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昇天編
第六話 空白の時間
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テレビをつけると、どこの局のニュースも鳴神野球場の話題で持ちきりだった。どうやら昨日のことは夢ではなく、現実だったようだ。しかも、テレビの報道によって、僕は驚くべきことを知った。
テレビの向こう側は鳴神野球場の前に殺到した報道陣で埋め尽くされていた。どうやら野球場の中では警察による捜査が続いているようで、当然だが、報道陣は野球場の中の様子はわからないようだ。
報道陣以外にも人混みが見られた。おそらく昨日野球場にいた人か野次馬だろう。リポーターがその中の一人に声をかけた。
「昨日この野球場付近にいらっしゃった方ですか?一体何があったのかご存じですか?」
リポーターが訪ねた。すると、リポーターに声をかけられた人物は、どうやら昨日、たまたま野球場にいた人物のようで、こう答えた。
「いやね、それが不思議なことに私自身あまり記憶がないのよ。選手や観客の何人かが残酷な死に方をして、スタジアムもあちこち崩れてすごい怖かったことは覚えてるんだけど、なぜかどうやってそうなったかが思い出せないの…。」
その後リポーターは他の人にも声をかけたが返ってくる言葉はどれも似たようなものだった。不思議なことに昨日野球場にいた人たちは、怪物の記憶が完全になくなっているようだった。怪物と僕が同時に突然スタジアムに現れたことを話す人がいなかったことから、おそらく僕の記憶も無くなっているだろう。
どちらにせよ、僕や怪物のことを人々が忘れているのだから、僕が人間から畏怖や好奇の目で見られることは無いだろう。少し安心した。だが、それと同時に少しガッカリした自分がいたのも事実だ。あれだけ頑張って怪物を倒したのだから、正直誰か一人くらい僕のことを賞賛してくれる人がいたらうれしいというのが本音だ。そういえば矢本はどうしただろうか?
結局のところ野球場にいた人たちが僕のことを忘れてくれたのは僕にとって都合がよかったが、問題はまだまだ山積みだ。死んだはずの僕が生きていること、あの白い部屋のこと、不思議なスーツのこと、そしてあの怪物のこと。また、あのような怪物が僕の前に現れるのだろうか。
そうしたら僕は、また戦うのだろうか?まだ戦えるのだろうか?
よく考えたら僕は昨日の朝までは死ぬ予定だった。死んだはすだった。だが、なぜ、昨日戦ったときはあそこまで生きることに必死になれたのだろうか。
「(とりあえず、学校に行こう。)」
僕は肘を机の上に置き、手で頭を支えて「はぁっ…。」と深いため息をついたあと、出かける準備をした。
実はこの時、もう一人深いため息をついて疲れきった人物がいた…。
テレビの向こう側は鳴神野球場の前に殺到した報道陣で埋め尽くされていた。どうやら野球場の中では警察による捜査が続いているようで、当然だが、報道陣は野球場の中の様子はわからないようだ。
報道陣以外にも人混みが見られた。おそらく昨日野球場にいた人か野次馬だろう。リポーターがその中の一人に声をかけた。
「昨日この野球場付近にいらっしゃった方ですか?一体何があったのかご存じですか?」
リポーターが訪ねた。すると、リポーターに声をかけられた人物は、どうやら昨日、たまたま野球場にいた人物のようで、こう答えた。
「いやね、それが不思議なことに私自身あまり記憶がないのよ。選手や観客の何人かが残酷な死に方をして、スタジアムもあちこち崩れてすごい怖かったことは覚えてるんだけど、なぜかどうやってそうなったかが思い出せないの…。」
その後リポーターは他の人にも声をかけたが返ってくる言葉はどれも似たようなものだった。不思議なことに昨日野球場にいた人たちは、怪物の記憶が完全になくなっているようだった。怪物と僕が同時に突然スタジアムに現れたことを話す人がいなかったことから、おそらく僕の記憶も無くなっているだろう。
どちらにせよ、僕や怪物のことを人々が忘れているのだから、僕が人間から畏怖や好奇の目で見られることは無いだろう。少し安心した。だが、それと同時に少しガッカリした自分がいたのも事実だ。あれだけ頑張って怪物を倒したのだから、正直誰か一人くらい僕のことを賞賛してくれる人がいたらうれしいというのが本音だ。そういえば矢本はどうしただろうか?
結局のところ野球場にいた人たちが僕のことを忘れてくれたのは僕にとって都合がよかったが、問題はまだまだ山積みだ。死んだはずの僕が生きていること、あの白い部屋のこと、不思議なスーツのこと、そしてあの怪物のこと。また、あのような怪物が僕の前に現れるのだろうか。
そうしたら僕は、また戦うのだろうか?まだ戦えるのだろうか?
よく考えたら僕は昨日の朝までは死ぬ予定だった。死んだはすだった。だが、なぜ、昨日戦ったときはあそこまで生きることに必死になれたのだろうか。
「(とりあえず、学校に行こう。)」
僕は肘を机の上に置き、手で頭を支えて「はぁっ…。」と深いため息をついたあと、出かける準備をした。
実はこの時、もう一人深いため息をついて疲れきった人物がいた…。
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