<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第19話

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役場を後にしたアッシュとラドは、トウの町の中心部にあるハロルド商会の会頭エディが用意したとする、新しいアッシュの仕事場へと向かった。



賑わう町の中をゆっくりと進んでいくと、最近できたばかりのお洒落なカフェテリアが見えてきた。



トウの町には何とも不釣り合いなこの外観に、最初は、町の人々は困惑を示していた。



だが、カフェテリアが開店してからは、興味本位もあってか人だかりが出来る毎日だった。



しかし、なかなか、庶民には入りにくい外観に、異国の薫りが風に乗って漂う様子には、人々は気にはなりながらも入店する勇気が持てずにいた。



そんな町で注目のカフェテリアに、人だかる中掻い潜っていくのは、この町で少しお金がある者達だ。彼らは少し装いも小洒落た姿にして、まるで、王都の貴族街へ出掛けて行くかのような出で立ちに、人だかる者は、羨望の眼差しを向けていく。



それがまた、利用する者の心を揺さぶり、自分自身が持つステイタスを更に高められたように感じたのだった。



そんなトウで一番高級なカフェテリアの目の前にあるのが、アッシュの対抗馬となるケーシーの事務所だ。



こちらは、長くケーシーたち一族の「平民議員」としての活動拠点とされていた場所らしく、なかなか年季の入った建物だ。



向かいにあるカフェテリアと同じ空間にあると、顕著に古さが目立つ代物だ。



そんな年季の入った建物からは、人の出入りがよくされている。



何代にも渡り、「平民議員」として活動してきたので、動きも心得ているのだろう。



動きには機敏さを感じる。それくらい、ケーシーの事務所では人々が活発に動き回っている。



『凄いな』



敵陣の活動を横目で見ながら感心し、そのまま、ケーシー陣営に気付かれることもなく、アッシュとラドはケーシーの事務所を通り過ぎていくのだった。



ケーシーの事務所から然程離れてはいないところに、アッシュの事務所となる建物はあった。



何の目的で、ハロルド商会が所有していたのかわからないが、こちらは茶系に壁が塗られたこの辺りでは少し小さいが割に新しい建物である。



そんな中に入ると、さすがハロルド商会と思える調度品が最低限ではあるが用意されていた。



その建物の奥から、ロビンが顔を出してきた。



どうやら、奥には執務室が設えられているようで、ロビンがそちらで話をしようと促してきたので、アッシュとラドも後に続いた。



「で、そちらはどうでした?」



ソファーに腰かけてすぐに、ロビンがアッシュに声を掛けてきた。



ロビンの質問に、「あっ、うん・・」と少し相づちを打ちながら、アッシュは、ラドが先程、執務室手前にある小さなキッチンで入れてきてくれたお茶を頂きながら、室内を見渡していく。



