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再来編
第二十一話 驚愕
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一は、気がつくとまた白い部屋にいた。やはり箱の中にいる。
「あ、危なかった…。」
危うく神谷に捕まるところだった。それにしても神谷の身体能力は人間とは思えないほどであった。ちゃんと記憶が消えていればいいのだが…。
あれこれ考えているうちに、気がつくと一は自分の部屋に戻っていた。どうやら全身の回復が済んだらしい。おそらく一旦白い箱の中で回復して、その後の怪物との戦いではそんなに攻撃をくらわなかったからであろう。
しかし、たしかに傷の方は全快したが、やはり一は精神的にかなり疲れていた。回復したとはいえ、腕が吹き飛んだり、死んだはずの母に会ったり、神谷と戦ったりととにかく衝撃的なことだらけであった。一は床に寝転んでそっと目を閉じて、眠りにつこうと思っていた。しかし、眠りかけたところでインターホンが鳴った。
「…誰だ?まぁ、出なくてもいいか。」
一度はそう思ったが、インターホンは何度もしつこく鳴る。どうやら、客人はそうとう急ぎのようだった。
「仕方ない…。」
一はドアを開いた。すると目の前には息を切らして、鬼のような形相をした神谷が佇んでいた。
……数十分前……
「今まで一体何があった?!俺はたしかに誰かを追ってたはずだ!」
神谷はランドマークタワーの下にいた。やはり、怪物や一と戦った記憶はきれいさっぱり無くなっていた。
「神谷さん!今までどこいたんですか?!」
桜の声が聞こえた。どうやら今まで救助活動を行っていたらしい。
「確か…、ランドマークタワーの天辺にいたはずだ。そこで何か重大なものを目撃した気がするんだが…記憶が無いんだ…。」
「やっぱり神谷さんも記憶が無いんですね…。」
「?やっぱりってどういうことだ?」
「実は、私も何かとてつもないものを見た気がするんですが…。よく思い出せないんです…。」
「…そうか。」
神谷と桜は、複雑そうな表情をしていた。
「そういえば、そもそもこんなにたくさんの人が負傷したり、タワーが崩壊したのってなんででしたっけ?地震じゃこんな壊れ方しないですよね…。絶対何か重大な出来事があったはずなのに、それが思い出せないなんて…。」
しばらく二人の間に沈黙が生じた。二人ともどうにかして何かを思い出そうとしている。すると、沈黙を打ち破るように神谷が言葉を放った。
「そうだ!五代一!」
「え?!一君がどうかしたんですか?まさか目撃したんですか?」
「いや、全然覚えてない…。だけど、今から急いで五代の家に行く!」
「え?!ちょ!なんでですか?!まだ現場検証も聞き込みも、避難した人の保護とかやることは山積みですよ!そんな関係の無さそうなことやってたら今度こそクビですよ!」
そんな桜の忠告をよそに、神谷は近くにあったパトカーに乗り込んだ。
「んもう!しょうがない!」
次いで桜も乗り込んだ。
「いいのか?ここで俺についてきたら君までどうなるか…。」
「一応こんなでも神谷さんは私の相棒ですから!仕方ないです!」
桜はなぜか少し微笑んでいるように見えた。
「飛ばすからしっかり捕まってろよ!」
そう言って神谷は逸機にアクセルを踏んだ。
「ちょっ?!神谷さん!いくらパトカーだからって一般道路でこんなスピード出したらヤバイですよぉ!」
パトカーの速度は100km近く出ていた。
「これで事故でもした上、一くんが事件と無関係だったら私たちクビじゃすみませんよ!そうなったら神谷さんに全部責任擦り付けますからね!」
「おいおい、俺たち相棒だろ?死ぬときまで一緒だぜ!」
そう言って神谷は更にスピードを上げた。
「(やっぱついて来なけりゃよかった…)。」
しばらくして神谷は一の家についた。ランドマークタワーから一の家まで、普通なら車で10分前後かかるところを、神谷は3分で着いてしまった。パトカーを道路の脇に止めて直ぐに神谷はパトカーから飛び出た。そして一の家のインターホンを鳴らし続けた。しばらくして一が扉の向こうから出てきた。それとほぼ同時に桜が神谷たちの元にやってきた。
「嘘、だろ…。」
扉の向こうからやってきた一の姿を見て、神谷の口から思わず言葉が漏れた。
「ど、どうしたんですか?」
神谷の鬼気迫る表情を見て、一は恐る恐る尋ねた。
「一くん、君、今までずっと家にいたのかい?!家にいたとしたら何をやっていた?!」
「え…。家で、ゲームをしてました…。」
「本当か?」
先程にも増して凄まじい気迫で神谷が聞いてきた。
「ほ、本当です!」
「(そんなバカな…。五代一はまだ未成年だから車を運転できないことはもちろん、五代の自転車は俺たちが現場へ向かうまでずっと駐輪場にあった。さっき脇目に見た時も動かした形跡は無かった。そしてバスや電車もストップしていた。つまり五代がここからランドマークタワーに向かうには自分の足で行くしかない。しかし走ったとして、直線で結んだとしてもどんなに早くても15分は絶対にかかる。現場が一旦落ち着いて、俺たちがあそこから今に至るまでの時間はざっと10分。つまり、五代が現場からここへ俺たちの目を掻い潜って戻ってくるのは物理的に不可能だ…。)」
「神谷さん、やっぱり五代くんは事件と何の関係もありませんよ。」
