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【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る
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しおりを挟む研究所の前で、クシューが俺にこの世界と俺たちの使命についての説明をしてくれている。
研究所……だったものは、炎によって見る影も無くなった。
クシューが火を点けたからだ。
「ってことで、この世界は…………誰だ!?」
クシューの視線の先に目を向けると、こちらに向かって歩いてくる一人の男の姿が目に入った。
「これは一体、どういうことだ!?」
男は、研究所だったものを見て、そして俺たちのことを見た。
「君たちは、研究所の生存者か?」
「……お前もショーンを殺しに来たのか」
クシューは男の問いには答えず、質問に質問を返した。
「僕、も?」
「そうだ。この研究所の奴らは、ショーンを切り刻んで何度も殺していた。お前もそうなのかと聞いている」
男は俺の身体を見て、小さな悲鳴を上げた。
男につられて自身の身体を見ると、俺の身体は血塗れだった。
「ちっ、違う! 僕は師匠に頼まれただけだ。憐れな被検体Xが生きていたら、保護をしてほしいと!」
「ふーん。今度はお前が切り刻むってことか」
「勘違いをしないでくれ! 保護というのは文字通りの意味だ。大事に育ててほしいと頼まれている」
クシューはやってきた男を上から下まで眺めた。
俺も真似して男を見る。小柄で童顔なこともあり、年齢はよく分からない。
散々男の身体を見回してから、クシューが吐き捨てるように言った。
「人間の言葉なんて信じられるかよ。つーか、師匠とやらじゃなくてお前がここに来るのはおかしいだろ」
「それは僕が転移魔法を使えるから……それに彼を普通の村で保護したら、悪い奴らに捕まる可能性がある。だが僕なら彼を確実に守ることが出来る」
「お前、そんなに強いのかよ。そうは見えねえけど」
「正しくは僕のいる王宮なら、彼を確実に守ることが出来る。王宮に人さらいが押し入ろうとしたら、瞬時に衛兵に捕まって終わりだ」
クシューはまた男を舐め回すように眺めた。
クシューの威圧感のせいか、男の足はがくがくと震えている。
「王宮だって?」
「王宮とは、王の住む宮殿のことだ」
「それくらい知ってるっつーの」
クシューはペッと地面に唾を吐いた。
「クソな人間の王がいる場所でショーンを保護するなんて、ショーンが悪いようにされる未来しか見えねえよ」
「人間がクソなのは同意する。僕も人間は嫌いだ」
クシューの言葉に、自身も人間だろう男が同意した。
「……話を逸らして悪いが、一つだけ聞かせてくれ。人間と魔物の双子なんて生まれるものなのか?」
「あー、種族の違うショーンと俺がそっくりなことが気になるのか。だが、前提が違うな」
「前提が違う?」
「俺たちは、人間と魔物じゃねえ。『人間と魔物を模したもの』だ」
男がごくりと唾を飲む音が聞こえた。
「それなら……君たちは、何だ?」
「この世界における神だ」
男の質問にクシューは間髪入れずに答えた。
「えっ」
「ゆえに俺たちは不死だ。つまり、あいつらは神を切り刻んでたんだよ。殺されて当然だろ」
「ええと……神とは、万物を創造した者を指す、あの神か?」
クシューが話を進めたが、男はクシューの神発言を飲み込めていないようだった。
その様子を見て、クシューはボリボリと自身の頭をかいた。
「あー、やっぱ嘘。俺が神を名乗るのは違えな。俺は、俺たちは……切り離された神の一部だ」
「神の、一部……?」
「だから全部が嘘ってわけでもねえんだぜ。切り離される前の俺たちは、神である主の身体にくっ付いてたんだから、それってつまり神だろ?」
クシューの話によると、俺たちはこの世界の創造神の触手を切り離して捏ねて創られた生物らしい。
神である主の一部だからこそ、死んでも主のエネルギーを使って生き返ることが出来るそうだ。
「ど、どうしてそんな存在が、この世界にいるんだ!?」
男の声は裏返っていた。
酷く動揺しているようだ。
「想像した世界のうちのどれか一つを、主は抹消しようとしている。出来の悪い世界のエネルギーを使って、よりよい世界を生み出すんだってさ」
「……ここのような世界が、いくつもあるということか?」
男はクシューの突拍子もない言葉を、真剣に考える価値があるものととらえているらしい。
鼻で笑って終わりにしてもいいだろう話なのに、この男は変わっているのかもしれない。
「そうだぜ。主はいくつもの世界を創っている。でも世界を創るためのエネルギーには限りがあるんだ。次の世界を創るためには、今ある世界で使用しているエネルギーを再利用する必要がある。だから消滅させる候補の世界に自らの一部を送り込んで、内側からその世界の出来が良いか悪いかを探ってるんだ。どの世界を消すか決めるために、な」
「君は……この世界をどう報告するつもりだ?」
「俺はこの世界を抹消した方が良いと主に進言するつもりだ。ショーンの答え次第では、すぐにでもこの世界を滅ぼす」
「君の意見が変わる可能性はあるのか?」
「無いね。こんな状態のショーンを見せられて、決意が揺らぐはずもねえ。人間は悪だ。俺は確実に、この世界を抹消する方に一票を入れる」
男はクシューから目を逸らすと、俺に視線を向けてきた。
「この世界の命運は、君に握られているということか」
俺は何と返せばいいのか分からず、クシューを見た。
するとクシューは俺の代わりに、男の質問に答えてくれた。
「今のショーンは死んで記憶がリセットされてるから答えは出せねえだろうな。死ぬ前はこの世界に好意的だったんだけどな。だが今のショーンにとってこの世界は、自分を切り刻んで殺してくる世界、だ」
「……ああ、くそっ! ここの研究者たちは何ということをしてくれたんだ!」
男は丸焦げになった研究所を見て悪態をついた。
そしてすぐにクシューに向き直ると、限界まで頭を下げた。
「研究者たちと同じ人間である僕の頼みが受け入れがたいことは理解しているつもりだ。それでも、彼の保護を僕に任せてはもらえないだろうか!」
「えー? どうする、ショーン」
クシューが俺に話を振ってきた。
どうすると聞かれても、記憶がリセットされた状態の俺には判断が出来るわけもない。
「ええと……まず、あなたの名前を教えてください。話はそれからです」
「検討してくれるということか!? ありがとう! 僕の名前はカーティスだ!」
カーティスと名乗った男は、俺が名前を聞いただけにもかかわらず、期待で目を輝かせていた。
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