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第1部 第50話
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エディが王都に向けて旅だった報せは、その翌日にアッシュたちは知ることになる。
その知らせに、何故か一番不服な顔をしていたのが、ラドであった。
「そんな話聞いていないぞ!この前、俺が王都に行けば良かった!」
今日のラドは、事務所の皆が遠い目になる程、いつもの冷静なイメージから遺脱している。
「まあまあ、落ち着いてよ!」
ロビンが、ラドの体に触れて「どうどう」なんて言ってみたりしながら宥めるが収まらない。
「うるさい!なんで、エディが王都へ行くんだ!」
もはや、昨日までのラドはいない。
『こいつ、これが本性だな・・』
アッシュは、憤慨しているラドの姿をジーっと見つめる。
「なあ、兄さんが王都へ行くのは珍しくない話だろ?何故、そこまで言うんだよ?」
ロビンは可愛らしい仕草で小首をかしげて考えながら問い掛ける。
「はあ!?」
その仕草さえも、今のラドにはイライラを増幅させるらしく、更に悪態をつく。
「な、なんだよ・・」
そんな態度に、ちょとだけ、ロビンもビビりはしている様子ではあるが・・
だが、こんなことで怯むロビンではない。多少はビビりながらも、何か閃いたのか?ここで、ロビンはポン!と手を打ち鳴らす。
「わ、わかった!ラドは兄さんがいなくて寂しいんだろ!」
満面の笑みとはこの事かと言う位に、ロビンの顔は輝いている。
「ど、アホか!!お前、ずっとバカだと思っていたが、相当だなっ!」
ロビンは同士を得たと思っての発言だっただけに、ラドから言われた言葉にめっぽう傷ついたようだ。
落ち込むロビンを無視して、尚も、ラドの暴言は収まらない。
「兄弟揃って、クソだな!」
ケッと唾まで飛ばす始末。どう見ても、エディがいないと寂しいようには見えない。
「まあまあ、事情はわからないが、もう王都にいったんだしな」
ここで漸く、アッシュもラドを宥めに入る。
そして、ラドもアッシュが視界に入ったようで、少し落ち着いたのか、美しい顔に笑顔が浮かぶ。
「そうだ!俺も王都に行かせて貰う。いいだろう?もう、手伝いも十分したし」
そうラドが発した言葉にアッシュは驚いた。
「えっ!?いや、待て!ダメだろう。選挙も終盤で追い込む時期だ。そんな時に、何故に王都へ行くんだ!」
慌てて、アッシュがラドを引き留めようと、あの手この手と言葉を投げるが、ラドはどの言葉も無視だ。
「ちょっと、ラド!君は私の秘書だろうが!」
終いには、アッシュも声を張り上げだした。
「じゃあ、辞めます。俺、選挙には全く興味ないし」
ラドは手を上げて、大きく横に振り事務所から出て行こうとし出す。
「お、お前、何考えてるんだ!」
アッシュが叫んだ時、外から事務所に入ってくる男がいた。
ラドはその男により、行く手をを阻まれてしまい、事務所内に留まってしまう。
「オイ、カルロ退け!」
自分の行く手を阻まれたラドは、目の前にいるカルロを睨みつける。
「お前は、本当に諦めが悪いと言うか、ブレないというか、だな?」
呆れた眼差しを向けるカルロに、ラドはチッと舌打ちをした。
「こんな事じゃないかと思って来てみたら、やっぱりだったわ」
カルロは、ラドの体に手を置いてから、ぐるっと方向を転換させた。
「君は、今は、アッシュくんの秘書だよ。仕事はきちんとしないと怒られちゃうよ。うちの会頭は激恐だぞ」
ニヤリと笑ってカルロは、ラドを黙らせる。
「クソ!死ね!エディ!」
最後の悪あがきらしく流れるような旋律に乗せて告げた文句に、こんな拍子あったけ?とアッシュは思いながらも、突如現れたカルロに、取り敢えず礼を述べる。
「助かりました。ラドが、ロビンの話を聞いてから豹変して困っていたので」
頭を掻きながら、アッシュは少し項垂れて見せる。
そんなアッシュに、カルロは微笑み。
「ラドは、あれが素ですよ」
と教えてくれた。
なあんだ、やっぱりそうか!と、アッシュは何故か納得してしまった。
「ロビンの話の通り、昨日から、うちの会頭は王都に出向いています。大事な時期に、トウの町を離れる事には申し訳なく思っていらっしゃいました」
カルロが、ここに来てエディの王都行きについて、詳細に伝えてくれ出す。が、その言葉一つ一つに、ラドが、
「はあんっ!?なんだそれ!」
「あいつがそんなこと思うか!ボケ!」
と、ご丁寧にエディの悪口を挟むので、話がなかなか進まない。
「ら、ラド、お前、いい加減、黙ろうか?」
さすがに、アッシュもイライラが募り、ラドに向けて言葉を発して制止を促す。
それには、ラドがプイっと横を向いて反抗の姿勢を見せるが、一応は話を聞き入れたようだ。
その姿にカルロはクスクスと笑い、「ふーん。ラドも少しは飼いならされきているんだな」と呟いた。
「で、エディさんは王都にはどのような仕事で?」
気持ちを切り替えて、アッシュが尋ね直すと、カルロもそれに応える様に話を続けた。
「あちらでのジムラルの滞在先がわかりました。色々ときな臭い者が絡んでいそうで。アッシュさんもご存知の通り、例の役場での税金のこと、うちでも調べてまして。それと、所長の行方も」
アッシュは、この時カルロの話に想像以上に危険を感じた。
「まさか、エディさんは、それの為に?」
恐ろしい不安が駆け巡り、アッシュは思わず、拳に力をこめて握りこむ。
「ええ、選挙も終盤ですので、きちんと片を付けたいと」
カルロが真剣な顔でアッシュを見つめて告げる。
「兄さん、大丈夫なのか?」
ずっと黙っていたロビンが不安なのだろう、ポツリと口にする。
その姿に、カルロがわざとらしくため息をついて見せる。
「お前の兄貴は、想像以上に狡猾だぞ。ちょっとやそっとじゃ、やられないさ。アイツの頭脳と商魂は凄いからな!」
そう言って、最後は優しい微笑みを向ける。
「そうそう、これ、うちの会頭からの指示で用意してきました」
そう言って、カルロが小さな箱から飾り紐を取り出した。
「会頭個人が、出資している店の品なんですよ」
カルロが手にする飾り紐を目にするなり、ロビンが急に声を上げた。
「あれ!?これ、祖父さんとこの飾り紐じゃん!」
綺麗な染色された色とりどりの紐が綺麗に編み込まれている。
「あぁ、これ昔から、トウの町にある民芸品だな」
アッシュも飾り紐を眺めながら呟く。
「あっ!でも、こんな綺麗な石ついてなかったはずだけど?」
ロビンが祖父の仕事を思い起こしてみるが、やはり記憶には綺麗な石のことはなかった。
「これ、王都での販売の為に制作されたもので人気なんですよ」
ロビンとアッシュは、「へー、そうなんだ」と、カルロの話に感心しきりである。
「はじめは、女性の髪飾りで作って売っていたんですがね。売れ行きも良かったところに、ブレスレットにもいいのでは?となってですね。今では、爆発的な人気で。なんと、貴族のご令嬢まで買われて」
そんな説明をしながら、ニコニコと、カルロは、事務所に居るものへ、飾り紐のブレスレットを配る。
「この石、それぞれにお守りの意味があるらしくて。うちの会頭が必勝祈願的に揃えたらと言われてね」
皆は、その説明を聞きながら、渡されたブレスレットをそれぞれ手首に結んでいく。
しかし、約一名、本日、最大限に不機嫌なラドは「こんなもん着けれるか!」と今にも引きちぎりそうな勢いで手にしている。
「あれ!?ラドはしないのか?」
カルロは不思議そうな顔をして、そんな事を告げる。
それに対して、ラドは睨みつける。
「これね、会頭の奥様のローサちゃんがブレスレットにしたらと考案したんですよ」
すごいでしょう!と、カルロはわざとらしく言う。
その言葉に、ずっと怒っていたラドが急に黙り込み、静かに、ブレスレットを手首に巻いていく・・
その姿に皆が呆気に取られていたが、カルロには想定内だったようでクスリと笑い。そして、「では、皆さん、今日も頑張って、街頭での活動をしてきてください」と、声援を送り、仕事に向かわせたのだった。
『さてと、お茶に菓子に売り上げ絶好調で来てるとこに、今度はブレスレットっか。うちの会頭も選挙につけ入り、凄い戦略だわ。アッシュらを使って宣伝活動をさせるなんてな。やっぱりあいつは激恐だわ』
