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第1部 第47話
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ウラスの別邸から帰宅したサンテは、力なく社長室の椅子に座り、そして、頭を抱え込んでしまっていた。
サンテは、社長室に辿り着いてから、ずっと同じことを頭の中で繰り返していた。
ウラスに聞かされた話が本当なら、また、大金が請求される。
いや、あれが嘘だとしても、同じことだ。
息子の将来を思うと、跡形もなく消し去ってやらねばならない。
サンテは、そう思うと、椅子から立ち上がり金庫へ向かった。
彼がダイヤルへ手を伸ばし、暗証番号を合わせていると、社長室の扉がいきなり開いた。
「父さん、帰っていたのか?」
サンテは、長男の姿を一度目にしたが返事も返さず、再び、金庫へ向き合う。
その姿を見て、長男も金庫へ手を伸ばした。
「父さん、何しているんだ!やつらに、また、金を渡すのか?」
長男が身を挺して、金庫と父との間に体を滑り込ませて、父の行動を止めにかかる。
「ど、どけ!どくんだ!」
「ダメだ!払っちゃあ、ダメだよ!」
サンテが長男の体を金庫から退かせようと、長男を力づくに引っ張る。
しかし、長男もそれには抵抗して、二人はもみ合いになった。
「父さん!もう止めようよ!」
長男が父を諭すが、サンテには言葉が届かない状態だった。
「離せ!払わないと、払わないと、お前は一生、苦しめられる」
ふいに、父から漏れた言葉に、長男が父ともみ合っていた手を止める。
「ど、どういうことなんだ・・」
長男が青い顔して自分を見る姿に、サンテは自分が先程、無意識に口にしたことを理解して、今度は誤魔化そうと言葉を口にする。
「いや、何でもないんだ・・お前は気にするな・・」
「父さん!何でもなくない。僕の人生のことなんだろ?まさか、あの王都での事、終わっていなかったのか?」
長男の言葉に、サンテは黙り込むが、長男はその姿に父の肯定を感じた。
「話してくれよ!何があったんだ!」
長男は父の体に手をついて、大きく揺さぶり、彼に答えを求める。
サンテは、観念したかのように小さな声で、ウラスから聞いたことを息子に話し出した。
その話に、長男は言葉を無くして、体からさえも力が抜けてだらりとなっていった。
「だ、大丈夫だ。父さんが何とかする。これを払えば、もう大丈夫だ。お、お前は、心配するな」
サンテは力なく座る息子の肩に手をついて一人頷いていた。
そして、息子を納得させたと思い込み、サンテは息子から離れて、金庫に再び手を伸ばす。
今度は、誰にも止められることなく、サンテは金庫から金を取り出し、近くにあったカバンへ手を伸ばし、金をジャラジャラと詰め込んでいった。
だが、そんな父の姿は、長男の瞳には映っていなかった。
「とにかく、行ってくる。お前は、気にしなくていい。いいか、わかったな!」
サンテは放心状態の息子を社長室へ残したまま、大金を手にまた出かけて行ったのだった。
その時、長男は瞳から一滴の涙を零していた。
それから数日が過ぎた夜、トウの町に大きなニュースが飛び込んできた。
トウの町の中心部から少し東に外れた町工場で、事業主の息子の一人が工場の裏にある木に紐を掛けて首を吊ったと。
幸いに、発見が早く、その場に居たものたちでの対応も良かったので一命は取り留めたようだが、彼の意識は混濁していて、まだ、油断がならないらしい。
その出来事は、ウラスの家にも届き、彼の娘である長女はそれに驚き、言葉を無くしてしまう。
「う、そ、嘘でしょう・・どうして、そんなことを」
長女は涙を流して取り乱していた。
「彼は、王都で恋人が出来て、幸せだったのではなくて?」
そう、ウラスの長女と、サンテの長男は、はっきりとした約束を交わした訳ではないが、小さな時から互いに結婚をしなければと思いこんでいた相手だった。
