<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第68話

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エディが所長の救出を目指す為に動いてる頃、ジルは、王都の貴族街にある笑窪の女の家から、その女自身を追って、平民街にやって来ていた。



女は、平民街の中心地から少し外れた場所にある賭博場で馬車を下りたった。



ジルは、その賭博場の建物を目に留める。



ここは、トウの町の所長の監禁場所の一つと考えている場所だ。



ジルは、目線を賭博場の入り口に向けて、人の出入りを向かい側にある建物の陰に身を隠して伺う。



もしかすると、こちらの動きが知られて、所長の身を他へ移すのかもしれない。



ジルは、そんなことを頭に浮かべながら女が出てくるのをじっと待つことにしたのだった。



暫くすると、女が男と連れ立って賭博場から出て来たのが見えた。



女が連れて現れたのは、見覚えのある顔の男だった。



『役場のセフィか・・』



セフィは、両の手に大きなバックを持ち、女の後ろに付いて歩き、そして、先程、女が乗って来た馬車へ一緒に乗り込んでいく。



『あいつ、トウで集めた追加徴収分の金を運んできたんだな』



ジルは、女とセフィが馬車に乗り込んだのを見てから、自分も慌てて、馬の元に駆け寄って行った。



女もセフィも、ジルに付けられていることには全く気付いていないようで、馬車の速度もゆっくりである。



『このまま、どこに向かうんだ?』



ジルは、尾行が気付かれない様に、馬車との一定の距離を保ちながら、馬をこちらもゆっくりと走らせていく。



平民街を抜け、馬車は王都の貴族街へと進んで行っている。



「まさか、後ろで操っている人物に金を届けに向かうのか?』



ジルの手綱を握る手に、うっすらと汗が滲んできた。



だが、馬車が停まった所は、先程、エディと別れた場、この笑窪の女が住まう家だった。



『一旦、家に戻ったんだな?と言う事は、ジムラルと会うのか?』



馬車から降り立って行く女とセフィの姿を見つめながら、ジルがそんなことを思っていると、女とセフィは出迎えた使用人と共に、家の中へ入って行った。



ジルは、セフィたちが家の中に消えてから、馬から下りて、馬を少し離れた場へ繋ぎに行った。



相変わらず、家の中はカーテンが引かれて、中は見えないので、セフィが家から出るまで、この場で待機するしかないと予定を立てながら、家の向かいの屋敷の陰に身を隠し、ジルは時間を潰すことにした。



この間、中の様子は、一向に伺いしれない。



外から見る分には変わりなくある女の家を、暫く、ジルも動きもなく見張っていると、ジルの耳に、馬の蹄がかすかに聞こえて来たのだった。



ジルは、物陰深くに身を押し隠し、息を殺す。



馬が自分の近くで止まったようで、ジルは、物陰から身を現わした。



「ジルさん、交代に来ました」



エディの部下の一人が、いつもの見張りの交代でやって来たのだ。



「動きはどうですか?」



部下が、ジルに問い掛けてみせると「今、トウから来た役所のセフィが家に入ったままだ」ジルは目線を家に向けて顎をクイッと上に上げて見せた。



ジルの動きに合わせて、部下も家の方を見つめる。



「セフィが出るまで、俺もここに残る」



じっと家の玄関先を眺めながら、ジルがそう言い放つと。



「わかりました」



部下も頷き、ジルと少し距離をあけた所で、家の見張りを行うことにした。



暫し、二人が静かな家を眺めていると、急に、玄関口が騒がしくなった。



ジルと部下は互いに顔を見合わせて頷く。



玄関から出てきたのは、セフィではなく女の方だった。



その姿を確認して、部下がジルの方に駆け寄っていく。



すると、その姿を見たジルが、部下に向けて指令を出してきたのだった。



「俺は、女を追うから、お前は頃合いを見たら、騎士団の詰所へ走れ。そこで、トウから来た知人を訪ねてきたが帰らないからと言って、この家に引き込め、そして、隙をついて、セフィを連れ出してくれ」



「わかりました」



部下が大きく頷いてみせた。



「時間との勝負だ。セフィがどこかに移動する前に捕まえろ!」



ジルがそう告げた時、女を乗せた馬車が動き出す。



その姿を物陰から二人で見送って暫くしてから、ジルが馬の元へ掛けていった。



部下は、ジルの後ろ姿を見送ってから、自分も馬の元へ駆け出していく。



馬の傍に来ると、部下は、急ぎ、馬に跨り、貴族街と平民街の境にある騎士団の詰所を目指す。



上手く、騎士団が自分の言葉にのり、動いてくれればいいのだが・・・



祈るような気持ちになりながら、部下は馬を走らせて詰所へ向かって行く。



詰所は、女の家の立地からすぐ傍にあり、そんなに時間を要することなく辿り着いた。



ただ、一平民の自分が、貴族街にある家にこの騎士たちを引き連れて行けるかどうかは大きな賭けでもある。



「あのう、すみません。少し、お願いしたいことがありまして」



部下が、騎士団の詰所へ声を掛けた。



すると、その声が聞こえたようで、一人の騎士がめんどくさそうな顔をしながら現れたのだった。



「あっ、すみません。田舎から出て来たんですが、王都の貴族街の家に知人が行ったっきり、待ち合わせの場に来なくて、探して欲しいんですが・・」



部下が青い顔をさせながら、騎士に願い出る。



しかし、騎士は「貴族街」という言葉が出た瞬間に眉を顰めてから「兄ちゃん、すまないが貴族街は管轄外だ」と言い出してきたのだ。



その言葉に、部下は大きく目を見開いてしまう。



「えっ?どういう事ですか?」



部下の言葉に、尚も騎士は煩わしそうな顔をして見せる。



「だから、俺らは行けないんだよ!」



「いや、だからどうしてですか?」



部下は、至極真面目に問い返すが、騎士は、返事すらしない。



「知人が貴族街で行方不明なんですよ!探してくださいよ!」



ジルの「時間との勝負」という言葉に推されて、部下は焦りが混じり、大きな声で騎士へ詰め入っていると。



その姿が、詰所の傍にいた平民たちの視線を集めていく。



「なぜ、貴族街には行けないんですか?じゃあ、知人の行方は誰が探してくれるんですか!」



切羽詰まるような部下の言葉に、多くの平民の者が足を止めだしている。皆、縋る部下に対して、騎士がどの様に行動をするのかと気になっているようだ。



一方、部下に縋りつかれた騎士は、多くの人の目に晒されて、先程までしてきた否定的な言葉が吐きだせないでいた。



騎士は、額に冷や汗を掻きだして、唇を噛みしめ出す。



「お願いです。一緒に来て探してください」



部下の懇願する姿を多くの人が見つめ、そして、流れるように、人の目が騎士の方に向いて行く。



「わかったよ。どこまで出来るかわからんが・・・」



騎士は項垂れた様な姿勢になり、部下にそう告げたのだった。



「ありがとうございます」



部下は騎士に大きく頭を下げて見せる。だが、その際、下に向けた顔にはニヤリと笑みが浮かんでいた。



騎士を上手く詰所から引っ張りだせた部下は、女の家へ急ぐ。



そんな部下とは違い、騎士の方は馬の進みも遅い。



部下が女の家に着いた時、運が良かったのか、家の方から妙な音?声?が聞こえてきた。



「今、何か聞こえましたよね?」



部下は、騎士に有無を言わさない形で家へと引っ張っていく。



呼び鈴を鳴らし、家の中から使用人が顔を出すと、部下が、「今、妙な音がしたんですが、騎士もいますので、中を検めさせて頂きます」と、使用人の許可も騎士の確認もなく、部下は家に上がり込んでいった。



「セフィ!セフィ!いるんだろ?どこにいるんだ!」



大声で、部下は叫びながら家を闊歩する。



「オイ、どこだ!セフィ!」



部下は使用人の制止も振り切り、家の奥へ進んでいく。



その後ろを騎士が慌てて追いかけている。



「た、たずげ、えー」



家の奥へと進めていく中、かすれた声が聞こえてきた。



「セフィかっ!」



部下は駆け出し、セフィが居るらしき部屋の前に辿り着いた。



彼らが辿り着いた目の前にある扉は、大きな錠が掛けられていた。



「鍵!」



部下が大きな声で告げるが、使用人は首を横に振るだけだ。



「ちきしょう!」



騎士と部下は鍵がないと知ると、体を扉に体当たりして見せるが、扉は頑丈でなかなか開く事をしない。



「オイ!、何かないのか?、斧とか?」



騎士の声に、使用人が慌ててその場を駆け出していく。



駆け出した使用人が何か持って来てくれるまで、二人は扉に体当たりを繰り返していると、少しづつ、扉が軋みだした。



そんなところに、使用人が斧を携えてやって来たのだった。



その斧を騎士が手にして、大きく扉に向けて振り下ろすと、ガッツンと大きな音がし錠が外れた。そして、それに伴い、扉がゆっくりと開いていく。



「うっ・・」



扉が開ききる前に、扉の前に佇む者は鼻と口を押える。



悪臭が部屋から外の廊下へ流れ出してくる。



「なんだこれは・・」



開けられた扉の向こうでは、窓から光が差し込んでいる為に、室内の惨状が見える。



部屋は汚物にまみれ、中の調度品は壊れ放置されている。



そんな部屋に、二つの人の姿が見えたのだった。



一人は、荒れた室内の床に横たわり、もう一人は汚物にまみれになったまま膝を突き、顔を天に向けたまま、「た、ずけえで」と言っている男だった。

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