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第1部 第49話
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サンテの息子が起こした事件はトウの町の人に大きな衝撃を与えた。
「まさか、あそこの息子がねえ」
「古くからの仕事の付き合いだったんじゃないのかよ?」
「金の支払いでもめたらしいぞ」
「ひでーことするなぁ」
「いや、どうやらずっと苦しめられていたと聞いたよ!」
町の人は、今回、サンテの息子が起こした事件について、とある男が絡んでいるであろうことや、噂にあった王都での事が原因なのではないかと、皆、口では、はっきりとはしないがわかっているようで、トウの町はその話で今は持ちきりだ。
そんな時、エディの元に、王都から早馬で一人、トウの町に戻って来た者がいた。
赤い髪をした男、ジルである。
「すみません。遅くなりました」
ジルは、ハロルド商会のエディの執務室に駆け込み、まずは、一言、エディに向けて挨拶をした。
「いや、ご苦労だった」
労うエディに対し綺麗に一礼してから、直ぐに、ジルは自分が追っていた仕事について話し出す。
「王都で、ジムラルを探っていたんですが、やつは王都では姿を一切見せずで、こちらも手当たり次第に探していたところに、トウからラドたちが付けてきた女の潜伏先がわかりまして、ジムラルもそこにいるのが、漸く、確認されました。ただ、やつはかなり重い病かにかかってるようで、家からはあまり出られないみたいです。後、役場の所長ですが、王都での会合の後から行方がわからない状態です。こちらは、女の行動範囲のどこかにいると踏んで、そのまま女を見張っています」
ジルは、大きな成果を持って帰れなかったことから、エディに向ける顔も暗い。
「そうか、わかった。ジル、お前には悪いが、2日後に、私と共に王都へまた戻って貰う」
エディの言葉に、ジルは大きく目を見開く。
「エディ様も、王都へですか?」
「あぁ、女の後ろにいるやつが気になる。この町を目茶苦茶にした奴をあぶりだしてやる」
エディが不敵な笑みを浮かべてみせる。
ジルはそんなエディに頷き返した。
「少し、体を休めておけよ。王都では忙しくなるだろうからな」
「承知いたしました」
そう告げて、ジルは静かに執務室から出て行ったのだった。
「選挙終了まで、後、2週間ほどか・・・」
エディがそう呟いた。
選挙も後半に差し掛かってきている。
アッシュたちは、最近、エディが準備した茶と菓子を手にして、あちこちの演説先で振る舞い、人集めに成功しているようだ。
本来なら、役場前でするはずだったこの演説方法ではあるが、いきなり人の多い場でするよりも、小さな集落で試してからがいいのではないかと、事務所の手伝い人から提案がなされたらしく、役場前で行うのは最終にと持ち越されたようだ。
一方、ケーシー陣営も、ケーシー自身は真面目な青年のようで、至って、普通の戦略で選挙戦を行っているみたいだ。
ただ、彼は、父ウラスの命に忠実らしく、彼ら一族の地元の地には赴かなかったり、小さな集落を避けるなど、これまでウラスが行なってきたやり方を真似、目に見えた票のみ集めに走ってるみたいだ。
それがこの先、どう影響を及ぼすかだな・・・
おまけに、役場での税金事件、表立っては国が役場へ命令したとなっているが、町の人もバカではない。
仕組んでいるやつらは皆わかっている。
だが、これほどまでの大きな仕業に、ウラスたち以外の誰か大物が後ろにいることもわかるだけに、誰も大きな声を上げれないようだ。
「いつの間にか、大きな存在に、この町は取り込まれたみたいだな」
エディは、苦い顔をして思案する。
アッシュは思っていた以上に、「平民議員」としての自覚を持ちだし、町の人からの人気も得ている。
彼は謙虚であるが、正義感も強く、色々な場所に赴いては、その地での悩みに耳を向けているらしい。
エディは、自分の見立てた人物に間違いはなかったと、今更ながらにして思う。
ただ、このまま、アッシュが普通に選挙活動していても勝てるのか・・エディにしては珍しく、戸惑いが生じていく。
今、この町は、サンテの息子が起こした事件で騒がしい。
