161 / 172
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る
●161
しおりを挟む「晴れた空、澄んだ空気、小鳥たちの鳴き声も楽しそうでイイ感じです! さあ、今日も楽しく旅を続けましょーっ!」
翌日のドロシーは、朝から元気いっぱいだった。
逆に心配になってしまうほどに。
「こんな日には歌でも歌いたくなっちゃいますね! みんなで歌っちゃいましょうか! ランラララーン!」
俺はリディアとヴァネッサと顔を見合わせてから、おずおずとドロシーに話しかけた。
「ドロシーさん、その、えっと……大丈夫ですか?」
「大丈夫って、何がですか!? 私の頭のことですか!?」
「さすがにそんな失礼なことを言うつもりは無いですが、いつもと雰囲気が違うので、どうしたのかなと思いまして」
いつものドロシーはこんな風に大声で歌ったりはしない。
もちろん歌うこと自体は一向に構わないが、昨日の今日でこの調子だと不安になってしまう。
「……はあ。やっぱり心配させちゃいましたよね。すみませんでした」
ドロシーは大きな溜息を吐いてから、深々と頭を下げた。
これに慌てたのは俺だ。
「いえ、謝ってほしくて言ったわけではありませんよ。俺の方こそ伝え方が下手ですみません。俺はただ、ドロシーさんが無理をしているようなら力になりたいと思っただけです」
「明るく振る舞っただけで無理をしているように見えるなんて、私は普段どういう風に見られているんでしょう」
「ええと……空回るタイプではないと言いますか……」
「今の私は空回っていたんですね……はあ。慣れないことはするものではありませんね」
ドロシーはまた大きな溜息を吐いた。
そしてチラリと後ろを歩くヴァネッサを見た。
「私もヴァネッサちゃんみたいに、前を向いて明るく元気に生きたいです」
確かにヴァネッサは前を向いて明るく生きているが、それはヴァネッサ自身に辛い生い立ちが無いからだと、昨夜ヴァネッサから聞いたばかりだ。
村を滅ぼされたドロシーが同じように振舞うのは、難しいように思う。
「無理に明るく元気に振る舞う必要はないと思います。ヴァネッサさんと違って、ドロシーさんには村を魔物に壊滅させられた過去があるんですから。無理に明るく振る舞うと、どこかで歪みが出てきちゃいますよ」
「ですが、誰だって、暗い女と一緒に旅はしたくないでしょう?」
ドロシーは自分のことを暗い女と思っているのだろうか、そんなことを口にした。
「暗くなる出来事があったせいで暗い顔をする相手のことを、暗い人だとは思いませんよ。何も無いのに暗かったら、暗い人だとは思うでしょうが」
「……ショーンくんは優しいですね」
「事実を言ったまでです。だから落ち込みたいときは、落ち込んでいいんですよ」
「ありがとうございます」
それに誰もが明るく元気な人が好きなわけでもないと思う。
一緒にいて落ち着ける静かなタイプが好きな人だって、大勢いるはずだ。
だから無理に明るく元気に振舞おうとする必要なんて無い。
そのままで、自然体でいいはずだ。
少なくとも俺は、お淑やかで落ち着いたドロシーのことを、好ましく思っている。
* * *
「目的地はこのあたりのはずなんですが……」
空を飛んでいる鳥の群れが、急に一部姿を消した。
しかししばらくすると、また消えていた鳥たちが現れた。
きっとあの位置が、研究所に張られた魔法の境界線なのだろう。
思い出してみると、パーカーは研究所から上がった煙を見て研究所の火事を知ったと日記に書いていた。
それは研究所の上には魔法が張られていないことの証拠とも言える。
「目的地はあそこです」
俺が、鳥が姿を消した辺りを指差すと、ドロシーが不思議そうに首を傾げた。
「あそこ……ですか? 何も無いように見えますが」
「近付けば分かるはずです」
遠くから見るとただの森の一部に見えるが、近付くと研究所が姿を現す。
パーカーの日記には、そう書かれていた。
「ここです」
しばらく森の中を歩くと、先程鳥が消えたあたりまで来たところで、違和感に気付いた。
それは俺の隣を歩くドロシーも同様だったらしい。
歩みを止めて、違和感の正体を探ろうと周辺を観察している。
「よく見ると、このあたりの景色は少し不自然な気がします」
ドロシーがとある箇所を指差した。
「ふむ。周囲の景色を反射させて、姿を隠しておるようじゃのう」
「だから遠目からは気付けないけど、近付くと違和感に気付くことが出来るのね」
後ろを歩いていたリディアとヴァネッサも、いつの間にか横に並んで該当箇所を確認している。
みんなの言う通り、この箇所は鏡のように周囲の景色を映して、内部の様子を見せないようにしているのだろう。
「じゃあ行きましょうか」
それだけ言うと、俺はその場所へと足を踏み出した。
すると、目くらましのために周辺の景色を反射する魔法が掛けられているだけだったようで、何の抵抗もなく前に進むことが出来た。
「ショーンくん!? どんな罠があるかも分からないのに、そんな迷いなく……」
「妾たちも行くのじゃ」
「リディアまで!? ああもう。行くわよ、ドロシー」
「はい!」
俺の後ろから、三人の足音が聞こえてきた。
反射魔法の内側に入ると、研究所だったのだろう全焼した建物が現れた。
その建物の残骸を見た途端、俺は激しい頭痛に襲われた。
11
お気に入りに追加
528
あなたにおすすめの小説
【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~いざなわれし魔の手~
高見南純平
ファンタジー
最弱ヒーラーの主人公は、ついに冒険者パーティーを100回も追放されてしまう。しかし、そこで条件を満たしたことによって新スキルが覚醒!そのスキル内容は【今まで追放してきた冒険者のスキルを使えるようになる】というとんでもスキルだった!
主人公は、他人のスキルを組み合わせて超万能最強冒険者へと成り上がっていく!
~いざなわれし魔の手~ かつての仲間を探しに旅をしているララク。そこで天使の村を訪れたのだが、そこには村の面影はなくさら地があるだけだった。消滅したあるはずの村。その謎を追っていくララクの前に、恐るべき魔の手が迫るのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる