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第1部 第30話
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派手な装飾品や調度品に囲まれたちょっとコテコテした雰囲気の室内に、トウの町では珍しく上品な装いをした人たちが多く集まるこの夜。
そんな場所に、ロビンは、妻のメイと共に参加していた。
勿論、この二人の装いも、いつもとは全く違いエレガントに仕立てられている。
ちょっと、借りてきた猫のようではあるが、一応、このトウで1、2を争う資産家の家の者だけあり、外見は完璧に施されていた。
「ねぇ?、居心地悪いんだけど・・」
あまり慣れてはいないが扇子で顔を覆いながら、隣に寄り添うロビンに、メイが小声で話しかける。
「それは、僕もだよ・・」
ロビンも顔を引きつらせながら、メイに応えてから何度目かになる行為、視線で辺りを見渡すことをする。
ぐるりと見渡す先には、我らが選挙で推すアッシュの反対勢力、すなわち、対抗馬であるケーシーと何らかしら関わりがある者がずらりといる。
何処も彼処も敵ばかり、なのに、何で自分達がそんな所にいるのかと言えば・・・
遡ること数日前、そう、あの告示日に、兄であるエディに呼び出されたことが要因であった。
あの日、雨や雷、それに風?も吹き、とにかく酷い天気だった。それは夜半まで続き、まるで、今日のこの事を匂わしていたのではないか?と思う程の荒れ模様だった。
そんな天候も酷く、夜の訪問でもあったことから、この日は、実家から馬車での迎えもあり、久々に普通に帰宅した。
ただ、両親には、特に母にはだが顔を合わせたくはなく、邸内はコソコソと移動し、呼び出された兄の書斎に直行した。
書斎の扉を軽くノックし、兄の「入れ」の言葉を聞いてから扉を開けた。
兄エディは、ロビンの姿を確認してから、書斎机で書類仕事をしていた手を止めてから、白い封筒を手にゆっくりと立ち上がった。
二人は、兄の書斎にあるソファーの方へ移動し、向かい合うように座った。
「どうしたんですか?急に、ハロルド商会の仕事って」
席に着くなり、ロビンは朝から不安に思っていた事を兄に問い掛けていた。
「あぁ、ちょっと、対応に困る事案があってな」
エディも少し疲れたような顔を見せながら、早速、本題を述べていく。
「僕に出来る事ですか?・・・」
エディの『対応に困る』の言葉に、ロビンが硬い表情を見せている。
「私が行くより、お前のがまだいいと思ってな」
エディがそう言いながら、目の前のテーブルに、書斎机から持ってきた白い封筒を置いて見せる。
そこには、見慣れない封印が押されている。
ロビンは首を掲げながら、その白い封筒を手にして中からカードを取り出した。
「えっ!!な・・なんだこれ?」
ロビンは、カードを見て驚き、そして、兄の顔を見た。
「あぁ、お前でもやはり驚くよな・・」
呆れた顔で兄が大きくため息を吐いている。
ロビンが手にしているカードは、パーティーへの招待状だ。
しかも、差出人はあろうことか、アッシュの対抗馬であるケーシーの後援会。つまり、ケーシーの事務所からだ。
そして、このパーティーは、ケーシーの激励会とした資金集めも兼ねたもの。
そんな敵の集まりに呼ばれている訳だ。
「えっと・・・バk」
ロビンは思わず、本音が出そうになったが慌てて留めた。
エディはそれを無言で頷いた。
「えっ、待って!何故に招待してくるのさ?」
意味がわかんないんですが!と、ロビンが尚も口にして、兄に訴える。
「まあ、こんな政治的な資金集めを名目にとしたパーティーはどこにでもある。このトウでも、大昔にもパーティーとかではなかったが、「平民議員」が王都に出向く際の路銀や途中の宿泊費、後は、それなりの装いの為の支度金的なものが占めていたみたいだが、その為に、町民が集まり・・」
「いや、兄さん!政治面でのパーティーの必要性について問いたいんじゃなくてさ!」
ロビンの質問に兄があらぬ説明をしだしたので、ロビンはエディの昔話的な話を途中で折った。
「あぁ、解っているさ、お前の聞きたい事は・・・」
