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第1部 第73話
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ジルが王都のエディの元に戻ったのは、エディと別れた翌日のことだった。
一日中追い掛け続けたというのに、最後は、女に振り切られた挙句、追跡を諦めてエディの元へ戻る道中で、女の遺体と対面する運びとなった。
ジルは、悔し気な顔をエディに向けて「自分の力不足で、女を取り逃がした上に、命を奪われてしまいました」と深く謝罪した。
しかし、エディは、ジルの謝罪に異を唱え、「お前はよくやってくれた」と逆に労いの言葉を掛けたのだった。
その言葉に、ジルはぐッと唇を噛みしめて、再び深い一礼をした。
「手がかりは無くなった訳ではない。私も准男爵の顔を見ている。准男爵の爵位は偽物だろうが、男の顔はしっかりと刻んでいる。どこかで見掛けるかやもしれない」
エディが王都で見掛けた准男爵の顔を思い浮かべながら、ジルに向けてニヤリと口角を上げた。
「後、女が乗っていた馬車で、これを見つけました」
ジルは、上着の胸ポケットから小さなピンクの宝石を取り出して、エディの目の前にある執務机にことりと置いた。
「ピンクダイヤモンド・・」
エディは宝石を手にしながら、そんな言葉を告げた。
「私も現物は初めてだな。資料にあった情報からの推測だが、多分、ピンクダイヤモンドじゃないかと思うな」
ピンク色に輝く石を、窓から差す光にかざすと、石はより一層光り輝いてみせる。
「ビスタでは流通していない宝石だ。近隣国でも商人の間では、まだ手にされていない代物だ」
ジルもエディが手にするピンクの石を眺めながら、エディによるこの石の情報を聞き入っている。
「小さいが本物ならかなりの値が張る品だ。女がどこで手に入れたか・・・」
エディが、自身のハンカチを取り出し、ピンクの宝石をその上に置いた。
「この宝石の原産国を調べてみてもいいかもな。ただ、突き止めるのもなかなか厳しいかもしれない」
口元を歪め、エディが思案している。
「何の目的で、このピンクダイヤモンドがこの国へ齎されたか、そして、誰が持ち込んだか・・・」
まだ、この国に流通されていないような宝石を、密かに持ち込んだ人物。
何やら、自分達が知らないうちに大きなことが進めれているんじゃないかとエディは思う。
「トウに戻ったら、カルロとも相談して、ピンクダイヤモンドについて情報を寄せる様に動かせる。後は、所長を連れて、トウへ戻る準備が必要だな」
エディは眉間に皺を刻み、別室で休ませている所長へと意識を巡らせる。
「所長の容態の方はいかがですか?」
ジルが、心配気にしながら問い掛けてきた。
「あぁ、衰弱しきっていて、医者からは、今、移動は厳しいと言われている」
ジルの問い掛けに応えながら、エディも厳しい表情を見せた。
「税金の事もあるから、早くに連れ帰り、町の者を安心させてやりたいんだが。それに、上手くいけばウラスらを追い払う一手で使いたいが・・・」
役場から金を輸送してきたセフィは、ジムラルの遺体と共に部屋に押し込まれたことから、短時間だったのにも関わらず、奴の潔癖な一面も災いしたようで、彼が受けたダメージは相当大きかったらしく事情聴衆もできなく、セフィは病院で収容されたままとなっている。
残るは、トウの町にいる主犯格のウラスが認めるしか道がない。
町の者から金を搾取していた原因の一つとした女もジムラルも遺体で見つかり、大元には届きそうにない。
どこまで知っているかわからないが、多分、ジムラルと女の顛末を聞いた時、ウラスは口を貝のように噤みそうな予感もある。
ウラスもわかっているはず、自分が例え、真実を語っても捻じ曲げられ捻りつぶされて、自分の人生が終わるのだと・・・
さて、ウラスはどう出てくるか?
