61 / 75
最終章 契約終了ってことで
第59話
しおりを挟む
──コンコンコン
「どうぞ。入りなさい」
由紀恵の声が聞こえてから俺は社長室へと入る。
「お呼びですか?ボス」
直ぐに由紀恵がクスッと笑った。
「上手くやったわね」
「え?」
「先ほど花田社長からお電話いただいてね。この間の源課長の見積りをもとに花田不動産と今度正式に契約を交わすことになりそうなの。ついでに心奈さんが、あなたとの婚約破棄したいと社長におっしゃったそうよ。花田社長からの伝言でわがままな娘が、世界に迷惑かけて申し訳なかったって平謝りされたわ」
(心奈……)
由紀恵が眉を持ち上げるのを見ながら、俺はゆっくりと口を開いた。
「てことは……梅子さんとの交際及び婚約認めてくれるってことだよな?」
「そうね、私約束は守るから。好きになさい」
「有難うございます」
「ただ……続くかしらね?」
「は?どういう意味だよ」
由紀恵が足を組みなおしながらデスクから封筒を取り出し、俺に向けて差し出した。
すぐに中身を取り出せば、インテリア雑誌と書類、そして賞状がでてくる。
「え……これ……」
「おめでとう世界。あなたが在学中に応募していたイタリアの家具デザインコンテストで新人賞受賞したそうよ。相手はあなたが引っ越したこと知らなかったから、あなた宛てに何度も手紙を出していたみたいだけど音沙汰なしで、私のとこに連絡がきたってわけ」
イタリアのアンティーク家具の素材はガラス、大理石といった自然資材を使用し耐久性に優れている。またイタリア人の良いものを使い続け、痛めば捨てるのではなく修復してまた使い続けるものを大切にする精神は、日本人である俺の中にも通ずるものがあり、いつかTONTONの陶器を使用したインテリア家具をデザインできたらと在学中に力試しに応募していたことをすっかり忘れていた。
俺は書類に目を通していく。そしてある一文に視線が止まる。
「マジ……かよ」
「えぇ、すごいわね。イタリアの老舗高級家具ブランドであるポルトルーナから三年契約でデザイナーとして家具製作チームに来てくれないか?っていう打診よ。先ほど向こうの担当の方とお電話でお話したけどあなたがTONTONの未来の跡継ぎ候補だと知って、良ければマーケティングの勉強もできるよう、あなたにとって最大限の素晴らしい席を用意するからぜひ前向きに検討してほしいのことだったわ、行くでしょ?」
「え?」
「あら、こんないい話いかない選択肢ある?」
俺は賞状を見つめながらもすぐに言葉が出てこない。
(イタリア……三年……)
由紀恵が煙草に火を点けると天井向けて煙を吐き出した。
「……なぁ、三年は向こうから帰ってこれないよな?」
「えぇ、帰ってこれないどころか通訳はつけるけどイタリア語の勉強もしなきゃだろうし、自分のことで手一杯になるでしょうね。そもそも中途半端な気持ちで行くのならお相手に失礼よ。分かってるでしょ?」
以前の俺だったらすぐに飛びつく話だ。この会社を今よりさらに大きくするためにも、新しい商品開発は必要不可欠だと思っている。イタリアでデザインをしながら海外マーケティングを学べるなんて恐らく一生に一度の機会だろう。
(でも……)
「あら?もっと嬉しそうにするかと思ったけど迷ってるの?……源課長を置いていくのがそんなに心配かしら?」
「うるせぇな。そんなんじゃねぇし」
俺は唇を噛み締めた。図星だ。ようやく梅子と結ばれて由紀恵にも認めてもらえて、俺たちは未来に向かって歩き始めたばかりなのに、梅子と離れてイタリアに行くなんて今すぐには到底決められない。
「ちなみに返事は一週間後、出発は二週間後よ、これチケット」
(二週間後……よりによって契約交際満了日かよ)
どう考えてもいま梅子と離れる選択肢はない。梅子を一人で日本に置いていくなんてそんなこと俺には到底できない。
「……少し考えさせて。チケットはボスに預けとく」
由紀恵が煙草の煙に混ぜてため息を吐きだした。
「預けとくって行く気あるの?……ほんと……あなたがそんなに執着するなんてね……あの源課長に……分からなくもないけれど……」
「え?なんだよそれ?」
「いえ、何でもないわ。いい返事期待してる」
俺は封筒を抱えて社長室の扉に手を掛けた。
「世界」
その声に俺は首だけ後ろに向けた。
「源課長は……源梅子さんはあなたが思っているよりもきっと……強い女性よ」
「それどうゆう意味?」
「さあ、それは自分で考えてちょうだい」
俺は由紀恵が短くなったタバコを灰皿に押し付けるのを見ながら扉を閉めた。
「どうぞ。入りなさい」
由紀恵の声が聞こえてから俺は社長室へと入る。