エディもロビンの本当の質問の意味は解っているが、答えが見つからない。
「祖父さんの頃は、「平民議員」のところから選挙の時には招待状は来ていたらしい・・ただ、祖父さんは、あの一家を信用していなかったから、一度も顔を出していなかったようだ。それもあり、ここのところは招待状は見た事もなかったらしい。なのに、今回は来たんだよ」
エディがテーブルにある白い封筒をトントンと忌々し気に指で叩いて見せる。
「うちはアッシュの親戚でもあり後援者でもあるのにな。しかも、商会宛てでなく、この私、個人宛にだ!」
エディがギシリと奥歯を鳴らして、今度は、テーブルにある白い封筒を大きな音が出るくらいな勢いで、ドン!と拳を握りしめて叩いた。
ロビンは兄の苛立ちを感じ取り、黙り込む。
「何を企んでいるのか知らないが」
エディが長い足を組み、天井を睨みつける。
「でな、私も少し考えたんだよ。今回は、このバカげた招待に素直にのってやることにしたんだ」
エディの言葉に、ロビンは背中に汗が伝うのを感じる。
『もしかして、そのぅ・・・まさか・・・僕への呼び出しとは・・・』
恐ろしい思考が駆け巡る。
『実の兄が、まさかな・・』
『実の弟を敵対勢力の元へ・・とかないよな?』
『僕には可愛い生まれたばかりの息子もいるんだよー』
今朝、アッシュに向けた可愛い子犬のような顔を、エディにも向けて縋ってみるが・・・
「私が行くわけには立場上ありえない。でな、お前なら色々と都合がいい。でも、お前だけ行かせると、妙な噂になりかねない。だから、ここは、奴らの敵であるアッシュの妹メイも同伴して、宣戦布告をして来い!」
ここのタイミングで、漸くエディがロビンに笑みを向ける。
しかし、向けられたロビンは驚愕したまま動けない。子犬が縋る様は無情にも実兄には効かなかったのである。
「奴らが何をしたかったのかをちゃんと見てこいよ。招待に関して必要なものは揃えてやるから安心しろ」
そう言うと、エディはソファーから立ち上がり書斎机に向かう。
そして、席について直ぐに、また、書類に目を通しだす。
その行為を無意識に眺めたまま、ロビンが動けずにまだいると。
「もう、話は済んだが?」
とエディに言われ、その言葉からロビンは次へと行動を移すことが出来た。ただ、それは、そのまま何も考えられない状態で書斎を出されただけであった。部屋を出た先でロビンは、そこで漸く、自分に託された仕事を理解して狼狽えだしたのだった。
「ええーーー!!無理だよ!」
書斎を出たロビンが不安?不満?から言葉が発せられると、屋敷の使用人数人がロビンの元へ駆け付けてきた。
その使用人たちは、ロビンが屋敷に訪れる前に兄から指示されていたらしく、「奥様に見付からないうちに、さあ!」と言いながら、狼狽えるロビンを引きずりながら邸内から外へと連れ出して馬車に押しやる形で乗せ、ウォルト家に送り届けたのだった。その行動は、何とも華麗な仕業であった。さすが!我が家の使用人だ!仕事に無駄がなかったな?なんて、思い起こすロビンである。
そう・・、あの告示された日の夜、そんな事があったのだった。
遠い記憶を呼び起こし、ロビンはパーティー会場にいることを、暫し忘れていた・・・
が、隣のメイが尚も「もう、帰りたいよー」と呟いたのが耳に届き、現実から戻って来た。
短いタイムスリップだった。
出来るならば戻りたくなかったな・・
そんな現実逃避していたロビンに対して、メイは目に涙を溜めてロビンを睨んできた。
あの日の夜から、メイはずっとこの調子である。
まあ、解らなくもないのだが・・・
実兄の非情さを、ロビンは、自分も何度も思い出しては涙したからだ。
しかし、ここで逃げたら、もっと兄から怖い指令がありそうで、ここは自分を奮い立たせることにした。
だが、どうにも逃げ腰になるようで、また、ロビンはここには味方なんていないのに、ぐるりと周囲を見渡した。
『えっ!?』
思わず驚きの声が漏れそうになる・・
ロビンがぐるりと見渡した・・その視線の先に見えるのは、いつもとはガラリと違う顔を見事に作り上げた男を見つけたからだ。
ロビンは目を見開いてしまう。
