勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~

竹間単

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【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

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「晴れた空、澄んだ空気、小鳥たちの鳴き声も楽しそうでイイ感じです! さあ、今日も楽しく旅を続けましょーっ!」

 翌日のドロシーは、朝から元気いっぱいだった。
 逆に心配になってしまうほどに。

「こんな日には歌でも歌いたくなっちゃいますね! みんなで歌っちゃいましょうか! ランラララーン!」

 俺はリディアとヴァネッサと顔を見合わせてから、おずおずとドロシーに話しかけた。

「ドロシーさん、その、えっと……大丈夫ですか?」

「大丈夫って、何がですか!? 私の頭のことですか!?」

「さすがにそんな失礼なことを言うつもりは無いですが、いつもと雰囲気が違うので、どうしたのかなと思いまして」

 いつものドロシーはこんな風に大声で歌ったりはしない。
 もちろん歌うこと自体は一向に構わないが、昨日の今日でこの調子だと不安になってしまう。

「……はあ。やっぱり心配させちゃいましたよね。すみませんでした」

 ドロシーは大きな溜息を吐いてから、深々と頭を下げた。
 これに慌てたのは俺だ。

「いえ、謝ってほしくて言ったわけではありませんよ。俺の方こそ伝え方が下手ですみません。俺はただ、ドロシーさんが無理をしているようなら力になりたいと思っただけです」

「明るく振る舞っただけで無理をしているように見えるなんて、私は普段どういう風に見られているんでしょう」

「ええと……空回るタイプではないと言いますか……」

「今の私は空回っていたんですね……はあ。慣れないことはするものではありませんね」

 ドロシーはまた大きな溜息を吐いた。
 そしてチラリと後ろを歩くヴァネッサを見た。

「私もヴァネッサちゃんみたいに、前を向いて明るく元気に生きたいです」

 確かにヴァネッサは前を向いて明るく生きているが、それはヴァネッサ自身に辛い生い立ちが無いからだと、昨夜ヴァネッサから聞いたばかりだ。
 村を滅ぼされたドロシーが同じように振舞うのは、難しいように思う。

「無理に明るく元気に振る舞う必要はないと思います。ヴァネッサさんと違って、ドロシーさんには村を魔物に壊滅させられた過去があるんですから。無理に明るく振る舞うと、どこかで歪みが出てきちゃいますよ」

「ですが、誰だって、暗い女と一緒に旅はしたくないでしょう?」

 ドロシーは自分のことを暗い女と思っているのだろうか、そんなことを口にした。

「暗くなる出来事があったせいで暗い顔をする相手のことを、暗い人だとは思いませんよ。何も無いのに暗かったら、暗い人だとは思うでしょうが」

「……ショーンくんは優しいですね」

「事実を言ったまでです。だから落ち込みたいときは、落ち込んでいいんですよ」

「ありがとうございます」

 それに誰もが明るく元気な人が好きなわけでもないと思う。
 一緒にいて落ち着ける静かなタイプが好きな人だって、大勢いるはずだ。
 だから無理に明るく元気に振舞おうとする必要なんて無い。
 そのままで、自然体でいいはずだ。
 少なくとも俺は、お淑やかで落ち着いたドロシーのことを、好ましく思っている。


   *   *   *


「目的地はこのあたりのはずなんですが……」

 空を飛んでいる鳥の群れが、急に一部姿を消した。
 しかししばらくすると、また消えていた鳥たちが現れた。
 きっとあの位置が、研究所に張られた魔法の境界線なのだろう。

 思い出してみると、パーカーは研究所から上がった煙を見て研究所の火事を知ったと日記に書いていた。
 それは研究所の上には魔法が張られていないことの証拠とも言える。

「目的地はあそこです」

 俺が、鳥が姿を消した辺りを指差すと、ドロシーが不思議そうに首を傾げた。

「あそこ……ですか? 何も無いように見えますが」

「近付けば分かるはずです」

 遠くから見るとただの森の一部に見えるが、近付くと研究所が姿を現す。
 パーカーの日記には、そう書かれていた。



「ここです」

 しばらく森の中を歩くと、先程鳥が消えたあたりまで来たところで、違和感に気付いた。
 それは俺の隣を歩くドロシーも同様だったらしい。
 歩みを止めて、違和感の正体を探ろうと周辺を観察している。

「よく見ると、このあたりの景色は少し不自然な気がします」

 ドロシーがとある箇所を指差した。

「ふむ。周囲の景色を反射させて、姿を隠しておるようじゃのう」

「だから遠目からは気付けないけど、近付くと違和感に気付くことが出来るのね」

 後ろを歩いていたリディアとヴァネッサも、いつの間にか横に並んで該当箇所を確認している。
 みんなの言う通り、この箇所は鏡のように周囲の景色を映して、内部の様子を見せないようにしているのだろう。

「じゃあ行きましょうか」

 それだけ言うと、俺はその場所へと足を踏み出した。
 すると、目くらましのために周辺の景色を反射する魔法が掛けられているだけだったようで、何の抵抗もなく前に進むことが出来た。

「ショーンくん!? どんな罠があるかも分からないのに、そんな迷いなく……」

「妾たちも行くのじゃ」

「リディアまで!? ああもう。行くわよ、ドロシー」

「はい!」

 俺の後ろから、三人の足音が聞こえてきた。



 反射魔法の内側に入ると、研究所だったのだろう全焼した建物が現れた。
 その建物の残骸を見た途端、俺は激しい頭痛に襲われた。



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