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第1部 第67話
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王都の貴族街の一角にある小さな家の玄関口で、エディは部下と共に扉が開かれるのを待ち構えていた。
たった今、この家の主と思われる青年が出掛けて行く姿を確認してから、エディは部下と一緒に家への訪問を決めた。
部下により呼び鈴が鳴らされてから、少ししてから使用人らしき男が警戒するような態度を見せながら、扉をゆっくりと開けた。
「こんにちは。私、以前こちらの准男爵様にお世話になった者です。今日もいつもの平民街の賭博場へ伺ったのですが、お会い出来なかったものでお屋敷の方へ参った次第でして、つきましては、准男爵様に是非、お取次ぎを願いたくて。以前、困ったことがあれば良い商売の口をご紹介してくださるとのお話をも頂いていたもので」
待ち構えていた玄関の扉が開いたと同時に、エディは矢継ぎ早に言葉を発して、相手に考える隙を与えない話術を繰り拡げていく。
扉を開けた使用人の男は、最初は、エディのその行動に呆気にとられていたのだが、留守を任されていることを少しして思い出したのか
「先程、主人は外出されたところでございまして、それに、今日の訪問については聞いておりませんが」
エディたちを追い払うような言葉を言い放ってきたのだった。
しかし、ここでエディも諦める訳にいかない為、再び、言葉を続けていく。
「あぁ、失礼しました。急だったもので先に連絡も入れず、申し訳ございません。当方、田舎の商人なもので、貴族の仕来りもわかっておらず。それにお恥ずかしいのですが、ちょっと、賭博でまたやってしまいましてね。それで、以前、准男爵様から、家で預かっている男のことで良い商売があると聞いていたのを思い出して、急いで参ったんですよ」
話を進めていく中で、エディが話に真実味を齎す為に表情を曇らせていった。その姿を見て、同じように、エディの後ろに控える部下も顔を下に向けて見せた。
その様子を、使用人はジロジロと眺めながらも、「お困りのようですね。主人が帰るまで中でお待ちください」と、とうとう、エディたちを室内へと迎え入れたのだった。
その言葉を聞いたエディは、わざとらしく大きな声上げて
「助かります。帰りの路銀まですってしまって。准男爵様には、これまでにも何度お世話になったことか」
と、笑みを浮かべて、准男爵との関係を匂わせたのだった。
そんなエディの演技にすっかり騙された使用人は、釣られるように笑顔まで出す始末だ。
エディと部下は、使用人が自分達から視線を外した瞬間、無言で頷きあった。
使用人に案内され室内に入ったエディたちは、出先や帰宅時間が気になる事から、この屋敷の主についての情報を得ていく為に、使用人へ問い掛けながら室内を歩んでいく。そして、視覚の面では屋敷の様子を記憶に留めてもいく。それは、決して、相手にそのことを悟られないように注意しながら行っていた。
そして、辿り着いた客間で、主が帰宅するまで待たせて貰う事を再び告げた。
「すみません。暫く待たせて頂きますね」
客間に入るなり、エディはにこりと微笑んだ顔を向けた。そして、「いやあ、素敵な家ですね。貴族街に家を持つなど羨ましいです」と、ぐるりと客間を見渡し、傍にある家具を手で触れてみた。
「すいません。一応、商売している身なんで、貴族の家の中が気になりまして」
エディはそんなことを言いながら、客間にある物を手で触っていく。
「こちらの家は、部屋数などはどれくらいなんですか?」
今度は、部下の方が、室内の情報を聞き出す為に、使用人へ声を掛けだした。
「あぁ、部屋ですか、一階は、客間二つとダイニングと、風呂、調理場、使用人部屋が一つくらいですね。後、二階に主人の書斎など含め、三部屋ほどありますが」
使用人は、頭の中で数えているのか、目線は遠くにいっている。
部下は、使用人から齎された話から、エディに向き直り、小さく頷いてみせた。
「では、例の男は二階で過ごされているんですね?」
エディが口角を上げてそう尋ねると、使用人が「あぁ、そうです。2階の一番奥に押し込んでいる」と何の疑いもなく告げてきた。
その言葉に、エディが薄く微笑んで「ありがとう。助かったよ」と言い、使用人へ近づいていった。