長い前髪を顔に垂らし、黒縁の眼鏡を掛けて、あの自慢の美しい顔をわざと消した男、ラドが、この敵だらけのパーティーの中にいたからだった。
そんな場所に、ロビンは、妻のメイと共に参加していた。
勿論、この二人の装いも、いつもとは全く違いエレガントに仕立てられている。
ちょっと、借りてきた猫のようではあるが、一応、このトウで1、2を争う資産家の家の者だけあり、外見は完璧に施されていた。
「ねぇ?、居心地悪いんだけど・・」
あまり慣れてはいないが扇子で顔を覆いながら、隣に寄り添うロビンに、メイが小声で話しかける。
「それは、僕もだよ・・」
ロビンも顔を引きつらせながら、メイに応えてから何度目かになる行為、視線で辺りを見渡すことをする。
ぐるりと見渡す先には、我らが選挙で推すアッシュの反対勢力、すなわち、対抗馬であるケーシーと何らかしら関わりがある者がずらりといる。
何処も彼処も敵ばかり、なのに、何で自分達がそんな所にいるのかと言えば・・・
遡ること数日前、そう、あの告示日に、兄であるエディに呼び出されたことが要因であった。
あの日、雨や雷、それに風?も吹き、とにかく酷い天気だった。それは夜半まで続き、まるで、今日のこの事を匂わしていたのではないか?と思う程の荒れ模様だった。
そんな天候も酷く、夜の訪問でもあったことから、この日は、実家から馬車での迎えもあり、久々に普通に帰宅した。
ただ、両親には、特に母にはだが顔を合わせたくはなく、邸内はコソコソと移動し、呼び出された兄の書斎に直行した。
書斎の扉を軽くノックし、兄の「入れ」の言葉を聞いてから扉を開けた。
兄エディは、ロビンの姿を確認してから、書斎机で書類仕事をしていた手を止めてから、白い封筒を手にゆっくりと立ち上がった。
二人は、兄の書斎にあるソファーの方へ移動し、向かい合うように座った。
「どうしたんですか?急に、ハロルド商会の仕事って」
席に着くなり、ロビンは朝から不安に思っていた事を兄に問い掛けていた。
「あぁ、ちょっと、対応に困る事案があってな」
エディも少し疲れたような顔を見せながら、早速、本題を述べていく。
「僕に出来る事ですか?・・・」
エディの『対応に困る』の言葉に、ロビンが硬い表情を見せている。
「私が行くより、お前のがまだいいと思ってな」
エディがそう言いながら、目の前のテーブルに、書斎机から持ってきた白い封筒を置いて見せる。
そこには、見慣れない封印が押されている。
ロビンは首を掲げながら、その白い封筒を手にして中からカードを取り出した。
「えっ!!な・・なんだこれ?」
ロビンは、カードを見て驚き、そして、兄の顔を見た。
「あぁ、お前でもやはり驚くよな・・」
呆れた顔で兄が大きくため息を吐いている。
ロビンが手にしているカードは、パーティーへの招待状だ。
しかも、差出人はあろうことか、アッシュの対抗馬であるケーシーの後援会。つまり、ケーシーの事務所からだ。
そして、このパーティーは、ケーシーの激励会とした資金集めも兼ねたもの。
そんな敵の集まりに呼ばれている訳だ。
「えっと・・・バk」
ロビンは思わず、本音が出そうになったが慌てて留めた。
エディはそれを無言で頷いた。
「えっ、待って!何故に招待してくるのさ?」
意味がわかんないんですが!と、ロビンが尚も口にして、兄に訴える。
「まあ、こんな政治的な資金集めを名目にとしたパーティーはどこにでもある。このトウでも、大昔にもパーティーとかではなかったが、「平民議員」が王都に出向く際の路銀や途中の宿泊費、後は、それなりの装いの為の支度金的なものが占めていたみたいだが、その為に、町民が集まり・・」
「いや、兄さん!政治面でのパーティーの必要性について問いたいんじゃなくてさ!」
ロビンの質問に兄があらぬ説明をしだしたので、ロビンはエディの昔話的な話を途中で折った。
「あぁ、解っているさ、お前の聞きたい事は・・・」
エディもロビンの本当の質問の意味は解っているが、答えが見つからない。
「祖父さんの頃は、「平民議員」のところから選挙の時には招待状は来ていたらしい・・ただ、祖父さんは、あの一家を信用していなかったから、一度も顔を出していなかったようだ。それもあり、ここのところは招待状は見た事もなかったらしい。なのに、今回は来たんだよ」
