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第1部 第20話
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夕刻近い時間に、執務室を叩く音がした。
この執務室の主であるハロルド商会の会頭エディが、その音に返答する前に扉は開かれていた。
そして、その扉から現れたのは美しい顔をした男、ラドであった。
ラドは室内に無言で入り、入り口傍にある革張りの高級な黒いソファーにどさりと音を立てて座り込んだ。
その様子に、エディはチラリと一度、目をやっただけで、再び、仕事の続きを進めていく。
「今朝、お前が寄こした言伝通り、ロビンとアッシュ宛ての手紙を持ってから、アッシュの秘書として役場にも付き添ったぞ」
美しい顔には、不服の色を乗せて、足は、ソファーの目の前にある一枚ガラスで作られたテーブルに置きながら、今日の仕事の出来を報告する。
「お前、あれを「平民議員」に仕立てるのか?」
頭の後ろに腕を回して、完全に寛ぎ体制としながら、今日、初めて会ったアッシュの感想を告げていく。
「なれるのかなぁ、まだ、自覚がないんじゃないか?やる気が見えねえけども」
まっ、俺には関係ないけどな・・と、最後は小さく呟く。
「自覚はないだろうな。持つ前に、進めたからな」
顔も上げずに、エディがラドの言葉を拾い、返答をした。
それには、ラドも一瞬驚きを見せたが、
「やっぱり、お前は怖いねぇ。人の気持ちも無視で先に進めるなんて、相変わらず、狡猾だわ」
と、途中で笑い出した。
「まぁ、安心したわ。お前らしくてさ」
ラドは、呆れた眼差しをエディに向ける。
「で、話はそれだけか?」
エディがペンを止めずに、ラドに話を返す。
「役場の方は、所長ってのが力を貸してくれそうだ。後は、所長の話を聞いていた時に、役場に巣くう子ねずみくんが自ら動いてくれたりで、敵はあっさり見えたなぁ。ケントに、セフィ、それに、ジムラルが役場のゴミだ」
エディがこの時、動かしていたペンの手を止めた。
「子ネズミはケントか、それの親がセフィ」
「大当たり!」
ラドが鼻歌を口ずさみながら、エディの応えた回答に声を弾ませてみせる。
「あと、ロビンはカフェで「平民議員」親子と遭遇したらしいぞ。お前とアッシュを沈めてやるって、息まいていたらしいわ」
お前死んじゃうかもね?と、軽口を添えて、何だか楽し気に話しだすラド。
それには、エディは何も答えず、また、ペンを走らせる。
「まあ、今、暇だから、アッシュの「平民議員」大作戦に付き合ってあげるけども」
ラドは、面白いものでも思いついたように、口元をニヤリと上げた。そして、その口元を舌先でペロリと舐める。
「俺ねぇ、今朝、お前の言伝があった時、王都行きをお願いされるのかと思ってたの。もう喜んじゃったよ。なのに、ガキのお守だなんて、心が萎えたわ。でも、まあ、この「平民議員」大作戦?暇だし、手伝ってやるよ。だけどさぁ、タダじゃぁ、引き受けれないなぁ。俺が協力するんだから、報酬はたぁんと貰うからな」
エディはここで、顔を上げて、この日初めてラドと目線を合わせた。
「報酬は、いつも渡しているはずだが、今回は、それよりもってことか?」
静かな口調だが、エディが顰め面になりながら、ラドに向けて問い掛ける。
「いいやぁ、今回は金以外のものも貰うって話だよ」
ラドが美しい顔にうっすらとした笑みを浮かべて応える。
「君のところの、ローサちゃんを貰うよ」
美しい顔に不敵な笑みを浮かべるラドに、エディはクスリと笑う。
「面白いことを言うな。ローサは私の妻だ」
冷めた口調でいうエディに、ラドは「良く知っていますよ」と笑って見せる。
「あんたの親父がね、エディの結婚はもうすぐ終るって方々で言ってるぜ。元々、貴族の女を嫁に迎える予定が、貴族の血筋しか持たない女を嫁に貰ったとかで、お前の親父、ローサちゃん認めてなかったらしいじゃないか」
ラドが紡ぐ言葉に、エディが拳をぐっと強く握り締める。
「噂では、結婚と同時に、商会を引き継がせたのも、ローサちゃんとの仲に溝を生む為だったとか?」
あぁ、怖いね、お前ら親子は似てるよね?人でなしだわ。と、ブツブツと続けるラドを、エディはギロリと睨みつける。
「あんなに儚げで美しい女性は、この俺ですら知らないよ。正直、王都で、お前より先に出会いたかったナ」
ラドは、ローサの姿を思い起こしながら、うっとりと微笑む。
「ほんと、親父さんにも、ロビンにも感謝だわ。アッシュが「平民議員」になった頃には、お前も離縁成立してる頃だろうし、俺は報酬として、金と共にローサちゃんも貰うよ」
ラドは、その日一番の笑顔を浮かべる。
「ラド、私は、ローサとは離縁しない。誰が何と言おうとな」
エディのその言葉に、ラドは大きく舌打ちして、ソファーから勢いよく立ち上がる。
そして、エディの前から姿を消す為に、扉の方へと動き出す。
「それから、ラド解っているだろうが、お前の上司は、今日からアッシュだったはずだ。報酬もアッシュから貰え!」
去り際に、エディから投げかけられた言葉に対して、ラドは無言で扉を叩きつける様に閉めた。
それを見たエディは、奥歯を噛みしめながら、ここにいない自分の父親に怒りの念を送る。
