<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第40話

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翌日、昨日のメイから聞いた話が気になり、アッシュは身支度を整えてから、一度、事務所へ向かい、今日の予定の変更を他の手伝い人の人に伝えてから、ラドと共に役場へと向かう事にした。



「すまないな。付き合わせてしまって」



アッシュが、ラドに申し訳なさそうに言い、それから、簡単に、昨日、メイから聞いた話を伝える。



「へえー、役場でそんな騒動があったんですか?」



ラドが珍しく驚いた顔をみせた。



「うん、たぶん、元上司のセフィが絡んで、何かやっているんだと思う」



アッシュは歩きながら、ラドに自分の予想していることまで告げる。



「それと、昨日、メイたちから聞いたんだけど、どうもあいつら、エディさんからの指示で、ケーシー主催のパーティーに行ったみたいなんだ。何でも、あっちから招待状が来たとかで、仕方なしでの参加だったようなんだけど。そのパーティーで何かあったんじゃないかと・・・」



アッシュは頭を振りながら、「私も良くはわからないんだけども」と最後は呟くようになっていた。



その話に、ラドは「ほぉー、そんなパーティ―があったんですねぇ」と感心しきりだ。



何だか、その姿に、少しわざとらしさを感じたが見なかった事にした。



そんなやり取りをしていると、目的の役場に着いた。



アッシュは、ラドに目で合図を交わして役場へと入って行った。



二人が役場に入ると、アッシュがこれまであまり見た事のない光景が広がっていた。



「えっ?何だ、この人だかりは!」



アッシュとラドの目線の先には、役場の窓口に詰め寄る人でいっぱいだ。



二人が驚きで、言葉を失っていると、嫌な男の声が聞こえてきた。



「だから!昨日も話した通り、もう、今月は税金の納期の期日は過ぎているんだよ!あんたたちもしつこいな!」



それは、縁故採用で有名な?元先輩であるケントである。



半ば、キレ気味に対応しているようで、言葉も乱暴であった。



そんな光景を見ていると、小さく自分を呼ぶ声が近くで聞こえて来た。



「アッシュ・・オイ!アッシュ!」



声の方をみると、そこには退職の挨拶をしに来た際に、激励をしてくれた先輩の一人がいた。



「お前、何しに来たんだ?」



先輩は小声で問い掛けてきた。



「いや、ちょっと、所長に会いに来て・・・」と、こちらも小声で話をする。



「所長かぁ、3日前に出張に出たっきりさ。ホラ?いつもは、あのセフィが行ってた、定期的なやつ」



先輩が、いつもセフィが座っている席の方向を顎でクイッと示して見せながら教えてくれた。



「所長が珍しく出張へ急に行ったと思ったら、昨日から、これだし・・」



今度は、人垣を捌こうと声を張りあげるケントの方を、また、顎でクイッと指し示す。



「あれって、昨日、妹から聞いたんですが、税金の納期の期限の変更とかの話ですよね?」



アッシュは、ケントに見つからない様に声も体も少し下げて、先輩に問う。



「そうだよ。こっちも意味がわからなくてな。いきなり、通達が来たとかで、セフィが朝礼で報告してきてさ。ケントたち以外はおかしいって反論したんだけど、国からの通達だからって言いきるばかりで。昨日から、町の人は押しかけるわで、大変でさ」



先輩は肩を落として項垂れている。



「通達の用紙は確認されましたか?」



「いや、遠目でヒラヒラと見せられただけで、直接は見せて貰えていない。明らかに、アレは偽造だろうよ」



先輩は首をただ横に振るだけだった。



そんな時に、アッシュの姿を見つけた奴がいた。すかさず、ラドが「親分ネズミが来ますよ」と耳打ちしてくれる。



「オイ!何しに来た!」



声を掛けてきたのは、元上司セフィだった。



「こんにちは。今日は役場なら人も多いので、選挙活動には良いかなと思いまして。ついでに、所長や懐かしい皆さんのお顔を見たくなって中まで入ってきてしまいました」



アッシュにしては、珍しくわざとらしいしゃべりに、セフィが唇を大きく歪めて、睨みつけてきた。



そんな姿に屈することなく、アッシュは更なる言葉で、相手にしかけに行く。



「しかし、今日は大盛況ですね?こんなんだと、所長も大変ですね。ご挨拶したいんですがね?」



アッシュの言葉に、セフィが更に、顔に怒りをのせて歪めていく。



「あいにくだったな。所長は留守だ!用事は済んだだろう。もう帰れ!」



セフィが苛立ちまぎれに、怒鳴るようにアッシュを追い払おうとした時、人垣の中から、アッシュに向ける声がした。



「あんた!役場にいたアッシュさんじゃないか?」



大きな声が人垣からしたと思えば、周りの人達の目が、アッシュに注目する。



「本当だ!アッシュさんだ!」



誰かの声のお陰で、人垣がアッシュの元に移りだす。



「なぁ、聞いてくれよ。いきなり、税金の期限が連絡もなく変わってて、その期日に間に合ってないからとかで、俺らに追加で徴収するとか言うんだよ。あんまりだと思わねえーか?こんなこと、あんたが居た時はなかったよな?」



「そうなのよ。昨日ね、おばあちゃんが支払いにきたら同じこと言われたらしくてさ。驚いてねぇ」



「役場ってこんなことしていいのかい?」



「アッシュさん、追加でなんてうちは払えねーよ。何とかしてくれよ!」



役場の人間ではないアッシュに、色々な人が縋りつく。



そんな姿に、アッシュは胸を締め付けられる思いがしてくる。



「それはおかしいですね。税金の納付期限は国が定めたもの。それが皆に通達もなく、また、猶予も持たせずに、期限設定なんてありえない話です。追加徴収なども、悪質と見做されたものなど、規定があったはず。何より、所長が出張で不在の時期に国からの通達及び、執行はないはずです!」



アッシュの言葉に、役場に詰めかけた人達は、皆驚き、ざわつき出す。



「じゃあ、これは嘘だったの?」



誰かが代表するかのように、そんな疑問を口にした時、それに対するように大きな声がした。



「嘘ではないです!ちゃんと、国の機関から通達が来ています!」



そう言って、セフィが紙を懐から出して、その用紙をちらつかせる。



遠目からではわかりずらいが、何やら赤い色した判がつかれているのはわかる。



その為、アレが偽造されたものであろうとは誰にもわからない。ここに居る者たちには、本物にしか見えない。



その用紙の出現のせいで、人々は、先程のアッシュの言葉で希望を見いだしていたのに、また、どん底に突き落とされてしまった。



「本当に、それが国からの通達か確認したい!」



アッシュは、このままの流れでは逃げられそうになって来た為、引き止めようと食い下がる。



がしかし、セフィは「部外者であるお前に見せれる訳がないだろう!さっきも言ったが、所長はいない、お前は帰れ!」



大声と共に鋭い睨みを突き付け、アッシュの言葉を押し退ける。



「アッシュさん、ここは引きましょう。あの親分ネズミ、ちょっと、今日は、この前と違い、殺気立っていますね」



ラドが、アッシュに再び小さく耳打ちをして、ここは引かせるように誘ってきた。



「あぁ。そうだな」



セフィの目は血走り、何だか後がないような雰囲気をだしている。



何に苛立ちを見せているのかわからないが、やけに、今日はいつもの冷静さを完全に失っている。



「所長が帰られたら、また伺います」



アッシュも、セフィをぎっと睨み返し、今は役場を引き上げる事にしたのだった。
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