この燻ぶりが鎮火する前に動くしかない。
選挙で結果が出る前に、邪魔な奴らは捉えなければならない。
王都に住まう敵に、いつまでも自分の縄張りを荒らされては溜まったもんじゃない。
例の笑窪を作る女がカギを握っているのは間違いない。
その女から大物に辿り着ければいいのだが。
エディがそんなことを思っていると、執務室の扉を叩く音がした。
「入れ」
エディの入室許可の返事と共に入って来たのはカルロであった。
「すまない。ジルが来ているところ」
彼は入るなり、そう口にするが、室内を見渡してジルがいないことに気が付いた。
「ジルは報告が済んだので、帰したとこだ」
「そうだったのか?」
カルロはエディの言葉に納得して見せた。
「で、ジルからの王都での報告はどうだったんだ?」
持参した書類を、エディの執務机に置きながら、カルロはジルからの報告について伺った。
「あぁ、女の王都の居場所が割れた。こっちからラドたちが追いかけて辿り着いたようだ。そこに、ジムラルもいたらしい。ジムラルは、ロビンがウラスの娘から聞いたように、かなり重篤なようだ。あとは、所長は思った通り行方知れずだ」
カルロが持ち込んだ書類に目を通しながら、エディがジルからの報告を教える。
それにはカルロは無言で頷いていた。
「あぁそうだ。2日後に、また、ジルには王都へ戻らす。その際に、私も王都へ向かう。ここの仕事は、口がよく回り元気そうなクソ親父に頼んでおく。だから、カルロ、お前は親父の補佐と、アッシュらの方を頼む」
エディは顔を書類へ向けたまま、自分の予定を口にする。
その言葉に、カルロは少しニタニタと笑いだす。
「親父さん泣かせだね。優秀な会頭の仕事っぷりがわかったら、もう、お前ら夫婦の愚痴も吐けないかもな」
そう言いながら、エディが書類にサインをしたものをカルロは次から次へと拾っていく。
「お前が会頭になってから、仕事の域は格段に拡がった。傍から見てもわかるくらいだ。けど、実際に携わると、親父さん倒れるかもしれないな」
最後の資料を回収したら、カルロは声を出して笑いだす。
「まあ、留守は任せてくれ。きちんと、守っておくさ」
「頼んだぞ」
そう言って、エディはカルロに対して口角をあげてみせた。
「まさか、あそこの息子がねえ」
「古くからの仕事の付き合いだったんじゃないのかよ?」
「金の支払いでもめたらしいぞ」
「ひでーことするなぁ」
「いや、どうやらずっと苦しめられていたと聞いたよ!」
町の人は、今回、サンテの息子が起こした事件について、とある男が絡んでいるであろうことや、噂にあった王都での事が原因なのではないかと、皆、口では、はっきりとはしないがわかっているようで、トウの町はその話で今は持ちきりだ。
そんな時、エディの元に、王都から早馬で一人、トウの町に戻って来た者がいた。
赤い髪をした男、ジルである。
「すみません。遅くなりました」
ジルは、ハロルド商会のエディの執務室に駆け込み、まずは、一言、エディに向けて挨拶をした。
「いや、ご苦労だった」
労うエディに対し綺麗に一礼してから、直ぐに、ジルは自分が追っていた仕事について話し出す。
「王都で、ジムラルを探っていたんですが、やつは王都では姿を一切見せずで、こちらも手当たり次第に探していたところに、トウからラドたちが付けてきた女の潜伏先がわかりまして、ジムラルもそこにいるのが、漸く、確認されました。ただ、やつはかなり重い病かにかかってるようで、家からはあまり出られないみたいです。後、役場の所長ですが、王都での会合の後から行方がわからない状態です。こちらは、女の行動範囲のどこかにいると踏んで、そのまま女を見張っています」
ジルは、大きな成果を持って帰れなかったことから、エディに向ける顔も暗い。
「そうか、わかった。ジル、お前には悪いが、2日後に、私と共に王都へまた戻って貰う」
エディの言葉に、ジルは大きく目を見開く。
「エディ様も、王都へですか?」
「あぁ、女の後ろにいるやつが気になる。この町を目茶苦茶にした奴をあぶりだしてやる」
エディが不敵な笑みを浮かべてみせる。
ジルはそんなエディに頷き返した。
「少し、体を休めておけよ。王都では忙しくなるだろうからな」
「承知いたしました」
