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第1部 第31話
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広い室内の片隅に、いつもの美しすぎる顔を消した姿で、ラドが微笑んでいる。
『あれは、ラドだよな?』
一点を凝視して、ロビンが動きを止める。
それに呼応したかのように、前髪の長い黒縁眼鏡の男がこちらへと歩み寄ってくる。
「こんばんは」
いつもの声より声質まで変えたラドが、ロビンへ声を掛けてきた。
「こんばんは」
ロビンもラドの動きに合わせて返事をしてみる。
「初めましてですよね?ハロルド商会の、えっと、弟君の方ですよね?」
ラドが少し思案したフリをして、そんな風に、ロビンに尋ねる。
「ええ、よくご存じですね?あなたは?」
ロビンは、ラドの芝居にのり、ラドの役割について思考を巡らせる。
「あぁ、申訳ありません・・先に名乗らず。僕は、王都に住まうキャドといいます。今、各地での選挙状況を把握する為に、各地を回っているところなんですよ」
と言って、笑って見せた。
「へえー、じゃあ、お役人の方ですか?」
ロビンは感心しながらも、問い掛けてみる。
「いやぁ、そういう立場ではないんですが、あまり大きな声では言えない立場でして」
大げさなくらいに、肩を窄めてみせるラドにロビンは吹き出しそうになる。
「あぁ、なるほど!、大変なお仕事なんですね?」
などと、ロビンがラドとの会話を楽しんでいたら、今宵のパーティーの為に用意された高級な上着の袖が引かれた。
ロビンが振り返ると、メイが可愛い顔に大きな皺を刻み、睨んでいる。
「うん?」と、メイに目線で訴えると、メイが顎先を動かし、「周りを見てよ!」と無言の指示を出してきた。
それを受けて、改めて、周囲を見ると、興味本位から多くの目が自分とラドを見つめている。
どうやら、更なる注目を集めてしまったようである。
「もう、只でさえ居心地悪いのに!あなた達の会話で、余計に人の目が集まったじゃないの!ちょっと勘弁してよね!」
扇子で口元を隠し、出来る限り落とした声量でメイがロビンに苦情を述べる。
すると、ロビンではなく、ラドがくすりと笑いメイへ声を掛けた。
「すみません。この様な場で、まさか、ハロルド商会の御方とお会いできるとは思わなかったもので。奥様には大変失礼致しました」
ラドによる丁寧な謝罪に、メイが一瞬、目を瞬かせてみせる。
「いえ、こちらこそ。初めてお会いした方に、大変、不躾な物言いをしてしまい申し訳ありません。あなた様の仰る通り、私たち、本日、少々場違いな所におりまして、そのぅ、周囲の目が気になったものでして」
メイも、少し言葉が過ぎたと反省して、ラドへ返す。
ラドは、そんなメイを優し気に見つめる。
その視線に、少し、メイも違和感を覚えたようで、「あのぅ?、あなた、どちr・・」と問いかけようとしたら、ロビンの手が、メイの可愛らしい口元に伸びてきて塞いだ。
「う、んがっ!」
その動作に、思わず目を見開き、ロビンを見上げてみせる。そして、『何するのよ!』と声は出ないが訴えるメイに、「メイ、相手にも仕事での立場ってのがあるんだよ」と、ロビンがメイの耳元で囁いた。
その言葉に、メイも怪訝な顔をしながらも納得したようで、こくりと頷いた。
その二人の姿を見たラドは、「ありがとうございます」と言葉と共に、美しい所作で一礼して、ロビン達から離れて行ったのだった。
『もう、良いでしょ!』
そんなラドの姿を、ただ黙ってロビンは見ていると、まだ、ロビンに口元を押さえつけられていたメイが、再び抗議するかのようにもがくので、ロビンも漸く手を離してみせた。
「ごめん」
ロビンはメイに軽く謝罪をしたが、メイは頬を膨らませている。
そんなメイを見るロビンは、先程と違い、この場の雰囲気に慣れてきていた。
ラドとの会話で、すっかり落ち着いたロビンはひとりクスリと笑う。
