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第1部 第38話
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アッシュは疲れた顔を見せていた。
それは、アッシュと共に牧草地方面に演説をしに行った面々、皆がそうであった。
あっ、ひとり例外がいた、ラドである。
彼の美しい顔には疲れは全く見えず、今日も麗しいご尊顔は健在だった。
そんな一行を、ロビンはじめ、事務所で留守を言いつかっていた面々が出迎えてくれた。
昨日の朝ぶりの再会である。
しかも、もう夕方。
あの日、隣町で宿を探し、また、壊れた車輪の換えを求めて奔走し、翌朝である今日も車輪の付け替えなどと忙しく動いた中、皆が疲れた体に鞭打つ感じで、励まし合いながら帰路に着いたのだった。
確か、同じトウの町を移動したはずだが?と、また、怒りが込み上げてくる。
そんなアッシュらに、ロビンたちが茶を出して労わる。
「お疲れ様です。昨日は、連絡もなく帰って来ないから、皆、心配していました。今日、帰らないようなら、そちらに人をやり、駐屯騎士にも捜索を頼もうかと思っていたんですよ」
ロビンがいつになく、不安気な言い方をしてくる。
余程、昨日は心配をかけたようだ。
「すまなかった。連絡の取りようがなくてな」
アッシュは申し訳なさげに、目を伏せてみせる。
「まぁ、でも良かったです。特に、昨日はメイが心配していて。もしかしたら、今日は駐屯騎士か役場に行ってるかもしれないな?」
何気ないロビンの言葉にアッシュが慌てだす。
「えぇ!、メイがかっ?」
アッシュの焦りに、傍にいた手伝い人が「僕、見てきますね!」と事務所を飛び出し掛けて行ってくれた。
「良かった・・・」
アッシュは、はあと息をつき、安堵した。
これ以上、ややこしいことになり、疲れを増やされたら堪らない。
そう思いながら、入れて貰ったお茶を口にした。
『うーん、疲れた体に染みるわぁ』
少し落ち着いたことから、ロビンに昨日の事務所での報告を聞いてから、今日は早々に手伝い人たちを解散させた。
「で、どうでした?」
ロビンが手伝い人たちを見送ってから、アッシュとラドに聞き入る。
「なかなか、鮮烈な歓迎を受けたな・・」
アッシュが眉間の皺を指でほぐしながら伝える。
「しかも、凄く酷い状況だ。おかげで、「平民議員」の存在自体を毛嫌いしている」
その言葉に、ロビンも驚いてしまう。
「でも、少し話が出来たりして歩み掛けたりもしたんだが、馬車の車輪が壊されたのをきっかけに、完全に歩み寄る姿勢が途切れた」
お手上げさ!と、手ぶりも含めて伝えると、ロビンも黙ってしまった。
「まあ、でも、アッシュさんにしては珍しく、やる気が漲りましたよね?」
そんな会話の最中、ラドが涼やかな顔をアッシュへ向けてきた。
「へえー、そうなんだ?」
ロビンもが物珍し気に見つめてくる。
「いやぁ、まあ、なんて言うか・・・元役場の人間として堪えがたい話だったからな」
アッシュは、目線を下げて呟いてみせた。
「自分が「平民議員」となったからって、あの地が変わるとは言い難いが、でも、何とかしないといけないとは思ってはいる」
「凄いじゃないですか?お義兄さんがそんな風に思えるなんて!」
ロビンは目を輝かせながら、アッシュの言葉に頷いている。
そんな二人の会話が終わりかけた頃、ラドが思い出したとばかりに急に告げだした。
「ところで、あちらでは言いませんでしたが、馬車の件は調べますか?まあ、犯人の目的なども見えてますし、すぐに犯人もわかると思いますが?」
ラドが「どうされますか?」と聞いてきた。
それには、アッシュもすぐに答えを告げる。
「ああ、頼むよ。犯人が付き出されたら、他の住民も過ごしやすくなるんじゃないかな?こちらは、大元をきちんと突き止めて。それから、車輪代と宿泊費は返して貰いたいな」
