<第一部 完結> お前がなれるわけがない!

mokono

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第1部 第3話

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朝日が室内に差し込み、その明るさで、アッシュは目を覚ました。



ベットから起き上がるが、体はいつも以上に重い気がする。



頭を大きく振り、どうにか、気力でベットから立ち上がり、職場へ行く準備に取り掛かる。



パジャマを脱いで、仕事用に作った少し高めのシャツに袖を通し、ズボンを穿く。



そこで、少し昨夜の記憶を辿る・・・



アッシュは昨夜の夕食時の家族を思い出す。



それぞれが、父の馬鹿発言に惑わされて、挙句、同じ夢に酔いだすという狂気の姿になっていた。



何度もアッシュは、口を開いては、家族を夢から引きずりだそうと、懸命に諭したが変わらなかった。



もちろん、一番の馬鹿である父には、口汚くなるくらいの言葉で攻め立てた。



『だいたい、ろくに言葉も知らないような者が議会の場で論じたり出来る訳がない!』



『議員になっても、会議中に寝ることしかできないような奴がなれるのか!』



『では聞くが、この国の大臣の名は知っているのか!国王陛下は何歳か知っているのか!』



『お前は、そもそも家族を泣かしてきたような奴なんだ!そんな奴が議員なんてなってたまるか!』



『飽き性のお前がやれるもんじゃない!』



『うちはお前の為に出す金はないからな!』



本当に色々と、実父に向かって言った。いや、これまでの思いを込めて言ってやった!



がしかし、何故か、今回は自分以外は皆、馬鹿親父を擁護してきた。



祖母なんかは、『葬式用にと思って貯めておいたお金が、少しならあるがのう』とまで言い出す始末だ・・・



そこで、自分が劣勢に立たされていることに気づく、いや、はじめっから孤立していたな。



祖母の言葉に、今日は引くしかないと思うに至り、その夜は『もう寝る』と言い残して、自分の部屋に戻ったのだった。



そんな昨日の様子が頭を掠め、「あれは、酒も飲んでいたからであって、本気ではないはず」と、自分に言い聞かせる様に呟く。



そして、昨夜、夕飯をとったダイニングへと向かいながら、祈るアッシュであった。



アッシュが、ダイニングへ現れると、フェイを抱きかかえたメイが朝食をとっているところだった。



一人だけか・・・赤ん坊はいるが。



目に入る光景に、少し安堵して、まずは、メイから崩していくことを考えて席に着く。



「おはよう、兄さん」



「おはよう。まだ、ロビンは寝ているのか?」



我が家の朝は皆バラバラな時間の為、籠に入れた山盛りのパンやうちでとれた野菜のサラダ、そして、取り皿などがテーブルに置かれ、また、キッチンに行けば、鍋に具材は野菜のみのスープ、それにポットにはお茶が入れてあり、セルフサービスで食べれるようにと、忙しい母の発案でなされた朝食が用意されている。



アッシュは、メイに挨拶を交わした後は黙って、パンを皿にのせる。



するとメイが立ち上がり、フェイをアッシュに預けて、キッチンへと向かった。



アッシュは、フェイを抱えながら、今度はサラダをパンと同じ皿へ載せる。



そこへ、メイがお茶とスープを持ってダイニングに戻り、兄の前にそっと置いてから、再びフェイを兄から受け取った。



「もう、ロビンは起きて出かけたわ」



メイの言葉に、アッシュは眉間に皺を刻む。



いつもゆっくりなあの男が既に起きて出かけていることに、衝撃を受ける。



「ハロルド商会に顔出しに行ったのよ。お義兄さんに話をしにね」



その言葉にアッシュも、ロビンもロビンの立場があるだろうからな!と、他家の話に首を突っ込む言われはないな!と、口を噤んでみせるが、続く、メイの言葉には、思わぬ声が漏れた。



「父さんももう出かけたよ!」



「はっ!嘘だろ!」



目を見開いて、口へ運ぼうと手にしたパンがテーブルに落ちた。



2回目の衝撃談である。



父は、仕事に行きたくないと、いつもギリギリまで寝ているかダイニングで居座るタイプだ。



そんな父がもういないとはありえない。



「うん、でも、もう仕事に行ったよ。母さん見送ってたし」



メイはフェイをあやしながら、呑気に応える。



「まさかと思うが、昨日の話、皆、本気にしているのか?」



アッシュは睨むような視線をメイに向ける。



「ど・・どうかな?父さんだし、昨日は、何か盛り上がっちゃったけどねぇ・・・どうだろう?」



メイの目が泳ぐ。



「お前、昨日はなんであんな事言った。お前も父さんに振り回された一人だろう。卒業式に着るはずだったドレスも、父さんがまた急に仕事辞めて、給料が入らなくなって、欲しかったの諦めた事あったじゃないか。他にも、うちからの持参金だって、平民にしても少ないって嘆いただろう」



アッシュは、パンを手にしながら、過去にメイが悲しんでいた姿を思いだしながら、メイに訴えて見せる。



その言葉に、メイも下を向いて、少し、涙目になりながら、兄に少し悪態をついて見せる。



「そうよ。散々、嫌なことがあったわ。だからこそ、夢を見たくなったのよ!たぶん、母さんもそうよ!」



メイは、ぎゅっとフェイを抱きしめながら、「いいじゃないの。どうせ、なれっこないんだしさ」と呟く。



その姿に、少し、アッシュも自信を取り戻し、「良かったよ。お前がバカじゃなくて」と小さく告げ、我が家伝統の少し硬いパンを口に入れて、ゆっくりと咀嚼しながら、少し笑顔を零した。
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