執務室の中で、最初に目に付いたのが、アッシュ専用となる仕事用の机と椅子、そして、その後ろには本棚が配置されている。



また、入り口に近い所には、今、自分をはじめ、ロビンやラドが腰掛けるソファーとそれに見合うテーブルが置いてある。



完璧な執務室であった。



「平民議員」への承諾?をしたのもつい昨日だったというのに、その取り揃えの速さに、『本当に凄い!』と感心し、改めて、ハロルド商会の力を思う。



「役場では、特に問題なくでしたか?」



再び、ロビンが問い掛けるので、慌てて意識を取り戻して、ロビンの会話に耳を傾ける。



「あっ、挨拶はしてきた。まあ、所長がこちらの味方になってくれそうだな・・」



少し歯切れの悪い言い方に見えるアッシュに、ロビンは首を掲げてみせる。



「いや、わかってはいたんだが、何人か私の立候補に対して、不服な輩がいた」



アッシュの言葉に、ロビンもなるほどなっと合点がいった。



「それは誰ですか?」



「ああ、直接、行動に出してきたのは縁故採用で有名なケント、それに、私の直属の上司だったセフィだ」



アッシュが告げた名前に、ロビンもフーンと軽く頷いてみせた。



「ケントは、まあ先輩ではあるが大した人物じゃないと思う。けど、上司のセフィが厄介な気がする」



昔から余り好きではなく、上司としても慕えなかったセフィではあったが、今日の役場での姿にはそれ以上に彼を嫌悪してしまった。



「あんな人の下で働いていたのかと思うと、色々と考えてしまった・・」



ポツリと呟くアッシュに、ロビンが少し戸惑いを見せる。



そんな二人の様子に割って入るように、ラドが付け加えるように話を繰り出す。



「所長の話では、今日はいなかったようですが、もう一人厄介な人物がいる話でしたね。名前はジムラル。退職して、今は公人幹部とかの役職にいる大物らしいです。他に、役場以外にも駐屯騎士団にも縁者がいるとかでしたね?」



ラドの話に、ロビンも眉を顰め出す。



「ジムラルって?、ウラスの叔父にあたる人だよ。ウラスの父親の年の離れた末の弟だったはず・・」



多分、自分より兄のエディのが詳しいんじゃないかと、最後にはロビンは口ごもる。



「へえ、そんなのが身内で偉いさんとしていてたら、それはそれは、かなりヤリやすですね。何かとね?」



ラドが美しいその顔を瞬かせながら、自分が入れたお茶を一口啜って、話をする。



「で、ロビンはどうだったんだ?私達も、さっきケーシーの事務所の前を通って来たんだが、人の出入りが多く感じたけども」



アッシュが、今度はロビンに問いかけると、ロビンが、いつも以上の笑顔を浮かべてみせる。



「えぇ、僕の方は、とっても美味しいコーヒー頂いて来たんですよ!」



ロビンは、ケーシーの事務所前に建つ、この町に似つかわしくないお洒落な外観のカフェテリアで過ごしたことをさらりと告げる。



「ただね、その美味しいコーヒーを吹き出すようなことがあってぇー」



ロビンは、当時を思い起こしたのかで、急に、腹を抱えて笑い出した。



「いやぁー、コーヒー飲みながらぁ、アハハ・・敵城視察していたらねぇ、ケーシーとウラスが来てですね。ぎゃははは・・・」



ロビンは、目に涙を浮かべて一人笑う。



「もう、おかしぐってぇ。ぎゃははは・・・だっでぇ、あの二人、ハロルドが運営してるカフェでぇ、アッシュ義兄さんとうちの兄さんを沈めてやるってぇ、真剣な顔して話してるのよ。うひゃひゃひゃぁ・・・」



ロビンはあの二人の会話を思い出し悶えて、壊れかけてきた。



「もうもう、本当に我慢するのが大変でね。ワハハ・・思わず、兄さんに縋っちゃったくらい。もう失態はしないから許してって」



笑いまくるロビンからは、今一つ状況が読み取れていないアッシュに、ラドがきちんと説明してくれる。



「ケーシー事務所前に建つカフェテリアで、多分、ロビンさんは、目の前のケーシー事務所を張り込んでいたんでしょうね。あのカフェテリアは、表立っては公表されていませんが、ハロルド商会運営のものですからね。なので、あそこなら何時間でも居座れる。しかも、高級なカフェだから、室内の造りも優雅に落ち着けるようにしている。おまけに、利用する者も、それなりの人物が多いので、まさかそんなところで見張り何てしているとは、誰も思わないだろうと。エディ様からの教え通りにしていたら、当の見張る対象の本人方が見えられた。しかも、彼らは、敵の陣地であるカフェテリアで、堂々と、この選挙活動で邪魔なアッシュさんとエディ様を蹴落として、排除してやると言っていたんでしょうね。しかも、すぐ傍に、排除対象と上げた二人の弟であるロビンさんが居るのも気づかずに。まあ、こんな感じでしょうか?」



ラドは、話の最後には、美しい顔がますます輝くような笑顔を、アッシュに向けた。



「せ、説明ありがとうございます」



アッシュは、ラドから放たれた輝く笑顔を見て、少し照れながらラドにお礼を言った。



その横では、涙で濡れた瞳を輝かせたロビンが、ラドを褒めていた。



「ラド、凄いね!一緒にコーヒー飲んでたっけ?」



呆気にとられながらも、ロビンが見てきた話(ラドの説明によるもの)と自分が見てきたことを頭の中で、必死に整理するアッシュであった。

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