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第三十三話 新たな罪を
しおりを挟む 地面を転がり、辛うじて身をかわすア―サ―。だが大蛇は地面に大きな溝を掘りながらそのまま突き抜け、一旦空まで上昇して方向転換、再びア―サ―に向かってきた。
体勢を立て直し、ドロドロッドを構えてア―サ―は迎え撃つ。
ロッドの下方先端を両手で握り、上部の髑髏に火炎と稲妻を灯して……
「ビリビリメラメラボ――――ルっっ!」
思いっきり大きく、振り抜いた。火炎と稲妻の絡まりあった魔力弾が放たれ、風の大蛇に向かっていく。
風の顎が大きく開かれ、風の牙が魔力弾を噛み砕いた、と同時に爆発! 強烈な爆風が竜巻を吹き飛ばし、大蛇は四散して風に還った。
だが、やったと思ったその瞬間、
「ぐはぅっっ!」
校舎ゴ―レムの巨大な爪先が、ア―サ―を路上のゴミのように蹴り飛ばした。
《ア―サ―君っ!》
《来々世!》
ゴミと言ってもいろいろあるが、この場合は軽い軽い紙クズだ。ア―サ―の体は簡単に校庭を越え、校門の外まで吹っ飛ばされてしまう。
仰向けで地面に激突し、それでも勢いは衰えず、そのまま跳ね転がっていく。胸と腹を強烈に蹴られたことと、背中からの落下とが時間差で肺を押し潰し、ア―サ―の呼吸を塞いだ。
が、それでもア―サ―は、根性で手放さなかったドロドロッドを地面に突いて回転を止め、それを支えにして立ち上がる。
「ぅぐ……くっ、」
しかし立ち上がったものの流石にダメ―ジは大きく、すぐには動けない。
そんなア―サ―を見て、ちゃんとア―サ―に聞こえるように、校庭の中央に立つ暴風リンは大声で言った。
「この魔力・体力の充実感! どうやらあと一押しのようだぞ白の女神よ!」
校舎ゴ―レムは、空に渦巻く雲の門を見上げた。
そして次に、体育館を見た。
「そうだ、あと一押しだ。例えば幻覚ではなく現実の、死への恐怖ならきっと……」
「!」
「門を開ける、最後の鍵となるだろう!」
校舎ゴ―レムが走り出した。
体育館に向かって。
「ま、待てええええぇぇっ!」
動かない体を無理矢理動かして、ア―サ―が追う。だが今の状態で、しかも歩幅に圧倒的な差もあって、追いつけるはずもなく。
「まずは、こうだ!」
校舎ゴ―レムは、あっという間に体育館に到着した。屋根を見下ろす位置に立つと、ためらわず平手を斜め上から振り下ろす。
まるで、丸く盛り付けられたポテトサラダをスプ―ンで掬い取るかのように。体育館の屋根は、東側半分を削ぎ取られた。
校舎ゴ―レムは、その穴(穴というほど小さなものではないが)から体育館内を見下ろす。
そこには、痛みや恐怖に耐えながら、懸命に合唱している七百人がいる。
「ご苦労だったな。今、お前たちを苦しめていた幻術を解いてやろう。そして、最後の仕事にかかってもらう!」
校舎ゴ―レムが、ばん! と手を叩く。すると唐突に「二号コ―ル」が止んだ。
そして、戸惑いのざわめきに変わる。
「……え? あれ? 何だ?」
「ここ、体育館……?」
「! 上見て、上っ!」
ほんの一瞬、白の女神が助けてくれたかと安堵した者もいたが、それは本当に一瞬だった。
いつの間にか半分なくなっている屋根と、赤黒い空をバックに自分たちを見下ろしている恐ろしげな巨人の姿を、七百人は否応なしに見せつけられてしまった。
悲鳴を上げ、全員が一斉に逃げようとする。が、ドアも窓も開かず破れない。できることといえば、できるだけ巨人と距離をとること。
そのため、半分だけ残っている屋根の下に、全員が殺到して押し合う形となった。その押し合う中にオデックもいるが、さすがにこうなると扇子を振ることもできない。
地を這う虫の群れの中に足を踏み入れて、ざあっ……と群れが移動し、怯えて集まる様を見ている人間。それが今の、校舎ゴ―レムだ。
「よしよし、いいぞ」
体育館からもくもくと立ち上る暗い霧の勢いが増し、空の渦の中央に吸い集められていく。生徒たちの恐怖が、再び強まった証拠だ。
もうあと一押しだ、間違いない。校舎ゴ―レムは確信した。
一方、ア―サ―は未だに校舎ゴ―レムを追いかけて走っている最中。だが、まだ校庭の半分を隔てている。
校舎ゴ―レムは背を向けている。とはいえビリビリメラメラボ―ルが簡単に相殺されたことから考えても、この距離でダメ―ジを与えられる自信はない。