アッシュの言葉を受けてから、ラドが「はい、承知しました」と返事をし、美しいが冷たい微笑みをみせた。
「あと、ロビン?悪いんだけど、エディさんにウラスの叔父のジムラルについて、解る範囲で調べて貰ってくれないか?」
「いいですけど・・あのじじい、あまり最近はこの町にはいないみたいですよ。どうやら、王都にいるみたいですね」
ロビンが、自分が知る情報として話をしてくれる。
「肩書は、ここの役場の役員扱いで、未だに公人らしいんですが。けれど、実際は、ほぼ王都にいるとか」
アッシュはロビンの話に眉間の皺を深めてゆく。
「公人でいるのに仕事もしないで。しかも、この町にいないって、どうなっているんだ!どおりで、役場で会ったことがないはずだ!」
「うん。最近は、王都に何かあるのか、入り浸りらしいですね。会合にも出ないから、会議も進まないとか噂には聞いています」
「どういう事だ!公人って、町の皆が収めた税金から給金が支払われているんだぞ!それを放棄しているだなんて!」
アッシュは疲れも吹き飛んでいくくらい、猛烈に怒りが込み上げてきた。
「皆、一生懸命働いて、大切なお金を町や国に納めているっていうのに」
酪農業で働く人たちの切なる話も後を押し、アッシュは、両の拳を握りしめながら唇をぐっと噛みしめた。
「取り敢えず、うちの兄さんに詳しく現状を調べて貰うように言いいますね?」
ロビンもアッシュの気持ちに寄り添うように、兄エディへの依頼について引き受けた。
「すまん、忙しいところ申し訳ないが、エディさんには宜しく言っておいてくれ」
アッシュはロビンに頭を下げ、また、ロビンも「はい」と応えて頷いてみせる。
これは絶対に変えないといけない。
あってはいけない状態にまできている。
自分は今まで何をしてきたんだろうと、本気で、アッシュは思いつめる。
知ってしまった以上、自分に出来る事はやらないと、町が、人が潰れてしまう。
そんな思いが胸の中に芽生えたアッシュは、今まで以上に、この戦いで勝つことを意識したのだった。
それは、アッシュと共に牧草地方面に演説をしに行った面々、皆がそうであった。
あっ、ひとり例外がいた、ラドである。
彼の美しい顔には疲れは全く見えず、今日も麗しいご尊顔は健在だった。
そんな一行を、ロビンはじめ、事務所で留守を言いつかっていた面々が出迎えてくれた。
昨日の朝ぶりの再会である。
しかも、もう夕方。
あの日、隣町で宿を探し、また、壊れた車輪の換えを求めて奔走し、翌朝である今日も車輪の付け替えなどと忙しく動いた中、皆が疲れた体に鞭打つ感じで、励まし合いながら帰路に着いたのだった。
確か、同じトウの町を移動したはずだが?と、また、怒りが込み上げてくる。
そんなアッシュらに、ロビンたちが茶を出して労わる。
「お疲れ様です。昨日は、連絡もなく帰って来ないから、皆、心配していました。今日、帰らないようなら、そちらに人をやり、駐屯騎士にも捜索を頼もうかと思っていたんですよ」
ロビンがいつになく、不安気な言い方をしてくる。
余程、昨日は心配をかけたようだ。
「すまなかった。連絡の取りようがなくてな」
アッシュは申し訳なさげに、目を伏せてみせる。
「まぁ、でも良かったです。特に、昨日はメイが心配していて。もしかしたら、今日は駐屯騎士か役場に行ってるかもしれないな?」
何気ないロビンの言葉にアッシュが慌てだす。
「えぇ!、メイがかっ?」
アッシュの焦りに、傍にいた手伝い人が「僕、見てきますね!」と事務所を飛び出し掛けて行ってくれた。
「良かった・・・」
アッシュは、はあと息をつき、安堵した。
これ以上、ややこしいことになり、疲れを増やされたら堪らない。
そう思いながら、入れて貰ったお茶を口にした。
『うーん、疲れた体に染みるわぁ』
