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第1部 第51話

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カルロに見送られて、本日の演説の場へとやって来たアッシュたち。



彼らの手首には色どり鮮やかな飾り細工の紐に綺麗な石が付いたブレスレットが付けられており、それがアッシュ陣営の者と示すアイテムにもなっている。



そんな彼らが到着した場には、なんと!敵陣営であるケーシーたちが、既に演説に向けて準備をしている姿があった。



「えっ!!何で?」



ケーシー達の姿を見たロビンが声に出してしまい、その声に、ケーシーたちもアッシュらに気付いたようだ。



「お前ら、遅いなァ」



フッと鼻を鳴らしたケーシーがかすかに笑う。



「どういう事・・」



ロビンは首を傾げて、ケーシーたちを見つめる。



「おかしいな。向こうと被らないように、演説ルートは決めていたはずだが・・」



アッシュは自分達の予定とケーシー達の予定を思い浮かべながら、顔を顰めている。



確か、今日は、ケーシー達はトウの西側ルートを攻める計画だったはずだ。



だから、自分達は南に位置するこの地に来たと言うのに・・・



「いつの情報か知らないが、予定が変わるのはよくある事だろ?」



ケーシーは、アッシュに近づき、肩に手を置いてそう囁きかける。



ケーシーに言われて、アッシュも『確かにそうだが‥』と思い込む。



「悪いなぁ。今日はうちがここで街頭活動をする。お前らは、他所に行けよ!」



肩に置いていた手を、ケーシーは、今度は、アッシュを体ごとツイっと押した。



不意な行動に、アッシュはよろめくが、ここは成人男性だったことで倒れこむことはなかった。



「あぁ、すまんな。邪魔だったから、つい、な。あははは」



アッシュのよろめく姿に、ケーシーは嫌な笑いを零して、ニヤニヤしながらアッシュから遠ざかって行った。



「はあ?、何だよそれ!イヤ、今日はうちがここで活動をする予定だったんだよ!」



ロビンが一連のケーシーの行動に腹を立てたようで、鼻息荒くして言葉を放つ。



「アッシュさん、どうされますか?」



同じく、この場に居合わせた手伝い人たちが暗い顔になりながら、声を掛けてきたのだった。



「あぁ、そうだな・・」



アッシュは、彼らを見てから、もう一度、ケーシー陣営の方をチラリと見る。



あちらは、演説に向けた準備がほとんど出来上がっているのが、彼らと距離があるアッシュにも見てわかる。



『日を改めた方がいいかもな・・けど、日にちがないし、今日行く場をこれから選定し直して、そこと入れ替えるべきか‥』



と、ケーシー達の動きに視線を何度かやりながら考え込む。



「変更する必要ねーぞ!!ここでやれば良いだろうが!」



そんな時、今日、ずっと不機嫌であるラドが、めんどくさそうに言い出す。



「遠慮する意味すらねーよ。予定通りこなして、かえろーぜ」



ラドはそう言いながら、馬車から荷物を降ろしだす。



その姿に、ロビンが「そうだよな!」といつもの笑顔を向け出す。



それを境に、他の者も準備に取り掛かり、アッシュも「うん。予定通り行こう!」と切り替える事にした。



そんな、アッシュたちの動きを、ケーシーは奥歯をギリッと鳴らして睨みつけている。



ケーシーの熱い?視線も気にせずに、アッシュらもケーシーたちに負けず、準備に取り掛かっていく。



そんなアッシュらのところには、今日も人が集まりだしてきた。



手伝い人たちは宣伝用である、あのロビン作成の用紙を手に持ち、「選挙には、是非、アッシュを!」と配っていく。



そして、ロビンは事務所で用意したお茶と菓子を「良かったらどうぞ!ハロルド商会で販売中のものなんですよ!」とお得意の笑顔と共に手渡していく。



