<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第39話

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その日、アッシュが自宅に帰ると、涙目のメイに出迎えられた。



「兄さぁーん、良かったよー」



アッシュは、妹に飛び掛かるように抱きつかれて、少々、疲れからかよろめいてしまった。



おまけに、その後、メイに胸元を何度も拳で叩かれて、かなり痛い。



「もう、心配したんだからね!今日は役場にまで行方不明の手続きで向かったのよ!そしたら、手続き前に、兄さんとこの事務所の人に声掛けられて」



メイは拳をぶつけながら、そんな事をいう。



『間に合って、良かったぁ』



アッシュは思わず胸を撫でおろして、安堵したのは言うまでもない。



「メイ、心配かけてすまなかった」



アッシュは謝罪の言葉を口にしてから、やんわりとメイの暴力から逃げた。



「それよりも、メイ、夕飯にしようよ。お義兄さんも疲れているんだしさ。話はそこでしない?」



アッシュとメイの感動?の再会は、一旦終わり、夕飯の席でとそれぞれが部屋へ一度向かうことにした。



再び、アッシュがメイと顔を合わせたのは、夕飯の為にダイニングで席に着いたときだった。



そこには、他の家族も勢揃いだ。



父ウォルトとも久々に顔を合わせ、一家団欒となっている。



「そう言えば、父さんは仕事どうしているんだ?」



ふと、父親の最近の様子がわからず、問い掛けてみると、父ウォルトの目が泳ぐ。



『まさか?、まだ、引きこもりか・・・』



アッシュは怪訝に思いながらも、更に問い詰めようと口を開きだす。



「父さんが働いてくれないと、うちは今、男手は皆、無職じゃないか!いや、収入はないが、私もロビンも一応仕事はしている。選挙に向けてな。で、父さんはどうなんだ?まさか、働いてないとかじゃないよな?」



アッシュが、父を睨むが、ウォルトはその視線を避けて「ご飯にしようか?」といい、手を組み祈りだす。



「まあまあ、今日は良いじゃないの?父さんも、昨日は、兄さんのこと心配して起きてたみたいだし。ねっ!」



メイがアッシュの攻撃をかわして、父を守り出した。



「そうですよ。お義兄さんを心配されて起きてらしたのは事実ですよ。だって、朝に、フェイへ素敵な熊の木彫りをくれましたからね!」



続くロビンの言葉に、アッシュは大きなため息を零す。



確かに、アッシュの視界には、ダイニングには見慣れない鮭を加えた熊の木彫りがあった。



『あれを作り上げたのか・・・しかも、乳飲み子に?』



頭痛がしてきた・・・



そんなアッシュを見たメイが、自分の横に座る夫のロビンに肘鉄をお見舞いしていた。



「痛いよ、メイ・・」



涙目になりながらロビンはメイを見るが、メイは白い目でロビンを睨んでいる。



「そんな事よりも、兄さん聞いてよ!」



メイが場の空気を変えようと、今日、役場に赴いた話をし出した。



アッシュは、先程出た話をきちんと聞いておくべきだと、こちらも父の事は置いておき、改めて、メイの話に耳を傾けた。



「もう昨日連絡なくて、今日も昼過ぎても連絡ないから焦っちゃって、役場に行ったのよ。でも、相談?届け出?をする前に、兄さんの事務所の方に声掛けて貰って、兄さんのことは言わなかったんだけどもね」



メイは、夕飯のパンを口に放り込み、一度、話を中座した。



「ふーん、間に合って良かったね!」



ロビンはサラダを口にいれて、メイの話に相づちを打つ。



「うん、それは良かったんだけどね・・今日、ちょっと役場でさ、妙なやり取り聞いちゃって」



メイの言葉に、その時、家族が一応に動きを止めた。



「何かあったのか?」



メイの話から役場での事態と知り、アッシュは急に真顔になり、メイに話を急かせる。



「うん、一人のおばあさんが税金納めに来ていたみたいなんだけど。それに対して、ホラッ!縁故で有名なケントだっけ?あれが対応していたんだけど、税金の受付時期が終わってるから滞納になるとかで、追加徴収があるとか言ってて、大喧嘩になっててね」