『あの、クソ親父ィーーー』
エディは握るペンに力を入れる。ポッキっとペンが折れて、ペン先が宙を舞っていった。
この執務室の主であるハロルド商会の会頭エディが、その音に返答する前に扉は開かれていた。
そして、その扉から現れたのは美しい顔をした男、ラドであった。
ラドは室内に無言で入り、入り口傍にある革張りの高級な黒いソファーにどさりと音を立てて座り込んだ。
その様子に、エディはチラリと一度、目をやっただけで、再び、仕事の続きを進めていく。
「今朝、お前が寄こした言伝通り、ロビンとアッシュ宛ての手紙を持ってから、アッシュの秘書として役場にも付き添ったぞ」
美しい顔には、不服の色を乗せて、足は、ソファーの目の前にある一枚ガラスで作られたテーブルに置きながら、今日の仕事の出来を報告する。
「お前、あれを「平民議員」に仕立てるのか?」
頭の後ろに腕を回して、完全に寛ぎ体制としながら、今日、初めて会ったアッシュの感想を告げていく。
「なれるのかなぁ、まだ、自覚がないんじゃないか?やる気が見えねえけども」
まっ、俺には関係ないけどな・・と、最後は小さく呟く。
「自覚はないだろうな。持つ前に、進めたからな」
顔も上げずに、エディがラドの言葉を拾い、返答をした。
それには、ラドも一瞬驚きを見せたが、
「やっぱり、お前は怖いねぇ。人の気持ちも無視で先に進めるなんて、相変わらず、狡猾だわ」
と、途中で笑い出した。
「まぁ、安心したわ。お前らしくてさ」
ラドは、呆れた眼差しをエディに向ける。
「で、話はそれだけか?」
エディがペンを止めずに、ラドに話を返す。
「役場の方は、所長ってのが力を貸してくれそうだ。後は、所長の話を聞いていた時に、役場に巣くう子ねずみくんが自ら動いてくれたりで、敵はあっさり見えたなぁ。ケントに、セフィ、それに、ジムラルが役場のゴミだ」
エディがこの時、動かしていたペンの手を止めた。
「子ネズミはケントか、それの親がセフィ」
「大当たり!」
ラドが鼻歌を口ずさみながら、エディの応えた回答に声を弾ませてみせる。
「あと、ロビンはカフェで「平民議員」親子と遭遇したらしいぞ。お前とアッシュを沈めてやるって、息まいていたらしいわ」
お前死んじゃうかもね?と、軽口を添えて、何だか楽し気に話しだすラド。
それには、エディは何も答えず、また、ペンを走らせる。
「まあ、今、暇だから、アッシュの「平民議員」大作戦に付き合ってあげるけども」
ラドは、面白いものでも思いついたように、口元をニヤリと上げた。そして、その口元を舌先でペロリと舐める。
「俺ねぇ、今朝、お前の言伝があった時、王都行きをお願いされるのかと思ってたの。もう喜んじゃったよ。なのに、ガキのお守だなんて、心が萎えたわ。でも、まあ、この「平民議員」大作戦?暇だし、手伝ってやるよ。だけどさぁ、タダじゃぁ、引き受けれないなぁ。俺が協力するんだから、報酬はたぁんと貰うからな」
エディはここで、顔を上げて、この日初めてラドと目線を合わせた。
「報酬は、いつも渡しているはずだが、今回は、それよりもってことか?」
静かな口調だが、エディが顰め面になりながら、ラドに向けて問い掛ける。
「いいやぁ、今回は金以外のものも貰うって話だよ」
ラドが美しい顔にうっすらとした笑みを浮かべて応える。
「君のところの、ローサちゃんを貰うよ」
美しい顔に不敵な笑みを浮かべるラドに、エディはクスリと笑う。
「面白いことを言うな。ローサは私の妻だ」
冷めた口調でいうエディに、ラドは「良く知っていますよ」と笑って見せる。
「あんたの親父がね、エディの結婚はもうすぐ終るって方々で言ってるぜ。元々、貴族の女を嫁に迎える予定が、貴族の血筋しか持たない女を嫁に貰ったとかで、お前の親父、ローサちゃん認めてなかったらしいじゃないか」
ラドが紡ぐ言葉に、エディが拳をぐっと強く握り締める。
「噂では、結婚と同時に、商会を引き継がせたのも、ローサちゃんとの仲に溝を生む為だったとか?」
あぁ、怖いね、お前ら親子は似てるよね?人でなしだわ。と、ブツブツと続けるラドを、エディはギロリと睨みつける。
「あんなに儚げで美しい女性は、この俺ですら知らないよ。正直、王都で、お前より先に出会いたかったナ」
ラドは、ローサの姿を思い起こしながら、うっとりと微笑む。
「ほんと、親父さんにも、ロビンにも感謝だわ。アッシュが「平民議員」になった頃には、お前も離縁成立してる頃だろうし、俺は報酬として、金と共にローサちゃんも貰うよ」
ラドは、その日一番の笑顔を浮かべる。
「ラド、私は、ローサとは離縁しない。誰が何と言おうとな」
エディのその言葉に、ラドは大きく舌打ちして、ソファーから勢いよく立ち上がる。
そして、エディの前から姿を消す為に、扉の方へと動き出す。
「それから、ラド解っているだろうが、お前の上司は、今日からアッシュだったはずだ。報酬もアッシュから貰え!」
去り際に、エディから投げかけられた言葉に対して、ラドは無言で扉を叩きつける様に閉めた。
それを見たエディは、奥歯を噛みしめながら、ここにいない自分の父親に怒りの念を送る。
『あの、クソ親父ィーーー』
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