上 下
155 / 172
【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

●155 side ヴァネッサ

しおりを挟む

 ギャビンが冒険者だと知ってからというもの、あたしは決まった相手とばかり喋っていた自分を反省した。
 広い世界を知るためには、たくさんの人から話を聞くことが大事であり、あたしはそれが出来る環境にいたのだ。
 それなら、自分から行動を起こさないのはもったいない。

「もっといろんな人と話してみた方がいいのかもしれないわね」

「何だよ急に」

 あたしの独り言を聞いた生意気な男の子が、ぶっきらぼうに返事をした。
 別に彼に向かって話したわけではないのだけれど。でも返事をされたからには、会話を始めよう。

「だってこの学び舎に冒険者ギルドに登録してる人がいるなんて知らなかったんだもの」

「ああ、ギャビンのことか……もしかして惚れたのか?」

 彼はムッとした様子であたしのことを見た。
 異性と話しただけで、惚れたと決めつけるのは恋愛脳が過ぎる。
 この世界の半分は異性だというのに。

「どうしてそうなるのよ。もっと見識を広めたいって話よ」

「なんだ、いろんな話を聞きたいってことか」

 彼は安心したように息を吐いた。

「そう。たとえばあの人、休み時間はいつも内職をしてるわよね。話しかけてみたいけど隙が無いのよね」

 あたしはそう言うと、一人の女の子を指差した。
 あたしよりも年上だということは知っているけれど、それ以外のことは知らない。
 いつも真面目に授業を受けていて、休み時間には内職をしていて、常に忙しそうだから話したことがないのだ。

「あいつには関わらない方が良いぜ。悪い噂が多いから」

「悪い噂?」

 彼女のことを真面目な人間だと思っていたあたしに返ってきたのは、正反対の評価だった。
 勤勉そうに見えるのに、悪い噂が流れているとは、どういうことだろう。

「あいつ、ここで学んだ内容を書き記して、町で売ってるらしいぜ。ここの授業料よりも高い値段で」

「なにそれ!?」

 予想外の事実に声が裏返った。
 真面目に勉強していたのは、金儲けをするためだったということ!?

「というか、売れるの?」

 ここの授業料よりも高い値段を出して授業内容を書き記したノートを買うくらいなら、自らが学び舎に通った方が良い気がする。
 しかしあたしの疑問に、彼は明確な答えをくれた。

「大人に売れるらしいぜ。学び舎には子どもしか入れないから。大人になってから勉強を学びたいと思っても、高い料金で家庭教師を雇うしかないらしい。それよりは学び舎での授業をまとめたノートを買った方が安上がりなんだってさ」

「そうなの……でも、この学び舎では先生たちが厚意で教えてくれてるのよね。ここの授業料はかなり安いと聞いたわ」

 儲けではなく、子どもたちに勉強を教えることを目標とした立派な大人たちが、この学び舎の先生だ。
 そのためここの授業料は普通の学校と比べて格段に安いらしい。
 つまりこの学び舎は、先生たちの厚意で成り立っているのだ。

「らしいな。だから悪い噂なんだよ。あいつは他人の厚意を無下にする奴だって噂されてるんだ」

 男の子は、例の女の子のことをチラリと見ながらそう言った。

「確かに……罪では無いにしても、ちょっとどうかと思う行為よね」

 先生たちのせっかくの厚意を、金儲けに利用するのは褒められた行為ではない。
 だけど、彼女には彼女なりの理由があるのかもしれない。
 噂だけを信じて、話したこともない彼女を軽蔑するのは、それこそ褒められた行為ではない。
 彼女がどういう人物であるかは、きちんと自分で彼女と接触をして判断するべきだ。

 だからあたしがするべきは噂を鵜呑みにして彼女から距離を取ることではなく。

「何か事情があるのかもしれないし、そもそも噂自体が嘘かもしれないわ。噂を鵜呑みにしないで、実際に自分の目で悪い人かどうか確かめてみるわ」

「ちょっと、おい、ヴァネッサ!?」

 あたしは彼女がどういう人物かを探るべく、彼女と接触することを決めた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

異世界に転生したのでとりあえず好き勝手生きる事にしました

おすし
ファンタジー
買い物の帰り道、神の争いに巻き込まれ命を落とした高校生・桐生 蓮。お詫びとして、神の加護を受け異世界の貴族の次男として転生するが、転生した身はとんでもない加護を受けていて?!転生前のアニメの知識を使い、2度目の人生を好きに生きる少年の王道物語。 ※バトル・ほのぼの・街づくり・アホ・ハッピー・シリアス等色々ありです。頭空っぽにして読めるかもです。 ※作者は初心者で初投稿なので、優しい目で見てやってください(´・ω・) 更新はめっちゃ不定期です。 ※他の作品出すのいや!というかたは、回れ右の方がいいかもです。

処理中です...