「な、なんだ!」
使用人がここに来て、エディの行動に驚き、後退るが、その使用人の背後に、部下が回り腕を取った。
エディは、そんな部下に、自分の首元に巻かれていたネクタイを外しサッと手渡したのだった。
部下は、エディから渡されたネクタイを受け取り、手早く使用人の腕を拘束していった。
「悪いな。君に危害を加えるつもりはないんだ。ただ、預かって貰っている人を返して貰うだけだ」
エディが使用人に屈みこんでそう告げる。
部下は、エディが使用人と話してる間に、カーテンをナイフで引き裂き、拘束用の布にする為に手に取ると、「すみません。声を出されたら困るんで」と言いながら、使用人の口をその布で塞ぎ、足も拘束した。
「行くか」
使用人の拘束が整ったのを確認して、エディが部下にそう声を掛け、二人は目的の二階の奥の部屋を目指す。
「使用人は二人だったな?」
「はい」
二人は廊下を足早に歩き、二階へ続く階段を探す。
「もう一人は、見張りで部屋から動けないんだろうな」
二階に上がった二人は、昼間なのに、カーテンで塞がれた窓のお陰で、薄暗い廊下を足音をさせず、ゆっくりと進む。
しーんと静まり返る二階、しかし、奥に進むに連れて、人の息遣いが伝わってくる。
エディと部下は無言で頷き、尚も、奥の部屋に向かっていく。
「だ、誰だ!」
どうやら、向こうもエディたちに気付いたようだ。
「あぁ、すみません。賭博場で准男爵様に会って頼まれたんですよ」
エディは、薄暗闇の中、微かに見える男の姿に向かい、話ながら歩を進めていく。
「な・・な、何のことだ!き、聞いてないぞ!」
男が、恐怖に駆られているようで言葉が上擦っているが、それを悟られまいと大きな声をあげてきた。
「急な話であなたにも伝わっていなかったんでしょうね」
じりじりとエディは、男の大声も気にせずに、男との間合いを詰めていく。
「オイ、ち、近づくな!」
男の声は完全に怯えているのが、エディたちにも感じ取れる。
「今だ!」
急にエディの大きな声が廊下に響き渡る。
それと同時に、暗闇に光が差し込んできた。
急な外からの光りに、ずっと暗がりにいた男は目を細める。
部下の手により、男の傍にある窓に掲げてあったカーテンが引かれ、廊下に一気に光が広がった時、エディが男の手を持ち、後ろでに捻りこむ。
「うっ・・・いたい」
「すまないな。暫く大人しくしていてくれ」とエディがいい、一階で調達した紐で手首などを拘束していく。
部下と二人で見張りの男を縛り上げてから、所長が監禁されている奥の部屋の前に立った。
二人は頷き合い、それから、部下が扉を小さく叩いた。そして、ゆっくりと扉を開けた先には、縛られ、口を塞がれたトウの町の役場の所長が床に転がっていたのだった。
そんな所長の姿を目にしたエディたちは、慌てて所長に駆け寄り、体を起こし手早く拘束を解いていく。
「大丈夫ですか?所長、わかりますか?ハロルド商会の者です」
体を何度か小さく揺さぶり、所長の反応を確かめるエディ。
そんな彼らに、暫くして、所長は瞼を震わせて、目を細く開けてみせた。
「良かった」
その姿に、二人は漸く安堵したのだった。
「動けますか?少し、体には負担を掛ける事になりますが、ここから、急いで出ます」
所長は言葉が出せないようで、その代わりに、手を少し上げて応えてくれた。
エディはその姿を確認してから、部下に、所長を担がせて移動をさせることにした。
弱っている所長を慎重に運び出す為に、二人は協力し合いながら家の玄関へと進める。
この家の主である准男爵がいつ戻るかわからない中、焦りが募ってくる。
玄関を出たところで、エディが部下と所長を担ぐのを交代した。
部下は、エディに所長を任せてから、馬を先に取りにいく。
「少し先で落ち合おう」
エディが部下にそう伝え、一旦、部下との行動を離す事にした。
それは、少し人目が付かないとこで、乗馬する方がいいだろうとの判断でのことだった。
周囲に注意を払い、エディは所長と共に移動をしていると、馬の蹄の音が近づいてくるのが聞こえて来た。
エディは、息を潜めて、家の向かい側にある大木に所長と共に身を隠す。
馬の蹄は予想した通り、准男爵が乗っている馬であった。
彼は、何の警戒もないように、馬から下りて、准男爵の家へと馬と共に入っていく。
