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【第八章】 美少女と、研究施設で罪を知る

●151 side クシュー

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「魔王様、任務を遂行しましたのでご報告に……」

「おう。報告してくれ」

「あらぁ、メレオじゃなぁい」

 いくつかの任務を頼んでいたカメレオン型の魔物が魔王城に帰ってきた。
 結構な時間が掛かったような気がするが、瞬間移動の出来る魔物ではないとこんなものか。

「ええと……タイミングが悪いようですので、出直します」

 カメレオン型の魔物は俺の姿を見て、慌てた様子だった。
 俺がサキュバスと戯れていたからだろう。

「へーえ。俺が報告してって言ってるのに、帰るんだ?」

「もっ、申し訳ございません! 報告させて頂きます!」

 俺が威圧的に言うと、カメレオン型の魔物は何度も頭を下げながら、報告を始めた。
 サキュバスの胸を揉み続けながら、報告に耳を傾ける。

「ご命令の通り、占いおばばに扮して盗賊に助言を致しました。『ヘーラス村のパーカーという老人の家に、高価な魔法道具と重要なことを書き記した日記がある。それらを手に入れれば、お前たちの未来は明るい』と。盗賊は助言を信じて盗みに入ったようです」

「アハッ。そう言うように指示したのは俺だけど、こんな具体的な怪しい助言、普通信じなくねえ? その盗賊、馬鹿なんじゃないの?」

 まあ、成功するのは分かってたけど。
 カメレオン型の魔物の変身能力には目を見張るものがある。
 戦闘能力が皆無な分、変身をして隠れることに特化したのだろう。

「盗賊は文字の読み書きも出来ないようでしたから、これまで教育を受けてこなかったものと思われます」

 この世界で上手く生きるには、物理的な力だけではなくある程度の知恵と知識も必要だ。
 それらが無いと、俺のような奴にカモにされる。

「……で、もう一つの任務の方はどう?」

「はい。ショーン様は幼い姿のリディアさんと一緒に行動をしているようでした。二人は仲が良さそうに見えましたね」

「リディアのやつ、ショーンとは仲良くしてるのかよ。ズルくねえ?」

 俺に対しては常に殺気を放ってたのに。
 そういう相手を堕とすのも一興と思っていたが、結局リディアは俺に堕ちてはくれなかった。

「魔王様にはワタシがいるじゃないですかぁ」

「侍らせる女は何人いてもいいんだよ」

「ちょっと嫉妬しちゃうけどぉ、モテる男のお答えって感じで魅力的ですぅ」

 サキュバスがしなだれかかってきた。男を誘うことに適した柔らかい身体を押し付けてくる。
 これだからサキュバスは手放せない。
 ……こいつの名前は忘れたが。

「いやあ、バレるんじゃないかとヒヤヒヤしましたよ。リディアさんは全く気付いていないようで助かりました」

 カメレオン型の魔物が疲れたように息を吐いた。
 俺の指示でショーンとリディアに近付いたことに気付かれたら、彼は今ここにはいなかっただろう。

「リディアはすぐに油断するからな。油断は強者の証とか言って」

「油断さまさまですよ。それにしてもショーン様は本当に魔王様と同じお顔で……魔王様の双子のお方ですか?」

 気が抜けたのかカメレオン型の魔物は余計なことを口にした。
 邪魔者を消すのはリディアだけではない。俺も邪魔な相手は消す性質だ。

「好奇心は猫を殺す、だっけ? お前はカメレオン型の魔物だけど」

「申し訳ございません!」

 カメレオン型の魔物は急いで自身の口を両手で塞いだ。
 これ以上首を突っ込まないならそれでいい。
 こいつの能力はなかなか使えるから、今失うのは惜しい。

「そうだ。任務を遂行した褒美をやるよ。俺は仕事の出来る奴は好きなんだ。何が欲しい?」

「いいのですか!? では、ケイティとレイチェルのライブのチケットをお願いします。実はメレオは二人の大ファンなのです」

 そう言って頭を下げるカメレオン型の魔物に、サキュバスが非情な言葉を投げた。

「あの二人なら死んだわよぉ」

「…………え?」

 カメレオン型の魔物は大きな目をさらに大きく見開いた。