少し落ち着いたことから、ロビンに昨日の事務所での報告を聞いてから、今日は早々に手伝い人たちを解散させた。
「で、どうでした?」
ロビンが手伝い人たちを見送ってから、アッシュとラドに聞き入る。
「なかなか、鮮烈な歓迎を受けたな・・」
アッシュが眉間の皺を指でほぐしながら伝える。
「しかも、凄く酷い状況だ。おかげで、「平民議員」の存在自体を毛嫌いしている」
その言葉に、ロビンも驚いてしまう。
「でも、少し話が出来たりして歩み掛けたりもしたんだが、馬車の車輪が壊されたのをきっかけに、完全に歩み寄る姿勢が途切れた」
お手上げさ!と、手ぶりも含めて伝えると、ロビンも黙ってしまった。
「まあ、でも、アッシュさんにしては珍しく、やる気が漲りましたよね?」
そんな会話の最中、ラドが涼やかな顔をアッシュへ向けてきた。
「へえー、そうなんだ?」
ロビンもが物珍し気に見つめてくる。
「いやぁ、まあ、なんて言うか・・・元役場の人間として堪えがたい話だったからな」
アッシュは、目線を下げて呟いてみせた。
「自分が「平民議員」となったからって、あの地が変わるとは言い難いが、でも、何とかしないといけないとは思ってはいる」
「凄いじゃないですか?お義兄さんがそんな風に思えるなんて!」
ロビンは目を輝かせながら、アッシュの言葉に頷いている。
そんな二人の会話が終わりかけた頃、ラドが思い出したとばかりに急に告げだした。
「ところで、あちらでは言いませんでしたが、馬車の件は調べますか?まあ、犯人の目的なども見えてますし、すぐに犯人もわかると思いますが?」
ラドが「どうされますか?」と聞いてきた。
それには、アッシュもすぐに答えを告げる。
「ああ、頼むよ。犯人が付き出されたら、他の住民も過ごしやすくなるんじゃないかな?こちらは、大元をきちんと突き止めて。それから、車輪代と宿泊費は返して貰いたいな」
アッシュの言葉を受けてから、ラドが「はい、承知しました」と返事をし、美しいが冷たい微笑みをみせた。
「あと、ロビン?悪いんだけど、エディさんにウラスの叔父のジムラルについて、解る範囲で調べて貰ってくれないか?」
「いいですけど・・あのじじい、あまり最近はこの町にはいないみたいですよ。どうやら、王都にいるみたいですね」
ロビンが、自分が知る情報として話をしてくれる。
「肩書は、ここの役場の役員扱いで、未だに公人らしいんですが。けれど、実際は、ほぼ王都にいるとか」
アッシュはロビンの話に眉間の皺を深めてゆく。
「公人でいるのに仕事もしないで。しかも、この町にいないって、どうなっているんだ!どおりで、役場で会ったことがないはずだ!」
「うん。最近は、王都に何かあるのか、入り浸りらしいですね。会合にも出ないから、会議も進まないとか噂には聞いています」
「どういう事だ!公人って、町の皆が収めた税金から給金が支払われているんだぞ!それを放棄しているだなんて!」
アッシュは疲れも吹き飛んでいくくらい、猛烈に怒りが込み上げてきた。
「皆、一生懸命働いて、大切なお金を町や国に納めているっていうのに」
酪農業で働く人たちの切なる話も後を押し、アッシュは、両の拳を握りしめながら唇をぐっと噛みしめた。
「取り敢えず、うちの兄さんに詳しく現状を調べて貰うように言いいますね?」
ロビンもアッシュの気持ちに寄り添うように、兄エディへの依頼について引き受けた。
「すまん、忙しいところ申し訳ないが、エディさんには宜しく言っておいてくれ」
アッシュはロビンに頭を下げ、また、ロビンも「はい」と応えて頷いてみせる。
これは絶対に変えないといけない。
あってはいけない状態にまできている。
自分は今まで何をしてきたんだろうと、本気で、アッシュは思いつめる。
知ってしまった以上、自分に出来る事はやらないと、町が、人が潰れてしまう。
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