その姿を見たエディは小さな声で、所長に「すみません。少し走りますので」と告げて、所長の腕をぐっと抱え込み、エディは駆け出したのだった。
たった今、この家の主と思われる青年が出掛けて行く姿を確認してから、エディは部下と一緒に家への訪問を決めた。
部下により呼び鈴が鳴らされてから、少ししてから使用人らしき男が警戒するような態度を見せながら、扉をゆっくりと開けた。
「こんにちは。私、以前こちらの准男爵様にお世話になった者です。今日もいつもの平民街の賭博場へ伺ったのですが、お会い出来なかったものでお屋敷の方へ参った次第でして、つきましては、准男爵様に是非、お取次ぎを願いたくて。以前、困ったことがあれば良い商売の口をご紹介してくださるとのお話をも頂いていたもので」
待ち構えていた玄関の扉が開いたと同時に、エディは矢継ぎ早に言葉を発して、相手に考える隙を与えない話術を繰り拡げていく。
扉を開けた使用人の男は、最初は、エディのその行動に呆気にとられていたのだが、留守を任されていることを少しして思い出したのか
「先程、主人は外出されたところでございまして、それに、今日の訪問については聞いておりませんが」
エディたちを追い払うような言葉を言い放ってきたのだった。
しかし、ここでエディも諦める訳にいかない為、再び、言葉を続けていく。
「あぁ、失礼しました。急だったもので先に連絡も入れず、申し訳ございません。当方、田舎の商人なもので、貴族の仕来りもわかっておらず。それにお恥ずかしいのですが、ちょっと、賭博でまたやってしまいましてね。それで、以前、准男爵様から、家で預かっている男のことで良い商売があると聞いていたのを思い出して、急いで参ったんですよ」
話を進めていく中で、エディが話に真実味を齎す為に表情を曇らせていった。その姿を見て、同じように、エディの後ろに控える部下も顔を下に向けて見せた。
その様子を、使用人はジロジロと眺めながらも、「お困りのようですね。主人が帰るまで中でお待ちください」と、とうとう、エディたちを室内へと迎え入れたのだった。
その言葉を聞いたエディは、わざとらしく大きな声上げて
「助かります。帰りの路銀まですってしまって。准男爵様には、これまでにも何度お世話になったことか」
と、笑みを浮かべて、准男爵との関係を匂わせたのだった。
そんなエディの演技にすっかり騙された使用人は、釣られるように笑顔まで出す始末だ。
エディと部下は、使用人が自分達から視線を外した瞬間、無言で頷きあった。
使用人に案内され室内に入ったエディたちは、出先や帰宅時間が気になる事から、この屋敷の主についての情報を得ていく為に、使用人へ問い掛けながら室内を歩んでいく。そして、視覚の面では屋敷の様子を記憶に留めてもいく。それは、決して、相手にそのことを悟られないように注意しながら行っていた。
そして、辿り着いた客間で、主が帰宅するまで待たせて貰う事を再び告げた。
「すみません。暫く待たせて頂きますね」
客間に入るなり、エディはにこりと微笑んだ顔を向けた。そして、「いやあ、素敵な家ですね。貴族街に家を持つなど羨ましいです」と、ぐるりと客間を見渡し、傍にある家具を手で触れてみた。
「すいません。一応、商売している身なんで、貴族の家の中が気になりまして」
エディはそんなことを言いながら、客間にある物を手で触っていく。
「こちらの家は、部屋数などはどれくらいなんですか?」
今度は、部下の方が、室内の情報を聞き出す為に、使用人へ声を掛けだした。
「あぁ、部屋ですか、一階は、客間二つとダイニングと、風呂、調理場、使用人部屋が一つくらいですね。後、二階に主人の書斎など含め、三部屋ほどありますが」
使用人は、頭の中で数えているのか、目線は遠くにいっている。
部下は、使用人から齎された話から、エディに向き直り、小さく頷いてみせた。
「では、例の男は二階で過ごされているんですね?」
エディが口角を上げてそう尋ねると、使用人が「あぁ、そうです。2階の一番奥に押し込んでいる」と何の疑いもなく告げてきた。
その言葉に、エディが薄く微笑んで「ありがとう。助かったよ」と言い、使用人へ近づいていった。
「な、なんだ!」
使用人がここに来て、エディの行動に驚き、後退るが、その使用人の背後に、部下が回り腕を取った。
エディは、そんな部下に、自分の首元に巻かれていたネクタイを外しサッと手渡したのだった。