メイが口を尖らせながら、そんなありえない話をしてきた。



「えっ?それ、どういうことだ?今月の納入期限はまだ先だろ?」



つい先日まで、役場に居たアッシュにも信じれない話である。



「そうなのよ。そのおばあさんも同じこと言っていたの。けど、ケントが、最近、決まったとかで引かないのよねぇ」



おばあさんが余りにも可哀そうだったと、メイはぶすっとして言う。



「いや、待て!それはおかしいぞ!トウの町で勝手に納期の期限は変えられない。あれはビスタ共通の期日で、役場はただの窓口にしか過ぎないんだぞ!」



アッシュは、食事の手を止めてしまい、また、目を大きく見開き、信じられないと呟いている。



「いつから、そうなってる?」



アッシュの言葉に、母がすかさず答えてきた。



「私が二日ほど前に納めに行ったら、何もなかったわよ」



母の言葉に、メイが「へえー、そうなんだ」と頷く。



「じゃあ、本当にごく最近決まったってことですか?」



ロビンも首を傾げながら疑問を口にした。



「ここ最近、会議で急に決まるとかあるの?」



メイも同じく首を傾げていく。



「だから、ある訳がないんだよ!国が定めているんだ。できっこない。それをやるってことは、何か役場であったに違いないな。しかも、所長が感知していない所だろうな」



アッシュは苛立ちげに言い放つ。



「えぇー、それ!大変じゃないの!」



メイが大きな声で驚いてみせた。



「ところで、所長は今日いたのか?」



そんなメイの大きな声も気にもしないで、アッシュが再び、メイに問うが、メイは首を横に振り、「見かけなかったわ」と不安げな顔をしてきた。



「ちょっと、ヤバいかもな。最近、何かあったか?」



アッシュは一人思案してみるが、最近の役場の様子は全く情報がない。『所長と会ってみるか・・』と思っているところに



「最近と言えば、パーティーしかないよね?」



ロビンがもぐもぐと今夜のメインである鶏肉のソテーを食べながら、そんな事を言い出した。



「やだ、ロビン、それは役場とは関係ないでしょう?」



「そうかな?だって、納期の変更を言っているのは、ケントだろ?あいつは、ウラスの甥だろ?」



メイのツッコミに、ロビンは顔色を変えずに、そんな具体的な指摘をしてみせる。



「確かにそうだけど。パーティ―は、私たち以外は変わりないように見えたけど・・・」



メイとロビンが、先日のパーティ―について何やら言い出しているのを、アッシュは初めはただ聞いていた。



「なあ、さっきから、パーティ―がって。先日のか?」



「ええ、そうよ。あれ、エディお義兄さん宛に来たケーシーの激励会的なのだったの」



アッシュは今一状況がつかめなくて、メイにパーティ―について問い掛けると、アッシュの予想を超える答えが返って来た。



「えっ!待て!お前たち、ケーシーのパーティーに呼ばれたのか?」



兄の言葉に、メイがこくりと頷く。



「あっ、言っておきますが、不本意ですからね。兄さんから指示があって・・」



ロビンも小さくなりながら告げてくる。



「何、考えてるんだ!」



アッシュの大きな声に、メイがびくりとしたので、アッシュもそれを見て謝る。



「すまん。お前らにじゃない。ケーシーらにだよ。多分、激励会で何かあったんだな・・」



アッシュの言葉に、メイとロビンが顔を見合わせる。



『ふえーん。何かあったって、あの事かな?』



『でも、絡んできたのはあっちだし、それじゃないんじゃないか?』



メイとロビンはひそひそと話をし出す。



「とりあえず、明日、役場に顔を出すよ。あと、わかれば、そのおばあさんの特徴とか教えてくれ。もしかしたら、わかるかもしれないからな。もし、誰かわかれば会いに行ってみるよ」



アッシュの言葉に、メイが「うん」と頷いた。



『これは大変なことになっているかもしれないな・・』



アッシュは、ワインに手をやりながら、色々と思考を巡らせる。



そして、静かにワインを飲みほしたのだった。



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