<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第52話

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アッシュはロビンとラドの様子をお立ち台の上から眺めていた。



うん、いつもの事だけども、皆、自分じゃないとこに群がっている・・・



アッシュの目には、ロビンから勧められて楽し気に茶を飲み、菓子を頬張る者、また、ラドにときめく者達が映る。



誰も自分には目をくれない・・・



「はァ・・」と、小さくため息を吐いてから、アッシュは、それから一呼吸をした。



そして、視線を遠くにやり、大きな声で、まずは自分の名を口にしたのだった。



「皆さん!こんにちは!此度、「平民議員」として立候補しています。アッシュです!」



アッシュの大きな声が響くと、周りにいた者たちが注目をしだす。



その人々の視線を受けて、アッシュはグッと己に気合を入れた。



そして、この注目を更に引き込むように、アッシュは、この選挙戦で見て来た事や感じた事を織り交ぜながら、自分なりの「平民議員」として目指したいことなどを伝えていく。



すると、今度は、アッシュが語るその言葉に、皆が期待の目を向け出していくのだった。



ロビンやラドに取り巻いていた人達が、いつしかアッシュの演説を聞く聴衆となり、誰もがアッシュの方へ向かい出す。



そんなアッシュ陣営の姿を、ケーシーは苦い顔をして見つめている。



アッシュよりも先に、ケーシーは演説を行い、人を惹き付けていたはずが、奴らが動き出すと同時に、人が流れて行った。



今、自分の周りには人の姿がない・・・



「くそ!」



ケーシーがアッシュ陣営を睨みつけていると、自分の事務所の者が、どうやら敵城視察から帰って来たようだ。



「あ、あの、あいつら、演説を聞きに来たやつらに、茶や菓子を振舞って、どうやら、それで懐柔してるようです!」



視察に向かった者が手に入れてきた茶と菓子を見せる。



茶からはいい香りがする。



「これって、賄賂じゃないのか?」



事務所の一人が、視察してきたやつから菓子を取り上げ、匂いを嗅ぎだした。



「うまそっ!」



思わず声が漏れてしまい、ケーシーにきつく睨まれた。



「貸せ!」



ケーシーは、アッシュ陣営から配られている茶と菓子を事務所の者から奪い取ると、その勢いを保ったままアッシュ陣営へ向かって行った。



そんなケーシーが乗り込む為に向かってきている姿も目に入らず、アッシュは、ノリに乗って演説している。



うん!、かなり調子がいいようだ!



多くの聴衆に聞き入られ、アッシュの弁にも力が入っていく。



そんな熱弁も最高潮になり、アッシュが「皆さん、お忙しいところ、今日は聞いて頂いてありがとうございました」と、高い所からでの演説を無事に終え、アッシュは、急いでお立ち台から降りて、今度は、直に、皆と会話する時間だと、聞きに来てくれた人へ歩み寄ろうとした時だった。



「オイ!卑怯な真似しやがって!」



と、一番、卑怯なことをしているだろう陣営のトップであるケーシーに言われたのだ。



「はっ?」



思わず、アッシュは言われた言葉の意味がわからず、首を傾げる。



「お前ら、票が欲しい為にこんなもん配りやがって!恥をしれ!」



そう言って、ロビンが配っていた茶と菓子がケーシーの手によって掲げられた。



「選挙違反じゃないかな?」



ニヤリと口角を上げて、ケーシーは大声で言い募る。



「・・・」



そんなケーシーとは違い、アッシュは、黙ったまま目を細めてケーシーを見ているだけだった。



しかし、その態度に、ケーシーはアッシュが不正を認めたと思い込み、高らかに笑った!



「所詮は、ぽっと出の役場の人間!私の敵ではなかったようだな!」



あははは・・とケーシー一人が声を上げて笑うが、周りは冷たい眼差しを向けていた。



「ねえ?、あんた、このお茶飲んだら、あの、アッシュってのに票入れろ!って言われたのかい?」



一人のご婦人が、たまたま隣で、茶を手にして居た男に聞いた。



「うんいやぁ、お茶の話しか聞いていないぞ。ハロルド商会で販売してるとは言われたかな?」



聞かれた男が、首をもたげてそう返す。



「だよね?あたしも、おんなじでさ。あの綺麗なにいちゃんが愛用とは聞いたけどもね」



先に問い掛けたご婦人も呟く。



それを皮切りに、その場の人が、あれこれ言い出す声が広がる。



しかも、「ちょっと、お前!言いがかりは止めろよ!」や「あんた、いい加減なこと言うな!」、「俺も菓子の話しかしらんぞ!」と、ケーシーに対しての攻撃だった。



「な、なんだ!お前ら、菓子や茶を貰ったからって、その態度は!俺が「平民議員」になったら、不正行為として、ここに居る奴ら、突き出してやるからな!」



皆の攻撃的な態度や言葉に、一瞬、怯んだケーシーではあったが、直ぐに気持ちを立て直したのはいいが、言ってはいけない言葉までも、つい、口にしていた。



「アホだな。火に油そそいでよ」



ラドが、呆れながら、これから始まる更なる聴衆からの攻撃を思い、つい、こちらも呟いた。



「ふざけるな!」



「なんだって!やれるもんなら、やってみろ!」



「お前らなんて、もっとひでえーことしてるくせによ!」



「そうだそうだ!いつも、その「平民議員」の特権振りかざしやがって!」



「お茶飲んで、捕まるって、どういう事よ!」



人々の目には怒りが宿っている。



「ちょっ、や、やばいですよ・・・」



ケーシー陣営の誰かが小さく呟いた。



「うっ!?」



さすがのケーシーもこの状態に驚き、言葉を無くしてしまう。



ケーシーの事務所の者たちも異様な状況に慄き、ケーシーを囲むようにしながら、慌てて、その場から後ずさりをしだした。



だが、一度、目覚めてしまった怒りは収まらず、人々はケーシーを追いかけだす。



「あーぁ、皆、行っちゃったなァ」



ロビンは遠ざかる人たちを見送りながら、そう呟いた。



アッシュ陣営は、逃げるケーシー、追う聴衆の姿を、ただ、黙って見つめていたのだった。

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