しかし、ウラスの長女の可愛げない態度が成長と共に増していき、サンテの長男は、この結婚に難色を示す様になった。
年齢が上がってからの、その行動により長女は不安と焦りから、ますます、長男に辛くあたり、とうとう、二人では埋める事が難しい溝が出来てしまっていた。
そんな時に、弟ケーシーが気晴らしにと王都行きを提案し、彼も当初は渋っていたが弟のしつこい誘いに負けたのか、ある日快諾して弟と共に王都に旅立って行った。
出掛ける際には、弟ケーシーからも、「気分転換したら、結婚のことも考えが変わるはずさ」と言い残され、長女は渋々だが見送ったのだった。
しかし、思いがけないことが起きた。
帰宅予定の日を過ぎても、二人が帰らない。
そんな時に、父ウラスから、「どうやら、王都で好きな女が出来たようで、入り浸ってるらしい」と聞かされた。
長女は父の話に驚き、言葉を失う。
「諦めた方がいいだろうな」
父は、目を伏せて、長女と目線を合わせずにそう言い放った。
そこからは、長女は自分がこれから先どうしたらいいのかわからずだった。
母と妹に連れられ、茶会やパーティ―に足蹴く通うが、自分の年齢のせいもあり、悉く上手くいかない。
日にちが経つに連れて、サンテの息子のことは苦い思いのまま蓋をし、あの男よりもいい男を見つけてやる!、と、そんな対抗心に気持ちを変えていった・・・つもりだった。
でも、今、長男の話を聞いて、長女は深い悲しみに覆われた。
「神様、どうか、彼を助けてください」
長女は、普段信仰心を持ち合わせてもいないので、神に祈ることなんてほとんどない。
だけども、今宵は、窓に浮かぶ月を見やり、床に膝を付き両の手を胸の前で組んで、自然と祈りを捧げる。
「お願いです。彼が助かるなら、私は何でもします。だから、どうか、どうか、彼を救ってください」
長女は目に涙を溜めて、ただ、ひたすらと、サンテの長男の回復を願う。
「お願い、助けてください」
暗がりの部屋で、小さな声が漏れるのであった。
サンテは、社長室に辿り着いてから、ずっと同じことを頭の中で繰り返していた。
ウラスに聞かされた話が本当なら、また、大金が請求される。
いや、あれが嘘だとしても、同じことだ。
息子の将来を思うと、跡形もなく消し去ってやらねばならない。
サンテは、そう思うと、椅子から立ち上がり金庫へ向かった。
彼がダイヤルへ手を伸ばし、暗証番号を合わせていると、社長室の扉がいきなり開いた。
「父さん、帰っていたのか?」
サンテは、長男の姿を一度目にしたが返事も返さず、再び、金庫へ向き合う。
その姿を見て、長男も金庫へ手を伸ばした。
「父さん、何しているんだ!やつらに、また、金を渡すのか?」
長男が身を挺して、金庫と父との間に体を滑り込ませて、父の行動を止めにかかる。
「ど、どけ!どくんだ!」
「ダメだ!払っちゃあ、ダメだよ!」
サンテが長男の体を金庫から退かせようと、長男を力づくに引っ張る。
しかし、長男もそれには抵抗して、二人はもみ合いになった。
「父さん!もう止めようよ!」
長男が父を諭すが、サンテには言葉が届かない状態だった。
「離せ!払わないと、払わないと、お前は一生、苦しめられる」
ふいに、父から漏れた言葉に、長男が父ともみ合っていた手を止める。
「ど、どういうことなんだ・・」
長男が青い顔して自分を見る姿に、サンテは自分が先程、無意識に口にしたことを理解して、今度は誤魔化そうと言葉を口にする。
「いや、何でもないんだ・・お前は気にするな・・」
「父さん!何でもなくない。僕の人生のことなんだろ?まさか、あの王都での事、終わっていなかったのか?」
長男の言葉に、サンテは黙り込むが、長男はその姿に父の肯定を感じた。
「話してくれよ!何があったんだ!」
長男は父の体に手をついて、大きく揺さぶり、彼に答えを求める。