王都の事件は知らぬ世界の話と切り離し、息子を勝利へと導きだすのか・・・
それとも、切られた縁を知り、慌てふためくのか・・・
こちらは、どちらにしても真実となる証人を連れ帰り、言い逃れが出来ない様に追い込むしかない。
後は、所長の回復がどうなるかだな・・
エディが思案顔でいるのをジルは暫し、黙って見つめている。
「あの、トウまで移動を共に出来る医師を探しておきましょうか?」
ジルの提案に、エディが目を見開く。
「そうだな。その方向で、病人の移動を考えて日程を調整してくれ、それで行動を共にしてくれる医師には謝礼を弾むからと言って探すんだ」
エディがジルの言葉を受けて、トウへ所長を連れて行く為の算段をして指示を出す。
「馬車も所長が横になれるように準備しておきます」
ジルは、自らも所長の移動を考慮しての意見を述べてみせる。
「あぁ、頼んだぞ。トウへは私が所長と移動する。その際、女を探す為に来ていた者も連れ帰る。ジルは、悪いがこのままセフィの様子ともう姿は隠したかと思うが、准男爵の青年のことも視野に入れて、暫く動いてくれ」
「はい、承知致しました」
そう、返事をしたジルは、足早にエディの執務室から退出をしていった。
「王都の方は、歯痒さは残るが今はここまでが限界だな。後は、アッシュの選挙の投票日までに所長を連れ帰るだけか・・」
エディが、窓に向けてそう口にする。
カルロからは、今の所、報せの連絡がないので、トウにいるアッシュたちは変わらず選挙活動を熟しているんだろうと、エディは思っていた。
実際は、とんでもない事にアッシュが巻き込まれて、所長の帰還をアッシュたちが祈る様に待ち構えていることなど、知る由もないエディであるが。
本来なら、こんな一大事に、カルロが連絡を怠り、エディの耳に入れないということは決してないのだが、王都に来ているエディの理由も知っている為、敢えて、今回は、カルロはエディへの報告を控えたのだった。
だが、お互いに、一刻も早いトウへの帰還は共通の思いであることから、ここでの報告の有無は大きな問題にはならないと踏んだ。
とにかく、一日も早いトウへの帰還を目指さなければ・・・
エディは、机に置かれた書類に手をやりペンを走らせていく。
今回、王都で過ごせるタイムリミットまであと少しだ。
それまでに、少しは所長が回復して貰える事を願いながら、エディもまたトウへ戻る為の準備に取り掛かり出した。
一日中追い掛け続けたというのに、最後は、女に振り切られた挙句、追跡を諦めてエディの元へ戻る道中で、女の遺体と対面する運びとなった。
ジルは、悔し気な顔をエディに向けて「自分の力不足で、女を取り逃がした上に、命を奪われてしまいました」と深く謝罪した。
しかし、エディは、ジルの謝罪に異を唱え、「お前はよくやってくれた」と逆に労いの言葉を掛けたのだった。
その言葉に、ジルはぐッと唇を噛みしめて、再び深い一礼をした。
「手がかりは無くなった訳ではない。私も准男爵の顔を見ている。准男爵の爵位は偽物だろうが、男の顔はしっかりと刻んでいる。どこかで見掛けるかやもしれない」
エディが王都で見掛けた准男爵の顔を思い浮かべながら、ジルに向けてニヤリと口角を上げた。
「後、女が乗っていた馬車で、これを見つけました」
ジルは、上着の胸ポケットから小さなピンクの宝石を取り出して、エディの目の前にある執務机にことりと置いた。
「ピンクダイヤモンド・・」
エディは宝石を手にしながら、そんな言葉を告げた。
「私も現物は初めてだな。資料にあった情報からの推測だが、多分、ピンクダイヤモンドじゃないかと思うな」
ピンク色に輝く石を、窓から差す光にかざすと、石はより一層光り輝いてみせる。
「ビスタでは流通していない宝石だ。近隣国でも商人の間では、まだ手にされていない代物だ」
ジルもエディが手にするピンクの石を眺めながら、エディによるこの石の情報を聞き入っている。
「小さいが本物ならかなりの値が張る品だ。女がどこで手に入れたか・・・」
エディが、自身のハンカチを取り出し、ピンクの宝石をその上に置いた。
「この宝石の原産国を調べてみてもいいかもな。ただ、突き止めるのもなかなか厳しいかもしれない」
口元を歪め、エディが思案している。
