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第1部 第74話
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今、トウの町は、選挙の投票が間近に迫り、心なしか町全体が落ち着かないように見える。
そんな中、アッシュたちは幟を掲げ馬に跨り、町中を駆け巡り大きな声を張り上げて『最後のお願い』をしていたのだった。
残すところもう僅かとなっての今、この選挙を制す為に最後の最後まで精一杯アッシュは自分に出来る事を行っていた。
だが、一方ではまだ、残念ながら役場の横領疑惑は晴れておらず、行く先に寄っては、冷ややかな視線が浴びせられているのも事実であった。
しかし、自分を信じてくれる多くの人の為にも、アッシュは気持ちを切り替えて、どんな目線や言葉にも笑顔を絶やさずに応戦していく。
『負けてなるものか!』
苦しい立場は変わらないが、私は負けられないんだ!
そう心で誓い、アッシュは奮闘している。
そんなアッシュをロビンやラドが脇を支えていた。
二人も、苦い思いを何度も浴びせられながらではあったが、アッシュの奮闘している姿を目にする中、自然と彼を支えるように動いていた。
そう、事務所の皆は、現状に於いて苦戦を強いられている中でも、アッシュのひたむきな姿に胸を打たれ心ひとつとなり、この最後の大きな山場を乗り越えようと、全力で挑んでいたのだった。
「あれは?」
町中を駆け巡っている時、アッシュたちの向かう先から同じような幟を掲げた派手な一団がやって来た。
その相手は、勿論、対抗馬であるケーシー陣営である。
「よぉ!色々とあったようだが、立て直しができたんだな?」
ケーシーは、アッシュたちをそう言いながらジロジロと見渡している。
「お陰様で、ありもしない疑惑を掛けられて、一時はどうなる事かと思ったけれど、私を信じてくれる多くの人に支えられて、何とかここまでこれたよ」
アッシュは、ケーシーの言葉に対してギロリと睨みつけて、少し、勝ち誇った顔を見せる。
「へえー、疑惑ねえ。火のない所に煙は立たないって言うが、本当にそれが疑惑で終われたらいいけどなぁ?」
ケーシーもまた、せせら笑いながらアッシュを追い込みにかかる。
「どいう事だ?本人が身に覚えがないと話しているんだ。そこを突いてくる辺り、案外、そちらが関与していると取れるが?」
ケーシーの言葉に負けじとアッシュもやり返すと・・
「ふっ、ふざけるな!何故、役場でのことに俺が関与しなければならないんだ!お、俺は一切知らない、知らないからな!」
急に、ケーシーが顔を赤らめて大声を出して、怒ったように否定しだす。
「あぁ、これは確実に黒だな」
ポツリとラドが呟くと、その言葉がケーシーの耳に上手く届いたらしく、ケーシーはラドに近寄っていく。
「な、何だ!俺は横領の件は知らないって言ってるだろうがっ!」
馬上に跨ったまま、ケーシーはラドの元へ行き睨みつける。
「知らないなら、それでいいんじゃないか?わざわざ噛みつく辺り、何かあるのかと勘繰るんだがなぁ?」
美しい顔にラドの方は、嫌らしくニヤリと笑みを湛える。
その仕草に、ケーシーは見透かされたように思えてしまい、カァっとなってラドの胸倉を掴んでいた。
「へぇー、お前がやっぱり主犯か?」
尚も、ラドが煽るようにケーシーに向かって言葉を言い放つ。
その様子に、さすがのアッシュも駆け寄り、二人の間に割り込んだ。
「やめろ!選挙も終わりに近づいているんだ。ここに来て、みっともない事はするな!」
アッシュの言葉に、ラドは至って冷静な顔でケーシーから距離を取るが、ケーシーはぐっと奥歯を噛みしめて睨み付ける。
「互いに色々とあったが、これまで通り、正々堂々と最後の日を迎えようじゃないか?」
睨み付けてくるケーシーにアッシュは、そう言葉を掛けるが、ケーシーはその言葉を無視してから、そのまま、自分の事務所の連中に声も掛けずに先に駆け出していく。
ケーシーの事務所の者は、立ち去るケーシーの姿に、一瞬、驚きつつも慌ててケーシーの後を追いかけて行った。
その一連の様子を、アッシュたちは暫し、呆然と見つめていた。
「あいつ、大丈夫か?」
