべてそう言った。はるかは人を勇気づける才能がある、一はそう感じた。
『次はぁ鳴神二丁目ぇ、鳴神二丁目ぇ。』
独特のイントネーションで、車掌が次に停車する駅を告げる。
「あっ、じゃあ僕はここで降りるよ。」
「え?一くんも鳴神二丁目なの?私も!」
驚いたことにはるかも同じ駅で降りるらしい。
「はるかも?はるかどこに住んでるの?」
「うーんとね、なんて名前だったかな?なんかカタカナいっぱいの名前のマンション!」
なんとざっくりした説明だろうか。
「一くんは?」
「僕はちっこいアパートだよ。」
そんなことを話してるうちに、電車が停車して、扉が開いた。一が先に降りて、次にはるかが降りた。
「僕は東口だけど、はるかは東口?西口?」
「え、私も東口!」
「ほんとに?!」
僕は驚いた。そして、はるかはもっと驚くべきことを聞いてきた。
「ほんとに近所みたいだね!今度、一くんの家遊びにいきたいなぁ~。」
思わず僕はビクッとした。女子からこんなことを言われたのは初めてだった。しかも相手は国民的アイドルの少女なのだ。これは夢だろうか。
「いいの?はるかアイドルだよね?」
「うーん、いいんじゃない?」
はるかは意外とこういうところはあっさりしている。
その後も二人で喋りながら、東口を出てしばらく歩いた。
「あ、私の家あそこなの!」
はるかはこのあたりで一番高いマンションを指差した。高いというのは、家賃もそうであるし、物理的にも高い。やはりはるか別世界の人間なのだなと改めて感じ、少し寂しくも感じた。
「はるかってやっぱりご両親もすごい人なの?」
そんなことを聞くと、さっきまでずっと満面の笑みを浮かべていたはるかの表情が曇った。
「え?ご両親も、って私もママもパパも普通の人だよ。ママは今はピアノの先生をやってるんだ。でもね、パパはいないんだ。」
聞いてはいけないことを聞いてしまった、と感じた。
「なんかごめん。」
「ううん。気にしないで!」
はるかはすぐに笑顔を取り繕った。
「一くんのおうちは?」
「僕は母親は大分昔に亡くなって、父親は行方不明ってことになってる。多分死んでると思う。」
「そうなんだ…。なんかごめんね。」
またはるかは笑顔を失った。
少し気まずくなり、しばらく二人の会話が止まった。
「なんかごめんね。少し気まずくなっちゃって。気にしないで、これからも仲良くしてね!じゃ!」
と言ってはるかはマンションの方に足を向けた。
「あ、じゃあまた明日!」
僕も別れの挨拶をした。
「バイバイ!」
その頃にははるかの笑顔は回復していた。だが、僕に背を向けて、家に向かうはるかの背中はどこかとても寂しそうだった。
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