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六話
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俺と拓海は中学を卒業するとき、野球だけは辞めない、これからもずっと一緒に野球をしようと桜の木の下でグータッチしながら笑い合ったことがある。まだ今よりずっと子供で無知で、もっと楽に息が吸えていた頃だ。
(ほんと……律儀っていうか真面目っていうか……あんな約束……約束じゃねぇよ)
俺は唇を湿らせてから、ゆっくり言葉を吐き出した。
「……あれは中学ん時の卒業のノリっていうか……俺なんか忘れてたし」
俺はなるべく表情も声のトーンも変えず返事をすると拓海から視線をそらした。すると拓海が俺の方を指さした。
「葵の嘘つくときのクセ知ってる?」
「えっ?」
拓海と視線がかち合った俺を見ながら、拓海が歯を見せて笑った。
「葵って話すとき、必ず目をみて話してくれるんだよね」
「お、う」
「でも、嘘つくとき……必ず視線逸らすんだよ、無意識だよね?」
(マジか……)
俺は返す言葉が浮かばなくて、かっと熱くなった頬を隠すように口元を手のひらで覆った。
「葵も約束、ちゃんと覚えててくれたんだね」
「別に……」
言いながら俺はまた拓海から目を逸らしていることに気づいて、慌てて視線を葵に戻す。
「僕さ、野球好きなんだよね。それも葵とする野球がすごく好きだったんだ」
「え?」
「葵はさ、ほんとチーム一人一人のことをよく見てて、誰かの気持ちが落ちてたらさりげなくフォロー入るし、いいプレーしたら誰よりも自分のことのように喜んでさ……野球チームとしては特別強かった訳じゃないけど、絆はどこのチームにも負けてない自信があるし、僕はあのチームの一員だったこと誇りに思っている。葵のお陰で……ずっと人見知りがコンプレックスだった僕は変われたんだ」
「大袈裟だな、俺のおかげっていうよりは拓海の努力だろ。俺はなんもしてないし」
「ううん、葵のおかげだよ……葵がいなかったら僕は野球もしてなかっただろうし、もっとコミュ障になってたかも。僕……いつのまにか葵に結構依存してたんだなって気づいて……」
俺はその言葉がまるで自分の言葉のように感じる。
「だから正直……来年から隣に葵がいないんだって思うと……なんかさ……進路が決めきれなくてさ。ずっと迷ってた。情けないよね」
「そんなことない。だってお前は、もうさ……」
俺はルービックキューブを野球ボールに見立てて天井に向かって放り投げる。そして宙を舞って落下してきたソレを右手で勢いよくキャッチすると、自然にこみあげてきた笑顔を拓海に向けた。
「決まったんだろ? ルービックキューブ完成させて」
俺の言葉に拓海が、へへっと笑った。
「うん……はっきり言って……歯学部は浪人覚悟だし、浪人してもいつ受かるかもわからない。でも明日、父さんにも話そうと思ってる」
俺は拓海の肩にガシッと腕を回した。
「絶対大丈夫! きっと、おじさんも応援してくれると思うしさ、俺も応援する! 拓海のこと信じてるから」
「……葵……ありがとう」
「おう……」
はっと気づけば拓海との顔の距離がやけに近くて俺は顔が熱くなる。
「あれ葵、照れてんだ?」
「あ、改まって言われると……そりゃ照れるだろっ。な、乾杯しよ」
「え?何乾杯?」
「なんでもいいだろ、ほら」
俺がコーラのペットボトルを拓海ペットボトルにペコっと当てると、俺たちは一気にコーラを飲み干した。
なぜだか喉に通過する炭酸がさっきよりもやけに心地よくて、俺たちは何となく気恥ずかしい気持ちを誤魔化すように顔を見合わせると、暫く笑い合った。
(ほんと……律儀っていうか真面目っていうか……あんな約束……約束じゃねぇよ)
俺は唇を湿らせてから、ゆっくり言葉を吐き出した。
「……あれは中学ん時の卒業のノリっていうか……俺なんか忘れてたし」
俺はなるべく表情も声のトーンも変えず返事をすると拓海から視線をそらした。すると拓海が俺の方を指さした。
「葵の嘘つくときのクセ知ってる?」
「えっ?」
拓海と視線がかち合った俺を見ながら、拓海が歯を見せて笑った。
「葵って話すとき、必ず目をみて話してくれるんだよね」
「お、う」
「でも、嘘つくとき……必ず視線逸らすんだよ、無意識だよね?」
(マジか……)
俺は返す言葉が浮かばなくて、かっと熱くなった頬を隠すように口元を手のひらで覆った。
「葵も約束、ちゃんと覚えててくれたんだね」
「別に……」
言いながら俺はまた拓海から目を逸らしていることに気づいて、慌てて視線を葵に戻す。
「僕さ、野球好きなんだよね。それも葵とする野球がすごく好きだったんだ」
「え?」
「葵はさ、ほんとチーム一人一人のことをよく見てて、誰かの気持ちが落ちてたらさりげなくフォロー入るし、いいプレーしたら誰よりも自分のことのように喜んでさ……野球チームとしては特別強かった訳じゃないけど、絆はどこのチームにも負けてない自信があるし、僕はあのチームの一員だったこと誇りに思っている。葵のお陰で……ずっと人見知りがコンプレックスだった僕は変われたんだ」
「大袈裟だな、俺のおかげっていうよりは拓海の努力だろ。俺はなんもしてないし」
「ううん、葵のおかげだよ……葵がいなかったら僕は野球もしてなかっただろうし、もっとコミュ障になってたかも。僕……いつのまにか葵に結構依存してたんだなって気づいて……」
俺はその言葉がまるで自分の言葉のように感じる。
「だから正直……来年から隣に葵がいないんだって思うと……なんかさ……進路が決めきれなくてさ。ずっと迷ってた。情けないよね」
「そんなことない。だってお前は、もうさ……」
俺はルービックキューブを野球ボールに見立てて天井に向かって放り投げる。そして宙を舞って落下してきたソレを右手で勢いよくキャッチすると、自然にこみあげてきた笑顔を拓海に向けた。
「決まったんだろ? ルービックキューブ完成させて」
俺の言葉に拓海が、へへっと笑った。
「うん……はっきり言って……歯学部は浪人覚悟だし、浪人してもいつ受かるかもわからない。でも明日、父さんにも話そうと思ってる」
俺は拓海の肩にガシッと腕を回した。
「絶対大丈夫! きっと、おじさんも応援してくれると思うしさ、俺も応援する! 拓海のこと信じてるから」
「……葵……ありがとう」
「おう……」
はっと気づけば拓海との顔の距離がやけに近くて俺は顔が熱くなる。
「あれ葵、照れてんだ?」
「あ、改まって言われると……そりゃ照れるだろっ。な、乾杯しよ」
「え?何乾杯?」
「なんでもいいだろ、ほら」
俺がコーラのペットボトルを拓海ペットボトルにペコっと当てると、俺たちは一気にコーラを飲み干した。
なぜだか喉に通過する炭酸がさっきよりもやけに心地よくて、俺たちは何となく気恥ずかしい気持ちを誤魔化すように顔を見合わせると、暫く笑い合った。
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