そう、ロビンもこれでも商会の一族の者、生まれてからそれなりの家柄の子息として過ごしてきたのだ。
そりゃあ、兄エディとは違い、社交性も乏しく経験も少ないが、それでも、幼少期からそれなりの機会は得ている。
まあ、確かに、こんな状況は経験はなかったけれど、でも、よく考えたら、社交界はどこも敵ばかりで、隙あらば落とされる世界。
だったら、今日も変わりはないんじゃないか?と、そう思うと、腹も据わってくる。
ロビンの顔がいつものにこやかな顔から真剣なものへ変わったのが、隣に居たメイにも感じられた。
「メイ、そろそろ、僕らも主役に挨拶に行かないとね?」
メイも先ほどまでの表情とは変わり、ロビンを静かに見つめて小さく頷く。
ロビンの視線の先には、多くの者に囲まれた者がいる。
「わざわざ、ご招待受けて来てやったんだ。このまま、挨拶もせずにいるのは失礼だよね?少しは、呼ばれた理由とか知りたいじゃないか。ねえ?、そう思うだろうメイも?」
ロビンのいつにない口調に、メイは言葉は出ずにただ頷く事しか出来ずにいる。
ロビンとメイの二人が見つめる先には、このパーティーの主役であるケーシーと、ウラスをはじめとした家族が、この上なく豪奢な装いで存在を現していた。
そんな彼らに、招待された人は絶え間なく挨拶を交わしていく。
多くの人に囲まれて、激励を受けるケーシーと、その傍で、ウラスが息子のデビューを支えるように立っている。
また、母と彼の姉妹は、婦人方と楽し気に談笑している。
「さあ、行こうかぁ」
ロビンはそんな姿を見つめながら、メイの手を握り、人垣を縫うように進んでいく。
一歩一歩進み、ケーシー達がいる中央へ向かう。
ロビンがケーシーの元に近づくに連れて、人垣は崩れ、道になる。
その道筋が、ケーシーへと続いたときに、ケーシーがロビンの姿を捉えたのだった。
「どうして、お前が・・」
驚愕に包まれた顔をしたケーシーが、青い顔をしてロビン達を見つめる。
『なんで、お前が驚いているんだよっ!』
ケーシーの様子に、ロビンも驚いたのは言うまでもない。
そんな二人は、暫し、無言のまま見つめ合っていたのだった。
『あれは、ラドだよな?』
一点を凝視して、ロビンが動きを止める。
それに呼応したかのように、前髪の長い黒縁眼鏡の男がこちらへと歩み寄ってくる。
「こんばんは」
いつもの声より声質まで変えたラドが、ロビンへ声を掛けてきた。
「こんばんは」
ロビンもラドの動きに合わせて返事をしてみる。
「初めましてですよね?ハロルド商会の、えっと、弟君の方ですよね?」
ラドが少し思案したフリをして、そんな風に、ロビンに尋ねる。
「ええ、よくご存じですね?あなたは?」
ロビンは、ラドの芝居にのり、ラドの役割について思考を巡らせる。
「あぁ、申訳ありません・・先に名乗らず。僕は、王都に住まうキャドといいます。今、各地での選挙状況を把握する為に、各地を回っているところなんですよ」
と言って、笑って見せた。
「へえー、じゃあ、お役人の方ですか?」
ロビンは感心しながらも、問い掛けてみる。
「いやぁ、そういう立場ではないんですが、あまり大きな声では言えない立場でして」
大げさなくらいに、肩を窄めてみせるラドにロビンは吹き出しそうになる。
「あぁ、なるほど!、大変なお仕事なんですね?」
などと、ロビンがラドとの会話を楽しんでいたら、今宵のパーティーの為に用意された高級な上着の袖が引かれた。
ロビンが振り返ると、メイが可愛い顔に大きな皺を刻み、睨んでいる。
「うん?」と、メイに目線で訴えると、メイが顎先を動かし、「周りを見てよ!」と無言の指示を出してきた。
それを受けて、改めて、周囲を見ると、興味本位から多くの目が自分とラドを見つめている。
どうやら、更なる注目を集めてしまったようである。
「もう、只でさえ居心地悪いのに!あなた達の会話で、余計に人の目が集まったじゃないの!ちょっと勘弁してよね!」
扇子で口元を隠し、出来る限り落とした声量でメイがロビンに苦情を述べる。