部下は、エディから渡されたネクタイを受け取り、手早く使用人の腕を拘束していった。
「悪いな。君に危害を加えるつもりはないんだ。ただ、預かって貰っている人を返して貰うだけだ」
エディが使用人に屈みこんでそう告げる。
部下は、エディが使用人と話してる間に、カーテンをナイフで引き裂き、拘束用の布にする為に手に取ると、「すみません。声を出されたら困るんで」と言いながら、使用人の口をその布で塞ぎ、足も拘束した。
「行くか」
使用人の拘束が整ったのを確認して、エディが部下にそう声を掛け、二人は目的の二階の奥の部屋を目指す。
「使用人は二人だったな?」
「はい」
二人は廊下を足早に歩き、二階へ続く階段を探す。
「もう一人は、見張りで部屋から動けないんだろうな」
二階に上がった二人は、昼間なのに、カーテンで塞がれた窓のお陰で、薄暗い廊下を足音をさせず、ゆっくりと進む。
しーんと静まり返る二階、しかし、奥に進むに連れて、人の息遣いが伝わってくる。
エディと部下は無言で頷き、尚も、奥の部屋に向かっていく。
「だ、誰だ!」
どうやら、向こうもエディたちに気付いたようだ。
「あぁ、すみません。賭博場で准男爵様に会って頼まれたんですよ」
エディは、薄暗闇の中、微かに見える男の姿に向かい、話ながら歩を進めていく。
「な・・な、何のことだ!き、聞いてないぞ!」
男が、恐怖に駆られているようで言葉が上擦っているが、それを悟られまいと大きな声をあげてきた。
「急な話であなたにも伝わっていなかったんでしょうね」
じりじりとエディは、男の大声も気にせずに、男との間合いを詰めていく。
「オイ、ち、近づくな!」
男の声は完全に怯えているのが、エディたちにも感じ取れる。
「今だ!」
急にエディの大きな声が廊下に響き渡る。
それと同時に、暗闇に光が差し込んできた。
急な外からの光りに、ずっと暗がりにいた男は目を細める。
部下の手により、男の傍にある窓に掲げてあったカーテンが引かれ、廊下に一気に光が広がった時、エディが男の手を持ち、後ろでに捻りこむ。
「うっ・・・いたい」
「すまないな。暫く大人しくしていてくれ」とエディがいい、一階で調達した紐で手首などを拘束していく。
部下と二人で見張りの男を縛り上げてから、所長が監禁されている奥の部屋の前に立った。
二人は頷き合い、それから、部下が扉を小さく叩いた。そして、ゆっくりと扉を開けた先には、縛られ、口を塞がれたトウの町の役場の所長が床に転がっていたのだった。
そんな所長の姿を目にしたエディたちは、慌てて所長に駆け寄り、体を起こし手早く拘束を解いていく。
「大丈夫ですか?所長、わかりますか?ハロルド商会の者です」
体を何度か小さく揺さぶり、所長の反応を確かめるエディ。
そんな彼らに、暫くして、所長は瞼を震わせて、目を細く開けてみせた。
「良かった」
その姿に、二人は漸く安堵したのだった。
「動けますか?少し、体には負担を掛ける事になりますが、ここから、急いで出ます」
所長は言葉が出せないようで、その代わりに、手を少し上げて応えてくれた。
エディはその姿を確認してから、部下に、所長を担がせて移動をさせることにした。
弱っている所長を慎重に運び出す為に、二人は協力し合いながら家の玄関へと進める。
この家の主である准男爵がいつ戻るかわからない中、焦りが募ってくる。
玄関を出たところで、エディが部下と所長を担ぐのを交代した。
部下は、エディに所長を任せてから、馬を先に取りにいく。
「少し先で落ち合おう」
エディが部下にそう伝え、一旦、部下との行動を離す事にした。
それは、少し人目が付かないとこで、乗馬する方がいいだろうとの判断でのことだった。
周囲に注意を払い、エディは所長と共に移動をしていると、馬の蹄の音が近づいてくるのが聞こえて来た。
エディは、息を潜めて、家の向かい側にある大木に所長と共に身を隠す。
馬の蹄は予想した通り、准男爵が乗っている馬であった。
彼は、何の警戒もないように、馬から下りて、准男爵の家へと馬と共に入っていく。
その姿を見たエディは小さな声で、所長に「すみません。少し走りますので」と告げて、所長の腕をぐっと抱え込み、エディは駆け出したのだった。
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