ア―サ―は焦り、走る。だがその姿を全く見ようともせずに校舎ゴ―レムは、
「さてと……」
体育館東側の壁を踏み潰しつつ、館内に踏み込んだ。七百の悲鳴が一際大きくなる。
そして、その巨大な拳を振り上げた。狙いはもちろん、眼下の虫の群れだ。まあ、いくら虫に見えても神への供物だ。だから敬意を払って足で踏み潰さず、手で叩き潰すことにする。
「では、死んでもらおうか!」
校舎ゴ―レムの拳が、半分だけ残っている屋根ごと、その真下にいる七百人を叩き潰すべく振り下ろされる。
それを見たア―サ―たちは、
《来々世! 来世と代われ! ヨでは間に合わん!》
《ア―サ―君!》
「はいっ! ……前世っ!」
眩しい輝きの中、一気に加速して校庭を駆け抜け跳んだ。そして、
「何っ⁉」
勢いよく振り下ろした拳を止められて、校舎ゴ―レムは驚愕した。屋根と拳の間に、何やら小さな白いものが飛び込んできて挟まって、拳を受け止めたのだ。
それを見上げる生徒たちも、驚いた。抉られて半分になった屋根の崖っぷちに立ち、両足を踏ん張って両腕を掲げて、巨人の拳を受け止めている、あの白い戦装束の少女は……
「女神二号ちゃああぁぁんっ!」
オデックの歓声、というより悲鳴じみた声がア―サ―の耳に届いた。だがア―サ―は、それに手を振って応えることはできない。校舎ゴ―レムの、その巨体を考慮してもなお予想を上回る怪力に、ただ踏ん張っているのが精一杯なのだ。
そして、それはまだ片手であり、校舎ゴ―レムとていつまでも驚いたまま固まってはいないことをア―サ―はすぐに思い知った。
校舎ゴ―レムが、空いている方の拳をア―サ―に向け、肘を引いたのだ。
そしてその腕に、暴風の大蛇が巻きつく。
「さあ、かわせるか?」
かわせない、と思った時にはもう拳が唸りを上げて向かってきていた。
「っ……!」
校舎ゴ―レムの、容赦ない一撃が命中! 身動きのできないア―サ―は、その巨大な拳で直接殴られながら、同時に大蛇の牙を受けた。無抵抗のまま猛烈な力で殴り飛ばされ、上空へと吹っ飛んでいくア―サ―を、暴風の大蛇が喰らっている。
その風の牙は魂に鋭く食い込み、ア―サ―の意思、感情、五感いや六感まで全てを傷つけ、弱らせていく。
『ぅ、ぐううっ……!』
体勢を立て直し、ドロドロッドを構えてア―サ―は迎え撃つ。
ロッドの下方先端を両手で握り、上部の髑髏に火炎と稲妻を灯して……
「ビリビリメラメラボ――――ルっっ!」
思いっきり大きく、振り抜いた。火炎と稲妻の絡まりあった魔力弾が放たれ、風の大蛇に向かっていく。
風の顎が大きく開かれ、風の牙が魔力弾を噛み砕いた、と同時に爆発! 強烈な爆風が竜巻を吹き飛ばし、大蛇は四散して風に還った。
だが、やったと思ったその瞬間、
「ぐはぅっっ!」
校舎ゴ―レムの巨大な爪先が、ア―サ―を路上のゴミのように蹴り飛ばした。
《ア―サ―君っ!》
《来々世!》
ゴミと言ってもいろいろあるが、この場合は軽い軽い紙クズだ。ア―サ―の体は簡単に校庭を越え、校門の外まで吹っ飛ばされてしまう。
仰向けで地面に激突し、それでも勢いは衰えず、そのまま跳ね転がっていく。胸と腹を強烈に蹴られたことと、背中からの落下とが時間差で肺を押し潰し、ア―サ―の呼吸を塞いだ。
が、それでもア―サ―は、根性で手放さなかったドロドロッドを地面に突いて回転を止め、それを支えにして立ち上がる。
「ぅぐ……くっ、」
しかし立ち上がったものの流石にダメ―ジは大きく、すぐには動けない。
そんなア―サ―を見て、ちゃんとア―サ―に聞こえるように、校庭の中央に立つ暴風リンは大声で言った。
「この魔力・体力の充実感! どうやらあと一押しのようだぞ白の女神よ!」
校舎ゴ―レムは、空に渦巻く雲の門を見上げた。
そして次に、体育館を見た。
「そうだ、あと一押しだ。例えば幻覚ではなく現実の、死への恐怖ならきっと……」
「!」
「門を開ける、最後の鍵となるだろう!」
校舎ゴ―レムが走り出した。
体育館に向かって。
「ま、待てええええぇぇっ!」
動かない体を無理矢理動かして、ア―サ―が追う。だが今の状態で、しかも歩幅に圧倒的な差もあって、追いつけるはずもなく。
「まずは、こうだ!」
校舎ゴ―レムは、あっという間に体育館に到着した。屋根を見下ろす位置に立つと、ためらわず平手を斜め上から振り下ろす。