そう告げて、ジルは静かに執務室から出て行ったのだった。
「選挙終了まで、後、2週間ほどか・・・」
エディがそう呟いた。
選挙も後半に差し掛かってきている。
アッシュたちは、最近、エディが準備した茶と菓子を手にして、あちこちの演説先で振る舞い、人集めに成功しているようだ。
本来なら、役場前でするはずだったこの演説方法ではあるが、いきなり人の多い場でするよりも、小さな集落で試してからがいいのではないかと、事務所の手伝い人から提案がなされたらしく、役場前で行うのは最終にと持ち越されたようだ。
一方、ケーシー陣営も、ケーシー自身は真面目な青年のようで、至って、普通の戦略で選挙戦を行っているみたいだ。
ただ、彼は、父ウラスの命に忠実らしく、彼ら一族の地元の地には赴かなかったり、小さな集落を避けるなど、これまでウラスが行なってきたやり方を真似、目に見えた票のみ集めに走ってるみたいだ。
それがこの先、どう影響を及ぼすかだな・・・
おまけに、役場での税金事件、表立っては国が役場へ命令したとなっているが、町の人もバカではない。
仕組んでいるやつらは皆わかっている。
だが、これほどまでの大きな仕業に、ウラスたち以外の誰か大物が後ろにいることもわかるだけに、誰も大きな声を上げれないようだ。
「いつの間にか、大きな存在に、この町は取り込まれたみたいだな」
エディは、苦い顔をして思案する。
アッシュは思っていた以上に、「平民議員」としての自覚を持ちだし、町の人からの人気も得ている。
彼は謙虚であるが、正義感も強く、色々な場所に赴いては、その地での悩みに耳を向けているらしい。
エディは、自分の見立てた人物に間違いはなかったと、今更ながらにして思う。
ただ、このまま、アッシュが普通に選挙活動していても勝てるのか・・エディにしては珍しく、戸惑いが生じていく。
今、この町は、サンテの息子が起こした事件で騒がしい。
この燻ぶりが鎮火する前に動くしかない。
選挙で結果が出る前に、邪魔な奴らは捉えなければならない。
王都に住まう敵に、いつまでも自分の縄張りを荒らされては溜まったもんじゃない。
例の笑窪を作る女がカギを握っているのは間違いない。
その女から大物に辿り着ければいいのだが。
エディがそんなことを思っていると、執務室の扉を叩く音がした。
「入れ」
エディの入室許可の返事と共に入って来たのはカルロであった。
「すまない。ジルが来ているところ」
彼は入るなり、そう口にするが、室内を見渡してジルがいないことに気が付いた。
「ジルは報告が済んだので、帰したとこだ」
「そうだったのか?」
カルロはエディの言葉に納得して見せた。
「で、ジルからの王都での報告はどうだったんだ?」
持参した書類を、エディの執務机に置きながら、カルロはジルからの報告について伺った。
「あぁ、女の王都の居場所が割れた。こっちからラドたちが追いかけて辿り着いたようだ。そこに、ジムラルもいたらしい。ジムラルは、ロビンがウラスの娘から聞いたように、かなり重篤なようだ。あとは、所長は思った通り行方知れずだ」
カルロが持ち込んだ書類に目を通しながら、エディがジルからの報告を教える。
それにはカルロは無言で頷いていた。
「あぁそうだ。2日後に、また、ジルには王都へ戻らす。その際に、私も王都へ向かう。ここの仕事は、口がよく回り元気そうなクソ親父に頼んでおく。だから、カルロ、お前は親父の補佐と、アッシュらの方を頼む」
エディは顔を書類へ向けたまま、自分の予定を口にする。
その言葉に、カルロは少しニタニタと笑いだす。
「親父さん泣かせだね。優秀な会頭の仕事っぷりがわかったら、もう、お前ら夫婦の愚痴も吐けないかもな」
そう言いながら、エディが書類にサインをしたものをカルロは次から次へと拾っていく。
「お前が会頭になってから、仕事の域は格段に拡がった。傍から見てもわかるくらいだ。けど、実際に携わると、親父さん倒れるかもしれないな」
最後の資料を回収したら、カルロは声を出して笑いだす。
「まあ、留守は任せてくれ。きちんと、守っておくさ」
「頼んだぞ」
そう言って、エディはカルロに対して口角をあげてみせた。
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