<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第6話

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結局、昨日は想定外の助っ人が現れたことで、アッシュは平穏を取り戻すことが出来たのだった。



その平穏を崩さない為、自身の中に堪った毒を臍を曲げた父に吐き掛けない為にも、昨夜は、父の元には行かず、アッシュは素直に自室に戻って休むことにしたのである。



そんな翌朝、快適とは言わないが、昨日よりも目覚めはとても良かった。



アッシュは、神に感謝してもいいと思う位な気分である。



いつもの様に衣服を着替えながら、これからの行動を立てていく。



今日は、父の職場にも顔を出して、社長にお礼を伝えに行かねばならない。



仕事帰りによることを頭に入れてから、まずは、昨日一度も顔を合わせていない父と話をしないといけないだろうと心に置く。



仕事に出る時間があるので、どこまで父が素直に話を聞いてくれるかわからないが、社長に会うことも前提で、父をうまく納得させねばなるまい。



なかなか厳しいところもあるが、へこんでいる今なら強行で終わらせられそうだ。



自分の計画に自信を持ちながら、とにかく、早々に、父がいる部屋にいくことにした。



「おはようございます」



途中、朝食の為に、ダイニングへ顔を出したのだが、ダイニングにいる祖母や母は、少しやつれて声に張りがない。



「ぉ・はよう」



『まさかと思うが、夢を絶ち切れてないとかか』



アッシュは眉間に皺を刻む。



『ご飯は後のがいいかもしれん』



祖母と母の様子に、父が気になりだしてしまい、ダイニングを後にして、父の元へ急ぐ。



『まだ、夢見ているのかよ‥』



呆れながらも、とにかく、父に無謀な夢だと解らせることに集中しようと、アッシュは父の自室の扉を叩く。



「父さん ちょっと話がしたいから開けてくれ」



声を掛けて、扉を叩くが返事もない。



「まだ拗ねてるのかよ。いい加減にしろよ!」



ガチャガチャと、ノブを回してみたりしても、返答がない。



そんなことをしていると、父のいる部屋とは反対の方向から、大きな声が聞こえてきた。



どうやら、ロビンが今頃帰宅したらしく、家の中が急に騒がしくなったようだ。



しかし、今のアッシュには、ロビンはどうでもいいことだ。



社長に会う前に、父にきちんと確認しておきたい。それが今の自分に課せられた目標だ!



そんな思いから、アッシュは扉を叩いたり、ノブを回したりと行動を繰り返す。



だが、父からの返事はなくて、ロビンとメイの声が耳に入ってくる。



「頼むから、ここを開けてくれよ!」



アッシュは、メイとロビンの声に負けじと声を張り上げる。



でも、中からの反応はない。



朝は忙しいのである。



クソ親父の駄々こねに付き合っている時間はない。



段々と、アッシュの手に力が籠る。



「父さん、昨日、社長も来られたんだよね?世間のこともこれでわかっただろう!」



父の無謀な宣言を絶対に改めさせる為に、返事がないならと扉を少し派手な音を響かせて叩いてみたりしながら、アッシュは次の手として昨日の社長の話などだしてみた。



しかし、父は何とも言わない。



『まさか、寝てるとか・・・』



有りえる状況に、頭を抱える。



昨夜、部屋で引き籠り、フェイの為にと玩具を一心不乱に作業していた父が、今は高いびきをかきながら寝ている姿がアッシュの頭の中を掠めていく・・・



『朝に話を』と考えていた自分を恨みそうになるアッシュ。



だが、そうなればと、これまで以上に強い力で激しくドアを叩き、父を起こしてやると勢いつくのだった。



一方で、ダイニング近くの所で、メイはロビンと話をしていたのだった。



兄がいつになく激しく扉を叩いたり、声を上げているのがわかっていても二人は気にとめないでいた。



「ロビン、おかえりなさい。昨日はどうしたのよ」



メイは、先程、乳を飲んでお腹が膨れて眠るフェイを抱きながら、「昨日は大変だったんだよ」と、昨日の昼間の話を繰り広げる。



それに対して、ロビンは大きな箱を抱えながらも、目を瞬かせてメイが話す話題に釘付けだ。



「へえー、そんなことがあったんだ」



のんびりとした口調で、ロビンはメイの話に相づちを打つ。



「そうなのよ、父さん、拗ねちゃってさ」



肩を竦めながら、メイは父の様子を伝えると、その言葉に、初めてロビンは驚いて見せたのだった。



「えっ!お義父さん、「平民議員」にはならないの?」



その様子に、メイが少し申し訳なさげにしながらも、あっさりと



「うん、ならないよ、というか、なれないよ」



と、軽く告げたのだった。



それには、ロビンが心底、衝撃を受けた顔をして見せるので、メイは少し驚いてしまう。



「ぇ・・えっと、ロビンは信じてたの?」



ちょっと恐る恐ると、メイが聞いてみると、ロビンが真顔で頷く。



「えっ!本当に信じてたの?そうなんだ、ごめんね・・」



ここに来て、メイはちょっと後悔した。ロビンの人の良さや馬鹿さはほんものなんだと。



「僕はいいんだよ」



ロビンはちょっと不貞腐れた表情を浮かべると、ずっと手で抱えていた箱を床に置いてから、その箱から一枚の用紙を取り出してみせる。



その用紙を、メイも少し背伸びしながら覗き込むと、



「何それ?」



と、眉間に皺を寄せて問う。



すると、ロビンは、にこやかな顔を向けて、昨日の自分がしたことを告げだした。。



メイは、そんな夫の話を、妙な紙を見つめながら、静かに聞くことにしたのだった。
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