「ちょっとしたニュースだったのよぉ。魔王城にも彼女たちのファンがいたからぁ」

 実のところ俺はこの件に関して詳しくはないのだが、確かに騒いでいる魔物がいたような気がする。
 人気のある二匹の魔物が死んだ、と。

「ケイティとレイチェルが死んだ……ど、どうして!?」

「殺されたんだってぇ。勇者にぃ」

「勇者に、殺された……ケイティとレイチェルが………………おのれ、勇者……!」

 カメレオン型の魔物は目を血走らせ、身体を真っ赤に変色した。

「おいおい。まさか特攻する気じゃねえよな? 使える部下が減るのは嫌なんだけど」

「止めないでください。男には敗れると分かっていても戦わないといけないときがあるのです。きっと、それが今なのです!」

「あーあー、特攻する気満々じゃん」

 勇者も余計なことをしてくれる。
 使い勝手の良い部下は失いたくないのに。
 カメレオン型の魔物の様子を見るに、止めても聞かずに特攻しそうだから、それならいっそ味方を付けて生き残る可能性を増やした方が得策かもしれない。

「仕方ねえなあ。じゃあお前に味方を付けてやるよ。俺も勇者には復讐しようと思ってたんだ」

 それに、ちょうどいい機会かもしれない。
 俺も勇者には思うところがあり、手が空いたら殺しに行こうと思っていた。
 生憎、最近は俺の手が空くことがなかったが。

「ありがとうございます、魔王様!」

「魔王様も勇者に何かされたんですかぁ?」

「何かされたのは俺じゃなくてショーンだが、あいつは復讐に積極的じゃねえからな。代わりに俺が動いてやろうってわけ」

 少し前に知ったが、勇者パーティーは寝ているショーンをいたぶって遊んでいたらしい。
 やはり人間は邪悪な存在だ。
 それなのにショーンは勇者に対して復讐もせずに放置している。
 大方、寝ている間にされたことだから弄ばれた実感が湧かないのだろう。

「相棒がいじめられたんだから、代わりに俺が復讐をしてやらないと。ショーンをいじめてタダで済むと思われるのも癪だしな」

「俺が復讐してやらないと、ってぇ。動くのは部下ですよねぇ?」

「ああ。勇者ごときに俺の大事な時間を使いたくはねえからな。俺はそろそろショーンに会いに行かないとだから」

 俺はサキュバスからカメレオン型の魔物に視線を移すと、激励を送った。

「ってことで、存分に勇者に復讐して来いよ。応援してるからさ。えーっと……」

「メレオです、魔王様」

「そうそれ。いい感じの魔物を用意しておくから、明日また魔王城に来いよ」

「かしこまりました」

 カメレオン型の魔物はビシッと敬礼をして、部屋を出て行った。
 するとサキュバスが先程にも増して密着してきた。長い指でメガネのつるを辿り、耳を撫でてくる。

「魔王様が代わりに復讐してくれるなんてぇ、誰だか知らないけど妬けちゃいますぅ。魔王様は仲間の名前すら覚えてくれないのにぃ」

「ショーンは相棒で同胞で特別だからな。ショーンをいじめた相手がぬくぬくと過ごしてるなんて、許せねえんだよ」

「勇者は魔王様の怒りを買ってしまったんですねぇ。ご愁傷様ぁ」

 俺はサキュバスの身体を触りながら、どの魔物を勇者にぶつけようかと考えていた。
 せっかく変身の得意なカメレオン型の魔物がいるのだから、騙し討ちが良いかもしれない。
 最初の一撃で不意を突いたあとは、戦闘力でゴリ押しするのも良い。

「魔王様ぁ、そろそろワタシの名前も覚えてくださいよぉ。リディアさんの名前は覚えてるじゃないですかぁ」

 サキュバスは俺に認知されたいようだが、残念ながら俺は個々の魔物にはあまり興味が無い。
 このサキュバスが別のサキュバスと入れ替わったところで、そうか、で済ませる自信がある。
 唯一の例外と言えば。

「お前がリディアくらいイイオンナになったら考えてやる」

「リディアさんは先代の魔王ですよぉ? 無理に決まってるじゃないですかぁ」

 そのリディアはショーンと一緒に旅をしている。
 唯一俺に対抗できるショーンに取り入るためだろう。
 ……しかし、そう上手くいくかな?

「どっちにしても。そろそろ答えを出してくれよ、ショーン?」



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