すると、ロビンではなく、ラドがくすりと笑いメイへ声を掛けた。
「すみません。この様な場で、まさか、ハロルド商会の御方とお会いできるとは思わなかったもので。奥様には大変失礼致しました」
ラドによる丁寧な謝罪に、メイが一瞬、目を瞬かせてみせる。
「いえ、こちらこそ。初めてお会いした方に、大変、不躾な物言いをしてしまい申し訳ありません。あなた様の仰る通り、私たち、本日、少々場違いな所におりまして、そのぅ、周囲の目が気になったものでして」
メイも、少し言葉が過ぎたと反省して、ラドへ返す。
ラドは、そんなメイを優し気に見つめる。
その視線に、少し、メイも違和感を覚えたようで、「あのぅ?、あなた、どちr・・」と問いかけようとしたら、ロビンの手が、メイの可愛らしい口元に伸びてきて塞いだ。
「う、んがっ!」
その動作に、思わず目を見開き、ロビンを見上げてみせる。そして、『何するのよ!』と声は出ないが訴えるメイに、「メイ、相手にも仕事での立場ってのがあるんだよ」と、ロビンがメイの耳元で囁いた。
その言葉に、メイも怪訝な顔をしながらも納得したようで、こくりと頷いた。
その二人の姿を見たラドは、「ありがとうございます」と言葉と共に、美しい所作で一礼して、ロビン達から離れて行ったのだった。
『もう、良いでしょ!』
そんなラドの姿を、ただ黙ってロビンは見ていると、まだ、ロビンに口元を押さえつけられていたメイが、再び抗議するかのようにもがくので、ロビンも漸く手を離してみせた。
「ごめん」
ロビンはメイに軽く謝罪をしたが、メイは頬を膨らませている。
そんなメイを見るロビンは、先程と違い、この場の雰囲気に慣れてきていた。
ラドとの会話で、すっかり落ち着いたロビンはひとりクスリと笑う。
そう、ロビンもこれでも商会の一族の者、生まれてからそれなりの家柄の子息として過ごしてきたのだ。
そりゃあ、兄エディとは違い、社交性も乏しく経験も少ないが、それでも、幼少期からそれなりの機会は得ている。
まあ、確かに、こんな状況は経験はなかったけれど、でも、よく考えたら、社交界はどこも敵ばかりで、隙あらば落とされる世界。
だったら、今日も変わりはないんじゃないか?と、そう思うと、腹も据わってくる。
ロビンの顔がいつものにこやかな顔から真剣なものへ変わったのが、隣に居たメイにも感じられた。
「メイ、そろそろ、僕らも主役に挨拶に行かないとね?」
メイも先ほどまでの表情とは変わり、ロビンを静かに見つめて小さく頷く。
ロビンの視線の先には、多くの者に囲まれた者がいる。
「わざわざ、ご招待受けて来てやったんだ。このまま、挨拶もせずにいるのは失礼だよね?少しは、呼ばれた理由とか知りたいじゃないか。ねえ?、そう思うだろうメイも?」
ロビンのいつにない口調に、メイは言葉は出ずにただ頷く事しか出来ずにいる。
ロビンとメイの二人が見つめる先には、このパーティーの主役であるケーシーと、ウラスをはじめとした家族が、この上なく豪奢な装いで存在を現していた。
そんな彼らに、招待された人は絶え間なく挨拶を交わしていく。
多くの人に囲まれて、激励を受けるケーシーと、その傍で、ウラスが息子のデビューを支えるように立っている。
また、母と彼の姉妹は、婦人方と楽し気に談笑している。
「さあ、行こうかぁ」
ロビンはそんな姿を見つめながら、メイの手を握り、人垣を縫うように進んでいく。
一歩一歩進み、ケーシー達がいる中央へ向かう。
ロビンがケーシーの元に近づくに連れて、人垣は崩れ、道になる。
その道筋が、ケーシーへと続いたときに、ケーシーがロビンの姿を捉えたのだった。
「どうして、お前が・・」
驚愕に包まれた顔をしたケーシーが、青い顔をしてロビン達を見つめる。
『なんで、お前が驚いているんだよっ!』
ケーシーの様子に、ロビンも驚いたのは言うまでもない。
そんな二人は、暫し、無言のまま見つめ合っていたのだった。
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