<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第22話

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アッシュとロビンが、ウォルト家に着いたのは、夕飯の頃合いだった。



二人を出迎えたのは、ここ最近の定番、メイである。



「ロビン、ちょっといいかなぁ?」



しかし、この日のメイは、帰宅した早々に、兄アッシュには目もくれず、ロビンの袖を引き寄せて、メイたちが寝泊まりしている自室へと強引に連れ立って行ってしまう。



アッシュは、ちょっといつもと違う様子のメイの姿を怪訝に思いながらも、取り敢えず、自室に行った。



「ど・・どうしたのさ?」



メイが、ロビンを部屋に押し入れ、扉をバタンと閉めた時に、ロビンもいつもと様子の違うメイに疑問をぶつける。



そんなメイは、うっすらと瞳に涙を溜めている。



「えぇ?、いや、本当にどうしたの!」



涙で潤むメイに、ロビンは驚き困惑してしまった。



「今日ねぇ、お義母さんから呼び出されちゃって、それで、フェイと迎えに来た馬車に乗って家に戻ったのよ。勿論、私たちの家の方にね・・・」



意を決したメイは、ゆっくりとであるが、ロビンに聞かせねばならない話をしだした。



その内容に、ロビンは、いつもは笑顔を絶やさない彼も、眉間に皺を刻み出す。



「はじめは、フェイの顔見たさかと思って、お義母さんと楽しくお茶していたの。最近の様子とか、ほらっ!、兄さんが「平民議員」に立候補したとか、色々とね」



メイも少し落ち着いたのか、話も滑らかになってくるが、内容は代わりに重くなっていく。



「で、私、知らなかったんだけど、お義姉さん、明後日には、王都のタウンハウスに行かれるんだよね?お義母さんから聞いて驚いたよ。それって、ロビンがお義姉さんに何か言った・・あれが原因だよね?」



メイのいつもの愛らしい顔が、ぶすっとなり強張りだしている。



「あっ、うん、そうだよ・・この前、僕も兄さんに聞いた」



ロビンの方もメイから少し目線を逸らして、先日、兄エディから聞いた話を思い起こしている。



その姿に、メイは益々怒りを膨らませていった。



「どうするのよ!お義母さんがね、たぶん、もうすぐお義兄さんたちは離縁するって言ってて!もう、ビックリよ!」



さっきまで、今にも泣き出しそうな目をしながらだったメイが、今度は、怒りの形相で、ロビンに向かってきた。



「本当なの?お義父さんなんかは、こうなる事を考えて婚姻したばかりのお義兄さんに、ハロルド商会の会頭の地位を譲ったとかも、お義母さんが言ってて。これじゃ、お義姉さんが可哀そうだよ!」



怒ってはいる、けれど、メイの目からは涙も零れてきている。



「メイ、落ち着けよ。確かに、王都行きのことは僕のせいだよ。でも、離縁はしないと思うよ」



ロビンの言葉に、メイが涙に濡れた顔をしっかりと上げて、ロビンを見つめる。



「うち、兄さんで3代目となる商家だろ?父さんも兄さんも、祖父さんが作ったこの商会を拡大して、中央まで躍進したくてさ。まあ、野望もってあれこれしてた。母さんも同じ感じだったな?で、その為には、貴族と縁を深めたくて、兄さんの結婚相手は、貴族籍の女性が条件に知らない間になっていて。けど、片田舎の商家にくる貴族のご令嬢なんて、いくら兄さんが顔良し頭良しでもいなくて。兄さんは、早々に見切り付けていたんだけど、父さんはそうではなったみたいで。離縁歴や未亡人でもとか言い出していて。まあ、一時期、大変だった・・そんな時に、兄さんが結婚相手として決めたのが義姉さんだったんだ。父さんらは、勝手に決めた結婚相手に不満があったのは事実。兄さんは、それを跳ね返す為に、仕事に精を出したんだ。しかも、義姉さんに風当たりがいかないように家の中に引っ込めて・・・」



ロビンは、兄エディの気持ちを代弁するかのように、メイに話をしていく。



「でも、お義父さんは、お義兄さんたちが上手く言って無いって言いまくってるらしいよ・・」



メイは心配気な顔をロビンに向けてしまう。



「はァ・・父さん、兄さんに殺されちゃうかもなあ・・」



不穏な単語を口に出しながら、ロビンがメイを傍に抱き寄せる。



「離縁はしないよ。兄さんは、そのつもりだよ。その為の王都行きさ。ただ、義姉さんが思ってる以上に、子どもが出来ないことに悩んでいたら、色々と時間はかかるかもね・・」



ロビンの言葉に、メイが青ざめだすが、ロビンは優しくメイの茶色い髪を撫でる。



「でも、たぶん、大丈夫だよ。兄さんなら乗り切るさ」



安心の言葉を与えたはずのロビンだが、こちらを見つめるメイの顔には、眉間の皺が大きく刻まれているのを見て戸惑いを見せる。



「えっと・・まだ、不安?まあ、直ぐには、落ち着かない内容だけどもさ・・・」



ロビンの言葉に、メイは、首を振り、義母との会話の続きを伝えてきた。



「お義母さんがね、お義姉さんのことがあるから、私に、ハロルド商会の女主人となる為の教育をするっていうの!」



憤慨するメイに、今度は、ロビンが、今までの深刻な話から一転、大きな声を上げて驚きを現した。



「ええええーーーーっ!、ちょっと待って!えっ?母さん、何言ってるの?メイには無理だろ?いやいや、メイは無理でしょ?メイはダメでしょ。メイには絶対に出来るわけないし。ちょっと、どうしたの?今日一の驚きだわ!」



ロビンは、首も手も振って、「メイには無理!」「無いわぁ」と言い続ける。



その仕草に、次第にメイは死んだ魚の様な目つきになっていった。



そこまで言われなくても、自分には出来ないのは百も承知だ。だからこそ、夫に打ち明けて、何らかの優しさを求めたのに、ここまで否定されると、心が傷つく・・・



メイは、ロビンの態度に唖然となる。



それに、暫くして気付いたロビンが慌てて謝罪を口にするが、今更遅い!



「ごめん、メイ、許して・・」



頭を下げるロビンに、そもそもこう言うのが原因で、義姉を王都に追いやったんだとメイは改めて思い、冷めた目で睨みつける。



「ごめんよ。でもさ、商家の女主人が出来るようなタイプのメイだったら僕は好きにならないし、婚姻なんてしないよ。今のほんわかしたメイだから良いんだよ」



何だか、妙な言葉が入り混じるが、謝罪?の最後に、ロビンがにっこりと微笑む。



すると、微笑まれたメイは「そうなの?」と少し照れて見せる。



「そうだよ、今のまんまのメイで居てね。母さんには言っておくし、父さんにも、話出来たらしておくから、メイはメイらしくいようね」



何だかわからないが、ロビンに任せていたらいいんだろう。と、結論付けたメイ。



「あっ!、僕、お腹空いたなぁ」



と、ロビンはメイを促し、ダイニングへ向かうのだった。
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