サンテは、観念したかのように小さな声で、ウラスから聞いたことを息子に話し出した。
その話に、長男は言葉を無くして、体からさえも力が抜けてだらりとなっていった。
「だ、大丈夫だ。父さんが何とかする。これを払えば、もう大丈夫だ。お、お前は、心配するな」
サンテは力なく座る息子の肩に手をついて一人頷いていた。
そして、息子を納得させたと思い込み、サンテは息子から離れて、金庫に再び手を伸ばす。
今度は、誰にも止められることなく、サンテは金庫から金を取り出し、近くにあったカバンへ手を伸ばし、金をジャラジャラと詰め込んでいった。
だが、そんな父の姿は、長男の瞳には映っていなかった。
「とにかく、行ってくる。お前は、気にしなくていい。いいか、わかったな!」
サンテは放心状態の息子を社長室へ残したまま、大金を手にまた出かけて行ったのだった。
その時、長男は瞳から一滴の涙を零していた。
それから数日が過ぎた夜、トウの町に大きなニュースが飛び込んできた。
トウの町の中心部から少し東に外れた町工場で、事業主の息子の一人が工場の裏にある木に紐を掛けて首を吊ったと。
幸いに、発見が早く、その場に居たものたちでの対応も良かったので一命は取り留めたようだが、彼の意識は混濁していて、まだ、油断がならないらしい。
その出来事は、ウラスの家にも届き、彼の娘である長女はそれに驚き、言葉を無くしてしまう。
「う、そ、嘘でしょう・・どうして、そんなことを」
長女は涙を流して取り乱していた。
「彼は、王都で恋人が出来て、幸せだったのではなくて?」
そう、ウラスの長女と、サンテの長男は、はっきりとした約束を交わした訳ではないが、小さな時から互いに結婚をしなければと思いこんでいた相手だった。
しかし、ウラスの長女の可愛げない態度が成長と共に増していき、サンテの長男は、この結婚に難色を示す様になった。
年齢が上がってからの、その行動により長女は不安と焦りから、ますます、長男に辛くあたり、とうとう、二人では埋める事が難しい溝が出来てしまっていた。
そんな時に、弟ケーシーが気晴らしにと王都行きを提案し、彼も当初は渋っていたが弟のしつこい誘いに負けたのか、ある日快諾して弟と共に王都に旅立って行った。
出掛ける際には、弟ケーシーからも、「気分転換したら、結婚のことも考えが変わるはずさ」と言い残され、長女は渋々だが見送ったのだった。
しかし、思いがけないことが起きた。
帰宅予定の日を過ぎても、二人が帰らない。
そんな時に、父ウラスから、「どうやら、王都で好きな女が出来たようで、入り浸ってるらしい」と聞かされた。
長女は父の話に驚き、言葉を失う。
「諦めた方がいいだろうな」
父は、目を伏せて、長女と目線を合わせずにそう言い放った。
そこからは、長女は自分がこれから先どうしたらいいのかわからずだった。
母と妹に連れられ、茶会やパーティ―に足蹴く通うが、自分の年齢のせいもあり、悉く上手くいかない。
日にちが経つに連れて、サンテの息子のことは苦い思いのまま蓋をし、あの男よりもいい男を見つけてやる!、と、そんな対抗心に気持ちを変えていった・・・つもりだった。
でも、今、長男の話を聞いて、長女は深い悲しみに覆われた。
「神様、どうか、彼を助けてください」
長女は、普段信仰心を持ち合わせてもいないので、神に祈ることなんてほとんどない。
だけども、今宵は、窓に浮かぶ月を見やり、床に膝を付き両の手を胸の前で組んで、自然と祈りを捧げる。
「お願いです。彼が助かるなら、私は何でもします。だから、どうか、どうか、彼を救ってください」
長女は目に涙を溜めて、ただ、ひたすらと、サンテの長男の回復を願う。
「お願い、助けてください」
暗がりの部屋で、小さな声が漏れるのであった。
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