僕らの名もなき青い夏

遊野煌

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七話

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 サディアスは私の常識的にはおかしな行動に混乱しつつも、私たちの準備ができた事を確認してすっと手をあげる。

 誰かがゴクリと唾液を飲み込む音が聞こえた気がした。それほど静かだ。多くの人がいるのに、全員が私達に集中している。
 
 決意を孕んだ鋭い視線、陽光に照らされて煌めく剣先。

 魔力をただひたすらに注ぐ。

 …………初手、最初の一瞬で勝負は決まる。ここだけだ、ここだけを凌ぐだけでいい。

 胸の中心でシャラリと音を立てる簡易魔法玉が発光しすぎて、破裂しても構わないというほど魔力を込める。

 原作での魔力の表現は水だった。ララは魔法を発動する時、自分の中のエネルギーを水のように注いで魔法を使うと言っていた。
 私の中でそれは炎の様な熱だ。我ながら、あまりらしくない発想ではあるが、思いを込めるように魔法玉に熱を込めれば、私を強くする力として反映してくれる。

 ふっ、ふっと短く呼吸をする。強く意識すると自分の中の熱の残量が分かる。まだまだ十分の一も減っていない。

 もっと。

 サディアスは私とシンシアを視線だけで一度ずつ確認する。それからふっと手を振り下ろす、その仕草が通常の動画をスロー再生した時のように映る。

 そんな中でもシンシアは通常通りの速度で私の元へと駆け出してくる。

 私は動かない。下手に剣を振るうより、受ける事を予め選んでいた。

 でも、これじゃ足りない。もっと彼女を、戦いに慣れているシンシアを見切れるぐらい、魔力を。

 目を見開いて迫ってくる彼女を凝視したまま、剣を彼女が打ち込んでくる方向と鏡合わせになるようにして一歩踏み込む。

 ギィインと耳にいたい音と手に響く衝撃で彼女の攻撃を受けられたのだと察する。一撃目を回避されたシンシアは、すぐに足を引き、また振りかぶり、斬撃を繰り出す。

 ……っ、えっと、横にっ。

 構える方向を変えると体勢が辛い。一撃目よりも威力は落ちていたが、押し切られて衝撃を受け止めきれずに数歩後退する。

  ……痛いっ、それにやっぱり怖い。

 剣を握っている手が酷く痛い。けれど務めて表情を崩さないようにする。
 これだけ世界がスローなのに、彼女はすぐに距離を詰めて私の方へと踏み込んでくる。

 女性らしく彼女の筋肉はしなやかで、大きく踏み込んだ状態でも、した方向から私の剣を薙ぎ払うように剣を振るう。
 その姿は少女ではなく、野生の獣を彷彿とさせる素早い判断と動きで瞳に灯る光が、暗闇で光る肉食獣の眼のようだった。

 ……でもっ!私だって!!

 同じ土俵に今はいる、魔力を込めろ、もっともっと熱をあげるしかない。

 魔力を強く込めると、彼女が一瞬だけスローに見えて、それでも私の体は通常通りに動く。しかし私は、彼女に剣を打ち込むことはできない。
 下からの攻撃を相殺するように斜め上から振り下ろして、また金属同士が強くぶつかり合う音をあげた。

 ……やった!っでもこれ、あとどれくらい、続くのっ、もう腕が。

 そう考えた瞬間、シンシアは少し微笑む。剣は受け止めていても、私の足と足の間に彼女の足が入り込んでいて簡単に足を払われて横転する。

 技量の差としか言いようがない一手に、私は簡単にバランスを崩す。その瞬間わけも分からず、切られる恐怖から魔力を強く込めた。

 真上から降ってくる剣を腕の力だけで受け止めるが、脇腹を蹴り上げられ、なれない打撃に涙が滲んだ。

 ……死ぬ!っていうか殺される。っ怖い!

 魔力がぐんぐん減って、熱の残量が心許なくなってくる。二つの魔法玉から溶けだす様に魔力が減っていき、それでも攻撃は止まらない。

 必死に、痛む腹を抑えながら、足りない筋肉を酷使して、剣撃を受け止めるために、ギリギリのところで魔力を強めたりして防御する。

 地面に転がって擦り傷が付き、剣先がかすって腕に切り傷をつける。

 二つの魔法玉を使っているからか、私の熱は空気に霧散するように消えている部分がある。効率が非常に悪い。

「あぐっ!!」

 左腕にシンシアの剣が届く。深く切りつけられ、パタタと血が地面に落ち土に染み込む。

 剣を片手で持って、傷口を抑えた。
 
 痛みはそれほど酷くはないが、手が震える。それでも剣は落とさない。怖くて怖くて堪らないが、私を守るものは、この剣とそれから魔力だ。自分の技術ではこの子に敵わない。

 そんな事はわかっている。初めから勝算なんてない。勝てないことなど知っている。
 
「ッ……貴方!本当に死にますよ?!」
 
 それでも、先程言った、これが誠意なのだ。


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