なんて思いながらも、ブレスレット販売の準備にシフトを置きだすカルロであった。
その知らせに、何故か一番不服な顔をしていたのが、ラドであった。
「そんな話聞いていないぞ!この前、俺が王都に行けば良かった!」
今日のラドは、事務所の皆が遠い目になる程、いつもの冷静なイメージから遺脱している。
「まあまあ、落ち着いてよ!」
ロビンが、ラドの体に触れて「どうどう」なんて言ってみたりしながら宥めるが収まらない。
「うるさい!なんで、エディが王都へ行くんだ!」
もはや、昨日までのラドはいない。
『こいつ、これが本性だな・・』
アッシュは、憤慨しているラドの姿をジーっと見つめる。
「なあ、兄さんが王都へ行くのは珍しくない話だろ?何故、そこまで言うんだよ?」
ロビンは可愛らしい仕草で小首をかしげて考えながら問い掛ける。
「はあ!?」
その仕草さえも、今のラドにはイライラを増幅させるらしく、更に悪態をつく。
「な、なんだよ・・」
そんな態度に、ちょとだけ、ロビンもビビりはしている様子ではあるが・・
だが、こんなことで怯むロビンではない。多少はビビりながらも、何か閃いたのか?ここで、ロビンはポン!と手を打ち鳴らす。
「わ、わかった!ラドは兄さんがいなくて寂しいんだろ!」
満面の笑みとはこの事かと言う位に、ロビンの顔は輝いている。
「ど、アホか!!お前、ずっとバカだと思っていたが、相当だなっ!」
ロビンは同士を得たと思っての発言だっただけに、ラドから言われた言葉にめっぽう傷ついたようだ。
落ち込むロビンを無視して、尚も、ラドの暴言は収まらない。
「兄弟揃って、クソだな!」
ケッと唾まで飛ばす始末。どう見ても、エディがいないと寂しいようには見えない。
「まあまあ、事情はわからないが、もう王都にいったんだしな」
ここで漸く、アッシュもラドを宥めに入る。
そして、ラドもアッシュが視界に入ったようで、少し落ち着いたのか、美しい顔に笑顔が浮かぶ。
「そうだ!俺も王都に行かせて貰う。いいだろう?もう、手伝いも十分したし」
そうラドが発した言葉にアッシュは驚いた。
「えっ!?いや、待て!ダメだろう。選挙も終盤で追い込む時期だ。そんな時に、何故に王都へ行くんだ!」
慌てて、アッシュがラドを引き留めようと、あの手この手と言葉を投げるが、ラドはどの言葉も無視だ。
「ちょっと、ラド!君は私の秘書だろうが!」
終いには、アッシュも声を張り上げだした。
「じゃあ、辞めます。俺、選挙には全く興味ないし」
ラドは手を上げて、大きく横に振り事務所から出て行こうとし出す。
「お、お前、何考えてるんだ!」
アッシュが叫んだ時、外から事務所に入ってくる男がいた。
ラドはその男により、行く手をを阻まれてしまい、事務所内に留まってしまう。
「オイ、カルロ退け!」
自分の行く手を阻まれたラドは、目の前にいるカルロを睨みつける。
「お前は、本当に諦めが悪いと言うか、ブレないというか、だな?」
呆れた眼差しを向けるカルロに、ラドはチッと舌打ちをした。
「こんな事じゃないかと思って来てみたら、やっぱりだったわ」
カルロは、ラドの体に手を置いてから、ぐるっと方向を転換させた。
「君は、今は、アッシュくんの秘書だよ。仕事はきちんとしないと怒られちゃうよ。うちの会頭は激恐だぞ」
ニヤリと笑ってカルロは、ラドを黙らせる。
「クソ!死ね!エディ!」
最後の悪あがきらしく流れるような旋律に乗せて告げた文句に、こんな拍子あったけ?とアッシュは思いながらも、突如現れたカルロに、取り敢えず礼を述べる。
「助かりました。ラドが、ロビンの話を聞いてから豹変して困っていたので」
頭を掻きながら、アッシュは少し項垂れて見せる。
そんなアッシュに、カルロは微笑み。
「ラドは、あれが素ですよ」
と教えてくれた。
なあんだ、やっぱりそうか!と、アッシュは何故か納得してしまった。
「ロビンの話の通り、昨日から、うちの会頭は王都に出向いています。大事な時期に、トウの町を離れる事には申し訳なく思っていらっしゃいました」
カルロが、ここに来てエディの王都行きについて、詳細に伝えてくれ出す。が、その言葉一つ一つに、ラドが、
