<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

文字の大きさ
上 下
49 / 78

第1部 第49話

しおりを挟む
サンテの息子が起こした事件はトウの町の人に大きな衝撃を与えた。



「まさか、あそこの息子がねえ」



「古くからの仕事の付き合いだったんじゃないのかよ?」



「金の支払いでもめたらしいぞ」



「ひでーことするなぁ」



「いや、どうやらずっと苦しめられていたと聞いたよ!」



町の人は、今回、サンテの息子が起こした事件について、とある男が絡んでいるであろうことや、噂にあった王都での事が原因なのではないかと、皆、口では、はっきりとはしないがわかっているようで、トウの町はその話で今は持ちきりだ。



そんな時、エディの元に、王都から早馬で一人、トウの町に戻って来た者がいた。



赤い髪をした男、ジルである。



「すみません。遅くなりました」



ジルは、ハロルド商会のエディの執務室に駆け込み、まずは、一言、エディに向けて挨拶をした。



「いや、ご苦労だった」



労うエディに対し綺麗に一礼してから、直ぐに、ジルは自分が追っていた仕事について話し出す。



「王都で、ジムラルを探っていたんですが、やつは王都では姿を一切見せずで、こちらも手当たり次第に探していたところに、トウからラドたちが付けてきた女の潜伏先がわかりまして、ジムラルもそこにいるのが、漸く、確認されました。ただ、やつはかなり重い病かにかかってるようで、家からはあまり出られないみたいです。後、役場の所長ですが、王都での会合の後から行方がわからない状態です。こちらは、女の行動範囲のどこかにいると踏んで、そのまま女を見張っています」



ジルは、大きな成果を持って帰れなかったことから、エディに向ける顔も暗い。



「そうか、わかった。ジル、お前には悪いが、2日後に、私と共に王都へまた戻って貰う」



エディの言葉に、ジルは大きく目を見開く。



「エディ様も、王都へですか?」



「あぁ、女の後ろにいるやつが気になる。この町を目茶苦茶にした奴をあぶりだしてやる」



エディが不敵な笑みを浮かべてみせる。



ジルはそんなエディに頷き返した。



「少し、体を休めておけよ。王都では忙しくなるだろうからな」



「承知いたしました」



そう告げて、ジルは静かに執務室から出て行ったのだった。



「選挙終了まで、後、2週間ほどか・・・」



エディがそう呟いた。



選挙も後半に差し掛かってきている。



アッシュたちは、最近、エディが準備した茶と菓子を手にして、あちこちの演説先で振る舞い、人集めに成功しているようだ。



本来なら、役場前でするはずだったこの演説方法ではあるが、いきなり人の多い場でするよりも、小さな集落で試してからがいいのではないかと、事務所の手伝い人から提案がなされたらしく、役場前で行うのは最終にと持ち越されたようだ。



一方、ケーシー陣営も、ケーシー自身は真面目な青年のようで、至って、普通の戦略で選挙戦を行っているみたいだ。



ただ、彼は、父ウラスの命に忠実らしく、彼ら一族の地元の地には赴かなかったり、小さな集落を避けるなど、これまでウラスが行なってきたやり方を真似、目に見えた票のみ集めに走ってるみたいだ。



それがこの先、どう影響を及ぼすかだな・・・



おまけに、役場での税金事件、表立っては国が役場へ命令したとなっているが、町の人もバカではない。



仕組んでいるやつらは皆わかっている。



だが、これほどまでの大きな仕業に、ウラスたち以外の誰か大物が後ろにいることもわかるだけに、誰も大きな声を上げれないようだ。



「いつの間にか、大きな存在に、この町は取り込まれたみたいだな」



エディは、苦い顔をして思案する。



アッシュは思っていた以上に、「平民議員」としての自覚を持ちだし、町の人からの人気も得ている。



彼は謙虚であるが、正義感も強く、色々な場所に赴いては、その地での悩みに耳を向けているらしい。



エディは、自分の見立てた人物に間違いはなかったと、今更ながらにして思う。



ただ、このまま、アッシュが普通に選挙活動していても勝てるのか・・エディにしては珍しく、戸惑いが生じていく。



今、この町は、サンテの息子が起こした事件で騒がしい。



この燻ぶりが鎮火する前に動くしかない。



選挙で結果が出る前に、邪魔な奴らは捉えなければならない。



王都に住まう敵に、いつまでも自分の縄張りを荒らされては溜まったもんじゃない。



例の笑窪を作る女がカギを握っているのは間違いない。



その女から大物に辿り着ければいいのだが。



エディがそんなことを思っていると、執務室の扉を叩く音がした。



「入れ」



エディの入室許可の返事と共に入って来たのはカルロであった。



「すまない。ジルが来ているところ」



彼は入るなり、そう口にするが、室内を見渡してジルがいないことに気が付いた。



「ジルは報告が済んだので、帰したとこだ」



「そうだったのか?」



カルロはエディの言葉に納得して見せた。



「で、ジルからの王都での報告はどうだったんだ?」



持参した書類を、エディの執務机に置きながら、カルロはジルからの報告について伺った。



「あぁ、女の王都の居場所が割れた。こっちからラドたちが追いかけて辿り着いたようだ。そこに、ジムラルもいたらしい。ジムラルは、ロビンがウラスの娘から聞いたように、かなり重篤なようだ。あとは、所長は思った通り行方知れずだ」



カルロが持ち込んだ書類に目を通しながら、エディがジルからの報告を教える。



それにはカルロは無言で頷いていた。



「あぁそうだ。2日後に、また、ジルには王都へ戻らす。その際に、私も王都へ向かう。ここの仕事は、口がよく回り元気そうなクソ親父に頼んでおく。だから、カルロ、お前は親父の補佐と、アッシュらの方を頼む」



エディは顔を書類へ向けたまま、自分の予定を口にする。



その言葉に、カルロは少しニタニタと笑いだす。



「親父さん泣かせだね。優秀な会頭の仕事っぷりがわかったら、もう、お前ら夫婦の愚痴も吐けないかもな」



そう言いながら、エディが書類にサインをしたものをカルロは次から次へと拾っていく。



「お前が会頭になってから、仕事の域は格段に拡がった。傍から見てもわかるくらいだ。けど、実際に携わると、親父さん倒れるかもしれないな」



最後の資料を回収したら、カルロは声を出して笑いだす。



「まあ、留守は任せてくれ。きちんと、守っておくさ」



「頼んだぞ」



そう言って、エディはカルロに対して口角をあげてみせた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
 深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。  そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。 「貴方の匣、開けてみませんか?」  匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。 「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」 ※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

処理中です...