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昇天編
第三話 生きる力
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自殺したはずの僕たったが、白い部屋で目が覚め、謎のスーツを見にまとい、突然野球場に転送された。しかも、目の前には怪物が…。
どうやらここの野球場は、見たところ僕の住む鳴神市にある、鳴神スタジアムのようだ。野球場は試合の真っ最中だったようで、野球選手と観客がこちらをみてざわざわとしている。
「なんだ突然入り込んできて!」「あの怪物はなんだ?!気味が悪いな…」「スタッフはなにをやっているんだ!」「何かのどっきりかしら…」「あともう少しで勝てそうなのに、一体なんなんだ!」
会場内は僕と怪物に対する苛立ちや不安で満ちていた。
すると突然、怪物の口から何かが飛び出た。その直後、野球選手のうちの一人が倒れた。怪物がコンクリートの塊のような物体をすごい勢いで吐き出し、それが選手の頭部に当たったのだ。
選手は頭部から出血して倒れこんでいた。その光景を目の当たりにした人々は悲鳴をあげ、会場内はパニックになった。人々は皆、我先に逃げようと出口に駆け込み、怪物はそれでもなおコンクリートの塊を吐き続けている。
僕も逃げようとしたその時、見覚えのある人物が泣き叫んでいるのが見えた。その人物は、なぜか周りの群衆とは真逆の方へ向かっている。
「お願いですから道を開けてください!弟が、弟が逃げ遅れたんです!」
彼の名前は矢本彰悟。僕をいじめていた同級生の主犯格だ。どうやら彼には弟がいたらしく、その弟が取り残されてしまったらしい。彼が向かう方の先を見ると幼稚園児らしき小さな男の子が泣きながら座り込んでいた。
僕は少し悩んだ。その少年を助けようか、見捨てて逃げようか。もちろん普段の僕であれば見ず知らずの人であっても、困っている人がいれば必ず助ける。だが、今は状況が状況だ。しかも困っているのは僕をさんざんいじめてきた矢本の弟なのだ。もたもたしていたら僕が死ぬかもしれないのだ。
「誰かお願いです!弟を、弟を助けてください!僕のたった一人の大切な弟なんです!」
「お兄ちゃん!お兄ちゃん助けてー!」
そうこうしてるうちに怪物の目線は弟の方にいっていた。
「(助けに行ってはいけない。僕が死んでしまう。弟が死んだとしても、それは兄である矢本に罰が当たったのだ…。)」
そう自分に言い聞かせて僕は矢本兄弟に背を向けようとした…。
「お兄ちゃん!もう僕のことはいいから逃げてー!」
弟の叫び声が聞こえた瞬間僕の足はそちらの方へ向かっていた。
「(僕をいじめてる奴の弟だからって見捨てるのは絶対に間違っている!一度は捨てた命、今さら死ぬことは怖くない!救えたかもしれない矢本の弟を救わなかったことを後悔しながら生きていくくらいなら、死んだ方がマシだ!)」
気づくと僕は矢本の弟と、怪物の間に立ち、まるでドラマのワンシーンかのように両腕を左右に広げ、弟の盾になろうとしていた。
「五代、お前、なんで?!」
後ろで矢本の声がした。
「矢本!弟連れて早く逃げろ!」
「五代、俺はお前のことをいじめてたんだぞ?!なのになんでこんなことを?!」
「困っている人を助けないで自分だけ逃げるなんて俺にはできない!それに、自分の命を諦めてでも兄を逃げてもらおうとするような優しい男の子、死なせる訳にいかないだろ!」
「五代、お前…」
矢本が何か言いかけたその瞬間、怪物の吐き出したコンクリートの塊が、僕の胴体に当たっていた…。
どうやらここの野球場は、見たところ僕の住む鳴神市にある、鳴神スタジアムのようだ。野球場は試合の真っ最中だったようで、野球選手と観客がこちらをみてざわざわとしている。
「なんだ突然入り込んできて!」「あの怪物はなんだ?!気味が悪いな…」「スタッフはなにをやっているんだ!」「何かのどっきりかしら…」「あともう少しで勝てそうなのに、一体なんなんだ!」
会場内は僕と怪物に対する苛立ちや不安で満ちていた。
すると突然、怪物の口から何かが飛び出た。その直後、野球選手のうちの一人が倒れた。怪物がコンクリートの塊のような物体をすごい勢いで吐き出し、それが選手の頭部に当たったのだ。
選手は頭部から出血して倒れこんでいた。その光景を目の当たりにした人々は悲鳴をあげ、会場内はパニックになった。人々は皆、我先に逃げようと出口に駆け込み、怪物はそれでもなおコンクリートの塊を吐き続けている。
僕も逃げようとしたその時、見覚えのある人物が泣き叫んでいるのが見えた。その人物は、なぜか周りの群衆とは真逆の方へ向かっている。
「お願いですから道を開けてください!弟が、弟が逃げ遅れたんです!」
彼の名前は矢本彰悟。僕をいじめていた同級生の主犯格だ。どうやら彼には弟がいたらしく、その弟が取り残されてしまったらしい。彼が向かう方の先を見ると幼稚園児らしき小さな男の子が泣きながら座り込んでいた。
僕は少し悩んだ。その少年を助けようか、見捨てて逃げようか。もちろん普段の僕であれば見ず知らずの人であっても、困っている人がいれば必ず助ける。だが、今は状況が状況だ。しかも困っているのは僕をさんざんいじめてきた矢本の弟なのだ。もたもたしていたら僕が死ぬかもしれないのだ。
「誰かお願いです!弟を、弟を助けてください!僕のたった一人の大切な弟なんです!」
「お兄ちゃん!お兄ちゃん助けてー!」
そうこうしてるうちに怪物の目線は弟の方にいっていた。
「(助けに行ってはいけない。僕が死んでしまう。弟が死んだとしても、それは兄である矢本に罰が当たったのだ…。)」
そう自分に言い聞かせて僕は矢本兄弟に背を向けようとした…。
「お兄ちゃん!もう僕のことはいいから逃げてー!」
弟の叫び声が聞こえた瞬間僕の足はそちらの方へ向かっていた。
「(僕をいじめてる奴の弟だからって見捨てるのは絶対に間違っている!一度は捨てた命、今さら死ぬことは怖くない!救えたかもしれない矢本の弟を救わなかったことを後悔しながら生きていくくらいなら、死んだ方がマシだ!)」
気づくと僕は矢本の弟と、怪物の間に立ち、まるでドラマのワンシーンかのように両腕を左右に広げ、弟の盾になろうとしていた。
「五代、お前、なんで?!」
後ろで矢本の声がした。
「矢本!弟連れて早く逃げろ!」
「五代、俺はお前のことをいじめてたんだぞ?!なのになんでこんなことを?!」
「困っている人を助けないで自分だけ逃げるなんて俺にはできない!それに、自分の命を諦めてでも兄を逃げてもらおうとするような優しい男の子、死なせる訳にいかないだろ!」
「五代、お前…」
矢本が何か言いかけたその瞬間、怪物の吐き出したコンクリートの塊が、僕の胴体に当たっていた…。
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