「何の目的で、このピンクダイヤモンドがこの国へ齎されたか、そして、誰が持ち込んだか・・・」
まだ、この国に流通されていないような宝石を、密かに持ち込んだ人物。
何やら、自分達が知らないうちに大きなことが進めれているんじゃないかとエディは思う。
「トウに戻ったら、カルロとも相談して、ピンクダイヤモンドについて情報を寄せる様に動かせる。後は、所長を連れて、トウへ戻る準備が必要だな」
エディは眉間に皺を刻み、別室で休ませている所長へと意識を巡らせる。
「所長の容態の方はいかがですか?」
ジルが、心配気にしながら問い掛けてきた。
「あぁ、衰弱しきっていて、医者からは、今、移動は厳しいと言われている」
ジルの問い掛けに応えながら、エディも厳しい表情を見せた。
「税金の事もあるから、早くに連れ帰り、町の者を安心させてやりたいんだが。それに、上手くいけばウラスらを追い払う一手で使いたいが・・・」
役場から金を輸送してきたセフィは、ジムラルの遺体と共に部屋に押し込まれたことから、短時間だったのにも関わらず、奴の潔癖な一面も災いしたようで、彼が受けたダメージは相当大きかったらしく事情聴衆もできなく、セフィは病院で収容されたままとなっている。
残るは、トウの町にいる主犯格のウラスが認めるしか道がない。
町の者から金を搾取していた原因の一つとした女もジムラルも遺体で見つかり、大元には届きそうにない。
どこまで知っているかわからないが、多分、ジムラルと女の顛末を聞いた時、ウラスは口を貝のように噤みそうな予感もある。
ウラスもわかっているはず、自分が例え、真実を語っても捻じ曲げられ捻りつぶされて、自分の人生が終わるのだと・・・
さて、ウラスはどう出てくるか?
王都の事件は知らぬ世界の話と切り離し、息子を勝利へと導きだすのか・・・
それとも、切られた縁を知り、慌てふためくのか・・・
こちらは、どちらにしても真実となる証人を連れ帰り、言い逃れが出来ない様に追い込むしかない。
後は、所長の回復がどうなるかだな・・
エディが思案顔でいるのをジルは暫し、黙って見つめている。
「あの、トウまで移動を共に出来る医師を探しておきましょうか?」
ジルの提案に、エディが目を見開く。
「そうだな。その方向で、病人の移動を考えて日程を調整してくれ、それで行動を共にしてくれる医師には謝礼を弾むからと言って探すんだ」
エディがジルの言葉を受けて、トウへ所長を連れて行く為の算段をして指示を出す。
「馬車も所長が横になれるように準備しておきます」
ジルは、自らも所長の移動を考慮しての意見を述べてみせる。
「あぁ、頼んだぞ。トウへは私が所長と移動する。その際、女を探す為に来ていた者も連れ帰る。ジルは、悪いがこのままセフィの様子ともう姿は隠したかと思うが、准男爵の青年のことも視野に入れて、暫く動いてくれ」
「はい、承知致しました」
そう、返事をしたジルは、足早にエディの執務室から退出をしていった。
「王都の方は、歯痒さは残るが今はここまでが限界だな。後は、アッシュの選挙の投票日までに所長を連れ帰るだけか・・」
エディが、窓に向けてそう口にする。
カルロからは、今の所、報せの連絡がないので、トウにいるアッシュたちは変わらず選挙活動を熟しているんだろうと、エディは思っていた。
実際は、とんでもない事にアッシュが巻き込まれて、所長の帰還をアッシュたちが祈る様に待ち構えていることなど、知る由もないエディであるが。
本来なら、こんな一大事に、カルロが連絡を怠り、エディの耳に入れないということは決してないのだが、王都に来ているエディの理由も知っている為、敢えて、今回は、カルロはエディへの報告を控えたのだった。
だが、お互いに、一刻も早いトウへの帰還は共通の思いであることから、ここでの報告の有無は大きな問題にはならないと踏んだ。
とにかく、一日も早いトウへの帰還を目指さなければ・・・
エディは、机に置かれた書類に手をやりペンを走らせていく。
今回、王都で過ごせるタイムリミットまであと少しだ。
それまでに、少しは所長が回復して貰える事を願いながら、エディもまたトウへ戻る為の準備に取り掛かり出した。
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