エディがテーブルにある白い封筒をトントンと忌々し気に指で叩いて見せる。
「うちはアッシュの親戚でもあり後援者でもあるのにな。しかも、商会宛てでなく、この私、個人宛にだ!」
エディがギシリと奥歯を鳴らして、今度は、テーブルにある白い封筒を大きな音が出るくらいな勢いで、ドン!と拳を握りしめて叩いた。
ロビンは兄の苛立ちを感じ取り、黙り込む。
「何を企んでいるのか知らないが」
エディが長い足を組み、天井を睨みつける。
「でな、私も少し考えたんだよ。今回は、このバカげた招待に素直にのってやることにしたんだ」
エディの言葉に、ロビンは背中に汗が伝うのを感じる。
『もしかして、そのぅ・・・まさか・・・僕への呼び出しとは・・・』
恐ろしい思考が駆け巡る。
『実の兄が、まさかな・・』
『実の弟を敵対勢力の元へ・・とかないよな?』
『僕には可愛い生まれたばかりの息子もいるんだよー』
今朝、アッシュに向けた可愛い子犬のような顔を、エディにも向けて縋ってみるが・・・
「私が行くわけには立場上ありえない。でな、お前なら色々と都合がいい。でも、お前だけ行かせると、妙な噂になりかねない。だから、ここは、奴らの敵であるアッシュの妹メイも同伴して、宣戦布告をして来い!」
ここのタイミングで、漸くエディがロビンに笑みを向ける。
しかし、向けられたロビンは驚愕したまま動けない。子犬が縋る様は無情にも実兄には効かなかったのである。
「奴らが何をしたかったのかをちゃんと見てこいよ。招待に関して必要なものは揃えてやるから安心しろ」
そう言うと、エディはソファーから立ち上がり書斎机に向かう。
そして、席について直ぐに、また、書類に目を通しだす。
その行為を無意識に眺めたまま、ロビンが動けずにまだいると。
「もう、話は済んだが?」
とエディに言われ、その言葉からロビンは次へと行動を移すことが出来た。ただ、それは、そのまま何も考えられない状態で書斎を出されただけであった。部屋を出た先でロビンは、そこで漸く、自分に託された仕事を理解して狼狽えだしたのだった。
「ええーーー!!無理だよ!」
書斎を出たロビンが不安?不満?から言葉が発せられると、屋敷の使用人数人がロビンの元へ駆け付けてきた。
その使用人たちは、ロビンが屋敷に訪れる前に兄から指示されていたらしく、「奥様に見付からないうちに、さあ!」と言いながら、狼狽えるロビンを引きずりながら邸内から外へと連れ出して馬車に押しやる形で乗せ、ウォルト家に送り届けたのだった。その行動は、何とも華麗な仕業であった。さすが!我が家の使用人だ!仕事に無駄がなかったな?なんて、思い起こすロビンである。
そう・・、あの告示された日の夜、そんな事があったのだった。
遠い記憶を呼び起こし、ロビンはパーティー会場にいることを、暫し忘れていた・・・
が、隣のメイが尚も「もう、帰りたいよー」と呟いたのが耳に届き、現実から戻って来た。
短いタイムスリップだった。
出来るならば戻りたくなかったな・・
そんな現実逃避していたロビンに対して、メイは目に涙を溜めてロビンを睨んできた。
あの日の夜から、メイはずっとこの調子である。
まあ、解らなくもないのだが・・・
実兄の非情さを、ロビンは、自分も何度も思い出しては涙したからだ。
しかし、ここで逃げたら、もっと兄から怖い指令がありそうで、ここは自分を奮い立たせることにした。
だが、どうにも逃げ腰になるようで、また、ロビンはここには味方なんていないのに、ぐるりと周囲を見渡した。
『えっ!?』
思わず驚きの声が漏れそうになる・・
ロビンがぐるりと見渡した・・その視線の先に見えるのは、いつもとはガラリと違う顔を見事に作り上げた男を見つけたからだ。
ロビンは目を見開いてしまう。
長い前髪を顔に垂らし、黒縁の眼鏡を掛けて、あの自慢の美しい顔をわざと消した男、ラドが、この敵だらけのパーティーの中にいたからだった。
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