勇者パーティーから追放されたけど、最強のラッキーメイカーがいなくて本当に大丈夫?~じゃあ美少女と旅をします~

竹間単

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【第五章】 美少女と、魔物の住処で性(さが)を知る

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 久しぶりの走馬灯だ。
 魔法使いの攻撃を受けたのでは、走馬灯も見る。
 この走馬灯がただの杞憂であって、実際には生きていると良いのだが。

「ずっと何を読んでるんだよ」

「モンスター討伐依頼の契約書」

 走馬灯の中の俺は、契約書を真剣に読んでいるクシューを、ぼーっと眺めている。

「ふーん。契約書なんて読んでも面白くないと思うけど」

「ショーンって真面目なくせに、変なところで抜けてるよな」

 俺としては、チャラい言動の目立つクシューがじっくり契約書を読んでいることの方が意外に感じる。

「契約書を全文読む人なんて少数派だろ?」

「分かってねえな。契約書はきちんと読まないと詐欺に遭うぞ」

「詐欺師なんて、そうそういないだろ」

「それが抜けてるって言ってんだよ」

 今なら分かる。
 契約書をきちんと読まないと詐欺に遭う。
 俺はそのことを、身をもって学んだ。

「その長い髪、邪魔だろ。切ったら?」

 走馬灯の中の俺がそう言った瞬間、ぼんやりとした輪郭だったクシューの外見に長髪が追加された。
 追加されたクシューの長い髪が、契約書の一部を覆い隠している。

「長い髪の方が、戦ったときにカッコイイんだぜ。こう、動きが出てさ」

 クシューは長い髪をバサッと後ろにかき上げて笑った。

「そもそも戦うなよ」

「だって盗賊ってムカつくんだもん。偉そうに『有り金すべて寄越せ』とか言ってくるんだぜ? 俺よりも弱いくせに」

「大体の人間はクシューよりも弱いよ」

 クシューは書類から顔を上げて、シャドーボクシングを始めた。

「だよな。人間じゃ俺の相手にはならねえよな。魔物相手だったらどうか分かんねえけど。今度、強そうな魔物に会ったら手合わせをお願いしてみようかな」

「クシューって魔物と仲良くなるのが上手いよな」

「まあな。俺自身も同じ魔物だからかな」

「それだけじゃない気がする。同じ魔物だとしても、魔物って好戦的な奴が多いから、魔物同士のトラブルも多いだろ?」

「同種族内でのトラブルは人間にも言えることだけど……社会性に関しては、魔物は人間よりも単純だ。強いものが偉い」

 魔物の社会では、強いものが偉い。
 自身も魔物であるクシューはそのように思っているらしい。

 ケイティとレイチェルも同じようなことを言っていた。
 だからアイドルになって、強者に従うしかない弱い魔物でも笑えるような世界にしたいと。

 それほどまでに、魔物の世界では強さが重視されているのだろう。

「強さが全てか。正義かどうかは関係無いんだね」

 走馬灯の中の俺が呟くと、クシューは空に向かって立てた人差し指を左右に振った。

「チッチッチ。正義なんて曖昧なものを指標にするのは、人間だけだぜ?」

「そうなの?」

「人間以外がそんな馬鹿な真似をすると、本気で思うのか?」

「……馬鹿な真似、かあ」

 走馬灯の中の俺が、クシューの意見を肯定も否定もしない微妙な反応を返すと、クシューは説明をするような口調になった。

「他の動物たちだって魔物と同じだ。正義なんてものを指標にはしねえ。見る人によって変わる指標は、指標とは言えねえからな」

「確かに……」

「力なら、誰が見ても勝敗は変わらない。分かりやすい指標なんだよ」

「分かりやすいけど……力を持つ者が偉い世界だと、弱者は虐げられて辛いんじゃないか?」

 走馬灯の中の俺の素朴な疑問に、クシューは真面目な顔で応えた。

「どんな世界であろうとも弱者は必ず生まれる。力が全ての世界でも、知能が全ての世界でも、血筋が全ての世界でも、資本が全ての世界でも、な」

 弱者となる人物が変わるだけで、弱者自体は必ず生まれてしまう。
 それが、この世界の常だ。

「強者とか弱者とか関係なく、全員が幸せになれたらいいのにな。人間も魔族も動物もモンスターも」

「……ああ。きっと、主の目指す未来はそれだ」

 クシューは小さな声で呟いたあとで、パン、と手を叩いた。

「かなり話が逸れたが、俺が強いことを示せば、魔物たちは親切にしてくれる。気の良い奴も多いぜ」

「あはは、話がかなり逸れちゃってたな」

「俺に心酔して子分になろうとしてくる奴までいるんだぜ?」

「……前から思ってたんだけど、俺たちが一定の存在と仲良くするのは良くない気がする」

 走馬灯の中の俺がそう言うと、クシューは「出た、出た」とややうんざりした顔で肩をすくめた。

「魔物も話してみるといい奴らだぜ?」

「いい奴らだとしても、あんまり一つの種族に深入りするのは良くないと思う。俺たちは傍観者なんだから。常に第三者目線を持っていないと」

「深入りしないと分からねえこともあるだろ」

「深入りすると肩入れもしちゃうだろ。主は、そんなことは望んでいないはずだ」

「そうか? 俺は、主は深入りしてほしがってると思うぜ。じゃなけきゃ俺が魔物で、ショーンが人間である必要はないだろ?」

「それは……そうかも?」

 走馬灯の中の俺は、クシューに言い包められそうになっている。

「だろ? 何度も死んで記憶を飛ばす人間よりも、頑丈な魔物二体の旅の方がずっと楽なのに、主はそうしなかった。きっと何かしらの理由があるはずだぜ」

「あー……考えてみるとクシューの言う通りかもしれない。主は、クシューからは魔物に肩入れした意見を、俺からは人間に肩入れした意見を聞きたいのかも?」

「だろ? きっと主は双方の意見を聞きたいから、俺たちの種族を変えたんだ」

 走馬灯の中の俺は、完全にクシューに言い包められている。

「確かに同じ種族ってだけで、俺は人間に親近感を覚えるからなあ」

「俺は魔物に親近感を覚えてるぜ。女の子に関しては、人間でも魔物でも大歓迎だけどな」

「またクシューはそういうことを言うんだから」

「いいじゃん。俺にとって、可愛いは正義だぜ。案外『可愛い』が、人間と魔物を繋ぐ架け橋になるかもな」

「……なったら、いいなあ」



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