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【第六章】 美女が風呂に入ったら覗くのがお約束、と相棒が言っていた
●123 side リディア
しおりを挟む平和なひとときだが、妾は別のことを考えていた。
「ヴァネッサとドロシー……か」
あのときショーンは、ドロシーと出会う前にヴァネッサに合図玉を渡していた。
そしてショーンの言葉を信じるなら、あのときショーンはユニークスキル・ラッキーメイカー――と本人が呼んでいる能力――を使っていない。
しかし、妾の見解は違う。
ショーンはラッキーメイカーを使っていた。
意識もせずに。
あのときまでのショーンは、ラッキーメイカーを使うために、隙だらけの状態で因果の世界に潜っていた。
……能力が成長したのだろうか。
あの能力は成長が進むと、因果の世界に潜る必要すら無くなるのか?
「ああー……」
因果の世界に潜って数手先を読む、どころの能力ではないのか。
隙も作らず、欲しい未来に繋がる因果を引き寄せられる。
「妾が勝てなかったのも道理じゃ」
敗北の瞬間を思い出し、苦笑する。
いい勝負をしていたような気がしたが、まったくもってそんなことはなかった。
「ラッキーメイカーか……その名の通り、幸運を作ってくれればいいのじゃが」
まだショーン自身は、因果の世界に潜らずに能力が使えることを把握していない。
だから、まだだ。
まだ、そのときではない。
だからこそ、そのときまでに、出来ることはやっておくべきだ。
妾は乳繰り合うヴァネッサとドロシーに問いかけた。
「ヴァネッサとドロシーの旅は、目的のある旅か?」
二人は顔を見合わせた後で、首を振った。
「大層な目的は無いかも。いろんな町を見て回って、もしその町で困っている人がいたら助けたい。って感じ」
「私はヴァネッサちゃんが旅をしているから一緒に旅をしているだけです」
「そうだったの!?」
「え? そうですよ?」
「てっきりドロシーも広い世界を見てみたいとか、そういうことを考えてるんだと思ってた」
「広い世界はどうでもいいですけど、広い世界を見て感動しているヴァネッサちゃんは見たいです」
ドロシーが困惑するヴァネッサの手をぎゅっと握った。
「ワッハッハ。ヴァネッサはずいぶんとドロシーに愛されておるようじゃのう」
つまり二人には、ショーンの呪いのアイテム探しのような目的は無く、旅をしたいから旅をしている。
それならば、決まった目的地は無いはずだ。
ゆえに妾の提案に乗ってくれる可能性は高い。
そう考え、切り出した。
「二人の旅に目的が無いのであれば、妾たちと一緒に旅をしてはくれんか?」
「リディアとショーンと? あたしはいいけど……」
「私も構いません。ヴァネッサちゃんと一緒であれば」
「そうか、それは助かる」
予想通り、二人は大した抵抗もなく旅への同行を承諾してくれそうだ。
「でも、どうして? リディアもショーンも、あたしよりずっと強いじゃない」
「……二人には、ショーンに『感情』を教えてやってほしいのじゃ」
二人は黙ったまま、妾の次の言葉を待っていた。
「ショーンには『喜怒哀楽』が薄い。最近『哀』は学んだようじゃが、他の感情も教えなければならん。二人にはその協力を頼みたいのじゃ」
「確かにショーンくんは感情の薄いタイプみたいですけど……通常、感情は子どものうちに勝手に学ぶものではありませんか?」
「いいや。感情を学ぶ環境が整っていてこそ、子どもは感情を学ぶことが出来る。それが叶わなかったショーンに、今、感情を教えたいのじゃ」
「ショーンって、あまりいい環境で育ったわけじゃないの?」
少なくとも『今の』ショーンは、良くない環境で育っている。
クシューのことを思い出しているあたり、死んでも経験が完全にリセットされるわけではなく、脳内のどこかにしまわれているだけのようだが。
そして感情も、リセットの際にどこかへ消えてしまった。
感情が経験によって得られるものだと考えると、リセットで経験を無くしたショーンに感情が無いのは必然かもしれない。
「……今のショーンの人生がどのような設定になっておるのかまでは知らんが、事実としてショーンは感情を得ているようには見えんからのう」
「設定って?」
あの研究所には、人間の王城と同じく、妾が傍受できないように防護魔法が掛かっていた。
そのためショーンに、どのような親がいてどのような幼少期を送った記憶が植え付けられているのかまでは分からない。
「気にするな。単なる言い間違いじゃ」
しかしこれは二人に伝えるべきことではない。
少なくとも、今はまだ。
「……えっと、私たちは子育ての経験が無いので、どうすればショーンくんに感情を教えられるのかが分かりません」
「お前たちは、ショーンの隣で怒って笑う姿を見せてくれるだけでいい。そのうちにショーンも、お前たちと一緒に怒ったり笑ったり出来るようになるはずじゃ」
「これまでの旅で、ショーンはリディアと一緒になって怒ったり笑ったりはしてくれなかったの?」
「……仕方のないことじゃ。妾とショーンでは、立場も人生経験も違いすぎる」
同じ人間の旅人であるヴァネッサとドロシーであれば、もっと効率的にショーンに感情を芽生えさせることが出来るかもしれない。
魔物の妾でも『哀』の感情を教えることが出来たわけだから、時間をかければ他の感情を教えることも可能だろう。
しかしショーンには、なるべく早く感情を知ってほしい。
そうでなければ…………手遅れになる可能性がある。
「あたしに何が出来るかは謎だけど、あたしでいいなら協力するわ。リディアの頼みだもん」
「世間知らずですが、私もご協力します。ショーンくんにはお世話になりましたから」
事の重大さを知らない二人は、笑顔で妾の頼みを引き受けてくれた。
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