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【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る
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しおりを挟む「邪魔が入っちまったな」
クシューは小さくなるドロシーとヴァネッサを一瞥してから、俺に向かって喋りかけた。
「仲間が殺されたらショーンは嫌がるかなと思って手加減した俺って、配慮の出来るイイオトコじゃねえ?」
「なあクシュー。どうして今さら俺に会いに来たんだよ」
「うわっ、見事なスルーだな。別にいいけど」
森の中かつ魔法の掛かったこの場所で、偶然鉢合わせることはあり得ない。
そしてこの研究所は、俺の過去と密接に関係している。
つまりこの場所にクシューがやってきたのは、ある程度記憶の戻った俺と会うためだ。
「簡単なことだ。主に定められた期限が近いから、ショーンの答えを聞きに来たんだ」
「期限?」
クシューの言葉に反応したのは、俺だけではなかった。
俺の隣でリディアが眉間にしわを寄せた。
「そう。俺たちがこの世界を見て回って結論を出すまでの期限は十年。タイムリミットはあと少しだ」
もうすぐタイムリミットということは、俺はこの世界に十年近くもいたことになる。
しかし何度も死んで記憶のリセットが入っているせいで、俺は十年間この世界を見て回ったとは思えない量の情報しか持っていない。
実際に記憶がはっきりしているのは、王宮で目覚めてから今日までの約五年分だけだ。
本来の年月の半分。
しかもカーティスと一緒に王宮にこもって暮らしていた時期が長いため、実際に世界を見て回った年月はもっと短い。
「結論……この世界を残すか、抹消するか」
「ああ、そうだ。もちろん俺は抹消する方に一票入れるぜ」
俺はこの状態で結論を出さなければならないのか。
こんなにも大勢の命の掛かった結論を。
「俺は……この世界を残したい。この世界には、大事なものがたくさんあるから」
一緒に旅をした仲間、旅先で出会った人々、出会った人々の大事にしているもの、それらを俺は尊く感じている。
だから、それらをこの世から消したくはない。
「おい、ショーン。まさかその結論は、お前の感情によって出した答えじゃねえよな?」
「…………」
「俺たちはこの世界で何をするも自由だが、個人的な感情で結論を出すことだけはしちゃいけねえんだ。それは主を裏切る行為だぜ」
それまで楽しそうにしていたクシューが、一気に真面目な顔つきになった。
確かにこの世界を残したいというのは、俺の個人的な感情が多分に影響している。
しかし、もしこの世界に大切な人がいるからという俺の個人的な事情を差し引いて考えるとしても、俺は進んでこの世界を抹消したいとは思わない。
「……俺には大勢の命を消すなんて、そんな非情な選択は出来ないよ」
俺の言葉に、クシューはわざとらしいほどに大きな溜息を吐いた。
「なあ、ショーン。自分がこの世界の住人を模した姿でこの世界に立っているから勘違いをしてるのかもしれねえが、俺たちはこの世界の上位の世界の存在だ。例えるなら、俺たちにとって、この世界は絵本の中の世界で、俺たちはその絵本を読んでいる読者だ」
この世界が絵本の中の世界で、俺たちが読者?
この世界を必死に生きる人々を間近で見た今となっては、例え話だとしても受け入れがたい考え方だ。
しかしクシューは、チッチッチッと指を振りながら説明を続ける。
「俺たちにとって、絵本はただの創られた世界だ。『次元』が違うんだよ。絵本の中に描かれたリンゴを、読者である俺たちが食べることは出来ねえ。つまりはそういうことだ。この世界の住人は、俺たちにとってそういう存在でしかねえんだ」
「この世界の住人は、ただの絵だということ?」
「そこまで極端なことは言ってねえが……いや、言ってるのか? まあ、なんだ。俺たちと同列に考えちゃいけねえんだ。この世界の住人の命を消すのは、俺たちの世界の住人の命を消すのとは、わけが違うんだよ。クレヨンで塗りつぶす程度のことなんだ。だから重く考えるなよ。ってわけで、この世界の住人への感情を軸に、使命に対する結論を出すのはご法度だぜ」
……クシューの言いたいことは、何となくだが分かった。
『上位の次元』の存在である俺たちにとって、『下位の次元』での出来事は、とても軽い。
ゆえに『下位の次元』の住人への感情を、『上位の次元』での俺たちの行動に反映させてはいけない。
俺はこの世界の住人に対する感情とは切り離した視点で、結論を出さなければならない。
「俺は普段はふざけてるが、この一線は絶対に越えねえようにしてる。自分の感情を挟まずに、主の使命を確実にこなす。これが俺の存在意義であり、プライドだからだ」
クシューは主からの使命を忠実にこなそうとしている。
過去には俺を切り刻んだ研究者のことを怒っていたが、この件はクシューの感情を挟まずともマズい出来事だ。
この世界の住人である人間が、創造神である主の一部を殺し続けていたのだから。
上位の世界の存在を殺そうとする住人のいる世界は、残す価値が無いと判断されても仕方がない。
「さあ、ショーン。感情を抜きにした、お前の答えを聞かせてくれ」
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