「はあんっ!?なんだそれ!」
「あいつがそんなこと思うか!ボケ!」
と、ご丁寧にエディの悪口を挟むので、話がなかなか進まない。
「ら、ラド、お前、いい加減、黙ろうか?」
さすがに、アッシュもイライラが募り、ラドに向けて言葉を発して制止を促す。
それには、ラドがプイっと横を向いて反抗の姿勢を見せるが、一応は話を聞き入れたようだ。
その姿にカルロはクスクスと笑い、「ふーん。ラドも少しは飼いならされきているんだな」と呟いた。
「で、エディさんは王都にはどのような仕事で?」
気持ちを切り替えて、アッシュが尋ね直すと、カルロもそれに応える様に話を続けた。
「あちらでのジムラルの滞在先がわかりました。色々ときな臭い者が絡んでいそうで。アッシュさんもご存知の通り、例の役場での税金のこと、うちでも調べてまして。それと、所長の行方も」
アッシュは、この時カルロの話に想像以上に危険を感じた。
「まさか、エディさんは、それの為に?」
恐ろしい不安が駆け巡り、アッシュは思わず、拳に力をこめて握りこむ。
「ええ、選挙も終盤ですので、きちんと片を付けたいと」
カルロが真剣な顔でアッシュを見つめて告げる。
「兄さん、大丈夫なのか?」
ずっと黙っていたロビンが不安なのだろう、ポツリと口にする。
その姿に、カルロがわざとらしくため息をついて見せる。
「お前の兄貴は、想像以上に狡猾だぞ。ちょっとやそっとじゃ、やられないさ。アイツの頭脳と商魂は凄いからな!」
そう言って、最後は優しい微笑みを向ける。
「そうそう、これ、うちの会頭からの指示で用意してきました」
そう言って、カルロが小さな箱から飾り紐を取り出した。
「会頭個人が、出資している店の品なんですよ」
カルロが手にする飾り紐を目にするなり、ロビンが急に声を上げた。
「あれ!?これ、祖父さんとこの飾り紐じゃん!」
綺麗な染色された色とりどりの紐が綺麗に編み込まれている。
「あぁ、これ昔から、トウの町にある民芸品だな」
アッシュも飾り紐を眺めながら呟く。
「あっ!でも、こんな綺麗な石ついてなかったはずだけど?」
ロビンが祖父の仕事を思い起こしてみるが、やはり記憶には綺麗な石のことはなかった。
「これ、王都での販売の為に制作されたもので人気なんですよ」
ロビンとアッシュは、「へー、そうなんだ」と、カルロの話に感心しきりである。
「はじめは、女性の髪飾りで作って売っていたんですがね。売れ行きも良かったところに、ブレスレットにもいいのでは?となってですね。今では、爆発的な人気で。なんと、貴族のご令嬢まで買われて」
そんな説明をしながら、ニコニコと、カルロは、事務所に居るものへ、飾り紐のブレスレットを配る。
「この石、それぞれにお守りの意味があるらしくて。うちの会頭が必勝祈願的に揃えたらと言われてね」
皆は、その説明を聞きながら、渡されたブレスレットをそれぞれ手首に結んでいく。
しかし、約一名、本日、最大限に不機嫌なラドは「こんなもん着けれるか!」と今にも引きちぎりそうな勢いで手にしている。
「あれ!?ラドはしないのか?」
カルロは不思議そうな顔をして、そんな事を告げる。
それに対して、ラドは睨みつける。
「これね、会頭の奥様のローサちゃんがブレスレットにしたらと考案したんですよ」
すごいでしょう!と、カルロはわざとらしく言う。
その言葉に、ずっと怒っていたラドが急に黙り込み、静かに、ブレスレットを手首に巻いていく・・
その姿に皆が呆気に取られていたが、カルロには想定内だったようでクスリと笑い。そして、「では、皆さん、今日も頑張って、街頭での活動をしてきてください」と、声援を送り、仕事に向かわせたのだった。
『さてと、お茶に菓子に売り上げ絶好調で来てるとこに、今度はブレスレットっか。うちの会頭も選挙につけ入り、凄い戦略だわ。アッシュらを使って宣伝活動をさせるなんてな。やっぱりあいつは激恐だわ』
なんて思いながらも、ブレスレット販売の準備にシフトを置きだすカルロであった。
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