これは、ここ最近のアッシュ陣営の選挙活動の戦法だ。



「まあ、美味しいわね。このお茶!綺麗な色で、香りも良いのね!」



ロビンからお茶を手にしたご婦人が、顔を綻ばせながらお茶の感想を話してくれる。



「そうなんですよ。これね、なかなか輸入が出来なかったのを、漸く、ハロルド商会が販路に漕ぎつけた逸品なんですよ」



すかさず、ロビンが茶の貴重性を伝え、茶の価値を上げていく。



「しかも、このお茶、美容にも良くてですね。ホラッ!あそこにイケメンくんがいるでしょ?あの彼も実は愛用しているんですよ!」



なんてことを、ロビンはご婦人に耳打ちする。



そう耳打ちされたご婦人は、美しい顔に輝くような笑みを貼り付けているラドを見やり、頬を赤く染める。



「あなたも、これを飲むと、つや肌になりますよ。もちろん、男性も元気になる成分が含まれているらしくて。ご家族皆に良いお茶なんです!」



どこぞの悪徳商法かと思うくらい、ロビンの舌は良く回る。



「そうそう。良かったら、こちらの菓子もどうぞ。王都でしか販売されてなかった品なんですが、なんと!トウでの販売を目指す為、品質向上を試み、そのお陰で、日持ちが各段に延びた菓子に生まれ変わったんです。しかも!お味は以前よりも、カリカリ感が増して、新食感に!」



そんな説明を受けると、ご婦人は今度は菓子に手を伸ばす。



「あらっ!?やだ!本当にカリカリして美味しいわ!」



と、またしても笑顔が零れた。



「町の中心にある、ハロルド商会が運営している店で、どちらも絶賛販売中なんで、良かったらお買い求めくださいね!」



何て、宣伝するロビンである。



うん、ロビンはアッシュの応援よりも、最近は商会の宣伝部長に様変わりしている・・・



「あの・・」



ラドがアッシュの傍を見守るように立っていると、可愛らしい声に呼び止められる。



まあ、これは良くあることなので、ラドはいつもの様に、美しい顔に更なる輝きを乗せた笑顔で振り向く。



すると、可愛らしい恰好をした10代くらいの少女が、モジモジとしながら顔を赤らめて俯いている。



その姿に、ラドはクスリと笑い、いつものように対応しようと少女に向き直る。



「何かごようですか?」



柔らかく言葉を紡ぎ、ラドは少女を見つめる。



「あの、その・・」



少し、体を震わせながら、少女は片手を上げて、ラドの手首を指差す。



「うん?」



ラドは差された手首をチラリとみると、そこには、愛しのローサが作ってくれた?ブレスレットがある。



「えっと、これ?」



ラドも同じように、手首を差して、少女に確認する。と、



「そう!それです!前に、親戚の子が、王都で人気だとかでしていたの!」



少女は意を得たことで、自分の思いを早口で伝えてくる。



ああ、そうなんだ・・と、ラドはいつもの展開じゃないことに驚きつつ、少し笑う。



「コレ、欲しいの?」



ラドは少女の願いを察して、そんな風に問い掛けると、



「えっ!売っているの?王都に行かないと買えないんでしょ!?」



少女は驚きで、目を大きく見開いている。



その様子に、ラドはクスリと笑い、少女に優しく言葉を返す。



「それがこのトウの町で買えちゃうんだよね。ハロルド商会で買えるんだよ」



「ほんとぉ!?」



少女は大きな声で聞き返す。



「本当だよ。うちの事務所の皆もしてるでしょ?この石、幸運のお守りなんだって。僕の好きな人が作ったんだよ。これ、ここだけの話で内緒だよ!」



ラドは、怪しい微笑みを乗せて、少女にウインクした!



その姿に、少女は顔を真っ赤にしてしまう。



「良かったら、買ってね!」



ラドと少女のやり取りで、周りに居た女子たちまでもが、キャーッと黄色い声を上げる。



アッシュは、簡易お立ち台の上で、その状況を見ていたのだった・・・
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