<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

文字の大きさ
上 下
30 / 78

第1部 第30話

しおりを挟む
派手な装飾品や調度品に囲まれたちょっとコテコテした雰囲気の室内に、トウの町では珍しく上品な装いをした人たちが多く集まるこの夜。



そんな場所に、ロビンは、妻のメイと共に参加していた。



勿論、この二人の装いも、いつもとは全く違いエレガントに仕立てられている。



ちょっと、借りてきた猫のようではあるが、一応、このトウで1、2を争う資産家の家の者だけあり、外見は完璧に施されていた。



「ねぇ?、居心地悪いんだけど・・」



あまり慣れてはいないが扇子で顔を覆いながら、隣に寄り添うロビンに、メイが小声で話しかける。



「それは、僕もだよ・・」



ロビンも顔を引きつらせながら、メイに応えてから何度目かになる行為、視線で辺りを見渡すことをする。



ぐるりと見渡す先には、我らが選挙で推すアッシュの反対勢力、すなわち、対抗馬であるケーシーと何らかしら関わりがある者がずらりといる。



何処も彼処も敵ばかり、なのに、何で自分達がそんな所にいるのかと言えば・・・



遡ること数日前、そう、あの告示日に、兄であるエディに呼び出されたことが要因であった。



あの日、雨や雷、それに風?も吹き、とにかく酷い天気だった。それは夜半まで続き、まるで、今日のこの事を匂わしていたのではないか?と思う程の荒れ模様だった。



そんな天候も酷く、夜の訪問でもあったことから、この日は、実家から馬車での迎えもあり、久々に普通に帰宅した。



ただ、両親には、特に母にはだが顔を合わせたくはなく、邸内はコソコソと移動し、呼び出された兄の書斎に直行した。



書斎の扉を軽くノックし、兄の「入れ」の言葉を聞いてから扉を開けた。



兄エディは、ロビンの姿を確認してから、書斎机で書類仕事をしていた手を止めてから、白い封筒を手にゆっくりと立ち上がった。



二人は、兄の書斎にあるソファーの方へ移動し、向かい合うように座った。



「どうしたんですか?急に、ハロルド商会の仕事って」



席に着くなり、ロビンは朝から不安に思っていた事を兄に問い掛けていた。



「あぁ、ちょっと、対応に困る事案があってな」



エディも少し疲れたような顔を見せながら、早速、本題を述べていく。



「僕に出来る事ですか?・・・」



エディの『対応に困る』の言葉に、ロビンが硬い表情を見せている。



「私が行くより、お前のがまだいいと思ってな」



エディがそう言いながら、目の前のテーブルに、書斎机から持ってきた白い封筒を置いて見せる。



そこには、見慣れない封印が押されている。



ロビンは首を掲げながら、その白い封筒を手にして中からカードを取り出した。



「えっ!!な・・なんだこれ?」



ロビンは、カードを見て驚き、そして、兄の顔を見た。



「あぁ、お前でもやはり驚くよな・・」



呆れた顔で兄が大きくため息を吐いている。



ロビンが手にしているカードは、パーティーへの招待状だ。



しかも、差出人はあろうことか、アッシュの対抗馬であるケーシーの後援会。つまり、ケーシーの事務所からだ。



そして、このパーティーは、ケーシーの激励会とした資金集めも兼ねたもの。



そんな敵の集まりに呼ばれている訳だ。



「えっと・・・バk」



ロビンは思わず、本音が出そうになったが慌てて留めた。



エディはそれを無言で頷いた。



「えっ、待って!何故に招待してくるのさ?」



意味がわかんないんですが!と、ロビンが尚も口にして、兄に訴える。



「まあ、こんな政治的な資金集めを名目にとしたパーティーはどこにでもある。このトウでも、大昔にもパーティーとかではなかったが、「平民議員」が王都に出向く際の路銀や途中の宿泊費、後は、それなりの装いの為の支度金的なものが占めていたみたいだが、その為に、町民が集まり・・」



「いや、兄さん!政治面でのパーティーの必要性について問いたいんじゃなくてさ!」



ロビンの質問に兄があらぬ説明をしだしたので、ロビンはエディの昔話的な話を途中で折った。



「あぁ、解っているさ、お前の聞きたい事は・・・」



エディもロビンの本当の質問の意味は解っているが、答えが見つからない。



「祖父さんの頃は、「平民議員」のところから選挙の時には招待状は来ていたらしい・・ただ、祖父さんは、あの一家を信用していなかったから、一度も顔を出していなかったようだ。それもあり、ここのところは招待状は見た事もなかったらしい。なのに、今回は来たんだよ」