まるで、丸く盛り付けられたポテトサラダをスプ―ンで掬い取るかのように。体育館の屋根は、東側半分を削ぎ取られた。
校舎ゴ―レムは、その穴(穴というほど小さなものではないが)から体育館内を見下ろす。
そこには、痛みや恐怖に耐えながら、懸命に合唱している七百人がいる。
「ご苦労だったな。今、お前たちを苦しめていた幻術を解いてやろう。そして、最後の仕事にかかってもらう!」
校舎ゴ―レムが、ばん! と手を叩く。すると唐突に「二号コ―ル」が止んだ。
そして、戸惑いのざわめきに変わる。
「……え? あれ? 何だ?」
「ここ、体育館……?」
「! 上見て、上っ!」
ほんの一瞬、白の女神が助けてくれたかと安堵した者もいたが、それは本当に一瞬だった。
いつの間にか半分なくなっている屋根と、赤黒い空をバックに自分たちを見下ろしている恐ろしげな巨人の姿を、七百人は否応なしに見せつけられてしまった。
悲鳴を上げ、全員が一斉に逃げようとする。が、ドアも窓も開かず破れない。できることといえば、できるだけ巨人と距離をとること。
そのため、半分だけ残っている屋根の下に、全員が殺到して押し合う形となった。その押し合う中にオデックもいるが、さすがにこうなると扇子を振ることもできない。
地を這う虫の群れの中に足を踏み入れて、ざあっ……と群れが移動し、怯えて集まる様を見ている人間。それが今の、校舎ゴ―レムだ。
「よしよし、いいぞ」
体育館からもくもくと立ち上る暗い霧の勢いが増し、空の渦の中央に吸い集められていく。生徒たちの恐怖が、再び強まった証拠だ。
もうあと一押しだ、間違いない。校舎ゴ―レムは確信した。
一方、ア―サ―は未だに校舎ゴ―レムを追いかけて走っている最中。だが、まだ校庭の半分を隔てている。
校舎ゴ―レムは背を向けている。とはいえビリビリメラメラボ―ルが簡単に相殺されたことから考えても、この距離でダメ―ジを与えられる自信はない。
ア―サ―は焦り、走る。だがその姿を全く見ようともせずに校舎ゴ―レムは、
「さてと……」
体育館東側の壁を踏み潰しつつ、館内に踏み込んだ。七百の悲鳴が一際大きくなる。
そして、その巨大な拳を振り上げた。狙いはもちろん、眼下の虫の群れだ。まあ、いくら虫に見えても神への供物だ。だから敬意を払って足で踏み潰さず、手で叩き潰すことにする。
「では、死んでもらおうか!」
校舎ゴ―レムの拳が、半分だけ残っている屋根ごと、その真下にいる七百人を叩き潰すべく振り下ろされる。
それを見たア―サ―たちは、
《来々世! 来世と代われ! ヨでは間に合わん!》
《ア―サ―君!》
「はいっ! ……前世っ!」
眩しい輝きの中、一気に加速して校庭を駆け抜け跳んだ。そして、
「何っ⁉」
勢いよく振り下ろした拳を止められて、校舎ゴ―レムは驚愕した。屋根と拳の間に、何やら小さな白いものが飛び込んできて挟まって、拳を受け止めたのだ。
それを見上げる生徒たちも、驚いた。抉られて半分になった屋根の崖っぷちに立ち、両足を踏ん張って両腕を掲げて、巨人の拳を受け止めている、あの白い戦装束の少女は……
「女神二号ちゃああぁぁんっ!」
オデックの歓声、というより悲鳴じみた声がア―サ―の耳に届いた。だがア―サ―は、それに手を振って応えることはできない。校舎ゴ―レムの、その巨体を考慮してもなお予想を上回る怪力に、ただ踏ん張っているのが精一杯なのだ。
そして、それはまだ片手であり、校舎ゴ―レムとていつまでも驚いたまま固まってはいないことをア―サ―はすぐに思い知った。
校舎ゴ―レムが、空いている方の拳をア―サ―に向け、肘を引いたのだ。
そしてその腕に、暴風の大蛇が巻きつく。
「さあ、かわせるか?」
かわせない、と思った時にはもう拳が唸りを上げて向かってきていた。
「っ……!」
校舎ゴ―レムの、容赦ない一撃が命中! 身動きのできないア―サ―は、その巨大な拳で直接殴られながら、同時に大蛇の牙を受けた。無抵抗のまま猛烈な力で殴り飛ばされ、上空へと吹っ飛んでいくア―サ―を、暴風の大蛇が喰らっている。
その風の牙は魂に鋭く食い込み、ア―サ―の意思、感情、五感いや六感まで全てを傷つけ、弱らせていく。
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