歯痒そうな表情を見せる神谷に、桜がどこか切な気にそう言った。一はこの時、自分のことが神谷にバレているのではないかと、その事で頭が一杯だった。
「あ、危なかった…。」
危うく神谷に捕まるところだった。それにしても神谷の身体能力は人間とは思えないほどであった。ちゃんと記憶が消えていればいいのだが…。
あれこれ考えているうちに、気がつくと一は自分の部屋に戻っていた。どうやら全身の回復が済んだらしい。おそらく一旦白い箱の中で回復して、その後の怪物との戦いではそんなに攻撃をくらわなかったからであろう。
しかし、たしかに傷の方は全快したが、やはり一は精神的にかなり疲れていた。回復したとはいえ、腕が吹き飛んだり、死んだはずの母に会ったり、神谷と戦ったりととにかく衝撃的なことだらけであった。一は床に寝転んでそっと目を閉じて、眠りにつこうと思っていた。しかし、眠りかけたところでインターホンが鳴った。
「…誰だ?まぁ、出なくてもいいか。」
一度はそう思ったが、インターホンは何度もしつこく鳴る。どうやら、客人はそうとう急ぎのようだった。
「仕方ない…。」
一はドアを開いた。すると目の前には息を切らして、鬼のような形相をした神谷が佇んでいた。
……数十分前……
「今まで一体何があった?!俺はたしかに誰かを追ってたはずだ!」
神谷はランドマークタワーの下にいた。やはり、怪物や一と戦った記憶はきれいさっぱり無くなっていた。
「神谷さん!今までどこいたんですか?!」
桜の声が聞こえた。どうやら今まで救助活動を行っていたらしい。
「確か…、ランドマークタワーの天辺にいたはずだ。そこで何か重大なものを目撃した気がするんだが…記憶が無いんだ…。」
「やっぱり神谷さんも記憶が無いんですね…。」
「?やっぱりってどういうことだ?」
「実は、私も何かとてつもないものを見た気がするんですが…。よく思い出せないんです…。」
「…そうか。」
神谷と桜は、複雑そうな表情をしていた。
「そういえば、そもそもこんなにたくさんの人が負傷したり、タワーが崩壊したのってなんででしたっけ?地震じゃこんな壊れ方しないですよね…。絶対何か重大な出来事があったはずなのに、それが思い出せないなんて…。」
しばらく二人の間に沈黙が生じた。二人ともどうにかして何かを思い出そうとしている。すると、沈黙を打ち破るように神谷が言葉を放った。
「そうだ!五代一!」
「え?!一君がどうかしたんですか?まさか目撃したんですか?」
「いや、全然覚えてない…。だけど、今から急いで五代の家に行く!」
「え?!ちょ!なんでですか?!まだ現場検証も聞き込みも、避難した人の保護とかやることは山積みですよ!そんな関係の無さそうなことやってたら今度こそクビですよ!」
そんな桜の忠告をよそに、神谷は近くにあったパトカーに乗り込んだ。
「んもう!しょうがない!」
次いで桜も乗り込んだ。
「いいのか?ここで俺についてきたら君までどうなるか…。」
「一応こんなでも神谷さんは私の相棒ですから!仕方ないです!」
桜はなぜか少し微笑んでいるように見えた。
「飛ばすからしっかり捕まってろよ!」
そう言って神谷は逸機にアクセルを踏んだ。
「ちょっ?!神谷さん!いくらパトカーだからって一般道路でこんなスピード出したらヤバイですよぉ!」
パトカーの速度は100km近く出ていた。
「これで事故でもした上、一くんが事件と無関係だったら私たちクビじゃすみませんよ!そうなったら神谷さんに全部責任擦り付けますからね!」
「おいおい、俺たち相棒だろ?死ぬときまで一緒だぜ!」
そう言って神谷は更にスピードを上げた。
「(やっぱついて来なけりゃよかった…)。」
しばらくして神谷は一の家についた。ランドマークタワーから一の家まで、普通なら車で10分前後かかるところを、神谷は3分で着いてしまった。パトカーを道路の脇に止めて直ぐに神谷はパトカーから飛び出た。そして一の家のインターホンを鳴らし続けた。しばらくして一が扉の向こうから出てきた。それとほぼ同時に桜が神谷たちの元にやってきた。
「嘘、だろ…。」
扉の向こうからやってきた一の姿を見て、神谷の口から思わず言葉が漏れた。
「ど、どうしたんですか?」
神谷の鬼気迫る表情を見て、一は恐る恐る尋ねた。
「一くん、君、今までずっと家にいたのかい?!家にいたとしたら何をやっていた?!」
「え…。家で、ゲームをしてました…。」
「本当か?」
先程にも増して凄まじい気迫で神谷が聞いてきた。
「ほ、本当です!」
「(そんなバカな…。五代一はまだ未成年だから車を運転できないことはもちろん、五代の自転車は俺たちが現場へ向かうまでずっと駐輪場にあった。さっき脇目に見た時も動かした形跡は無かった。そしてバスや電車もストップしていた。つまり五代がここからランドマークタワーに向かうには自分の足で行くしかない。しかし走ったとして、直線で結んだとしてもどんなに早くても15分は絶対にかかる。現場が一旦落ち着いて、俺たちがあそこから今に至るまでの時間はざっと10分。つまり、五代が現場からここへ俺たちの目を掻い潜って戻ってくるのは物理的に不可能だ…。)」
「神谷さん、やっぱり五代くんは事件と何の関係もありませんよ。」
歯痒そうな表情を見せる神谷に、桜がどこか切な気にそう言った。一はこの時、自分のことが神谷にバレているのではないかと、その事で頭が一杯だった。
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