ロビンが首を掲げながら、ケーシーが掛けて行った方を振り向きながらそう言ってきた。
確かに、絡んできたのはあっちだったから、こちらも弁明の意も込めて返したのだが、ケーシーの思わぬ狼狽えぶりを目にしてしまった。
本人は仕切りに、アッシュの横領疑惑については関与を否定していたが、少し突いただけで顔色までが変わった。
何か知っているのは確実だ。
ケーシー自身は本人が言う通り関わってはいないが、今回の件について、奴は主犯を知っているんだろう。
しかも、その主犯が表に出れば、自分の立場が危うくなることも・・・
アッシュはそんな事を思いながら、ラドに向き直り口を開く。
「お前、わざと煽っただろう?あの場で、ケーシーに何らかのアクションを出さす為に・・」
ケーシーの狼狽えっぷりが目に入り、ラドが、この勢いで、疑惑の中身を暴露させるように仕向けたのだろう。
もし、あの時、アッシュが間に入らず、ケーシーに一発喰らわされたとしても、それはそれで、駐屯騎士の元へしょっ引く考えもあったんじゃないかと、アッシュは思っていた。
「さァ?」
しかし、ラドは「そんなことは思っちゃいないよ」と言いだし、馬を歩かせだす。
その姿に、アッシュは「相変わらず、素直じゃないやつ」とため息を零しつつ、少し微笑みを顔にきたす。
「ねえ、さっきのケーシーの話、本当に、あいつは知らないのかな?」
急に、ロビンがそんなことを口にし出した。
「知っているから、俺に喰ってかかって来たんだろうが?」
ラドが、ロビンの問い掛けに遠い目をしながら答える。
「じゃあ、やっぱり知っているんだよなぁ。知っておきながら、あいつはそれでも選挙に挑んでるんだよな・・・」
「何を当たり前の事を!」と言いながら、ラドが眉間に皺を大きく刻み込んでいた。
「いや、あいつ、苦しいのかと思って」
ロビンがケーシーが行った先を見つめながらそう言った。
「苦しい?そんな奴が、吹っ掛けて来るかよ!」
ラドがイライラしながらも、ロビンに言葉を返した。
「そうなんだけど。何か、上手く言えないけど。あいつ、凄く葛藤しているようにも見えて」
ロビンの言葉に、アッシュもケーシーが進んだ先を振り返り、彼の立場を思い起こしたのだった。
そんな中、アッシュたちは幟を掲げ馬に跨り、町中を駆け巡り大きな声を張り上げて『最後のお願い』をしていたのだった。
残すところもう僅かとなっての今、この選挙を制す為に最後の最後まで精一杯アッシュは自分に出来る事を行っていた。
だが、一方ではまだ、残念ながら役場の横領疑惑は晴れておらず、行く先に寄っては、冷ややかな視線が浴びせられているのも事実であった。
しかし、自分を信じてくれる多くの人の為にも、アッシュは気持ちを切り替えて、どんな目線や言葉にも笑顔を絶やさずに応戦していく。
『負けてなるものか!』
苦しい立場は変わらないが、私は負けられないんだ!
そう心で誓い、アッシュは奮闘している。
そんなアッシュをロビンやラドが脇を支えていた。
二人も、苦い思いを何度も浴びせられながらではあったが、アッシュの奮闘している姿を目にする中、自然と彼を支えるように動いていた。
そう、事務所の皆は、現状に於いて苦戦を強いられている中でも、アッシュのひたむきな姿に胸を打たれ心ひとつとなり、この最後の大きな山場を乗り越えようと、全力で挑んでいたのだった。
「あれは?」
町中を駆け巡っている時、アッシュたちの向かう先から同じような幟を掲げた派手な一団がやって来た。
その相手は、勿論、対抗馬であるケーシー陣営である。
「よぉ!色々とあったようだが、立て直しができたんだな?」
ケーシーは、アッシュたちをそう言いながらジロジロと見渡している。
「お陰様で、ありもしない疑惑を掛けられて、一時はどうなる事かと思ったけれど、私を信じてくれる多くの人に支えられて、何とかここまでこれたよ」
アッシュは、ケーシーの言葉に対してギロリと睨みつけて、少し、勝ち誇った顔を見せる。
「へえー、疑惑ねえ。火のない所に煙は立たないって言うが、本当にそれが疑惑で終われたらいいけどなぁ?」
ケーシーもまた、せせら笑いながらアッシュを追い込みにかかる。