「お呼びですか?ボス」
直ぐに由紀恵がクスッと笑った。
「上手くやったわね」
「え?」
「先ほど花田社長からお電話いただいてね。この間の源課長の見積りをもとに花田不動産と今度正式に契約を交わすことになりそうなの。ついでに心奈さんが、あなたとの婚約破棄したいと社長におっしゃったそうよ。花田社長からの伝言でわがままな娘が、世界に迷惑かけて申し訳なかったって平謝りされたわ」
(心奈……)
由紀恵が眉を持ち上げるのを見ながら、俺はゆっくりと口を開いた。
「てことは……梅子さんとの交際及び婚約認めてくれるってことだよな?」
「そうね、私約束は守るから。好きになさい」
「有難うございます」
「ただ……続くかしらね?」
「は?どういう意味だよ」
由紀恵が足を組みなおしながらデスクから封筒を取り出し、俺に向けて差し出した。
すぐに中身を取り出せば、インテリア雑誌と書類、そして賞状がでてくる。
「え……これ……」
「おめでとう世界。あなたが在学中に応募していたイタリアの家具デザインコンテストで新人賞受賞したそうよ。相手はあなたが引っ越したこと知らなかったから、あなた宛てに何度も手紙を出していたみたいだけど音沙汰なしで、私のとこに連絡がきたってわけ」
イタリアのアンティーク家具の素材はガラス、大理石といった自然資材を使用し耐久性に優れている。またイタリア人の良いものを使い続け、痛めば捨てるのではなく修復してまた使い続けるものを大切にする精神は、日本人である俺の中にも通ずるものがあり、いつかTONTONの陶器を使用したインテリア家具をデザインできたらと在学中に力試しに応募していたことをすっかり忘れていた。
俺は書類に目を通していく。そしてある一文に視線が止まる。
「マジ……かよ」
「えぇ、すごいわね。イタリアの老舗高級家具ブランドであるポルトルーナから三年契約でデザイナーとして家具製作チームに来てくれないか?っていう打診よ。先ほど向こうの担当の方とお電話でお話したけどあなたがTONTONの未来の跡継ぎ候補だと知って、良ければマーケティングの勉強もできるよう、あなたにとって最大限の素晴らしい席を用意するからぜひ前向きに検討してほしいのことだったわ、行くでしょ?」
「え?」
「あら、こんないい話いかない選択肢ある?」
俺は賞状を見つめながらもすぐに言葉が出てこない。
(イタリア……三年……)
由紀恵が煙草に火を点けると天井向けて煙を吐き出した。
「……なぁ、三年は向こうから帰ってこれないよな?」
「えぇ、帰ってこれないどころか通訳はつけるけどイタリア語の勉強もしなきゃだろうし、自分のことで手一杯になるでしょうね。そもそも中途半端な気持ちで行くのならお相手に失礼よ。分かってるでしょ?」
以前の俺だったらすぐに飛びつく話だ。この会社を今よりさらに大きくするためにも、新しい商品開発は必要不可欠だと思っている。イタリアでデザインをしながら海外マーケティングを学べるなんて恐らく一生に一度の機会だろう。
(でも……)
「あら?もっと嬉しそうにするかと思ったけど迷ってるの?……源課長を置いていくのがそんなに心配かしら?」
「うるせぇな。そんなんじゃねぇし」
俺は唇を噛み締めた。図星だ。ようやく梅子と結ばれて由紀恵にも認めてもらえて、俺たちは未来に向かって歩き始めたばかりなのに、梅子と離れてイタリアに行くなんて今すぐには到底決められない。
「ちなみに返事は一週間後、出発は二週間後よ、これチケット」
(二週間後……よりによって契約交際満了日かよ)
どう考えてもいま梅子と離れる選択肢はない。梅子を一人で日本に置いていくなんてそんなこと俺には到底できない。
「……少し考えさせて。チケットはボスに預けとく」
由紀恵が煙草の煙に混ぜてため息を吐きだした。
「預けとくって行く気あるの?……ほんと……あなたがそんなに執着するなんてね……あの源課長に……分からなくもないけれど……」
「え?なんだよそれ?」
「いえ、何でもないわ。いい返事期待してる」
俺は封筒を抱えて社長室の扉に手を掛けた。
「世界」
その声に俺は首だけ後ろに向けた。
「源課長は……源梅子さんはあなたが思っているよりもきっと……強い女性よ」
「それどうゆう意味?」
「さあ、それは自分で考えてちょうだい」
俺は由紀恵が短くなったタバコを灰皿に押し付けるのを見ながら扉を閉めた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
8
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる