<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

文字の大きさ
上 下
20 / 78

第1部 第20話

しおりを挟む
夕刻近い時間に、執務室を叩く音がした。



この執務室の主であるハロルド商会の会頭エディが、その音に返答する前に扉は開かれていた。



そして、その扉から現れたのは美しい顔をした男、ラドであった。



ラドは室内に無言で入り、入り口傍にある革張りの高級な黒いソファーにどさりと音を立てて座り込んだ。



その様子に、エディはチラリと一度、目をやっただけで、再び、仕事の続きを進めていく。



「今朝、お前が寄こした言伝通り、ロビンとアッシュ宛ての手紙を持ってから、アッシュの秘書として役場にも付き添ったぞ」



美しい顔には、不服の色を乗せて、足は、ソファーの目の前にある一枚ガラスで作られたテーブルに置きながら、今日の仕事の出来を報告する。



「お前、あれを「平民議員」に仕立てるのか?」



頭の後ろに腕を回して、完全に寛ぎ体制としながら、今日、初めて会ったアッシュの感想を告げていく。



「なれるのかなぁ、まだ、自覚がないんじゃないか?やる気が見えねえけども」



まっ、俺には関係ないけどな・・と、最後は小さく呟く。



「自覚はないだろうな。持つ前に、進めたからな」



顔も上げずに、エディがラドの言葉を拾い、返答をした。



それには、ラドも一瞬驚きを見せたが、



「やっぱり、お前は怖いねぇ。人の気持ちも無視で先に進めるなんて、相変わらず、狡猾だわ」



と、途中で笑い出した。



「まぁ、安心したわ。お前らしくてさ」



ラドは、呆れた眼差しをエディに向ける。



「で、話はそれだけか?」



エディがペンを止めずに、ラドに話を返す。



「役場の方は、所長ってのが力を貸してくれそうだ。後は、所長の話を聞いていた時に、役場に巣くう子ねずみくんが自ら動いてくれたりで、敵はあっさり見えたなぁ。ケントに、セフィ、それに、ジムラルが役場のゴミだ」



エディがこの時、動かしていたペンの手を止めた。



「子ネズミはケントか、それの親がセフィ」



「大当たり!」



ラドが鼻歌を口ずさみながら、エディの応えた回答に声を弾ませてみせる。



「あと、ロビンはカフェで「平民議員」親子と遭遇したらしいぞ。お前とアッシュを沈めてやるって、息まいていたらしいわ」



お前死んじゃうかもね?と、軽口を添えて、何だか楽し気に話しだすラド。



それには、エディは何も答えず、また、ペンを走らせる。



「まあ、今、暇だから、アッシュの「平民議員」大作戦に付き合ってあげるけども」



ラドは、面白いものでも思いついたように、口元をニヤリと上げた。そして、その口元を舌先でペロリと舐める。



「俺ねぇ、今朝、お前の言伝があった時、王都行きをお願いされるのかと思ってたの。もう喜んじゃったよ。なのに、ガキのお守だなんて、心が萎えたわ。でも、まあ、この「平民議員」大作戦?暇だし、手伝ってやるよ。だけどさぁ、タダじゃぁ、引き受けれないなぁ。俺が協力するんだから、報酬はたぁんと貰うからな」



エディはここで、顔を上げて、この日初めてラドと目線を合わせた。



「報酬は、いつも渡しているはずだが、今回は、それよりもってことか?」



静かな口調だが、エディが顰め面になりながら、ラドに向けて問い掛ける。



「いいやぁ、今回は金以外のものも貰うって話だよ」



ラドが美しい顔にうっすらとした笑みを浮かべて応える。



「君のところの、ローサちゃんを貰うよ」



美しい顔に不敵な笑みを浮かべるラドに、エディはクスリと笑う。



「面白いことを言うな。ローサは私の妻だ」



冷めた口調でいうエディに、ラドは「良く知っていますよ」と笑って見せる。



「あんたの親父がね、エディの結婚はもうすぐ終るって方々で言ってるぜ。元々、貴族の女を嫁に迎える予定が、貴族の血筋しか持たない女を嫁に貰ったとかで、お前の親父、ローサちゃん認めてなかったらしいじゃないか」



ラドが紡ぐ言葉に、エディが拳をぐっと強く握り締める。



「噂では、結婚と同時に、商会を引き継がせたのも、ローサちゃんとの仲に溝を生む為だったとか?」



あぁ、怖いね、お前ら親子は似てるよね?人でなしだわ。と、ブツブツと続けるラドを、エディはギロリと睨みつける。



「あんなに儚げで美しい女性は、この俺ですら知らないよ。正直、王都で、お前より先に出会いたかったナ」



ラドは、ローサの姿を思い起こしながら、うっとりと微笑む。



「ほんと、親父さんにも、ロビンにも感謝だわ。アッシュが「平民議員」になった頃には、お前も離縁成立してる頃だろうし、俺は報酬として、金と共にローサちゃんも貰うよ」



ラドは、その日一番の笑顔を浮かべる。



「ラド、私は、ローサとは離縁しない。誰が何と言おうとな」



エディのその言葉に、ラドは大きく舌打ちして、ソファーから勢いよく立ち上がる。



そして、エディの前から姿を消す為に、扉の方へと動き出す。



「それから、ラド解っているだろうが、お前の上司は、今日からアッシュだったはずだ。報酬もアッシュから貰え!」



去り際に、エディから投げかけられた言葉に対して、ラドは無言で扉を叩きつける様に閉めた。



それを見たエディは、奥歯を噛みしめながら、ここにいない自分の父親に怒りの念を送る。



『あの、クソ親父ィーーー』



エディは握るペンに力を入れる。ポッキっとペンが折れて、ペン先が宙を舞っていった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...