「どいう事だ?本人が身に覚えがないと話しているんだ。そこを突いてくる辺り、案外、そちらが関与していると取れるが?」
ケーシーの言葉に負けじとアッシュもやり返すと・・
「ふっ、ふざけるな!何故、役場でのことに俺が関与しなければならないんだ!お、俺は一切知らない、知らないからな!」
急に、ケーシーが顔を赤らめて大声を出して、怒ったように否定しだす。
「あぁ、これは確実に黒だな」
ポツリとラドが呟くと、その言葉がケーシーの耳に上手く届いたらしく、ケーシーはラドに近寄っていく。
「な、何だ!俺は横領の件は知らないって言ってるだろうがっ!」
馬上に跨ったまま、ケーシーはラドの元へ行き睨みつける。
「知らないなら、それでいいんじゃないか?わざわざ噛みつく辺り、何かあるのかと勘繰るんだがなぁ?」
美しい顔にラドの方は、嫌らしくニヤリと笑みを湛える。
その仕草に、ケーシーは見透かされたように思えてしまい、カァっとなってラドの胸倉を掴んでいた。
「へぇー、お前がやっぱり主犯か?」
尚も、ラドが煽るようにケーシーに向かって言葉を言い放つ。
その様子に、さすがのアッシュも駆け寄り、二人の間に割り込んだ。
「やめろ!選挙も終わりに近づいているんだ。ここに来て、みっともない事はするな!」
アッシュの言葉に、ラドは至って冷静な顔でケーシーから距離を取るが、ケーシーはぐっと奥歯を噛みしめて睨み付ける。
「互いに色々とあったが、これまで通り、正々堂々と最後の日を迎えようじゃないか?」
睨み付けてくるケーシーにアッシュは、そう言葉を掛けるが、ケーシーはその言葉を無視してから、そのまま、自分の事務所の連中に声も掛けずに先に駆け出していく。
ケーシーの事務所の者は、立ち去るケーシーの姿に、一瞬、驚きつつも慌ててケーシーの後を追いかけて行った。
その一連の様子を、アッシュたちは暫し、呆然と見つめていた。
「あいつ、大丈夫か?」
ロビンが首を掲げながら、ケーシーが掛けて行った方を振り向きながらそう言ってきた。
確かに、絡んできたのはあっちだったから、こちらも弁明の意も込めて返したのだが、ケーシーの思わぬ狼狽えぶりを目にしてしまった。
本人は仕切りに、アッシュの横領疑惑については関与を否定していたが、少し突いただけで顔色までが変わった。
何か知っているのは確実だ。
ケーシー自身は本人が言う通り関わってはいないが、今回の件について、奴は主犯を知っているんだろう。
しかも、その主犯が表に出れば、自分の立場が危うくなることも・・・
アッシュはそんな事を思いながら、ラドに向き直り口を開く。
「お前、わざと煽っただろう?あの場で、ケーシーに何らかのアクションを出さす為に・・」
ケーシーの狼狽えっぷりが目に入り、ラドが、この勢いで、疑惑の中身を暴露させるように仕向けたのだろう。
もし、あの時、アッシュが間に入らず、ケーシーに一発喰らわされたとしても、それはそれで、駐屯騎士の元へしょっ引く考えもあったんじゃないかと、アッシュは思っていた。
「さァ?」
しかし、ラドは「そんなことは思っちゃいないよ」と言いだし、馬を歩かせだす。
その姿に、アッシュは「相変わらず、素直じゃないやつ」とため息を零しつつ、少し微笑みを顔にきたす。
「ねえ、さっきのケーシーの話、本当に、あいつは知らないのかな?」
急に、ロビンがそんなことを口にし出した。
「知っているから、俺に喰ってかかって来たんだろうが?」
ラドが、ロビンの問い掛けに遠い目をしながら答える。
「じゃあ、やっぱり知っているんだよなぁ。知っておきながら、あいつはそれでも選挙に挑んでるんだよな・・・」
「何を当たり前の事を!」と言いながら、ラドが眉間に皺を大きく刻み込んでいた。
「いや、あいつ、苦しいのかと思って」
ロビンがケーシーが行った先を見つめながらそう言った。
「苦しい?そんな奴が、吹っ掛けて来るかよ!」
ラドがイライラしながらも、ロビンに言葉を返した。
「そうなんだけど。何か、上手く言えないけど。あいつ、凄く葛藤しているようにも見えて」
ロビンの言葉に、アッシュもケーシーが進んだ先を振り返り、彼の立場を思い起こしたのだった。
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