エディがテーブルにある白い封筒をトントンと忌々し気に指で叩いて見せる。



「うちはアッシュの親戚でもあり後援者でもあるのにな。しかも、商会宛てでなく、この私、個人宛にだ!」



エディがギシリと奥歯を鳴らして、今度は、テーブルにある白い封筒を大きな音が出るくらいな勢いで、ドン!と拳を握りしめて叩いた。



ロビンは兄の苛立ちを感じ取り、黙り込む。



「何を企んでいるのか知らないが」



エディが長い足を組み、天井を睨みつける。



「でな、私も少し考えたんだよ。今回は、このバカげた招待に素直にのってやることにしたんだ」



エディの言葉に、ロビンは背中に汗が伝うのを感じる。



『もしかして、そのぅ・・・まさか・・・僕への呼び出しとは・・・』



恐ろしい思考が駆け巡る。



『実の兄が、まさかな・・』



『実の弟を敵対勢力の元へ・・とかないよな?』



『僕には可愛い生まれたばかりの息子もいるんだよー』



今朝、アッシュに向けた可愛い子犬のような顔を、エディにも向けて縋ってみるが・・・



「私が行くわけには立場上ありえない。でな、お前なら色々と都合がいい。でも、お前だけ行かせると、妙な噂になりかねない。だから、ここは、奴らの敵であるアッシュの妹メイも同伴して、宣戦布告をして来い!」



ここのタイミングで、漸くエディがロビンに笑みを向ける。



しかし、向けられたロビンは驚愕したまま動けない。子犬が縋る様は無情にも実兄には効かなかったのである。



「奴らが何をしたかったのかをちゃんと見てこいよ。招待に関して必要なものは揃えてやるから安心しろ」



そう言うと、エディはソファーから立ち上がり書斎机に向かう。



そして、席について直ぐに、また、書類に目を通しだす。



その行為を無意識に眺めたまま、ロビンが動けずにまだいると。



「もう、話は済んだが?」



とエディに言われ、その言葉からロビンは次へと行動を移すことが出来た。ただ、それは、そのまま何も考えられない状態で書斎を出されただけであった。部屋を出た先でロビンは、そこで漸く、自分に託された仕事を理解して狼狽えだしたのだった。



「ええーーー!!無理だよ!」



書斎を出たロビンが不安?不満?から言葉が発せられると、屋敷の使用人数人がロビンの元へ駆け付けてきた。

その使用人たちは、ロビンが屋敷に訪れる前に兄から指示されていたらしく、「奥様に見付からないうちに、さあ!」と言いながら、狼狽えるロビンを引きずりながら邸内から外へと連れ出して馬車に押しやる形で乗せ、ウォルト家に送り届けたのだった。その行動は、何とも華麗な仕業であった。さすが!我が家の使用人だ!仕事に無駄がなかったな?なんて、思い起こすロビンである。



そう・・、あの告示された日の夜、そんな事があったのだった。



遠い記憶を呼び起こし、ロビンはパーティー会場にいることを、暫し忘れていた・・・



が、隣のメイが尚も「もう、帰りたいよー」と呟いたのが耳に届き、現実から戻って来た。



短いタイムスリップだった。



出来るならば戻りたくなかったな・・



そんな現実逃避していたロビンに対して、メイは目に涙を溜めてロビンを睨んできた。



あの日の夜から、メイはずっとこの調子である。



まあ、解らなくもないのだが・・・



実兄の非情さを、ロビンは、自分も何度も思い出しては涙したからだ。



しかし、ここで逃げたら、もっと兄から怖い指令がありそうで、ここは自分を奮い立たせることにした。



だが、どうにも逃げ腰になるようで、また、ロビンはここには味方なんていないのに、ぐるりと周囲を見渡した。



『えっ!?』



思わず驚きの声が漏れそうになる・・



ロビンがぐるりと見渡した・・その視線の先に見えるのは、いつもとはガラリと違う顔を見事に作り上げた男を見つけたからだ。



ロビンは目を見開いてしまう。



長い前髪を顔に垂らし、黒縁の眼鏡を掛けて、あの自慢の美しい顔をわざと消した男、ラドが、この敵だらけのパーティーの中にいたからだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

想妖匣-ソウヨウハコ-

桜桃-サクランボ-
キャラ文芸
 深い闇が広がる林の奥には、"ハコ"を持った者しか辿り着けない、古びた小屋がある。  そこには、紳士的な男性、筺鍵明人《きょうがいあきと》が依頼人として来る人を待ち続けていた。 「貴方の匣、開けてみませんか?」  匣とは何か、開けた先に何が待ち受けているのか。 「俺に記憶の為に、お前の"ハコ"を頂くぞ」 ※小説家になろう・エブリスタ・カクヨムでも連載しております

処理中です...