<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第23話

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トウの町の中心部では、今日も活気づこうと人々が集まり動き出そうとする頃。



アッシュの事務所でもアッシュとラドが出勤し、アッシュの執務室で、今日の予定とされるエディからの指示書を読み進める。



因みに、ロビンは今日も別行動でのスタートだ。



例のカフェテリアで、薫り高い高級なコーヒーを頂いてからくるらしい。



まあ、義兄弟とはいえ、立候補の公示前からあまりハロルド商会の家人と共にいるのもよろしくないかな?と、何とはなしに話がなり、取り敢えず、人目が多い時間帯は今は別行動となった。



そんな訳で、今日のエディからの指示書には、トウの町での宣伝活動について詳細に書かれていた。



指示書は複数に渡り、書類の上には「重要」と判までついてあるものも存在した。



その「重要」な書類には、このトウの町で有名な者の名前がびっしりと書かれている。



その内容は、誰が、対抗馬のケーシーの支持者や、今は彼らの支持者ではないが、場合により敵になるかもしれない者、また、ケーシーら「平民議員」に対して不満がある者などが書き記されていた。



「凄いな、これ・・」



書類に目を配らせながら、感心してしまう。



「相変わらず、赤毛はエディ様に忠誠的ですね」



ラドが、アッシュの横からチラリと書類を覗いてから、そんなことを口にする。



「赤毛ですか?」



アッシュが目を瞬かせて、ラドを見やると、ラドが「ご存じないんですか?」と表情を変えずに返答した。



「えっと・・・」



アッシュは言われて、少し思案してみるが、「赤毛」が何を指すのかわからず困惑する。



「エディ様のところで諜報的なことをしている部下ですよ。赤い髪をしたジルです」



その言葉に、エディに屋敷へ呼ばれた日に出会った赤い髪色をした男、ジルを思い出す。



「あっ!知っています!先日、自宅にも送って貰いました」



と、アッシュが赤毛のジルの姿を思い起こし、頷いてみせる。



「その赤毛が調べたんですよ」



それっ!と、書類を指し示して、ラドが教えてくれる。



そう言われて、再び、目線を書類に移しながら、ふと、先日、エディ宅で見せられた「平民議員」の悪行が纏められた書類も、確か、その赤毛のジルが作成したと聞いたはずだと、漸く記憶が辿り着く。



「ジルさんって・・、ホント、凄いんですね・・」



先日のもそうだが、今手にしてる書類も短時間で調べ上げてのこの出来栄え、一体、ジルって何者だ?



アッシュが、また、ラドを見やる。



アッシュの傍に立つラドは、相変わらず表情は変えず、今日も美しい顔で微笑んでいる。



アッシュは、ラドを見つめながら、ジルも、このラドも素性がつかめない存在であることに、少し慄いてしまった。



『エライ者が自分の傍に置かれているな・・』



書類を持ちながら、身震いをしてしまった。



「どうかされましたか?」



身震いに気付いたラドが、優しい言葉をむけるが、アッシュは「いや、何も・・」と肩をすぼめてみせる。



「とりあえず、今日はどちらから参りますか?」



エディの指示書には、敵味方関係なく、挨拶周りをするようにと注意書きが添えられてあった。



ラドは、アッシュに確認の言葉を告げてから、どこからか持ってきたのか、見た事のある箱を、アッシュが座っている目の前にある執務机の上にドカリと置いた。



「これ、配るんですよね?」



箱から1枚、ぺらりと紙を抜き取り、ラドが繁々と眺めているのは、ロビンが手配し作られた、あの忌まわしい宣伝用の紙であった。



「なかなか、素敵に描かれていますね?このアッシュさん」



紙を指でつまみ、ヒラヒラと揺らしだして、アッシュに顔を向けるラド。



しかし、アッシュは紙に目が止まったままである。



紙に描かれた自分の顔が波打つ様子に、何故か悪酔いしそうになってくる。



「では、こちらも持って行きますか?」



ラドは指の動きを止めることなく、アッシュに問いかける。



アッシュは、ラドの言葉に漸く紙から視線が外れたことに安堵した。



「あのさ、挨拶の順なんだけども、ちょっと、個人的に伺いたいとこがあって、そこからでもいいかな?」



珍しく、自分の意志で行動を示したアッシュの姿に、ラドが目を瞬かせている。



「いや、特に、秘策や作戦でとかでなくて、父親が世話になっている仕事場の社長にお礼を伝え忘れていて。ちょうど、この「重要」書類にも名があったから。先に済ませておきたくて」



そう言いながら、アッシュは、その「重要」書類にある社長の名を差し示すのである。



そこには、『サンテ 町工場の社長 ウラスの幼馴染』と記されていた。



「へえー、偉いとこからスタートしますねぇ」



これは面白い人物だと言わんばかりに、ラドは含み笑いを浮かべている。



「お父さんのお勤め先なんですか?」



「そうなんだ。ただ、これまで特に、誰がどう繋がりがあるとか思った事なかったんだけど、身近に、思わぬ人物がいたなんて、ちょっと驚いてしまったよ」



アッシュは、サンテの名を指で何度もなぞりながら応える。



「どちらに転んできますかね。サンテさんは?」



ラドは、赤毛のジルが作成した書類にあるサンテの名が書かれた行を、ゆっくりと目で追いながら呟いてみる。



「どうだろうな・・」



アッシュも机の上に、組んだ腕をのせて考え込む。



二人が眺めるサンテの名前の先には「見解不可」と書かれてあった。



「とりあえず、ご本人に伺いますか?」



ラドが、机の書類をひったくるように拾い上げて、それを上等な上着の胸ポケットに畳んでしまった。



「そうだな」



アッシュも椅子から立ち上がり、執務室の扉へ向かった。



敵になるか、味方になるのか、会ってじっくり確かめるしかない。



二人は、互いに頷きあってから、サンテが営む町工場へと向かうのだった。

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